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5:次男の進むべき道

神帝歴40年――オーリ5年

ゆくの月


 殲滅する聖職者シューゼン。

 習慣に基づかずに白ローブはいっさい着ないというか、平均して1/4裸くらいでいつもどこかが見えている奇抜なファッションと、経典をまるで暗記しない革新的な信仰心と、とりあえず未亡人という単語に異様な反応を示すクソみたいな性癖と、非常に限定的な場面でしか使えない不便極まりない攻撃方法。

 それがシューゼン、我が次男の義父である。


「そして、一気に例外的究極魔法(ハッピー・トラスト)で殲滅するってのはどうだ?」とシューゼンが言った。

「戦闘が終わってそれの使いどころがないのはよくわかった」と俺は言った。

「定期的に使わないと、ドMばかりのウチの信者には物足りないんだ」

「ぜん! ぜん!」とワイゼンが嬉しそうに叫ぶ。「おり! おり!」

「あの、司祭さま」とワイゼンの世話係の侍女が言った。「ワイゼンさまは外にお連れしたほうがいいですか?」


 非常に忘れがちな事実であるが、シューゼンは司祭である。

 俺はやつと出会ったときにメカリアの宗教システムはよくわかっていなかったが、とりあえずそれなりに将来を期待されているやつらしかった。

 というか、そう自称していた。

 「この歳で俺はそれなりに偉いんだぜ」とか、「我が一族が本気になればおまえ(オーリ)なんて瞬殺だぞ」とか、「わかったらこうべを垂れろ」とか、思い出すだけでも腹立たしいセリフを連発していた。

 イルギィスも最初は腹立つ野郎だったし、異世界には性格的にロクなやつがいないのは確定的にあきらかだ。

 ただまあ、シューゼンの実家がいちばん偉いグループの一族のうちのひとつであることはたしかだったので、そのあと俺たちのメカリア制圧には大いに役立ったと言えるには言える。


「いや、いい。明日シーマが迎えに来るからな。しばらくお別れだ。オーリもまたロッソアに戻るからな。ワイゼンに構ってやれない」

「そうですか、でも、オーリさまとお仕事をされているのでは?」と侍女は散乱する書類を見渡して言った。

「まあ、そうだけど。問題ない。ワイゼンがいてもいなくても仕事は同じくらいしか進まない」と俺は言った。

「そうですか、あっ、もう。ダメですよ、ワイゼンさま」


 やはりワイゼンはソフトなタッチをしている。

 もはやこのテリアという胸の大きな侍女が若干慣れた感もあるのがなんとも言えないところである。


「てり、すき」と憎まれないコツをわきまえているような素振りを見せるのがポイントなのだろう。


 そうなると、ああ、もう、この方はほんとに、とかなんとか言いながら、結果、テリアもワイゼンを甘やかす。

 俺の息子なのに、なんでこんなに世渡りが上手いのか。

 俺の2歳のときなんてなあ……いや、まあいい。

 この子ならば、この乳、いや、もとい、この父の果たせていない夢(ハーレム)を成し遂げてくれるに違いない。


「だかさ、オーリ。もう信仰しねえなら部族ごと焼けばいいんだ」とシューゼンは言った。

「メカリアじゃないんだぞ。ロッソアだからな」と俺は言った。


 かつて俺とシューゼンが敵対していたころは、「信仰しろ。信仰しねえなら死ね」がやつの口癖だった。

 いまではすこしマイルドになって、「信仰しろ。信仰しねえなら村ごと殲滅する」がやつの口癖だ。

 「おまえが死んでシーマが未亡人になるのが俺の悲願だからな」も口癖だ。


 結論。いまも昔もロクなやつじゃない。


「信仰させちまえば、ロッソアもメカリアも変わらないだろ」と乱暴にシューゼンがまとめる。

「だから――ああ、いや、もういい。そもそもいまは北伐じゃないだろ。ここで話し合うべきはメカリアの政治を担う人材をどうにかする、ってことだ」

「1年前から言ってるんだからさ。もう俺とおまえじゃ話が進まねえことくらい理解しろよ」と糞野郎は開き直った。

「またシーマに激怒されるの俺だぞ」

「じゃあ、もうテリアを政務官にするというのはどうだろう?」とシューゼンが言った。「いい未亡人になるぜテリアは」

「ならねえよ。まず嫁にならないと未亡人にはなれない」

「そこになんの問題がある? いいか、オーリ。未亡人ってのは中古(ユーズド)で安くなるもんじゃないんだよ。あれは骨董価値(ビンテージ)とか付加価値(プラスオプション)だ。当然値段は高くなる。上質な未亡人には値段はつけられないってことばもあるくらいだ」

「ない。聞いたことがない」と俺はゲス野郎に言った。「そもそもひとの不幸を願うという腐った根性が気に入らない」

「バカめ。なにも理解していないな。愛する女の不幸を願うんじゃないんだよ、不幸な女の愛を願うんだ」

「おまえはここで朽ち滅ぼさねば人類の損失となるな」と俺は言った。

「すべてはキルシュリーゲンに」とシューゼンは祈りの最後のことばを述べた。


 所詮、こいつの信仰心などこの程度である。


「おまえ、いつか信者に刺されるぞ」

「だいじょうぶ、キルシュリーゲンさまはそれすら許してくださる寛容なお方だろう」とシューゼン。

「いや、あれは寛容とかとはほど遠いだろ」と俺は言った。「とにかくキルシュリーゲンもいま問題になってないぞ」

「ああ、そうだ。テリアをどうにか未亡人にするという話だったな」

「ちがう。人材だ、人材。テリアの乳についてはいま話してない」と俺は言い切った。

「あの……本人の目の前でゲスい会話をするのをやめていただいていいですか?」とテリアが言った。

「なら、話は早い。どうだろう政務官?」とシューゼンは言った。

「なんどもお断りしています。難しくてわかりません」

「だいじょうぶだ、俺やオーリだってできてるんだから」

「できてないのでトゥーリさまがこの1年、ずっと不機嫌なままなのではないでしょうか」

「鋭い、鋭いなテリア」とシューゼンは言った。


 話をとっ散らかすことにおいて、おそらくシューゼンの右に出る者はいまい。


「ところでオーリ。ワイゼンは例外的究極魔法(ハッピー・トラスト)使えるようにしていいのか」とめずらしくシューゼンはマジメそうな空気で言った。


 マジメそうな空気で言ってみたが、やっぱり話題はとっ散らかっていた。


「いいんじゃないか。メカリア皇帝のみが使える魔法とかカッコいいじゃん」と俺は答える。


 まあ、とっ散らかった話題に乗る俺にも責任がないわけじゃない。

 ないわけじゃないが、振るほうが悪いから、シューゼンが諸悪の根源である。


「それはいいんだけどよ、結構制限もデカいんだぞ。ほかの魔法は並しか使えなくなる」


 シューゼンが使う例外的究極魔法(ハッピー・トラスト)はクラウド的な魔法である。

 要は信仰心に基づいた元○玉システムが界○拳の力を上げるものだと思ってくれればいい。

 信者が信仰を捧げる。この場合、信仰心とはことばではなく魔力である。

 その捧げられた信仰=魔力を使うのが例外的究極魔法(ハッピー・トラスト)だ。

 つまり、信者たちの数が減るとパワーが下がるし、もし信者たちの多くがが魔法を使っているような時間帯でもパワーがさがる。

 増幅された魔力によって、シューゼンの力は飛躍的に上がる。ただし、例外的究極魔法(ハッピー・トラスト)を使っているとき以外はまごうことなく魔術師としては並である。

 事前告知しておかなければ、たいした出力は得られないことも多い。

 たとえば来月の3日の午後は世界的決戦が行われるために全信徒はあらんかぎりの祈りをシューゼンへと捧げよ、みたいなことがもし仮にできれば、その出力はおそらく世界最強クラスになるだろうが、条件は厳しいと言える。


 そして、なにより頻発はできない。信者に負担を強いるからだ。頻繁に行うと当たり前のように信仰心を失う。

 そのときの魔力を吸い上げられる感じは、「神の脱力」と呼ばれている。

 信者にしてみれば、だいたい元世界における献血みたいなものだ。

 対価はないが、信仰しているという充足感が得られる。


「まあ、いいだろ。並の魔法が使えたら生活には困らない」

「神帝オーリの子がそれでいいのか、って話をしてんだよ」

「メカリア神聖国皇帝シューゼンの子でもあるわけだから、例外的究極魔法(ハッピー・トラスト)使えないほうが見栄えが悪いだろ」

「もし国が乱れたときに、俺にはおまえらがいたが、ワイゼンにはそんなに人外な仲間がいるとは思えない。そのときに足かせになるくらいなら、おまえの子なんだし、最低でも上級魔法が使えるくらいにはなると思う。そっちのほうが汎用性が高い」


 意外と真剣に考えていた。


「どう思う、テリア」と俺は訊いた。

「あの……ですから。いまさらですが、ワイゼンさまはシューゼンさまのご子息と公表している以上、私の前で当然のようにオーリさまが実の父であることを話すのはお控え下さい。ぅ、あ、もうちょっと。ワイゼンさま、いまはダメです。いい子ですから!」


 いつならいいのか。


「そんないまさらなことを言われても困る」とシューゼンは言った。

「ですから、私では判断しかねます。ワイゼンさまはのちに皇帝になられるお方ですから、私には重すぎます」

「ああ、なるほど。そうだ。そうだぞ、シューゼン。ワイゼンはメカリア神聖国皇帝になる男だ。メカリアの魔法が使えなくてどうする」と俺は言った。

「まあ、テリアとオーリがそこまで言うなら」

「私は言ってませんよ、言ってませんからね!」とテリアが抗議する。

「じゃあ、シーマへの説明は頼んだ」と俺はシューゼンに言った。

「待て。それは夫婦のことだろ、俺には関係ない」

「いや、ここはおまえから説明したほうがいいな。スジが通ってる」

「いやいや、わからない。全然その説明じゃわからない」


「いま聞いてわかったわ」とシーマが(・・・・)言った。「ワイゼンについては、いいんじゃないかしら」


 首が動かなくなる。

 ぎぎぎ、と音を立てて体の関節すべてがなめらかに動かない。


「テリア、ありがとう。ちょっとこのひとたちと私はお話があるから、ワイゼンをもうしばらく見ててくれるかしら」

「はい、シーマさま」とテリアが言った。


 テリアが去ると、


「楽しそうねえ」とシーマが座る。

「は、早かったな。明日だって聞いてたが」とシューゼンは言った。

「どうにも仕事が進んでないみたいだって、テリアが教えてくれたから、急いで来てみたのよ」とシーマは言った。

「いやあ、ありがとう。助かったよ」とシューゼン。

「で?」とシーマは言った。「なにをしてたのかしら」

「なにって、なあ、オーリ」とシューゼン。


「しばらくこっちに留まります。じっくり政務でも進めましょうか」とシーマは宣言した。


 俺たちの怠惰な日々が終わった。


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