興味の無い男の小難しい話ほど、つまらないものはございません③
「民は何も持たないのだ。意味が分かるか?」とブリキットは私に尋ねる。
意味が分からない。私は首を横に振る。
「ならば問おう。そのバスケットは誰のものだ?」とテーブルの上に置いたバスケットをブリキットは指さす。
「それは、私のですが」と私は答える。ブリキットはお腹が空いているのだろうか? バスケットの中身は挙げないわよ。だって、私のお昼ご飯だもの。しかも食べかけだし。まだ食後のプライムが残っているけど、それもあげない。
「そうだ。それはお前の物だ。たとえ王族であろうと、勝手にそれを奪い取ることはできない。だが、お前が民であれば、そのバスケットは俺の物だ」とブリキットは言い切る。
あなたはジャイ○ンですか、と突っ込みたくなる。
「つまり、俺の物は俺の物、民の物は俺の物、ということでしょうか?」と私は聞く。
「その通りだ」とブリキットは肯定した。
「申し訳ありません。話が読めないのですが。何が仰りたいのでしょうか?」と私は単刀直入に聞く。目の前に座っている金髪イケメンが、ジャ○アンにしか見えなくなってきた。そういえば、私が髪に着いた卵を洗い落としている時に、秘密の花園に現れたのだったわね。シャワーをしている所を覗いた。あ、でも、いつも覗くのは、の○太君か……。
「完全に勉強不足だな、ホリー・ヴァレンティノ。貴族の特権を最初から説明してやろう。貴族は、財産の保有及び処分をする権利を有している。だから、そのバスケットはお前の物なのだ。また、お前の祖父が貴族で有り、父が貴族であり、そしてお前が貴族であるということなのだぞ。爵位、というのも財産であるからな」とブリキットは答える。
つまり、貴族には、私有財産の所有が認められているということ? 爵位も含むというのだから、無形資産も含まれる? って、それって、当たり前なんじゃ……。
「逆にお尋ねします。では、農村で生活している民がいるとします。その民にも家はあるでしょう。その家は誰のものでしょうか? 彼等が一生懸命育てた農作物は誰のものでしょうか?」
「それは当然、王の物だ。貴族が所有している物以外で、この王国の領地にあるものは全て王のものだ。収穫物も、当然、王の物だ。種も王の物だし、その種を蒔く土地も王の物だ。そして降り注ぐ雨も。そして、畑を耕す民も王の物だからな。収穫物も王のものだ」とブリキットは平然と言い切る。
「でも、農民も、収穫物の7割を王に納めれば、残りの3割は農民の物ですよね?」と私は反論をする。税率7割がまずあり得ないんだけど、それは置いておく。7割を納めたなら、手元に残った3割はその農民が汗水垂らして作った物だし。それはつまり、農民の所有権を間接的に認めているということではないだろうかと私は考える。
「ホリー・ヴァレンティノは可愛い顔をしながらさらりと残酷なことを言うな。収穫物の全てが王のものであるに決まっている。だが、収穫物の全てを王が持って行った場合、農民達が食う物に困ってしまうだろうに。だから、農民という王の財産を維持するために、収穫物の3割を農民の食料に当てているのであろう。無下に、自分の物を失うようなことは考えないだろ?」とブリキットは言う。
いえ、私は10割を納税しろなんて言っていませんが……話かみ合ってないです……。というか、そもそも、「税」という言葉の定義が違ってない?
「その……人は生まれながらにして平等ですよね?」と私は質問をする。フランス人権宣言だったであろうか。
「なかなか哲学的な問いをするな。人が平等というよりは、死が全ての者に平等なのではないか? 死は誰にも避けることが出来ないからな」とブリキットは真顔で答える。
「そ、そうですね」と私は答える。駄目だこりゃー。お話にならないわ。匙があるなら、ブリキットの顔に投げてやりたい。私の常識とこのブルスプの世界の常識がかけ離れているわ。ゲームでは、学園の中で生活していたから、プレイヤーには知る術もない「設定」なのだけど、これは酷い。ブルスプの開発者出て来いと言いたい。
さほど科学技術も発展していない中世という設定で、どこの富裕層が通う学校だよ、と言いたくなるような贅沢なマリジェス学園。まさかこんな歪みが生じていたとは思いもよらなかった。
「あの、ブリキット様。王族や貴族は人口のどれくらいを占めるのでしょか?」と私は尋ねる。
「ん? ホリー・ヴァレンティノは算術を修めていないのか? 王族の人口と貴族の人口を、この国に住む人間の数で割れば答えが出るではないか」と、少し厳しい顔でブリキットが言う。
「0.02%でございますか」と私は頭で計算をして答える。どれだけ頂点が狭いピラミッド構造なのだろうか。
「その計算であっている」とブリキットは言う。いやいや、計算の問題じゃないから。1億総中流なのが基本でしょ? と思いながら私は唖然とする。
「そろそろ昼休みが終わるな。なかなか有意義な時間であった」とブリキットは言って席を立つ。私も席を立ち、去りゆくブリキットを淑女の礼をもって見送った。
いやいや、私は全然有意義ではなかったけどね、と思いながら彼を見送った。
「次回予告:歪な社会の現状を知ったホリー・ヴァレンティノは、義憤から地下組織を作り、来たるべき市民革命のための準備を行う決意をするのであった……」
という展開はたぶんありません。プロット上では……。(>_<)キリ。




