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禁じられた魔法とかカッコよすぎじゃない?

神帝歴45年――オーリ10年

(しまい)の月。


 異世界で一番人口密度が低い場所は、トルオル島だ。

 ヤポニア技術国の本土から離れた巨大なほぼ(・・)無人島である。

 行けないことはないが、ヤポニア本土からの連絡手段は基本的にはない。

 だからもしかしたら住んでいるやつがいるかもしれないが、基本的には無人島だと考えられている。

 広大なので真剣に探すと面倒なので、保有しているヤポニアだって調査をロクにしない。


 禍々しいほどにデカい渦潮を越えて、流れが緩やかになったかと思えば、また潮の流れが早くなるという、海底の顔が見てみたいわ、と熟練の船乗りすら悪態をつくほどに接近が難しい。

 かつ、なんとかトルオル島に近づいても、今度は不愉快な断崖絶壁でそれを昇らない限り上陸はできない。


 したがって、交通手段はないと言っていい。魔法が使えない場合には、上陸すらできないのだから。

 魔法を使えばもちろん上陸は可能なのだが、魔法を使うにも今度はべつの事情がある。


 トルオル島は自然の魔力異常地帯である。


 遅くともヤポニアの高齢で高名なババア魔術師が子供のころには、トルオル島近辺で魔法を正確に使うことは困難であると言われていたらしい。

 風の神(ホアソン)も転生してからずっとトルオル島はそんなものだと言っていた。

 高齢で高名なババア魔術師と300年は生きている貧乳神(ホアソン)が言っているのだから、そういうものなのだろう、と俺は言うしかない。


 理由はよくわからない。

 神留地(ニートたちの家)が近いためにそうなったとまことしやかに言われているが、神々(ニートども)はそんなことはありえないと言い張っている。


「だいたい魔力の異常地帯って言われてもな」と俺は言った。

「あなたにわからないことを、私に聞かれてもわかりませんよ」とトゥーリは言った。

「世界の叡智だろ」

「すくなくとも魔法と神についてはあなたのほうがよくご存知ですよ、神帝オーリ」

「なんのヨイショだよ」

「事実を言ったまでです。まあ、とにかく魔力が異常になるということです」


 雑だった。


「そもそもさ、なんでいまさらトルオル島なんだよ?」

「もう、そこくらいしか残っていないからですよ」とトゥーリは俺を見ながら言った。

「……アレのいそうなところか?」

「ええ。オーリは行ったことがあるんですよね?」

「ああ。シーマと新婚旅行で行った」

「ならば異常地帯の意味はわかるんじゃないですか?」

「とくになにも感じなかったんだけど」と俺はかすかでわずかな記憶を頼りに言った。


 トルオル島はとてもでかい無人島というイメージしかない。

 とくに見るべきものもなかったし、せいぜい行ったという事実が大事なたぐいの場所だった。

 世界一周を完成させるためだけに訪れるべき土地みたいな、残念な観光地未満の場所である。


「……魔力が弱くなったり、強く出すぎたり、まったく出なかったり、様々な報告が上がっています」

「やっぱり知ってるんじゃないか、世界の叡智」

「いちおう最近調べさせていますから」

「上陸したのか?」

「上陸自体は不可能ではないですからね。風の上級魔法が使えるか使えないかくらい実力があれば、上陸できます。魔力の大きさよりも、魔法の制御がどれだけうまいかのほうが重要みたいですが」

「そしたらそいつに土魔法で断崖絶壁をなんとかさせたらいいだろ?」

「土魔法はほぼ全部無効化されるみたいです。要素によって通じる通じないはあるみたいなんですよ。まあ、これから調査を進めますが」

「じゃあ、なんで俺にいまさら?」

「調査が難航しているから以外の理由がありますか?」

「それなら調査の前に訊いたほうがよかったんじゃ?」

「あなたに尋ねる労力が惜しかった以外に理由がありますか?」


 辛辣すぎた。

 たしかに俺は質問に答えるのはヘタだが、さすがに辛辣すぎた。


「いいよ。それならいまから俺が行って見てこよう」

「いまのあなたはの魔力はッ……」とトゥーリがゆっくりと膝から崩れ落ちた。


 なぜ? どうした?

 突然すぎる。

 攻撃か? なんのために?

 なんでトゥーリは倒れた?


「トゥーリ!」と俺はトゥーリに呼びかける。


 反応がない。

 駆け寄るべきかどうか、あたりを見回す。

 なにも気配はない。

 どこから誰がなにをしたか、いまの俺にはなにもわからない。

 護衛もいないし、俺の力がないいま、言ってしまえば俺とトゥーリはいまやパーティで最弱コンビ。

 弱いということは罪なのかもしれないと漠然とした恐怖を覚える。

 かつての俺なら半径100メートル内ならいくらでも敵を察知できた。

 この神帝オーリに見えぬ場所はないと――。


「嘘をしれっと言うものではない。真後ろに立たれてもわからぬウスノロであったであろ」と倒れているトゥーリ(・・・・)が言った。


 ああ、これは、と俺は思う。


「お呼びしていなかったかと思いますが」と俺は言った。

「わっちは絶対神ぞ。なんでもアリに決まっておるであろ」と立ち上がってキルシュリーゲンは言った。


 人騒がせにもほどがある絶対神だった。


「お目にかかれて恐悦至極です」と俺は定型文を述べる。

「まあ、よい。ホアソン以外のカラダも久々よの。本当におんしはロリコンだの。あんな幼児体型がいいとは」とじつに俺にとって不名誉なぬれぎぬを着せてきた。

「あ、あの……今日は添い寝はいいですよね?」とおろるおそる俺は確認する。


 アラフォーのおっさんと添い寝とか、罰ゲームすぎる。


「わっちは腐ってはおらん。デコとボコは一対でナンボであろ。そも、いまはわっちが勝手にしゃべっておるだけでな。対価までは求めんよ」

「では、なにかお望みですか?」

「だから、なにも望みはせん。おんしはわっちの話を聞け。対価はいらんと言ったのだ。わっちがおんしに教えてやろうという、言わばサービスだの」

「キルシュリーゲンからタダでなにかをもらうほど、愚かじゃないですけどね」

「ははは。わかっておるようだの。まあ、敢えて言おう。タダで受け取れ」

「あとで高くつくとわかっていても、ですか」

「左様だの」


 とんでもないジャイアニズムだった。

 まあ、いまさらこの程度のキルシュリーゲンの言動で驚いたりはしないが。


「うかがいましょう」

「これだからおんしは好きだ。わっちから見れば変わらんから、やはり同衾してやろうかの。これ(トゥーリ)もよく見れば可愛らしいではないか」

「そう見えてそれはアラフォーのオッサンです。というか、どう見えていても男と添い寝したくありません。まだロリコンの容疑をかけられたほうがマシだ」

「ロリコンは容疑ではなく、事実であろ」とキルシュリーゲンは言った。「まあ、よい。簡潔に言うぞ」

「お願いします」

「おんしはトルオル島には行くな」

「なぜです?」

「それはジビル(・・・)ガフが(・・・)おる(・・)からに決まっておろ。それほどあの島への障害は強力なものではないからの。トゥーリ(これ)が送ったやつは何人かは島に行けたでな」

「つまり、いまジビルガフをトルオル島で探しあてれば……」

「息の根を止められるであろうの」


 圧倒的なメリットがそこにあった。


「絶対神キルシュリーゲン」と俺は言った。「少々、興が冷めました」

「ははは。わっちにそのようなことを言うのはおんしくらいよの。たしかにわっちが力を貸してやるのはすこし肩入れしすぎでおもしろくはないが、これは言わばおんしのためでもある」

「俺の?」

「左様。おんし以外がいまジビルガフを殺せば、おんしも同時に敗北が決まる」

「たしか以前、俺はもう覇者だと聞いた気がしますが」

「もう5年も前の話ではないか」

「よく覚えておいでですね」

「覚えてなどおらんよ。いま知ったのだ」とまさに絶対神的セリフをキルシュリーゲンは吐いた。

「そうですか」

「まあ、とかく、いまおんしはジビルガフに巻き返されておる。アレが勝者になることはやはり確実にないが、おんしが勝者から転げ落ちることは充分にありうる。というよりも、ここでおんしがジビルガフを殺せば、まあ、勝者はいなくなるであろうの。おもしろみもなにもない。アレはほんとうにつまらんことをする。わっちが出張ってくることまで狙うとは、相変わらず気に入らんヤツだの」とキルシュリーゲンは愉しそうに笑った。


 もちろん俺にとってはカケラも楽しくない。


「攻めないほうが俺のためですか」

「左様。すでにアレが死んでもアレの策は止まらぬ。そして、アレが転生者以外に殺された瞬間に、おんしも勝者からいずれ転落することが明らかだの。わっちにはおもしろくない。ハッピーのないエンドなどなんの価値もないでな。わっちは力あるものが手にするギリギリの幸福が好みでな」とキルシュリーゲンは言った。

「なんだかジビルガフに有利に聞こえますね」

「現時点では圧倒的にわっちはアレに手を貸しておるな。まあ、何度も言うがアレはわっちがハッピーエンドを望んでおるのがわかっておるからの。いまはわっちがアレを殺さぬことを知っておるのよ。いや、じつにいまいましいことだの」とまた愉しそうに笑う。

「……わかりました。そこまでおっしゃるのであれば、トゥーリに調査をやめさせ、トルオル島は放置します」

「それがよかろうの。ただし、ここでジビルガフのもとへ行くのを止めさせただけでは絶対神の名が泣く贔屓だからの。まあ、わっちはなにも頼んでおらぬがの?」

「ええ。キルシュリーゲンは俺にアドバイスをしてくださっただけですね」と俺は言った。「俺がアドバイスから勝手に判断しただけです」


 なんだかすごく社会人っぽい感じのことを言えたんじゃないか、と俺は自分をごまかした。

 キルシュリーゲンのことばである以上、逆らうメリットがゼロだがやっぱり追い詰めた敵を倒せないというのは、なにか腑に落ちない。

 どーんとして、ドカーンってなって、みたいな展開があってもいいと俺は思う。


「よい心がけだの。理解が早い。まあ、おんしにも同じくらいのアドバンテージはやろう」

「感謝します」

「思ってもおらぬな」

「思ってますよ。理解できないだけで」

「じつに気に入らんやつだの。まあ、よいわ。早晩、アレはおんしにとって最悪のカタチで攻めてくる。おんしにはまず気づけぬ。だが、わっちがそれを教えるのも興ざめどころの騒ぎではないでな。それをわっちがおんしに教えることはできぬ」


 なんと無意味なアドバイスか。

 なにも釣り合ってなくてびっくりする。

 かたや、ピンチを脱する。

 かたや、おまえヤバイ、よくわかんないし、詳しく言えないけどヤバイ、あ、これアドバイスな、と言われる。


「ありがとうございます」

「ははは。多少は不機嫌さを隠せ、神帝よ」とキルシュリーゲンは高らかに笑った。「わっちもそれで釣り合うとは思っておらんわ」

「では防ぐ方法を?」

「だからない。そういうものだ。アレはそういうところはじつにうまいのでな。おんしはやられるであろうよ。たとえわかっていてもやられるであろ」

「どうなりますか?」

「手痛い傷を負うだろうの。そして、その傷は血を流し、膿み、腐り落ちる原因となる」とキルシュリーゲンは断言した。


 ああ、なるほど。


「最悪ですね」

「そうであろ。いまアレを殺してもそうなるのだ。おんしも腐り果てる。ジビルガフも死に絶える。勝者はおらぬ」

「……俺すでに詰んでません?」と俺は聞いた。


 だってどう考えてもそれもう俺詰んでるじゃん、なにそれ、ありえないんだけど、トラップが発動しているのでヤバいです、根本止めてももうどうにもならない段階です。

 いや、どうしろってんだよ、っていうかそもそも諸悪の根源が生きてても死んでても俺はもうダメじゃんか。ならせめて、諸悪の根源だけでも潰しておいたほうがいいだろ。なんだよ、ド贔屓じゃねえか。それともなにか、諸悪の根源のトラップは成功するけど、諸悪の根源が生きてたほうがマシな――


「おお、そうだの。解決する方法はひとつだけあろう? おんしはそれを知っている」

「……俺が使えない魔法ですか」

「そうだの。何人も使えぬ、禁じられた魔法だ。それを使いたいときに1度だけわっちがおんしのためだけに姿を見せよう」

「……好きじゃないんですよ、その魔法」

「わっち以外であれが好きな者などおるまいよ。だからこそ、じつに興が乗るであろ」とキルシュリーゲンは悪そうに笑った。

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