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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第四章 ~ランクS編~
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123 あぁ我が生徒たちの成長④

 息切れするティファ。もう間もなくMP(マジックポイント)が尽きる。

 対してリナは静かに、ただ静かに冷静にティファの攻撃を防いでいる。

 これは…………決まったな。


「くっ……」


 様々な攻防を見て思ったが、ティファのやりたいとしている事は理解出来るが、行動が思考についてこないんだ。

 だから相手であるリナがその行動を読みやすい。逆に言うと思考だけはかなりの高い位置にあるから、これに行動が伴ってくると、末恐ろしい魔法士になるだろう。

 リナの戦闘は性格が表れているな。落ち着いて行動を読み、予測し、備える。臨機応変に対応出来るのは流石だが、それ故、トリッキーなタイプの相手には弱いだろう。

 一先ず、これが二人の課題だろうな。


「おし、そんじゃあ止めてくるわ」


 ブルーツが腰を上げ、軽い足取りで戦闘の場へ向かう。

 流石に良いタイミングだな。ブルーツ相手なら二人も強く言えないだろうし、確かに頃合いだ。

 仲裁も上手いしな。


「ポチ」

「はいはーい。私はアッチを止めてくればいいんですね?」

「あぁ、頼むよ」


 バラードと……呪われた狼王ガルムか。


「ぬっ! ポチ! 貴様、我輩とこやつの戦いを邪魔しようというのか! ふっ、貴様がそこまで言うのなら仕方がない! 勝負は預けたぞ、バラード!」


 ポチは間に立っただけだぞ。

 鑑定眼鏡の情報が正しければ、呪われてあの姿になっただろうけど、性格は地なんだろうな。

 ふむ、どうやらブルーツの仲裁も上手くいったようだ。時刻は……十九時を回ったところか


 既に冷静さを取り戻したリナと、少しムスっとしているティファの構図。とても懐かしい。

 ブルーツとポチはララと修行しながら辺りを警戒。まぁ、あそこにいるバラードがいればモンスターよけには十分なんだろうけどな。


「それでは二人の実力がある程度わかったので、二人共この羊皮紙に使える魔術を書いていってください」


 夜に行われる異様な魔法教室。だけどいいんだ、フォールタウンでもこんな感じだったし。

 その間に俺は――――っと。


「おい、タラヲ」

「なんだアズリー、馴れ馴れしいぞ」

「それは悪かった。申し訳ないんだが、ちょっとこっちに来てくれ」


 訝しむタラヲを小声で連れ、少し離れた場所で腰を下ろす。

 タラヲも倣うように座る。なるほど、座り方にもこだわりがあるようだな。

 目は凛々しく遠くを見るように。乱れる事なく揃えた足はぴんと張り。牙を見せない優雅さ。

 どこからどう見ても………………チワワーヌだ。


「して、何の用だアズリー? 撫でたいのであればあちらでも出来たであろう?」

「お前……ティファの使い魔になる前はどうしてたんだ?」

「その話か。ふん、思い出したくもないわ」

「そこをなんとか」

「ふむ、では夕飯にはササミを加えると約束しろ」


 安価な約束だな。


「勿論、構わないぞ」

「よいだろう。ティファの使い魔になる前、我輩は別の(あるじ)の下に仕えていた。無論、そやつに騙されてて不意を突かれたのだが」

「その時の姿は元の姿だったのか?」

「無論そうだ。しかし我が膨大な魔力はその時既になかった。おそらく主従契約の時の強制力が強すぎたのだろう」

「じゃあ、前の主人の使い魔になる前は? その膨大な魔力があったのか?」

「確かにあった。契約後しばらくして気が付いた。力が削がれ、体力さえ衰えている事に」


 一体どんな契約をしたらあんなステータスになるんだろう。

 そういえば騙されたとか言ってたな。


「騙されたって言ってたけど、一体どんな手口で?」

「む、それはその……なんだ。いや、これは言う必要があるのかっ? もうよいだろうっ?」


 大分恥ずかしい内容なみたいだな。ガルムってのは、相当誇り高い生き物みたいだな。


「ササミ二本でどうだ?」

「そこまで言うのであれば仕方がない。よかろう」


 どこまでも安上りな誇りだな。


「奴め、思い出しただけでも腹が立つ。がしかし、霜降り肉を目の前でちらつかされれば、我輩の気もそれてしまうもの。その隙を突かれてな…………主従契約の問い掛けに頷いてしまったのだ」


 ササミちらつかせても釣られただろうな。

 だが、かなりわかってきたな。なるほど、本能と欲を逆手に取った強引な主従契約。

 だからそこまで力が落ちてしまったんだ。


「それで、その姿はどうしたんだ?」

「これはティファとの強引な契約でなってしまったのだろう」

「ティファが……?」


 と、俺が聞くと、タラヲの口はまた閉じた。ちらちらとこちらを見て何かを言いたそうだ。

 …………あぁ、なるほど。中々小賢しいな。嫌いじゃないけどな。


「わかった、ササミ三本だ」

「ふはははは、お主も良い胸をしているぞっ」


 何故タラヲは人を褒める時に胸を褒めるのだろう?


「前の(あるじ)にな、渇きの砂漠での強制待機命令を最後に契約解除されてしまってな。そこに現れたティファが、我輩を助ける事を条件に主従契約を飲んだのだ」

「強制待機命令ってのは具体的にどういった内容だ?」

「そうだな、確か……別の(あるじ)を見つけろというそんな内容だ」

「……………………そういう事か」

「む? 何かわかったのか?」

「大体な。だけど、その姿を解くのは中々難しそうだな」

「何だとっ!?」


 主従契約とは、本能に呼びかける特殊な魔法。使い魔候補の相手に対し、「主人と認めるか?」を問いかける魔法だ。

 それを二度も無視した行為。

 一度目は前の主人が騙し、欲に釣られて契約。

 二度目はティファが。これも酷い命令ではあるが、生き残るという生存欲で、前の主人の最後の命令を無視した主従契約。主人を見つけろというのは、つまる事の認めた相手でなければいけない。それを生きたいという欲で「仕方なく主人にした」という了承が、呪いを生んだんだ。

 どちらも、タラヲが素の状態であれば問題なかっただろうが、タラヲの性格、不運、誇りがそれを邪魔したんだろう。


「んー、少し考える必要がありそうだな」

「アズリー! 我輩は元の姿に、元の力に戻れるのか!? どうなのだ!?」

「落ち着けって。一時的に元に戻れる薬は作れるだろうけど、それはその姿に、その力に変えている呪いの深さを更に増す事になる。呪いを解きたければ、心からティファを(あるじ)と認める事だ」

「認める! 認めるぞ!」

「そんな口だけじゃダメだ」

何故(なにゆえ)だ!? 解せぬ! 解せぬぞ!」

「さっきのバラードとの戦闘。ティファが呼ばなくても自らティファの下へ行ける信頼と理解。主人を思う気持ち。それが魔力解放に繋がるだろう。だけど、ティファが呼んでも足取りが重かったお前には、元に戻りたいという欲からティファを主人と認める軽口を言う今のお前には、呪いを解く事は出来ない」


 歯をむき出しにして取り乱すタラヲ。

 酷な事を言うようだが、こうでも言わないと、タラヲの誇りを動かす事は出来ない。

 信頼関係を築くためには膨大な時間がかかる。タラヲが、ティファが互いに歩み寄る事をしなくちゃいけないだろう。


「詳しくはもう少し調べてみるよ」

「…………………………………………………………頼む」


 俯くタラヲは小さな声でそう言った。


「どうしたの、アズリー先生?」


 気が付くと俺の後ろにはティファが立っていた。

 タラヲがあれだけ騒げば当然と言えば当然か。


「あぁ、そうですね。タラヲの魔力や元の姿の事について少し話してただけです」

「…………あまりアズリー先生に迷惑かけないで。わかった?」


 冷たい瞳でタラヲに言うティファは、絵本に出てくる魔女のようだった。

 だけど、もしかしてこんな当たりをしているティファだけど、ティファなりにタラヲの事を心配してるのかもしれないな。


「ふん、アズリーから言ってきた事だ」

「いいから、わかったの?」

「あ、はい」


 ただ………………お互いに不器用なだけかもしれないな。

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