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異世界転生して無双したら神になったので隠居して子供たちを見守りたい  作者: 毛玉伯爵
第1章 子供の話の前に俺が神になるまでの話
13/63

10:ホームシックで余裕の里帰りをキメる

ダニア歴209年――神帝歴7年

しまいの月


 ロッソアの魔法大学は2期制である。

 さかりの月、ゆくの月、くれの月が前期、つぎの月、ながれの月、もえのが後期にあたり、しまいそめのふた月は完全に学校としての機能は働かない。なかばの月は式典や試練ばかりで、これも学習機関として機能はしていないが、しまいそめは完全なる休みなのである。

 元世界で言うところの完全なる単位制で、卒業の条件はいくつかあるが、そのいずれかを満たせば無事卒業というシステムで動いている。


 俺は3ヶ月のうちにイルギィスとなんやかやでそれなりに仲良くなったり、なぜか盗賊とレジスタンスの中間みたいなものになっていたシーマとバトルしたり、ランパサールとエスカータのちょっとした争いに手を貸したり、火の神(フレアム)といっしょに筋トレしたり、大学で魔法について真面目に勉強したりと、まあまあ充実した学生(?)生活を送っていた。


 と言えば異世界リア充のように聞こえるかもしれないが、相変わらず同級生からの評価は芳しくなかったので、実情はリア充からはほど遠い。

 できた友達はとても優秀な魔術師と、ポリティカル・コンパスが反政府傾向にあるエルフと、太った政府役人と、一般的には会うことすら難しいこの世界の神のうちの1柱、と言い換えてみたら、まあ推して知るべしである。


 この3ヶ月の俺の成長度合いを大雑把に言うならば、アドレア村での俺はレベル70くらいでスキルが数種類の状態だったが、レベル74くらいになってスキルがテンコ盛り状態になったと思ってくれればいい。

 単純なステータス自体は大幅な上昇はしていないが、戦闘力に関して言えば弱小国のロッソア内では指折りというか、指の1本目が俺だった。つまり、俺は国家最強魔術師だった。

 したがって、アドレルの鬼から、ロッソアの鬼と徐々に呼ばれるようになっていたが、どうして俺のようないたいけな6歳児に鬼なんてひどい呼称を与えるのか、じつに世間は世知辛い。


 さて。

 ロッソア魔法大学近辺の学生街は学校が休みに入ったためにどこか浮き足立っていた。

 里帰りをする者もあれば、図書館に篭って魔法についての研究をしたり、教授陣に個人的に師事したりと学を進む者もあり、怪しげなアルバイトをしてあぶく銭を稼ぐ者、そして中にはとうてい許せる所業ではないがただれた生活を送る者もいた。


 そして俺は余裕で里帰りを選択した。


 飛躍的に増えた魔法のレシピの中には移動時間を短縮できるものがかなりあったので、さして時間はかからない。来るときには1ヶ月かかったが、いまなら多めに見積もって3日もあれば往復できる。


 たとえば土の魔法で地中を泳いで(・・・)まっすぐに進む。

 たとえば風の魔法で舞○術的に空を歩いて(・・・)進む。

 というような一般的な高速移動を使えば、往復では10日前後といったところだ。


 ちなみにこれは若干テンションが下がったが、瞬間移動に関わる魔法知識は大学にはなかった。

 時間停止も、時間遡行も記録上まったく認められていない。

 もしあったとしても、俺には意味がわからないし、想像もできないからたぶん使えないだろう。


 とは言え、瞬間ではない高速移動ならば、一般的ではないにしろいくつか手段があった。

 馬車で通常2ヶ月、特急でも1ヶ月、魔法を使っても5、6日はかかる行程を1日程度に短縮することは可能なのである。

 風魔法の移動手段は、防御魔法で「動いて」「浮く」ような足場を作ることによって成り立っているが、これでは速度がある程度までいくと振り落とされるし、足場が不安定だ。

 つまり、魔法の威力ではなく、実用の諸条件によって速度が制限されている。

 ならば実用の諸条件(そっち)を変えればいい。

 防御魔法に「硬化」特性を加え、攻撃魔法に「超高速」特性を加える。そして()()()()()()バランスでぶつけると、風魔法を使った移動より何十倍も早く移動できるし、リスクも少ない。なにしろ硬化の防御魔法が絶えずかかっている状態なのだ。属性攻撃魔法は通すかもしれないが、その他のダメージはほぼないだろう。


 ただし。これができるのには魔法についての深い理解と数多くの実践が必要だし、その膨大な魔力を使い続けるだけの忍耐力も必要だ。

 つまり、ロッソアでは俺とシーマとイルギィスくらいしか使えなかった。

 すくなくとも大学でこの移動方法を提唱したときには、実現可能性がないとして誰も賛同してくれなかった(それが俺を敬遠させる一因にもなったが、まあ、それはここでは関係ない)。


 とかく、俺は故郷に向けて超高速移動で向かおうとしていたその朝、いつもどおりのデカいノックでそれを阻む者がいた。

 そう、おせっかいなデブ(ランパサール)である。


「おい、ガキ。なんかいま唐突に不快な気分になったぞ、なんか悪い噂してたろ」


 そう、おひとよしのデブ(ランパサール)である。


「噂はひとりじゃできないよ」

「……おまえならしゃべらなくてもしゃべれそうだ」

「いや、できないけど」

「聞いたぜ、里帰りするんだって?」

「誰が言ってたの?」

「そりゃ校長だろ。政府管理下だから申請が出るわけだ。友達がいないのに、そこ以外から漏れるところがあるなら教えて欲しいぜ」

「なんでひとこと多いわけ?」

「ああ、やめろやめろ。ウチの嫁さんみたいなことを言うな」

「ミークスとルーナになんか言っといたほうがいい?」

「いや、手紙は定期的に書いている」


 意外とマメなデブだった。

 だからこの風体でも結婚できるのだろう。


「まさか見送り?」

「いや、仕事の命令だ」

「マジ? 見て、このカッコウ。もう完全に準備できてるんだけど。人使い荒くない?」

「そう言うなよ、手紙を途中の村に届けて欲しいだけだ」


 村の位置を訊くと、ロッソーナからアドレルのあいだで、極めてロッソーナ寄りの馬車でも半日程度しかかからない村だった。


「ああ、なんだ。それくらいならいいよ。1時間もあれば届けられる」

「いや、そこまでの馬車とあっちでの宿をすでに手配してある」

「なんで?」

「まあ、この3ヶ月、よくやってくれたからな。特別報酬みたいなもんだ」

「特別報酬?」

「1日くらいゆっくりしてみろ。故郷への帰路ってのは、早ければいいってもんじゃないのさ」とデブはキメ顔で言った。


 ちょっと腹が立った。

 もちろん、なんかこのデブカッコいいと感じてしまった自分自身にだ。


「ま、まあ、そこまで言うならもらっといてあげるわ!」と俺は言った。

「そんなに言ってないけどな」


 そして俺はランパサールが手配してくれたウスノロウマの馬車に乗って、ふるさとへ向かった。

 相変わらずウマはノロく、俺は4ヶ月前に旅立った故郷をゆっくりと思う。


************************:


ダニア歴209年――神帝歴7年

ながれの月


 エスカータとランパサールが俺を連れてロッソーナへ行く日の朝、ルーナとミークスは俺にできるかぎりいい服を着せ、できるかぎりいいカバンを持たせた。

 貧しい村だったからそれなりに苦労して用意してくれたのだと思う。


「オーリ、できるかぎり問題を起こさないように」とミークスは言った。

「わかってる」

「いい、オーリ。おかあ……」と言ったところでルーナは泣いて話にならなかった。


 ぽんぽん、とミークスがルーナの頭を撫でた。


「いいか、オーリ。おまえはとても強い魔力を持っているし、頭もすごくいい。だから父さんがいまから言うことをわかってくれると思って話す」とオーリは改まって言った。


「おまえが初めてコスマウルを狩ったときに、この子はとんでもない力を持っていると父さんたちは思った。ウソじゃないぞ。すごい才能だって。

おまえはことばもめっぽう早かったし、魔法の勉強がしたいのはすごくよくわかった。でも、父さんたちにはおまえに教えてやれるだけの力がない。すこしだけ魔法が得意なくらいじゃ、おまえにちゃんと教えてあげられないからな。おまえはもっとこう、すごく魔法のことをちゃんと知ろうとしてた。

だから、父さんたちはできることなら早めにもっとおまえがよく勉強できるところへ行かせてやりたかったんだけど、それは父さんの力が足りなくてうまくやってやれなかった。

村の子供たちとうまくいかなかったことも知ってたから、父さんと母さんはとにかくおまえが寂しくないようにそばに居てやろうと思ったんだ。だって、おまえみたいに賢くて魔力の強い子が同い年だったら、父さんだって仲良くしたかわからないからね。

おまえはとても強いから、たぶんこのさきも同じようにされるかもしれない。

でも、それはおまえが悪いわけでも、その子が悪いわけでもない。

おまえはおまえのやりたいことをしたらいい。それだけの才能がおまえにはある。ひとを無意味に攻撃するような子じゃないことは、父さんたちはよくわかってる。

おまえはまだ6歳だけど、父さんたちはおまえのことを信用しているんだ。だから、そこは自信を持って、元気でやって欲しい。

あと、それとな……」

「それと?」

「いやあ、その……」とミークスは急に歯切れが悪くなった。

「どうしたの、父さん?」

「だからなんだ、その……口から魔法を出すのだけはやめておけ。父さんだってちょっと怖いからな!」とミークスは言った。


 努めて明るく元気よく言おうとして、むしろ音がハズレてしまった感じだった。


「もう、ミークス! もっとうまく伝えてよ! オーリが悲しそうにしてるじゃない。いい、オーリ。あのね、お父さんも、お母さんもあなたのことは本当に大好きなのよ。あなたが生まれたときからずっとそう。あなた以上の子供なんていやしないんだから。あなたは誰がなんと言ってもお母さんの誇り。離れるのは寂しいけれど、私たちじゃあなたの可能性を狭くしてしまう。だから寂しいときはいつでも言ってね。必ず会いに行くから」

「……貧乏じゃん」と俺はすこし不貞腐れると、

「走っていくさ!」とミークスが脳筋発言をした。

「ミークス。やっぱりあなた黙ってて。それでね、オーリ。あなたが寂しくなってお母さんに会いたくなるのはすごく嬉しいけれど、あなたが大学に行って、たくさんお友達を作ってくれるともっと嬉しいの。そうすると今度はお母さんたちが寂しいのだけれどね。でも、あなたにはそっちのほうがいいわ。やっぱりお友達がいたほうが楽しいし、いっしょにお勉強するお友達がいるともっとよく成長もできるもの。偉くならなくてもいい。だから、あなたはあなたがいずれ最高だと思える人間になりなさい。そのためには可能性はできるかぎり大きくとらなきゃダメよ。逃げてはいけないわ」

「ちょっとルーナ。時間がなくなるから」

「ミークスが変な言い方するからでしょ! ね、私の可愛いオーリ。これはお母さんが嫌いになってもいいからちゃんと聞いてね。ふつうのひとは口から魔法を出したりしないのよ。あなたはちいさいころから口でも魔法を出しているけれど、それはやっぱりやらないほうがいいわ。どう見てもふつうじゃないもの。手からも出せるんだから、ちゃんと手から出しなさい。そうすればお友達だってすぐにできるから」


*********************


ダニア歴209年――神帝歴7年

しまいの月


 つまり俺は不誠実な語り部だと言うことだ。

 これまでまるで両親が私を意味なく怖がっているかのように述べてきたが、ようするに彼らは俺が稀に口から魔法を出すことを怖がるというより気味悪がっていたのだ。

 生理的に。


 口から魔法を出すのはふたつの意味においてこの世界では異常である。

 まず1点。

 ふつうは詠唱することによって魔法を使う。よって、口はすでに魔法使う過程において役割を持っており、放出には不向き。

 あとの1点は、改めて言うまでもないだろうが、単純に気味が悪い。


 肉体もしくは円陣や道具を使って、円を作ることで魔法は放出される。出力先の条件に「円形であること」が絶対条件なのである。

 片手でOKマークでもいいし、大きく両手でマルジルシを作ってもいい。できるのなら体全体で「O」を作ってもいい。

 オーソドックスなスタイルは片手で○か、両手で○だ。頭の上で手を組んでもマルになる。

 もちろん、それが口でも(・・・)いい。

 口でもいいが、俺以外に口から出すやつはいない。


 そんなに気味が悪いことを好き好んでやるやつはいないのだ。


 いや、俺だってほんとに最初はおかしいと思ったんだよ!

 だって最初、生後2日で○を作るとか知らないわけじゃないですか!

 となると、自動的に口って開けたら○じゃない?

 そりゃ、口から魔法出ちゃうよね。出る出る、出ちゃうよ。

 ルーナも唖然とするさ。

 その魔法の威力よりも、生後2日しかたっていないという早さよりも、自分の産んだ息子が口から魔法を出したという気味悪さに唖然とするよ。

 実験する過程でもちろん手からは出せることは気づいたけど、でも両手塞がってたら口から出すじゃん。

 だって出せるんだもん。


 実際、人前では口から魔法を出すのをやめたロッソーナでは、力の強さで敬遠されることはあっても、不気味がられることはとてつもなく減った。

 仲良くはなりにくかったが、避けられるほどでもなかった。

 っていうか、ミークスもルーナも早めに言ってくれよ。

 いや、とてつもなく言いにくいだろうけど。息子に気味が悪いって言うのは、とてつもなく言いにくいだろうけど!


 つまり、幼少期の異世界ライフの最大の敗因はこの私、オーリにある。

 まあ、いまは不便なく暮らしてるからいいんだけど。

 とりあえず、明日帰ったらルーナとミークスにロッソーナでのことを話してやろうと俺は思った。

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