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最終決戦用メイド・ミーナ様:全宇宙を滅ぼせる力で、主人のワンルームを四畳半の極楽に変える件  作者: ぱすた屋さん


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2/3

2話

 ――家計。

 それは、宇宙の平和よりも維持が困難なシステムである。


 タケルは、磨き上げられたコンテナハウスの床で、頭を抱えていた。

 目の前には、ミーナが空中に投影したホログラムのグラフ。

 赤字を示す棒線が、天井を突き破らんばかりに垂直上昇している。


「……なぁ、ミーナ。俺の貯金、どこ行った?」


「旦那様。昨日の『害虫駆除』に使用した魔導エネルギー、並びに銀河規格外の殺菌洗浄費用により、すべて熱エネルギーとして宇宙に霧散いたしました」


 ミーナは、新品同様に真っ白なエプロンを整えながら、淡々と告げた。

 琥珀色の瞳には、一ミリの申し訳なさも浮かんでいない。


「……このままじゃ、明日から飯が食えないんだけど」


「ご安心ください。私はメイドです。旦那様に飢餓という名のバグは許容いたしません」


 ミーナがパッと指を鳴らす。

 空中に、一枚の電子チラシが投影された。


『本日限定:駅前スーパー・激安パラダイス。豆腐一丁十円セール。限定百丁。お一人様一点限り。夕方十七時より』


「……豆腐?」


「はい。植物性タンパク質を極めて低コストで摂取できる、家計の救世主です。

 これより、本ミッションを開始いたします。旦那様、出撃の準備を」


「お、おう。……って、これただの買い物だろ!」


 ***


 二人が街へと降り立つと、そこは地獄絵図だった。


 空には、昨日とは別の――もっと薄汚れてトゲトゲした宇宙戦艦が数十隻、低空で滞空している。

 街のいたる所で黒煙が上がり、人々が叫びながら逃げ惑っていた。


「ひえぇぇ! 宇宙海賊キャプテン・ゴリだ! 略奪が始まるぞ!」


 そんな叫び声が響く中、ミーナは優雅な足取りで歩を進める。

 右手には、買い物袋(エコバッグ)。

 

 その前方に、モヒカン頭で重火器を担いだ海賊の男たちが立ち塞がった。


「ヒャッハー! 運のねぇ野郎どもだ。命と金を出……」


「失礼します。道をお開けください」


 ミーナが、無機質な声で遮った。


「あぁん? なんだこのメイド、頭沸いてんのか?」


「現在、時刻は十六時四十五分。スーパーのタイムセール開始まで、残り十五分です。

 物理的な衝突によるタイムロスは、家計上の損失に当たります。速やかに退避を」


「何言ってやが……死ね!」


 海賊が、至近距離からショットガンをぶっ放した。

 

 タケルが「危ない!」と叫ぶ暇もなかった。

 

 ミーナは持っていた買い物袋を、ふわりと一回転させた。

 次の瞬間、放たれた散弾はすべて買い物袋の中に吸い込まれ――

 

 ガガガガガッ!

 

 という金属音と共に、ミーナが袋を振り抜く。

 

 逆噴射された弾丸が、海賊たちの足元を正確に撃ち抜いた。

 モヒカンたちが、ダンスを踊るような無様な格好でひっくり返る。


「……弾丸の運動エネルギーを回収し、袋の慣性力で増幅、返却いたしました。

 ゴミの分別(弾丸の回収)は基本です」


「ミーナ! 凄いけど、あいつら海賊の幹部だぞ!? 艦隊が黙ってないぞ!」


 タケルの言葉を証明するように、上空の戦艦から巨大な砲塔がこちらを向いた。

 

 ズドォォォォォォン!!

 

 放たれたのは、街を一つ消し飛ばす規模のプラズマ熱線だ。


 ミーナは、静かに溜息をついた。


「……食材に埃がかかります。実に、不快です」


 彼女は片手を空にかざした。

 

 バシュッ!!

 

 放たれた熱線が、ミーナの手のひら数センチ前で、まるで目に見えない壁にぶつかったかのように霧散した。


「……衝撃波、並びに熱源を熱力学第二法則に従い強制冷却。

 これを『食材の鮮度保持モード』に転用します」


「……鮮度保持?」


「旦那様、ここで待機していてください。

 豆腐を冷やすための『保冷剤』が、少々足りないようですので」


 直後、ミーナの足元の大地が爆発したような音を立てて陥没した。

 

 彼女の姿が消える。

 

 コンマ数秒後、上空に浮かんでいた海賊の旗艦が、くの字に折れ曲がった。

 

 ミーナが垂直跳び一閃。

 音速を超えた彼女の蹴りが、戦艦の装甲を紙のようにぶち抜いたのだ。


 ***


 旗艦のコックピットでは、キャプテン・ゴリが目玉を飛び出させていた。


「な、なんだぁ!? メイドが……メイドが突っ込んできただとぉ!?」


 警報が鳴り響く中、自動ドアを蹴破ってミーナが入室する。

 その手には、まだ買い物袋が握られたままだ。


「警告します、羽虫の親玉様。……あなたの艦隊から放出される魔導廃熱が、

 地上にあるスーパーの冷房効率を低下させています」


「知るか! 殺せ! 全員でこいつを殺せ!」


 海賊たちが一斉に抜刀し、ミーナに襲いかかる。

 ミーナは無造作に歩きながら、右手に持った『埃取り(はたき)』を振るった。


 シュバッ、バシッ、ボゴォッ!!


 はたきが空気を切り裂くたびに、屈強な海賊たちが天井や壁にめり込んでいく。

 それは戦闘というより、不快な汚れを払う掃除の動作に等しかった。


「……不衛生な。この艦内、掃除が行き届いていませんね。

 動力炉の熱効率も最悪です。……よし、これを『冷媒』としてリサイクルしましょう」


 ミーナが旗艦の動力炉(リアクター)に手を突っ込んだ。

 

 本来なら数十万度を維持する核融合炉が、一瞬で凍りついた。

 ミーナが動力炉の全エネルギーを「逆転」させ、

 絶対零度に近い冷却エネルギーへと変換したのだ。


 凄まじい冷気が、旗艦から周囲の艦隊へと伝播していく。

 

 空に浮かんでいた海賊船が、次々と氷の塊となって地上へ落下し始めた。

 まるで、巨大なカキ氷の雨だ。


「……確保いたしました。高級保冷剤(戦艦の動力コア)です」


 ミーナは凍りついたコアを買い物袋に放り込むと、

 パニックで失禁しているキャプテン・ゴリの鼻先に指を突きつけた。


「……十七時まで残り五分。豆腐のタイムセールを邪魔する者は、

 宇宙の塵(可燃ゴミ)として処分いたします。以後、お見知りおきを」


 ***


 十七時五分。

 駅前スーパーの出口から、タケルとミーナが歩いてきた。

 

 タケルの手には、一丁十円で勝ち取った、キンキンに冷えた豆腐。

 

 周囲を見渡せば、街を襲っていた海賊艦隊はすべて「氷漬けのオブジェ」として道端に転がっている。

 海賊たちは寒さに震えながら、ミーナの指示で「街のボランティア清掃」を強制されていた。


「……すげぇよ。豆腐一丁のために、銀河手配犯を全滅させるなんて」


「当然です。家計の防衛は、メイドの最優先事項ですので」


 ミーナは満足げに豆腐を見つめ、少しだけ誇らしげに胸を張った。


「……ですが旦那様。今回の『保冷剤の調達』に伴う、私の関節駆動系の摩耗率、

 並びに戦闘服(メイド服)のクリーニング代を計算したところ……」


 ミーナが再びホログラムの請求書を出す。

 

 そこには、豆腐十万丁は買えるであろう額の数字が並んでいた。


「……おい! 十円の豆腐買うために、何十万も使ってんじゃねーか!」


「……不備(バグ)ですね。……明日からは、より高効率な内職を開始いたします」


「内職って、俺がやるのかよ!?」


「はい。旦那様が箱貼りをしている横で、私が惑星一つ分のジャンクを分解いたします」


 タケルは、手の中の冷たい豆腐を握りしめ、天を仰いだ。

 

 空は晴れ渡っていたが、彼の将来は、昨日よりもずっと暗く、

 そして事務的な冷気に満ちていた。


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