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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第四章 ~ランクS編~
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127 リンク・マジック

 調整だ調整!

 何だあの破壊力は!? 魔力も大魔法三回分は持っていかれたぞ。数値にして約五百。大魔法のほとんどが消費MP百五十から二百というところだ。約三回分。それ以上にあれは強力だ。

 あれか!? ことごとく強力な魔法公式入れまくったせいか!?

 だとするならば全ての段階を一段階下げて、指向性を持たせてやればいい。最後の爆発はどういった事が原因だ? あんな公式入れてないぞ?

 もしかして相反する火と氷の魔法が原因か? いや、まぁ正確には水魔法が反対属性にはなるんだが、水ありきの氷だからな。攻撃魔法として、あれはあれで悪くないだろうが、爆発するタイミングが掴めないとな。

 何度か試すにしてもこれはこれで危険だし、被害が大きい。

 調整するにしたって、そういった場所が見つかるまで、これは封印しておいた方がいいだろうな。

 終始唖然としていたリナだったが、俺がそれとなくフォローを入れ、なんとか…………ならずに終始唖然としていた。

 ティファやララが来る頃合いになってようやく落ち着いたのか、溜まってた息を塊ごと出すようにほっと吐いた。

 なんとか話題を変えないといかんな。こんな自然破壊、俺の教えるところではない。


「そ、そういえばその銀の鍵のアクセサリー……――」

「あ、えっと……この、キーペンダントの事ですか?」

「あぁ、うん。そういうのか。知らなかったよ。ははは。その、ずっと持ってるよね」


 首からさがるキーペンダントを握り、リナは懐かしむようにそう言った。

 俺もリナからもらったものだからこそ、警備に捕まり、脱出する時、これだけは持って戻った。

 俺が買ったスターロッドとは全然違う価値を感じたからだ。


「はい。……凄く、勝手な事なんですけど、これは私とアズリーさんの繋がりみたいなものだと思ってますから……」

「繋がり?」


 お揃いを買ってくれた事も嬉しかったけど、リナはこれをそういう風に感じてこれを持っていたのか。


「アズリーさんがこれを首にかけて戦う度、ううん、楽しい事や嬉しい事、辛い事や悲しい事を身体で感じる度、私も一緒にそう思えるように……」

「一緒に…………」

「あ、でも本当、私の勝手な考えですからっ。アズリーさんにそれを押し付けるとかじゃないんです。本当、自己満足なんですけど、そう思うと、私も頑張れるんです」


 俺の感じた事を感じたい……か。

 いつだったか深夜ポチと話した事を思い出すが、これはそんな無粋な事じゃない。

 気持ちで気持ちを揺らす。心の魔法のようなリナの声。

 より人間らしい、今までのリナには感じなかった暖かさ。母性……とは少し違う、心のこもった言葉。

 それが何なのかは、今の俺にはわからない。いや、ただの回答は出来る。しかし、それを気持ちで応えられる自信が、今の俺にはない。

 このどうしようもない気持ちをどう表せばいいのか、俺にはわからない。

 せめて、リナに何かをしてやりたい。不思議と、そういう答えだけは出せた。

 リナの気持ちに、今、気持ちでは答えられない。けど、ならば行動で示さなくちゃいけないんだ。

 これもリナと同じ自己満足。そう、俺のために。だが何より、リナのために。



「……そのキーペンダント、ちょっと貸してくれるか?」


 差し出す俺の手を少し見ると、リナはうなじに手を回す。

 難しそうな顔をして、留め金を外そうとしているようだ。


「む、ほ、っ…………ぁれ? んぅ……」


 どうやら外れないみたいだ。

 俺は苦笑しながらリナの後ろに回り、そっと手を置いた。


「ふぇ? あ、あのっ――」

「じっとしてて」

「…………………………………………はぃ」


 む、またやってしまった。ついうっかりと……。

 とてつもなく恥ずかしいのか、リナは首元まで赤くして俯いてしまった。

 こ、これはこれで…………俺も恥ずかしいっ。


「よ、よし、外れた。落ちないように持ってて」

「あ……はい」


 左右に分かれたチェーンを、ゆっくりとリナの前に回し、キーペンダントを両手で受け取るリナ。

 そして俺もリナの前に周りながら自身のアクセサリーの革紐を外す。

 何をするのかと見ていたリナに手を差し出すと、その上にリナのキーペンダントを載せてくれた。

 よし、これで――――


「…………リンク・マジック」


 目を瞑って唱えた魔法。

 両の手の平に置かれた銀の鍵のアクセサリーは、ほんのりと光り、体内から俺の持つ魔力を吸ってゆく。

 退魔性のある銀だし、強大な魔力を込める事は出来ない。それでも、今の俺の魔力の……半分程はいけるだろう。

 手の平に熱を感じ、それをリナが覗き込もうとした時、その魔法は終わりを告げた。


「…………ふぅ」

「あの……アズリーさん、これは……?」

「大分魔力を入れる事が出来たから、これでかなり距離が離れても大丈夫だろう」

「…………?」


 きょとんと小首を傾げるリナ。

 俺は黙ってリナのキーペンダントを渡し、ゆっくりと握らせた。


「いいかいリナ? これは《リンク・マジック》といって、他者の魔力を一時的に使うという魔法だ」

「リンク…………マジック……」


 静かに俺は頷く。


「それを今、このキーペンダントに込めた。この先どんな危険があるかわからない。だから、もしリナが困った時はこれに小量の魔力を込めて掲げるんだ。わかったね?」

「…………ぁ、あの……」

「なに、お守りみたいなもんさ。使わないに越したことはないけど、いざって時は気軽に使ってくれよな?」


 無駄に明るくそう言うと、リナは再び俯いてしまった。

 胸に抱えていた杖を強く握り、返したキーペンダントを強く握り、そしてその手は震えていた。

 一目で泣いているとわかる姿。リナは人から貰う事に慣れていないのは昔からだ。いつも俺が何かを与えると嬉しさを通り越して泣いてしまっていた。

 スターロッド然り、炎龍の杖然り。勿論後者はガストンからではあるが。

 だが、今回のこれは少し違うように感じた。嬉しさが重なって溢れた涙ではなく、それは――


「――私、アズリーさんに……もらってばっかりです」

「……そうかもしれないな」

「でも、私からは何も返せてません」

「そうかもしれないな」

「ほんと……何一つ……」

「そうかもしれないな」


 簡単な言葉。だけど俺は一つ一つ心掛けて答えた。是とも否ともとれる言葉であるが、その言葉の中には精一杯の気持ちを込めたつもりだ。

 震えながら屈むリナに、俺は微笑みながら屈んで小さな頭を撫でた。


「………………はい」


 奥歯を噛みしめながら絞り出したようなリナの声。そう聞こえた。そう聞こえたはずなのに、俯いた顔は見れなかったのに、何故かリナの顔は笑っているように感じた。

 今はこれだけ。だけどいつかきっと、リナには――――――――


「あぁあああああああああああああああああああああっ!? マスターがリナさんを泣かしてるぅううううううう!!」


 ポチにはお仕置きが必要みたいだ。

 だがしかし、今は誰がどう見ても俺がリナを泣かしたようにしか見えない。いや、実際そうなんだけど……って、何であいつはいつもタイミングが悪いかなホント!

 こ、これはいかんっ。今すぐに戦闘準備を整えなくては。戦闘とはつまり……言い訳の事だ。

 相手はポチ一人――――


「おい、こらアズリー! うちのリナを泣かせるとは良い度胸だね!」


 何故いるベティー!?


「おい、こらアズリー! 大事な妹の顔に傷でも付けたら……たとえお前でも……殺すぞ!」


 既に剣を抜きかけてるんだけど? リード。


「そうよ、兄さんは左、私は右よ」


 おいおいおいおい、何でマナまでいるんだよ!?


「へへへへ、なら俺は首を頂くか」

「しゃ、シャレにならないぞ、ブルーツ!」

「ネックなのはそこですか、馬鹿マスターッ!?」

「お前はシャレにしてんじゃねーよ! ああぁ、えーっとな、あ、ほら、リナも何とか言ってやってくれ。このままじゃ俺があの二つの兄妹に殺されちゃうってっ!」


 慌てて言う俺に、リナは既に拭い終えた顔を上げて見せた。

 その顔は、どこか無邪気で、どこか……たまーにするポチの顔に似ていた。


「そうかもしれないですね♪」


 我が元生徒は…………とても良い笑顔だ。


「あ、あの……リナさん?」

「そうかもしれないです♪」

「いや、あの話を――」

「そうかもしれないのです♪」


 簡単な言葉。だけど俺には一つ一つが心に届き、そして堪えた。

 元生徒は軽やかに駆け出し、大げさに両手を上げて明るい声で叫んだ。


「お姉ちゃーんっ! アズリーさんがいじめたーっ♪」


 瞬間、四人、いや、五人の敵意ある瞳がぎょろりとこちらに向き、確実に俺をロックオンした。

 リナは駆け、後ろ姿で見るや、先程まで泣いていたとは思えない背中をしていた。

 五人は俺を捉えて離さないが、それはとても残念な事だ。

 視界の外れにあるリナの顔は、絶対・確実・百二十パーセント……天使のような笑顔なのだから。

 そしてその手には、銀のキーペンダントがギュッと大事そうに握られていた。

 何はともあれ……………………………………………………――――――。


「「アズリーッ!!」」

「馬鹿マスターッ!!」


 リナ想いのあの五人を………………どうしよう?

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