099 爺再び
『アズリー、アズリーよ』
俺は眠い……。
『アズリー、アズリーよ、寝たままで構わん。話を聞け』
俺は眠い。
『…………えっと、アズリー君?』
眠い!
『あー、マスターは夢の中でも起きませんよ?』
『む、アズリーの使い魔か』
『ふふふふ』
『な、何を笑っておる?』
『ふっ、久しぶりに使えるからですよ』
『何をじゃ?』
『貴様何者だ〜♪』
……ったく、うるさい奴らだな。
『おぉ、ようやく起きたか』
『……………………………………………………………………おやすみなさい』
『では私も! おやすみなさい!』
『待たんか。どうしてお前さんはそんなに私を毛嫌いするのかのう?』
『ハズレクジ』
『ほっほっほっほ、他の者にも当たったと始めに言ったであろう?』
まったく、相変らず読めない爺さんだな。
この爺さん対策で、メルキィに手伝ってもらって解析能力を上げた鑑定魔法でも、やはり情報を読み取る事は出来ない。
『好奇心旺盛なところは変わらぬのう』
『それで、一体何の御用なんです? 私は今噴水が出そうで大変なんですよ!』
それは関係ないだろう? 俺だってポチ枕じゃなかったから寝つきが悪かったのに。
『どうやら、無事ウォレンという若者に会ったようじゃのう?』
『どこまで見られてるのかわからないけど、ホント、盗み見だけは趣味が悪いとしか言えないぞ?』
いつかと同じようにポチが座布団を持ってきて、俺たちは胡坐をかいて座った。
俺もいつかと同じようにイメージの具現化でテーブルを出現させ、その場にお茶を用意した。
一面白い空間で、お茶をすする三人。異様な光景だが、ある意味これも懐かしいと言える。
『それで、どうしてウォレンの事を? まさかあいつの夢にまで現れたってのか?』
『ほっほっほっほ、彼はワシの事は知らぬよ。ただ天命は知っているみたいだったのでな』
『天命?』
『お主に助言を渡す事じゃよ』
あの始まりの地へって助言の事か。って事はこの神の使いである爺さんもその意味を知っている?
『なぁ教えてくれよ。あの場所に一体何があるっていうんだ?』
『それはワシの口からは言えんよ。行けば答えは出る』
ったく、そんな呑気でいいのかね?
魔王の復活が迫ってるってのに、何でこうも気楽に話せるのか俺にはわからん。
あぁ、そうだ。もし爺さんが現れたらってどうしても聞いておきたい事があったんだ。
しかし、その前にまず今回の要件を聞いておかないといけないな。
『それじゃ、そろそろ話してくれよ。今回ここに現れた理由をさ』
『うむ、そうじゃのう。これより四年後、魔王の胎動期が始まる』
『っ!』
『そこから世界は混沌に包まれるだろう。モンスターの動きは活発化し、強大な相手を前に滅びる街が出てくる』
思ったより早い段階だ。
魔王の胎動期には、モンスターはその魔力に当てられて凶暴かつ強力になる。
それこそ一般人が外で生きていけないような世界だろう。
そして胎動から数年で魔王が誕生する。
『すまぬの、この段階になるまで正確な時間がわからなかったのだ』
『モンスターの活発化って……どの程度の……?』
『現存するモンスターは一段階上の力を。また、古に滅びたモンスターも再びこの世に現れるじゃろうな』
………………と、いう事は………………
『そ、それってランクAのモンスターがランクSになって、ランクSのモンスターがランクSSになっちゃうって事ですか!? オーガキングのようなランクSSのモンスターだったら一体どれほどの強さになっちゃうんですかっ!?』
記憶がある。
過去の文献にランクSSの事しか書いてないと思っていたが、その中に何ヶ所か不可解な単語が書かれていた。
そうだ、確かこう書かれていた。
『奴らはそんな格付けで呼ばれなくなるじゃろう。かの時代、聖戦士が知と勇の限りを尽くして戦った時代、奴らはこう呼ばれていた――』
『絶望の使徒……!』
『さよう……』
そうか、あえて際立たせて書かれたみたいだが、ランクSのモンスターでさえ見かける事もまれなこの時代に、ランクSS以上の強力なモンスターなんて…………想像出来るわけもない……!
いや、想像したくないからこそ、人類は記憶と記録を封印したんじゃないのか?
絶対的な恐怖には中々勝てるものでもない。魔王の存在はそれ程までに大きいんだ。
もしかして……もしかして人類は魔王の強烈な存在によって――――!
『その通りじゃアズリー。人間は魔王という恐ろしいまでに強大な存在を前に成長を止めたのだ。人間は絶対的な力の前では前に進む事が出来ん。本来であれば神の力によって後押しされ、一握りの存在が成長し、力や文明を発展させる事が出来る。じゃが、魔王はそこに強力な楔を打ち込んだ。それがお主の知る時代とこの時代が左程変わらぬ理由の一因じゃ』
『……そういう事だったのか。ん? 一因って事は他にもあるのか!?』
神の使いの爺さんは口ごもるように一口お茶をすすった。
『結果的には魔王が原因というのは変わらぬが…………』
『もったい付けずに教えてくれっ』
語気を強めた俺に意を決めたのか、持っていた湯呑をことんとテーブルに置いた。
『国の上層部にいる悪魔どもの仕業じゃな』
『……くそ。そういう事かよっ』
『マ、マスター! 一体全体どういう事なんです!?』
国の上層部、つまり灰色や黒のイシュタル、白のロイドの正体は魔王の尖兵なんかじゃない。
『国は既に…………悪魔によって統治されてるって事だ』
『えー!? って事はっ! …………………………どういう事なんです?』
『可愛く首を傾げるな! それはそのつまりだな…………………………どういう事なんだ?』
『ほら! マスターだってわからないじゃないですかー!』
『うるさい! 今のは絶対俺の方が可愛かったはずだ!』
『はぁ……お主らの事がワシもそろそろ心配になってきたわい。よいか? 悪魔はモンスターなどという生易しいものではない。白黒の連鎖という組織に対しての信仰は、云わば悪魔崇拝と変わらぬ。これによって悪魔の力が強大になる。悪魔は魔王の留守中に、魔王になりかわろうとしているのだ。奴らは悪魔崇拝を利用して、真っ向から魔王と戦うつもりなのじゃ』
勘違いも勘違い。俺たちはどうしようもない程に思い違いをしていた。
そうだ、白黒の連鎖の契約書には確かにこう書かれていた。
~~~魔王襲来の際、聖戦士を全面的に援護し、魔王討伐の参戦に同意するものとする~~~
魔王の尖兵が国に潜んでいると思った時、この内容に俺は首を傾げた。
それはきっとポチが傾げた時より可愛かっただろう。
何故魔王と戦う事を明記しているんだ? 明らかに魔王にとって不利な状況だろう? と。
魔王にとって不利も当然。既に国は悪魔によって支配されていて、悪魔は魔王を倒そうとしている。
聖戦士が生まれない程の悪魔崇拝絶頂期。奴らの力は恐ろしいまでに強大と言えるだろう。
とんだ誤算だ。
打倒魔王のつもりが、最初から三つ巴だったとはね。
いや、人間は使い捨ての駒のような扱いだ。相手にすらされていないんだろう。
『ついに正面切って悪魔が世界を奪いに来た……というところじゃのう』
『え、それってどういう――?』
『まぁ、これについては今話しても仕方ないじゃろう。それよりアズリー。何やら聞きたい事があるみたいじゃが?』
神の使いの爺さんは見透かしたように言った。
お茶をすすり、俺の質問を待っているように見える。
そう、俺はこの爺さんに聞きたい事があった。確かにレベル百にもなったし、良称号も少しずつ増やした。トゥースとの修行で、新魔法の習得やレベル以外の強さを身につけてきている事も事実だ。
………………だが………………。
爺さんと初めてこの夢の世界で会った時に言われた事。「研鑽せよ」という言葉に、俺はなぞる事が出来ているのだろうか?
期待外れになっていないか? 「全然だめだ」と言われないか? 俺はそれが不安だったのかもしれない。
だからこそ、この時この場で聞いておきたい。
『……爺さん、俺は強くなれているのか?』
『まだまだですね! マスターの実力は私の足元にも及びませんよ!』
はい、台無し。
毎日投稿が間に合わなかったので、本日二話投稿予定です。




