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異世界転生して無双したら神になったので隠居して子供たちを見守りたい  作者: 毛玉伯爵
第4章 三男の言うことが理屈っぽすぎてついていけない
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1:苦手なことばかり数えるのもたまには役立つ

神帝歴41年――オーリ6年

もえの月


 優秀な魔術師が優秀な教師でないように、優秀な司祭が優秀な聖職者でないように、優秀な参謀家が必ずしも優秀な軍人であるとは限らない。


 つまり、世界の叡智ことトゥーリは軍人としてはそれほど優秀とは言えない。


 いや、兵士としての彼は充分に優秀だ。

 その戦闘力は申し分ない。

 大規模な軍勢の将としてまったく恥ずかしくない戦闘力を個人で有している。


 もちろん、参謀としても、宰相としてもこれ以上ない人材だ。

 我々の戦闘作戦のほぼすべてをひとりで立て、無駄なく世界全土を統一した作戦立案能力は恐ろしいまでのレベルだ。

 内政すべてを取り仕切り、ほとんどの制度を作り上げた政治手腕にも疑うべきところがない。


 しかし、トゥーリは()としてはイマイチだった。

 国家レベルではなく、軍隊レベル、つまりは軍の上官としてのトゥーリはお世辞にも役に立つとは言えなかった。


 つまり、ものすごく簡単に言えば彼は現場指揮官としては3流だった。

 いや、3流以下だった。

 逆の意味で他の追随を許さない完璧なド底辺だった。


 トゥーリは俺と出会う前に2度ほど部隊を率いたことがある。

 そして、2度ほど部隊を壊滅させた。

 しかもどちらも戦闘開始から1日足らずで、だ。

 逆に恐ろしい才能である。


 兵士たちは全滅したが、本人は(一般的に考えれば)やたら高い(が、チートの中では最弱な)戦闘力がゆえにほぼ無傷で生還した。


 兵は全滅したが、将だけ無傷で帰ってくるとどうなるか。

 国や軍によっても違うだろうが、だいたい軍法会議だ。


 もちろんトゥーリは2回の壊滅からほぼ無傷生還で、どちらも軍法会議にかけられている。


 1度目はその口八丁手八丁で見事に上官を煙に巻いた。

 裁く気満々だった上官がなぜか涙してトゥーリの処刑を撤回したというのは有名な逸話である。

 もちろん、そのあと軍人としては一兵卒にまで落とされたが。


 ただし、兵士としてのトゥーリは強い。

 出かけさせれば戦果をあげてくる。あげてきてしまう。

 しかもその戦果は兵士としてなら群を抜いている(軍だけに)。

 となると、軍ではその戦闘手腕を評価せざるをえない。よって、位はどんどん上がらざるをえない。


 結果、1度目の失敗から3年後に、彼は元の職位に復帰した。

 そして翌日、部隊を壊滅させた。


 2度目はもはや誰もトゥーリのことばを聞かなかった。

 聞いたら煙に巻かれるので、そもそも軍法会議は開始2秒で終わり、即座に無期懲役刑を科せられ、地下牢に幽閉された。

 牢屋番は会話はおろか、トゥーリの姿を見ることすらも控えるように言われ、毎日のように牢屋番は新しい人材がやってきた。

 どれだけトゥーリを恐れていたかがよくわかるエピソードである。


 トゥーリは結局、2ヶ月幽閉されたが先に国が潰れた。

 そして俺はトゥーリと出会った。

 だから、俺が初めて会ったときには、トゥーリは罪人だった。


「彼らの命に対する申し訳ない気持ちはありますが、部隊を2度も壊滅させたことに関しては、微塵も悪いとは思いませんね。現場指揮官というのは、所詮流れを作れはしません」


 彼は兵士としては優秀であり、1国を率いる宰相としてはそれをはるかに凌駕するほど優秀だった。

 ただ現場指揮官として3流だった。

 ただそれだけ(・・)のことだと言わんばかりだった。

 道徳の授業なら教師が頭を抱えるレベルだし、ネット上でその発言をしたら炎上確定だし、家族ですらも顔をしかめるような男だった。

 だが、トゥーリはあまりに優秀すぎて、しゃべっていることばがまるで道理にかなっているかのように聞こえてくる。


「たとえば情報を見れば、私の部隊がここでなにをすべきかはわかるわけです。私は当然、そうあるべき最善策を推測し実行しますが、あるべきはずの援軍はなく、いるべきはずの敵軍はいませんでした。1度目、私はそれを間違いだと思いました。なにしろ、途中で拾った情報が間違っている可能性もありえますし、敵が私よりウワテだということも充分に考えられました。私はそうではないと思っていましたが、なにしろ若かったので。このように卓越した人物であると私は私を理解していなかった」


 そう、やつはそのころからとんでもないことをさらりと言うやつだった。

 そういうやつだと思えば、そんなに悪いやつじゃない、ということを俺はいいやつなのであえて付言しておこう。


「それでも即日壊滅ってのはなかなかひどい指揮だ」と俺は言った。

「それについてはなにもありませんね。戦局がまっとうに動いた場合のターニングポイントというのは、往々にして戦況がまったく動かなかったときにただの危険地帯になるんです。敵が逃げられる場所へ行くわけですから、当然味方よりも敵が近い。敵軍も削っていないとなれば、当然全滅します」と鎖を鳴らしながらトゥーリは言った。

「戦局だか戦況だが、どっちでもいいんだが、それは動かないとわからなかったのか?」

「まさかそんな無能な参謀が存在しているということを私は理解できていませんでした。なにしろ、私はとくに誰からも学ぶ必要がなかったので」


 だいたいそんなふうに俺とトゥーリは出会った。

 いまからだと20年弱前の話だ。


「どうしました」とトゥーリが言った。

「昔のことを思い出していた」と俺は言った。

「私と会ったときですか?」

「なんだか妙に気持ち悪いセリフだ」

「妻の妊娠中に浮気は起こるそうです」

「ヤポニアにはいつ行く?」

「新婚旅行ですか?」

「どういう方向に持って行きたいんだおまえは」

「すみません。シューゼンもイルギィスもいないとなるとバランスを取らねばと思いまして」となぜか満足したかと言うような顔をしてトゥーリは言った。


 いや、満足したか、みたいな顔をされるのは非常に心外だった。

 俺はいっさいその流れの会話を求めてない。

 おもしろさを求められている場面ではないことくらい、俺にだってわかる。


「私も忙しいのでね。ヤポニア建国の諸雑務がまだ少々残っていますから」とトゥーリはやっぱり俺にわざわざ合わせてやったみたいなスタンスで言った。

「わざわざロッソアくんだりまで恐縮ですよ、世界の叡智」

「私の時間を奪うことにはつねに恐縮してもらいたいものです」

「おまえは年々性格が悪くなるな」

「それは間違いです。年々データが蓄積されていき、私以上に優秀な人材がいないことが確定的になっていくので、むしろ事実からすればあるべきところへ近づいているのです。高慢に見えているかもしれませんが、私としてはまだ謙虚なくらいです。もっとも優秀な者がもっとも高慢であるべきなのですから」


 まったく話が通じなかった。

 これだから頭のいいやつとは話したくない。


「もういいよ」と俺は抵抗を諦めた。

「では、本題に」とトゥーリはすまし顔で言った。

「北伐をどうするか、という話だと聞いたが」


 今年のアタマに行った6回目だか7回目だかの無意味な山岳地遠征を俺は思い出していた。

 思い出してみようとしていた。

 だが、あまりに無益すぎて思い出すべきことがなかった。

 そのくらい無益だった。

 戦いもしないし、誰とも会えなかった。

 ただ強烈な吹雪の中で登山をしただけだ。


「それは嘘です」

「嘘」

「ええ。あなただけに伝えたいことがあったので」

「あいにく、俺には妻が……」

「戯れ言は結構です」とトゥーリは非道なひとことを述べた。


 最初にやったのおまえだからな。俺は忘れないからな。

 という俺の悲壮な覚悟をまったく気にも留めずに、


「神義定款という歴史書を編纂します」とトゥーリは宣言した。

「レキシショ?」

「ええ。あなたの一代記というやつです。ヤポニアが建国されれば、ハード面での世界統一はほぼ成ったと言えます。しかし、民心をまだ我らは掌握していません。いまあなたを神格化することが真の統一への最短距離です」

「そんなヒマがあるのか?」と俺はまっとうな意見を述べた。

「誰に向かって言っているのです? ヤポニアの建国はすでにほぼ成っています。私の策に穴などありません」

「ジビルガフは?」

「いまはもはやジビルガフに怯えるときではありません。正直に言えば、アレがいるところはいくつかアテがあります。アテのあるところをしらみつぶしてもいいですが、北伐でだらだらやっているほうがローリスクです」

「ん? いまなにかとんでもないことを言わなかったか?」

「なんです?」

「アテはあるのか?」

「ありますが、特定できてはいません。キルシュリーゲンがあなたに伝えないということは、私などが手を出していい領域ではありません」

「いや、そうじゃなくて。だらだらやってるのがローリスクってことはだよ、アテの中にロッソア北部は?」

「入ってませんよ?」

「そうだよな。たぶん入ってない流れだったよな。出かける前から空振り確定ミッションだったよな? だって、俺ひとりでロクな装備もなかったもんな。『物資がもったいないから』って食料もロクにくれなかったもんな。冬の雪山に行くのに『物資がもったいないから』ってなんだよ。いま思ってもひでえ処遇だな。だからやっぱり空振りってわかってたんだろ? わかってて、俺には北伐でジビルガフを警戒するように匂わせてたのか?」

「ええ。だからそう言っていますよ」

「なんで?」

「あなたにはそう言っておいてもいいだろうと思いまして。万一がありますから。いや、ないんですけど」と平然とトゥーリは言い放った。

「……俺、おまえが黒幕だったらいいな、ってこころから思ってるよ」と俺は言った。

「はは、ご冗談を」とトゥーリは言った。「私が黒幕なら、あなたとはもう勝負はつけているはずです」

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