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ヴォイドの呼び声Ⅰ 虚無の跫音  作者: 逆立ちハムスター


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16

城門前へ着く。

Ⱑのシンボルが描かれた軍旗がうっとおしく立ち並んでいる。鉱山にハンマーか。ドワーフらしいシンボルだ。

「相変わらず人が多いわね」

「お前が初めて来た時も同様だったのか?」

「まあね。でもこんな長い列はなかったけど。ここも戦争の影響が強なってきたのかも」

列から外れ、何があったのか確認しに行くマーラ。

衛兵の方を見ると、衛兵は軍旗同様、Ⱑが青く装飾された銀の鎧で全身を包み、ハルバートを携えている。

歩哨のドワーフが8人。

門の上方には銀の鎧に青いフードとマントを身につけたノームのクロスボウ兵4人。

門の入り口付近、両サイドには胸にⰡが装飾された大きな鋼のオートマトンが2体いた。


後方に並んでいるドワーフの話が聞こえてくる。

「まったく、今度は何があったってんだ」

「参るよな。よそ者が増えてからロクな事がない。全部こいつらのせいだ。大人しく自分の土地でくたばってりゃ良かったものを」

「まったくだよな。この土地は俺達ドワーフの物だってのに。さっさと俺達の土地から出ていけってんだ。おい! もっと下がれ棘耳野郎」

ドワーフが後ろに並ぶダークエルフを脅している。

「す、すみません」


マーラが戻ってくる。

「何か分かったか?」

「額に烙印があるのか確認をしているとかだって」

「ほお」

「額に烙印のある種族や魔物が街に襲撃を仕掛けて、それで警戒してるとからしいの」

「なるほどな」

俺同様、悪趣味の持ち主がこの街を騒がせているというわけか。


暫くして俺とマーラの番が回ってくる。


歩哨の指揮官らしきドワーフが羊皮紙にペンで何かを記しながら老人の方を向く。

「おいお前! 荷物を忘れているぞ」

紺色のフードを深く被った老人が後ろ頭をかき、頭を何度も下げながら忘れた荷物を拾い街へ急いで入っていった

「よし次!」

指揮官らしき者の側に立っていたドワーフの衛兵がこちらを呼ぶ。

順番が回ってくれば、事務作業の奴隷と化した指揮官が、気怠げに俺達を検分してくる。

「名前と目的、銀貨1枚」

「マーラ。友人に会いに。はいどうぞ」マーラが銀貨1枚を衛兵に手渡す。

衛兵が俺の方を見る。

「ロルフ、同じく友人に。銀貨の代わりに宝飾品でもいいか?」

「ああ、いいぞ」

拾った指輪を手渡す。

「おい確認しろ」

門の近くにある兵舎から鎧を着ていない青い服を着た身なりの良いレプラコーンが出てくる。

金のチェーンの付いた片眼鏡をし、受け取った宝石をじっくりと眺める。

「問題ない」

そういうとレプラコーンは兵舎に戻っていき、レプラコーンの召し使いとおぼしきノームが銀貨を三枚持ってこちらに駆け寄ってくる。ノームから銀貨を受け取る。

「終わったか?」

指揮官がメモをしながらそういうと、側の衛兵が手を差し出す。側にいた衛兵に銀貨を一枚渡す。

「よし行っていいぞ。次!」


門へ向かう。


「ねえ、ドワーフとレプラコーン、それからノームの見分けってできる? みんな似たような背丈だし、私は未だに分からないんだけど」

「確かに見分けがつきにくいな。だがスケルトンとリッヂみたいなものだろう」

「見分けつくの?」

「ああ、アンデッドはな」

じっと俺の顔面の穴を凝視してくるマーラ。

「無理。同じに見える」

「お前が獣人の見分けが細かくつくのと一緒だろ」


門を抜け街の中へ入る。

街には多数の種族達が行き交い、交流や買い物を楽しんでいた。

太陽の光を反射して白銀に輝く大理石の街並みは、まるで巨大な彫刻作品の中に迷い込んだかのような錯覚を抱かせる。

道に敷き詰められた頑丈な大理石のタイルは、永きにわたり行き交う種族の足音を受け止めてなお、鏡のように滑らかだ。その精巧に舗装された路地を、エルフの優雅な歩み、ドワーフの力強い足取り、そして獣人たちの軽快なステップ。キリのない例え同様、絶え間なく交差していく。

街を構成する建物もまた、芸術の粋を集めた大理石造り。細緻な彫刻が施された柱、空へ向かって伸びる尖塔。広場では噴水の煌めきが大理石に映り込み、昼下がりを彩る。整然とした美しさと、異種族の賑わいが融合していた。そして淡い色調が織りなす城壁面は、異なる文化を背景に持つ者達が調和して暮らす、戦争同様、表面上の平和を体現しているかのようでもあった。


街の至る所から白い蒸気が絶え間なく上がり、街の上空を多くの蒸気が覆っている。寒々しい霧ではなく、街の鼓動そのものだ。

石畳の街並みに、重苦しくも規則的な鉄の響きが響き渡っている。

数人のドワーフの衛兵を従え、城門を護るものと同型の鋼のオートマトンが巡回していた。ミートやバジリスクをも彷彿とさせる、巨大で無機質な巨躯。歩く城壁のようであり、その一歩ごとに大気が静かに震えている。行き交う者達は踏み潰されないよう率先して道を空けていた。その圧倒的な質量とは裏腹に、群衆は彼らを恐れて逃げ惑うのではなく、敬意と畏怖を持って静かに道を空けている。

オートマトンが通過する軌跡は、大気を震わせる規則的な駆動音。白銀の街路を征く鋼の巨躯は、さながら無慈悲な秩序の体現だ。群衆がモーセの海割りのごとく左右へ分かれ、その巨大な足跡を恐れではなく敬意で迎る。……この街の『平和』は、こうした鉄の重みによって辛うじて形を保っているらしい。無機質な冷徹さと、秩序を守るという意志が調和したその姿は、この街の者達の深淵の一部を垣間見たような感覚だ。

「随分と活気があるんだな」

「言ったでしょ。う~ん! ねえ、さっきはなぜ銀貨をそのまま渡さなかったの? 騎士から貰った銀貨が沢山あったはずでしょ?」

「特に意味はないさ」

「ふ~ん。コホン!」

マーラがこちらを笑顔でじっと見つめてくる。

「当ててやろう。腹が減っているんだろう」

「ピンポ~ン! アンデッドなのに良く分かったわね」人差し指を軽く弾くマーラ。

「俺だって昔は生者だったんだ」

「そうよね。でも大昔で忘れてそう」

「まあな。さあ行ってこい」

「アンデッドはお腹が空かないの?」

「棺桶に入った時に捨てたよ」

「ンフフ、あ~、イエナ達は?」

「お前が心配する事じゃない」

「ロブスター亭ってところだからね。たぶんずっといると思うから、あなたの野暮用が終わったら来て」

来い?「なんだって?」

「いいじゃん。お願い。色々気になるし、それにアンデッドに理解があるのってここじゃ私ぐらいよ」

「分かった、分かった。気が向いたらな。それから、気を付けろよ」

「ンフフ。やっぱ根は優しいのね」

「さっさと行け」

マーラが嬉しげに酒場へ向かっていく。


やりようは色々あるが、まずは古典的な方法で情勢を探ってみるか。


人間2人が立ち話をしている。

「何でこんなに待たされなきゃいけなかったんだ?」

「さあな。でも噂じゃ良くない事が起きてるらしい」

「良くない事って言ったら1つしかないだろ」

「そういうな。早く用を済ませて、とっととこんな街離れよう」

「賛成だ」


建物の影、その深淵のような黒に紛れて、紅いローブを着た男が立っていた。それは風景の一部のように静かだが、こちらの存在を鋭く見据えていた。

そのまま無視して行こうとするが、男は瞬時に姿を消した。

そして気配を近くに感じる。

瞬きほどの間に、男は俺の視界を占拠した。喧騒に満ちた大理石の街路が、その男を中心にして歪み、音を失ったかのようだ。紅いローブを纏ったその存在は、不自然なほどに鮮明で、そして禍々しい。……どうやら、俺の『仮面』を早々に見抜いた変わり者が現れたようだな」

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