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異世界転生して無双したら神になったので隠居して子供たちを見守りたい  作者: 毛玉伯爵
第1章 子供の話の前に俺が神になるまでの話
12/63

9:深夜になに!? って感じで起きたらオッサン出てきた

ダニア歴209年――神帝歴7年

なかばの月


――めよ。


――めよ。


――めろ。


――めろ。


――めろ。


――目覚めろ!


「あー、めろめろめろめろうっせーな」と俺は言った。


 もちろん夢だった。

 どうせ「目覚めよ」とかスカした感じで言ってみたら、なんか「めざ」のところの音が思ったよりも小さくて、めろめろ意味不明になったみたいなそういうアレだ。


 ……ん? あれ? え、どういうアレ?


 目をこすると、目の前にいかついオッサンがいた。

 窓の外は完全に暗く、月明かりが弱々しく差し込んでいた。

 ババアとリームスはとなりの部屋ですっかり眠っている。

 夜はすこし冷えることもあるからと暖炉にすこし火を入れたが、完全に消えている。室温はとくに問題はない。

 問題があるのは、その弱々しい月明かりに薄ぼんやりと照らされるオッサンだけである。


「我は火の神、フレアムである」とオッサンは言った。

「はあ」と俺は言った。

「はあ、ではない。我がそちを呼び寄せたのだ。我はフレアム。勇猛と秩序の象徴、火の神フレアムである」


 と言われても、はあ、以外の言いようがない。

 諸肌脱ぎの上半身は鍛え抜かれていますと言わんばかりのマッチョさ、わかりやすくヒゲを生やし、眼光スルドイ様を演出してはいるが、俺にはわかる。

 こいつは同じニオイがする。

 つまり、ダメなやつだ。

 なにがダメか。

 そう。やつがダメな点はいろいろある。

 ヒキニートがとりあえず筋トレしてちょっとナルシシズムに目覚めてしまったみたいな感じがものすごいところとか、あとは自分の名前を選挙カーみたいにとりあえず連呼してみるところとか、根っからの弱者を匂わせる。

 たしかに鍛えてはいるようだが、外見からは威厳以外を感じるな、感じたら泣くぞ、みたいな弱々しさが底に眠っている。

 とまあ、そう思うのはおもに冒頭のめろめろめろめろのせいだ。

 めろめろ言ってるやつに威厳はまったく感じられない。


「そうか、フレアム。フハハハハハ。余は魔王なり」と俺は言ってみた。

「いや、そちは魔王ではない。転生者だ」と否定されたが言ってみただけなのでダメージはない。

「ああ、夢か。そうだよな」と俺はひとりごちて再度眠ることにした。

「いや、夢ではない」

「じゃあなんなんだよ、うっせーな」

「……我はフレアム。勇猛と秩序の象徴、火の神フレアムである」


 2回目言った。

 間違いないだろう。絶対にこいつは内面乙女だ。

 そしてこういう空気は相手にも伝わる。

 さあ、火の神フレアムを名乗る者よ、おまえのハリボテは俺にはもう丸わかりだぜ、みたいな俺の醸し出すオーラは確実にいまやつを責めているはずだ。


「この6年、我は召喚者としてそちを見てきた」

「うわ。え、それストーカーじゃん」

「いや、義務だ」

「なるほど。それで?」

「そちの悲哀と混沌を想起させる6年の生を見せられ、我はいささか困惑しておる。かつてこれほどまでに異世界デビューを失敗した転生者はおらなんだ」とフレアムはかすかに反撃に出た。


 その攻撃は、若干きくね。


「……好きでぼっちやってねえから」と俺は強力なリターンをキめる。

「ことに生後2日で、しかも――」

「おい。それは言うな。それは俺の黒歴史だ」

「これまでの6年すべて黒い歴史であろうに」

「程度があるだろ、程度が。だいたいおまえも我とか言ってみたり、異世界デビューとか言ってみたり、キャラとしての発言がブレまくってんぞ。ビジュアルだけオッサンか。ファッションでオッサンやってんのか」

「我に対して左様な……さ、左様……」


 ちょっと凹んでいた。

 どうした勇猛と秩序。


「……オーケー、落ち着こう。我も悪かった。最初が肝心だと思ったから」とフレアムは停戦を申し出てきた。

「我はデフォルトなんだ」

「神っぽいから、我と言っているだけだ」

「そうか。簡単にゲロってるけど、だいじょうぶか」

「問題ない。自慢ではないが、我は勇猛と秩序の神ゆえ、押しには弱い。それだけのことだ」

「全然ダメじゃねーか! ほんとに自慢じゃなくてビックリしたわ!」

「だが、我の加護はこの世界においては絶対。元ヒキニート、火の神フレアムなり」

「マジで?」

「ああ。おそらく我はヒキニートのハシリである。パイオニアであり、フロンティアである」

「じゃあ、おまえも元転生者なわけ?」

「左様。ただ、我はあちらの世界ではすでに死んでおるため、ここにおる。そちとは少々事情が異なる」


 さらりととんでもないことを言っている気がするが、俺まだ転生して6年しかたってないんだけど。

 冒険とかダンジョンとか修行とかハーレムとかなにもやってないんだけど。

 なにわりと後半で出てきそうな転生の真実とか暴露してくれてんの?


「え、俺死んでないの?」

「死んでおったらここにはおらぬ」

「じゃあ、転生じゃないじゃん。詐欺じゃんそんなの。ずっと俺は転生したもんだと思ってたのに」

「いや、イチから人生をやり直しておるから、転生ではあろう。元世界で死んでないだけで」

「そんなもんか」

「そんなものだ。そもそもいまはそちに元世界に戻る手段はない」

いまは(・・・)?」

「ことばどおりだ。いつかは元世界に帰ることができる可能性はある」

「マジか。リスクなしで?」

「まあ、いまは忘れておるだろうが、元世界では死にかけてはおるからな。戻ったはいいが戻った瞬間力尽きるという可能性はあるな」

「とんでもねーリスクじゃねーか」

「とかく、いまは考えてもしかたないのだ」とフレアムは言い切った。

「それならなにしに来たんだよ。6年も放っておいて。こういうのはクライマックスか、もしくは最初にちゃんとしとくべきだろ」

「我にも事情があるのだ」

「聞こうか」と俺は言ってあげた。


 まあ、悪いやつじゃなさそうだし、話くらいは聞いてもいい。


「……なんとなく」

「ねえじゃねえか! 理由も事情もねえじゃねえか! コミュ障特有のとりあえず意味もなく後ろだおし続けた結果どうしようもなくなったアレじゃねえか」

「……まあ、そう責めるではない」

「責めてないけど。なんかもうちょっと理由欲しかったぜ、って話だ。めんどくさいから落ち込むな。秩序と勇猛を名乗るならなおさら、落ち込むな」

「ことばもない」とフレアムは沈んでしまった。

「いや、だから、そんなに凹むなよ。俺も言い過ぎた。それで、話があるんだろ? だからわざわざここに来たんだろ?」

「というより、そちは昼間の話を忘れたのか?」

「ああ、あれな。エルフのピンクな。脳裏に焼き付けてるよ」

「いや、それではない」

「え、じゃあ、エルフの白? それは網膜くらいにしか焼き付けてないけど。肌くらいならまだ見るチャンスあるだろうし」

「あのな、オーリ。そちはわざとやっておろう?」

「いや、わかんねーよ。白とピンク以外に今日覚えておくべきことが見当たらないんだ。もうちょっと待ってくれ。いま克明に思い出す。もしかしたらべつの色が……」

「……もうよい。我は帰る」

「いやいや、メンタル弱いよ! 悪かったけれども、たしかにいまのは俺が悪かったけれども」


 ちらりとフレアムは俺を見る。


「な。あれだろ、最大究極魔法」


 仕方なさそうな雰囲気を出しながら立ち上がる。


「知りたいね。ぜひ知りたい」

「それはそちにはまだ早いな」

「早いのかよ! 散々引っ張ってそれかよ!」

「というのも、我のいまの姿は我の化身にすぎん。化身というよりは分身というべきかもしれんが、とかく分身化身には寵愛者に最大究極魔法を与える力はないのだ。いずれ我の本体と邂逅したときに与えるとしよう」

「それはいつだ?」

「さあ。わからぬな。それも含めて寵愛者の試練でもあるゆえ」

「お、なんかそれっぽいな」

「そこには文句はないのか」

「まあ、とりあえず現状、これといって困ることもないからな。脅威とか――あ、もしかして昼間のエルフが敵になったりする?」

「エルフ?」

「ホアソンの寵愛者らしいけど、知らない?」

風の神(ホアソン)も寵愛者を指定したのか?」

「知らねーのかよ」

「そちも言うたであろう。我はコミュ障ゆえ。神々の会合もブッチしがち」

「いや、待て。そもそもおまえは俺を6年間ずっと見守ってたって言ってたろ」

「1日中見守れるわけもなかろう。要所要所で充分であろう」

「いや、肝心なところ見落としてるじゃねーか」

「見落としたということは肝心ではないのだ」

「哲学か! 哲学でミスをごまかす話か!」

「まあ、とくに脅威ではあるまいよ。そのエルフ。たぶん」

「不安すぎるだろ。なんか、そいつも転生者っぽい空気出してたけど」

「なんと……どういうつもりか、風の神(ホアソン)」とフレアムは考えこむ素振りを見せる。


 じつに不安を煽ってくる神である。

 なんかこう、不安の煽り方にしてももっとマシな煽り方があるだろうに。

 用意されたシナリオで不安を煽るならまだ許せるが、レギュレーションのエラーで不安を煽ってくるタイプだからタチが悪い。

 スピードではなく、安全性への不信で怖いジェットコースターみたいなやつである。


「……やむを得ぬな。ひさしぶりに来月の会合に出てみよう」としばらくしてフレアムはつぶやいた。

「……ほんとになにしに来たんだ、おまえ?」

「まあ、いちおう寵愛者だぞ、そちは、というアレだ」とフレアムは言った。「そう、挨拶であるな」


 かくして、どこから入ってきたかわからない火の神・フレアムは、俺が寵愛者であることだけを告げて、ドアから去って行った。


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