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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第四章 ~ランクS編~
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124 あぁ我が生徒たちの成長⑤

 書き終わった二人の羊皮紙。

 二年前、俺がリナに渡した通信用の紙、「隔離された遠紙(ディスタンスライン)」で、多少リナに魔術を教えてきたが、やはり知識としてはティファの方が深いようだな。

 まぁ、あれだけ山積みされた俺の資料を見ては仕方のない事だけどな。しっかし、読むだけならまだしも、理解し、自分の力にするって、本当に努力したんだろうな。

 代わりに魔法の知識の方はリナに分がある。それはそれでバランスがとれてると思うし、別に気にする事じゃないかな。


「まずはおさらいです。ほい、四角結界」


 と、俺は結界の魔術をポチに向ける。

 四角の光の杭に包まれ、身体を制御する。

 リナとティファはそちらよりも、俺の手元に注目していた。やはり魔法士。宙図(ちゅうず)の速度向上に意識を向けている。


「こらマスター! さっきのリナさんの話聞いてなかったんですか! これは酷いですよ!」

「そんなそんな、ポチ君ならこんな結界すぐに破壊出来るだろう?」

「む? ……ふ、ふんっ。ま、造作もありませんけどね! ふんぬっ!」


 ポチが(りき)を込めると、四角結界が甲高い破裂音を発して霧散した。


「四角結界。この魔術は、モンスター相手ではおそらくランクCまでが有効でしょう。例外として、魔法や魔術攻撃に弱い浮遊型ガス系モンスター、例えばランクAのエレメンタルリーパーとかであれば時間稼ぎには使えるかもしれませんけどね。順を追って説明すると、六角結界ならばランクB、八角結界であればランクAのモンスターの足止め、強制的な行動の支配が可能です。そして君たち二人が目指す最終目標はこの魔術。ほいのほいのほい! 十角結界!」


 再びポチに魔術を放つ。案の定油断していたポチは「またか」という顔で俺をじとっと睨んでくる。

 そんな顔するなよ。フォールタウンの時いつもそんな役回りだったじゃないか。


「凄い膨大な情報量。これをこんなに簡単に宙図(ちゅうず)出来るなんて……」


 ティファが目を見開いて言った。


「凄い……」


 吐息混じりにリナが零す。

 ふふん、たまには先生面しないとやってられないからな。凄さを見せつけておかなくちゃいけないよな。

 とか思ってたら、ブルーツが後ろからどついてきた。相変わらず……俺の臀部を。


「いてぇよブルーツッ」

「気持ち悪い笑顔してんじゃねーよ。まだとっておきがあんだろ? 顔に書いてあんぜ?」


 にたりとブルーツが見透かしながら言う。くそ、そんな事書いてあるか? この顔。

 自分の顔をペタペタと触っていると、ポチがブルーツそっくりな笑みを見せた。


「アハハハ、確かに書いてありますね!」


 おのれ、ポチ(お前)まで言うかこの。

 と、自分の使い魔の当たりに少なからず心に傷を負っていると、前方からララの声が届いた。


「アズリー! あっち! あっちーっ!」


 ララは森の中を指差して、何かを知らせた。

 どうやらモンスターが接近しているようだ。

 虫よけ役のバラードの魔力を受けてもこちらへ接近するモンスター? この辺にいただろうか?

 いるとすれば不死型のモンスターだろうが――


「お、こりゃ珍しいな。ありゃシェイドだ」


 額に手を付けて遠くを見るポーズをしたブルーツが言う。

 シェイド――影と呼ばれる不死型のモンスターだ。身体全体が黒く、目はあるもののどこにあるか判別が出来ない程だ。光を嫌い、自身の影は地に映らない事が特徴だ。


「ほれ、時間稼いでやっから、そのとっておき、俺にも見せてくんなっ」


 ブルーツが剣を抜きながら走り始めると、俺はこめかみをぽりぽりと掻きながら苦笑した。

 つまりお膳立てって事だな。やれやれ、ブルーツには今度何かのカタチで礼をしなくちゃな。

 本来であれば、ブルーツが即倒せるんだろうが、ララが牽制し、ブルーツが向かい来るシェイドを翻弄させている。

 我流ながら流れるような動き。流石銀の特攻係だ。

 リナもティファもその動きにくぎ付けだ。……あの、こっち見てもらえます?

 リナがこちらに気付くと、笑い、控えめな「どうぞ」というジェスチャーを俺に見せた。なんか、すみません。


「それじゃあいくぞ、これが最高の結界魔術だっ。ほいのほいのほいの――――」


 くそ、やっぱり宙図(ちゅうず)に時間がかかるなこりゃ。改善の余地ありだなこれは!


「――――ほい、聖十結界!」


 放った魔術陣は天に止まり、眩い光で俺たちを、夜空を照らす。

 戦うブルーツたちの下では、目を開けない程の光が充満しているはずだ。

 たまらずその場を離れたブルーツとララは、これを隙と見たシェイドに迫られる。まぁ、二人が離れるのも計算通りだが。

 だが、既にお前は、捕えられて……そして、捉えられているんだよ。

 四角結界などとは違い、聖十結界は結界の中のみであれば身動きがとれる。外部に出る手立てが、術者の意識以外には自分の魔力でこじ開けるくらいしかないのは従来通りだが、おそらくランクSまでのモンスターであれば閉じ込める事が可能だろう。消費する膨大な魔力と、この時間のかかる宙図(ちゅうず)がなければ乱発しているところだ。


「こりゃ、すげぇ。戦士の俺でもビンビンに魔力が伝わってきやがる」

「おぉ~、綺麗だなぁーっ」


 目を輝かせて魔術の発動ヶ所を見上げるララ。そしてティファも。

 リナは…………やはりというか何故なのか、俺を見ていた。むぅ、わからん。

 ブルーツが振り向くと、リナはさっと目を俺からそらす。


「で、アズリー? この後どうするんだ?」

「あぁ、ほいのほい! ガトリングライトニング!」


 俺は天獣を怒らせたあの大魔法を宙図(ちゅうず)し、聖十結界の魔術式に割り込ませた。

 すると、結界の内壁から、ガトリングライトニングが放たれる。

 行き場の無くしたその大魔法は、結界内で乱反射し、シェイドを焦がし貫く。


「ぁ…………」

「すっげ……」


 おそらくティファとタラヲであろう小さな声は、ギリギリ俺の耳に届いた。

 結界内の音が消え、中から放たれる雷魔法特有の紫電が見えなくなる頃、聖十結界が包む外敵は、跡形もなく消え去ってしまっていた。


「これが……結界魔術の極致…………」


 最後に聞こえたリナの声。どうやら目に焼き付けてくれたみたいだな。

 もっともこの魔術、昔考案した魔術をトゥースに相談してヤツが作った魔術なんだけどな。

 まぁ、合作って事で………………いいよな、ポチ?

 と、許しを請うようにポチに目を向けると、ポチは未だに俺を睨んでいる。あれ、何でそんな顔してるのお前?


「マスター、いつになったらこれ解除してくれるんですかっ!」


 未だ残る十角結界に縛られるポチ。


「あ、すまん。忘れてた」


 慌てて魔力を展開させてポチの十角結界を解除すると、ポチはむすっとして見せた。

 はは、あとで機嫌とってやらないとな……。


「かぁーっ! ありゃすげーな!」

「おー、ばかすげーな!」


 ブルーツの真似をして陽気に驚くララ。すぐに表情が戻るのが面白い。

 ララはテンションの上下が激しいな。普段は半目で気だるそうにしてるが、一たびテンションが上がると、輝かんばかりの笑みを見せる。

 農作業している時が一番だがな。まぁそれはツァルもか。

 ララも相当な実力をもった魔法士だし――――よし。


「ララ、もしよかったらお前も習ってみるか?」

「――っ!」


 驚いた様子でララは俺を見る。黙って目を輝かせ、こくこくと頷く姿は貴重かもしれない。

 凄い、風圧が起きる程頭を振り始めたっ。

 そんなにやりたかったのか。


「やるー! ララも魔術覚えるー!」


 両手をぐっと握ったララは、睨むようなティファの目など気付く事もなく、大いに喜んでいた。

 何故、何故ティファはあんなにララを睨んでいるのだろう……。

 ともあれ、こうして俺の生徒がまた一人増えたのだ。これからもっと頑張らなくちゃいけないな。

もしかしたら後日「あぁ我が生徒たちの成長」①~⑤のサブタイトルを変更するかもしれません。

ご了承ください。


変更した際、投稿日の投稿前書きに書かせて頂きます。

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