Redundant1:神帝の倒し方
ああ、これはずっと昔の記憶だ、と俺は思う。
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「さて、今日から学ぶ魔力障壁はたいへん魔力を要する魔法であり、みなさんが普段お目にかかることはまずないでしょう。高度な魔術師同士の戦いであればよく使われますけどね。ああ、いや、オーリくんはすでに使えるんでしたか。……その歳でまあ、たいへんなことです」
こういうことをいちいち言うから俺が孤立するんだろ、と俺は思った。
わざわざ先に教えてもらった魔法をみんなといっしょに教えてもらう意味がまるでないじゃないか。
どうにも魔術大学は俺をぼっちにしたいらしい。
「まあ、ですが、みなさんも優秀ですからいずれ使えるようになると思います。まず遭遇する機会もないでしょうが、魔力障壁の注意点をひとつ紹介しましょう。魔力障壁は攻撃魔法を跳ね返します。では魔力障壁に囲まれた空間ができたとしたらどうなると思いますか? オーリくん」
「その空間では魔法が使えません」と俺は答える。
そんなことはすでに実証済みだった。
そういう目立ち方をするのも俺の孤立の原因かもしれないとは思ったが、正解を知っている以上、知らないフリはポリシーに反する。
「正解でもあり、不正解でもあります」と意外なことを教師は言った。
……空気が微妙になった。
いや、俺が恥ずかしかった。
「その空間では魔力高圧化と呼ばれる現象が起こる可能性があります。魔法が効果を発揮せず、魔力だけがその場に溜まる現象です。これは魔力障壁で囲まれた空間でしかいまのところ確認されていない現象です。魔力だけがどんどん積み重なっていく。防御でも攻撃でも回復でも、魔法はたしかに効果を発揮しません。ですからたしかに使えないのですが、なくなったわけじゃないんです。その魔力だけが積み重なるんです」
こほん、とひとつ咳払い。
「一度魔力高圧化が起こると、勝手には消えません。場所が魔力を持つわけですね。ですから、誰にでも使えますし、そこに大きな魔力が溜まっていれば、ちょっとした魔法もその魔力を吸収してとんでもない威力になります。オーリくんがその状態を作ったあとは実は危険な状態だったんですね。あなたの魔力はとくに強いですから、かなり危ない状態だったと言えるでしょう。もうやらないほうがいいでしょう」ととんでもない事後忠告をした。
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「でもさ、そんな状況起こるのか?」とイルギィスが言った。「対峙するふたりが魔力障壁を使い合っても、逃げ場がいくらでもある。魔法はふたりに当たらないだけだ」
「俺がやったのは、魔力障壁を箱にかけて、その中に魔力障壁と初級攻撃魔法が発動される魔法道具をふたつ入れたな」
「それを作れるはぼくとおまえくらいだろうけどな」
「待て。おまえは作れないだろ」
「いや、おまえにできたならぼくにも作れる! まあ、それはさておいてだな」
「いや、おけない」
「そこでは初級攻撃魔法は発動しなかったわけか」
「無視か」
「となるとそのとき箱の中は魔力高圧化になってたということだ」
「……まあ、そうだろうな」
「ん? 待てよ。それだと魔力高圧化が意図的に作れるよな? それを使えば魔力が弱くても威力の強い魔法が撃てることにならないか?」
「魔力障壁は防御魔法の中じゃそれなりに体力のいる魔法だし、攻撃魔法ならいざ知らず、防御魔法を連発するような魔法道具なんて作り方も確立されていなくて面倒なことこの上ないだろ。俺が作ったのは1回出るだけのやつだし」
「でも、俺やおまえクラスの魔力を他のやつも使えるようになるじゃないか」
「そんな装置まで考えるくらいなら俺が上級攻撃魔法でも撃ちまくったほうがまだ効率的だし、俺の魔力を俺が食らう可能性が増えるだけだから損だろ」
「たしかに俺やおまえクラスの魔力の魔法を俺たちが食らう可能性は、いまのところ俺たちが敵対する以外に食らう可能性はないわけだしな」
「どうしても俺と同等だと思い込みたいらしい」
「気に入らないか、ぼくが認めてやってるのが」
「賞賛だけは受け取っておこう。ただし、事実の誤認はいただけない」
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「ダメだ、オーリ」とイルが言った。
「なんでだよ?」
「魔力高圧化が起こる可能性がある」
「よくそんな懐かしいこと覚えてるな」
「そもそも心音を発動条件にして魔力障壁と回復魔法を体内の輪から発し続けるという発想が異常だ。どれだけの魔力を消費する気だよ」
「具体的に言えば、俺の心音10回ごとに魔力障壁は作動し、鼓動のたびに回復魔法がかかる仕様になっている。これくらいがいちばん効率がいい」
「効率の問題じゃないだろ。とてつもない魔力量だ」
「いや、俺にとってはもう魔法と呼吸はほぼ同じくらいの疲労度だ。実証もしている。それくらいなら問題ない。だいたい体内に輪を作ると言っても、ちょっと魔法で加工した草を定期的に飲むだけだし、そんなに異常な発想じゃない」
「そんなことより体を鍛えたらいい」
「自動的に回復するならそれで物理攻撃の防御をあまり考えなくてすむし、魔法攻撃の防御も魔力障壁で防げる。不意打ちがほぼなくなるんだぞ」
「それを超える傷を負う可能性を背負うだろ」
「魔力高圧化なんて何年も魔法で飯食ってきて、1回もお目にかからなかった。あのクソエルフにもう3回もやられてる。次は負けたくない。いまのままじゃ勝てないんだ」
「魔法じゃ負けてないだろ。あっちの作戦勝ちだ」
「作戦ごとぶっ飛ばせないとチートじゃないだろ」
「相変わらずたまにおまえの言ってることはよくわからん」
「とにかく、俺が魔力障壁で囲まれたときにはたしかに周りは危険だが、俺にかかってる魔力障壁は効果を失わない。だから俺に関してだけ言えば魔法に対するリスクは魔力高圧化が起こったとしても、限定的だ。自動回復は体表に効果を発揮している魔力障壁の内側で効くわけだから、物理攻撃に対しても有効な肉体改造だと言える」
「なんらかの原因でおまえの体表の魔力障壁が消えて、向こうに魔法を使われたら?」
「そんな状況が起きたら潔く負けるさ」
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「もし俺の体表の魔力障壁の内側に魔力障壁を作り出すことができれば、そのふたつの魔力障壁のおかげで俺の体内に魔力高圧化ができる可能性が生まれる。
そして、俺の体内の輪からは、回復魔法と魔力障壁を作ろうとする魔法がほぼ自動的に出力されている。
当然、即座に俺の体内には魔力高圧化が起こる。
俺の体内で、だぞ。
俺の体内は行き場のない魔力で俺自身が魔力爆弾みたいなちょっと想像もしたくない状態になるんだ。
これはリスクではあるんだよ。まあ、体表にある俺の完璧な魔力障壁が消えないかぎり、俺の体内の魔力高圧化が他人の攻撃魔法の糧にされることはないわけだが。
ただここで問題になるのは、魔力障壁には永続性がないことだ。
物質系の魔法以外には永続性は持たせられない。
その実証についてはいつか話したよな。
だから、体表の魔力障壁はいつか切れる。
いや、いつかという言い方は正確じゃないな。俺は魔力障壁有効時間を12秒にしている。
まあ、何秒だって同じことなんだが、効率的にそのくらいがいちばん疲れなかったんだ。いや、本当だ。これは本当に、このくらいがいちばん疲れなかった。
まあ、それはいいだろ。
そういうもんなんだよ。納得しろよ。ウソはついてないぞ、本当に。
それで、まあ、トリガーとしているのは俺自身の心拍数だ。
1回脈打つごとに回復魔法がかかり、10回脈打つごとに魔力障壁が発動する。
俺の心拍数は60ちょいくらい。
約1秒に1回回復魔法がかかり、約10秒に1回魔力障壁が発動するとも言い換えられるわけだな。
緊張してたり、焦ってたら心拍も上がるからもうすこしは早くなるけど。
ここで差ができる。
心拍10回前、つまりはほぼ10秒前にかけた魔力障壁の有効時間は12秒。だから、普段なら2秒余裕があるわけだ。
俺にとっては魔力障壁が切れることはとても怖いことだからな。そのくらいの保険はかけたい。
実際、中級攻撃魔法程度なら相当魔力があるやつのでも耐えられるが、ダメージにはなる。
痛いのは嫌だ。
だからそのための2秒だ。
魔力高圧化を考慮するなら回復魔法みたいに心拍1回ごとに有効時間1秒の魔力障壁をかければリスクは減るんだが、それはさっき言った効率の面でよろしくない。
つまり俺にとって魔力高圧化の危険性はその程度だと考えてくれてもいい。
たいしたもんじゃない。完全に効率が優先される。
さて。
つまるところ、最悪のケースなら体表の魔力障壁の効果が切れるまで12秒弱あるわけだ。
脈打って魔力障壁が発動された次の瞬間に、俺に魔法道具を飲ませてもいいし、乱暴だが物理的に腕を突っ込んで、魔力障壁を発動させてもいいが、とにかくオートで魔力障壁がかかってから次にオートで魔力障壁がかかるまでのあいだに、他のやつの魔力障壁を俺の体内に仕込めばいい。
そしたら10回後の鼓動では魔力障壁が発動しない。俺の体内で魔力高圧化が起こる。
さすがの俺でもそれだけの時間でオートの魔法をとめることはできないからな。
もちろんそのあいだ心拍1回ごとに回復魔法の魔力も魔力高圧化し続ける。
そして、俺の心拍がそのとき正常なら、魔力障壁が魔力高圧化された2秒後に魔力障壁が切れる。
つまり、次の魔力障壁がオートで発動するまでの8秒間、俺は魔法にひどく弱い。
だからもちろん、俺はそのときに手動で魔力障壁をかけるだろう。これはあえて図には入れてない。
俺が気づかなかったり、たとえば手を負傷していたり、口が開かなかったりして、魔力障壁が唱えられない場合もあるかもしれないし、そもそもその状態で俺の心拍が正常だなんてことのほうが少ないだろうから、じつのところ、8秒という数字自体には意味がない。
ただし、いかに俺でもその発動時間をゼロにすることはできない。
結果、俺が魔力障壁をまとっていない瞬間は必ず発生する。
それがこの図に書かれていることでもっとも大事な点だ。
そしてその一瞬、俺が負っているリスクは11回分の回復魔法と1回の魔力障壁分の魔力高圧化。
まあ、それはまあとてつもない威力になるだろうな。世界最強の俺の魔力だから。
少なくとも俺の体でそれを受けたらかなりヤバいのは明白だ。
死ぬかな。
死ぬかもしれない。
だからこの図が言ってることは、最低でも一瞬魔力障壁が切れる。
そしてその一瞬、目の前にある俺の体は魔力高圧化しまくっている。
もう殺してくれと言っているような状態になるわけだ。
その代わりに俺が得るのはオート回復とオート魔力障壁だ。
クソみたいに小さいリスクを考えると決して分の悪いトレードじゃないはずだ。
ということをな、まあ、俺が頑張って書いたのがこの図だ。
ある意味で国家機密だ。
うまく書けた自信もないが、その顔を見たら理解はできるんだろうなってことはわかるからよかった。
いや、まあ、なんか、完全に魔王を倒すための奇跡の一瞬みたいになってるよな」




