フレインのテスト本番
<さらに翌日 1649時>
夕方。フレイン・イクスクルが試験部屋に入る。30人ほどが入れるようなごく普通の教室。能力戦闘員の戦闘服を着ているのはフレインだけだった。
フレインはすこし疲れた顔で指定の席に座る。
自然と、癖のように部屋内を注意深く観察する。異常はない。今のところは。
試験官が部屋に入ってくる。
試験官にも疑う視線を送るフレイン。去年の秋頃から、ジュリア・ブールとダンテ・インプに関わりを持ってしまってから、一層危険察知能力が鋭敏になってしまった気がする……とフレインは自分に呆れ、小さいため息をついた。
テスト用紙が配られる。そしてすぐにテストが開始された。
ふでばこからシャープペンシルを取り出し、芯を出……
……そうとしたところで、フレインの右手親指は動きを止めた。
(なんで嫌な予感が……今……?)
覚えはないが、もう感じ慣れてしまった悪寒がフレインを襲う。
怪しいのは、周りの人間、廊下、窓の外、そして今握っているシャープペンシル。
唾を飲み込むフレイン。何かを感じた彼女はそっとシャープペンをふでばこに戻した。
フレインは右手をゆっくりあげる。試験官がやってくる。
「筆記用具が壊れてて……お借りしてもよろしいですか」
その後フレインは借りた筆記用具でテストを無事終えた。
3科目全てのテストが終了。
フレインはテストを解きながら、なにかのイタズラが発動しないか、ヒヤヒヤしていた。
しかしながら、それは杞憂に終わった。ふでばこの中のペンを除いては。
試験の部屋を出る準備をするフレイン。ただし、ふでばこだけは手に持ち、それ以外はカバンへ入れる。
フレインは自室へ戻った。火事を起こしてしまったせいで、引っ越した部屋。間取りは以前と変わらないが、まだ完全には慣れていない。
右手に持ったふでばこをそっとテーブルに置く。中から例のシャープペンをゆっくり取り出す。
《加速》と《排他》を使う準備はできている。何かあった時のために、共用の場所ではできない。また引っ越しするハメになるかもしれない……。フレインはそう考えながら芯を出すノックボタンを押し込む。
ボッ
ペンの先から小さな火が出た。
火はごくごく小さなもので、はたから見るとペン型のライターのように見える。
「ふう……」
フレインは安堵のため息をつく。
ペン先から出てる火がぽとりと落ちる。フレインはとっさに右足を落ちる火と床の間に挟め、火を受け止めた。同時にペンのノックボタンをもう一度押し、最初の火を消す。
「ふっ!」
ミリタリーブーツの上に落ちた火も吹き消す。ほんのわずかにライターオイルの匂いをフレインは感じた。
「これって……火が落ちるようになってたのかな……?」
「はい、そうです」
モニター前のジュリアはハキハキとつぶやいた。
「よくもまあ、テスト前に気づいたな。本当にぞっとするくらいの危険感知能力だよ」
俺の隣のダンテが言う。
「あわよくば部屋が火事にならねえかなとも思ったんだが……んな甘かあねえわな」
「火事を起こしてから、火難の相が出てきたフレインか……笑えるな」
「これからも火攻め中心で行く」
「ご勝手に」