1話
短めの話で3話構成です。
思いついたので勢いだけで書きました。
ここは宇宙の掃き溜め、廃棄物惑星『ジャンク・エンド』。
空を見上げれば、星の代わりに人工衛星の死骸が流れている。
そんなクソ暑いゴミ山の中で、タケルは今日も一人、ジャンクを漁っていた。
「……あー、今日もハズレ。食えるゴミがねぇ」
タケルが錆びたボルトを蹴飛ばすと、ガラガラと崩れた鉄屑の中から、
コロコロと『何か』が転がり出してきた。
それは、驚くほど綺麗な女の子の『頭』だった。
「……うわっ! 生首!?」
腰を抜かすタケル。
だが、よく見ればそれは機械だった。
人形以上に精巧な、透き通るような白い肌。
閉じた瞼。
この汚いゴミ山には、およそ似つかわしくない気品がある。周辺には元のパーツと思われるものもあった。
「……拾ったはいいが、これ、どうすりゃいいんだ?」
タケルは戸惑いながらも、その『お宝』を抱えてコンテナハウスへ連れ帰った。
***
その日の夜。
タケルはなけなしの工具を手に、彼女の修理に挑んでいた。
手元にあるのは、接触の悪いハンダごてと、
別の廃ロボットから剥ぎ取ったお下がりのチップだけ。
「頼むぞ、動け……!」
祈るようにスイッチを入れた、その時。
ガタガタガタッ!!
接続した荷運び用メカのフレームが、派手に痙攣した。
次の瞬間、彼女の瞳に琥珀色の光が灯る。
『――システム、オンライン』
涼やかな、鈴を転がしたような声が響いた。
「お、起きたか! 爆発しなくてよかった!」
彼女はゆっくりと首を回し、部屋を見渡した。
そして、煤まみれのタケルをじっと見つめ、優雅に頭を下げた。
「おはようございます、旦那様」
「だ、旦那様?」
「はい。私は『星系殲滅自律型ユニット・零号』……
いえ、現在は機能の九割がバグで死んでおります。
今の私にできることと言えば……そうですね。
本日より、私は旦那様の生活を支える『家事用メイド・ミーナ』として勤務いたします」
「……メイド? 今、最初の方に物騒な名前が聞こえた気がするんだが」
「気のせいです。それより旦那様」
ミーナが、部屋の隅に山積みになったジャンクパーツを指差した。
「この部屋、汚すぎます」
「直球だな、おい」
「衛生レベルが致死量です。カビが独自の文明を築き、
新しい宗教を興そうとしています。
旦那様の健康寿命は、あと三十分で尽きます」
「嘘をつけ!」
「いいえ、不備です。今すぐ『お掃除』させていただきます」
ミーナがそう断言した、直後。
彼女の手のひらから、透明な波導がシュパッ! と放たれた。
次の瞬間。
タケルが十年かけて溜めた油汚れも、錆も、ゴミも。
すべてが光の粒子になって消滅した。
あまりの勢いに、タケルの着ているシャツの汚れまで剥ぎ取られ、
布地そのものが真っ白に変色する。
「……うおおおっ!? 俺の在庫が! シャツの柄が!
掃除っていうか、これ消滅させてないか!?」
「ご安心ください。分子レベルで汚れ(不要物)を除去しただけです」
わずか三秒。
コンテナハウスは、新築のショールームみたいにピカピカになっていた。
***
そんな感動(と恐怖)の最中。
外からズズン……と、大地を揺らす足音が響いた。
タケルが慌てて外へ出ると、空を覆わんばかりの巨大な戦艦が浮いている。
そこから、成金趣味の金ピカなシャトルが降りてきた。
降りてきたのは、磨き上げた軍服を着た男。
銀河最大の不動産企業、ギャラクシー・デベロップメントの執行官ゼノスだ。
「――フン。反吐が出る。空気が鉄錆の味しかせん」
ゼノスは白いハンカチで鼻を押さえ、嫌悪感を隠さずにタケルを見下ろした。
その後ろには、武装した無人ドローンが、ずらりと並んでいる。
「……何の用だよ、エリート様が」
「通告だ、下層民。この惑星は我が社が買い取った。
明日の同時刻より、惑星全体の『焼却処分』を開始する」
「……焼却処分!? なんだよそれ!」
「文字通りだ。ゴミは燃やして更地にする。
命が惜しければ、一時間以内に立ち去れ。
持っていけるのは命だけだ。
どうせ、この星にあるものはすべて『ゴミ』なのだからな」
「一時間って……そんなの無理だ!」
「ハッ。ゴミ溜めで這いずり回る虫が、言葉を使うな」
ゼノスは冷たく笑うと、一枚の紙を放り投げた。
『立ち退き勧告状』だ。
それは泥の中に落ち、ぐしゃりと汚れていく。
その時。
コンテナのドアが開き、ミーナが静かに歩み出てきた。
彼女は泥の中に落ちた紙を、指先でつまみ上げる。
「……旦那様。不法投棄を確認いたしました」
「えっ? ああ、ミーナ、危ないから下がってろ」
「いいえ、旦那様。
メイドとして、主人の敷地に『ゴミ』を投げ捨てられる行為は……
万死に値するマナー違反です」
ミーナの琥珀色の瞳が、冷徹な義務感で凍りついた。
「……何だ、その骨董品は。私の話を聞いていなかったのか?
そんなボロ機械、まとめてスクラップにしてやれ」
ゼノスが指を鳴らす。
ドローンの一機が、ミーナに向けてレーザーを放った。
シュバッ!
閃光が奔る。
だが、ミーナは眉一つ動かさない。
彼女が手に持っていた小さな『塵取り』を、盾のように掲げた。
次の瞬間。
レーザーは塵取りの表面で完璧に跳ね返り、
あろうことかゼノスのシャトルの主翼を貫いた。
ドゴォォォォン!!
大爆発。
ゼノスが悲鳴を上げて地面に転がる。
「……光の反射効率を調整し、有害なエネルギーを返却いたしました。
窓掃除のスキルを応用すれば、この程度の乱反射は造作もありません。
旦那様、許可をいただけますか?」
「な、何の許可だよ!」
「害虫の駆除、並びに『不燃ゴミ』の処分の許可を」
ミーナがスカートの裾をわずかに持ち上げ、優雅に膝を折った。
直後、彼女の背後の空間から、巨大なブレードが現れる。
本来なら星を壊すための武装だが、ミーナが握ると――
なぜか巨大な『キッチンナイフ』にしか見えなかった。
「……や、やれ! 壊せ! あのイカれた機械をバラバラにしろ!」
ゼノスの悲鳴。
数十機のドローンが一斉に弾丸を放つ。
だが、ミーナの動きはもはや残像だった。
ダンスでも踊るかのような優雅な旋回。
飛来する弾丸をナイフの腹でカチカチと弾き落としながら、
ドローンの群れの中央へと飛び込む。
一閃。
ミーナがナイフを軽く振るうたび、鋼鉄の機体が豆腐のように断裂していく。
「お掃除の基本は、分別と解体です。
不燃ゴミは……このように、サイコロ状に切り分けると収まりがよろしいですよ」
わずか十秒。
さっきまで空を覆っていたドローン軍団は、
すべて正確な立方体に切り分けられ、足元にピラミッドのように積み上げられていた。
静まり返った荒野で、ゼノスは腰を抜かしていた。
震える指をミーナに向け、情けない声を出す。
「……化け物め。貴様、自分が何をしたか分かっているのか!?
我がギャラクシー・デベロップメントに逆らって、ただで済むと……!」
「お静かに。旦那様の穏やかな午後のティータイムを妨げる騒音もまた、
私の『排除対象』です」
ミーナがナイフの先端をゼノスの喉元に突きつけ、冷ややかに微笑んだ。
「今すぐここから去るか、あるいは……
私が考案した究極のゴミ圧縮処理を、そのお体で体験されますか?」
その瞳に宿った、本物の『殲滅兵器』としての残光。
気圧されたゼノスは、情けない悲鳴を上げてシャトルへと逃げ帰った。
ボロボロになった艦隊が空へと逃げ去るのを、タケルは呆然と見送る。
「……助かったよ、ミーナ。すごい、っていうか、やりすぎっていうか……」
タケルが脱力して座り込むと、ミーナは何事もなかったかのように
エプロンを整え、お辞儀をした。
「当然の業務です、旦那様。……ですが、一つご報告がございます」
「何だ? 礼ならいくらでも言うぞ」
「いえ、その必要はありません。それよりも、先程の防衛行動、
並びに室内浄化に使用した魔導エネルギーの消費量についてですが」
ミーナが空中にホログラムの請求書を映し出した。
そこに並んだ、見たこともない桁数の数字。
タケルの顔から血の気が引いた。
「……おじいちゃんの代から貯めてた俺の全財産の、三倍……?」
「はい。現在の旦那様の経済力では、次の『お掃除』を実行した場合、
破産という名の致命的なシステムエラーが発生いたします」
「な、なんだって……!」
「ですので旦那様。明日より、起床時間は午前四時。
私の維持費を稼ぐため、倍の効率でジャンク回収を行っていただきます。
お掃除のメニューも厳しくさせていただきますね?」
「……俺、もしかしてとんでもない死神を拾っちまったのか?」
「いいえ、旦那様。最高に献身的なメイドです」
琥珀色の瞳を優しく細めて微笑むミーナ。
夕暮れのゴミの星で、タケルの絶叫だけが空虚に響き渡っていた。




