AS-01
連邦解体戦争から6年後。
大国、バルタニス連邦は大部分の領土を失った。
バルタニス連邦の人々は政治家や貴族たちを引きずり降ろした後、国家としての根本を見直し、連邦から共和国へと移行した。
かつては獣人差別のメッカだったバルタニスでも、今となっては獣人の少女達が街を練り歩いている。
人間とすれ違うが、どちらとも、誰も気にしない。
そんな様子を見ていた全身雨合羽姿の人物は、通行人の人間の男性を呼び止めた。
「なぁ。獣人ら見て、なんとも思わないのか?」
「は? 何か変なところがあるか?」
「だって、獣人じゃないか」
雨合羽男の呟きに、男性は眉を顰めた。
「あんたみたいな古い人間がまだ居たのか。不愉快だ」
「お、おい!」
男性は去っていった。
雨合羽男は、慌てて別の女性を呼び止めた。
「あんたは何を呑気に歩いているんだ? 獣人がすぐそこにいるんだぞ!」
「しゅ、宗教勧誘ですか!? 困ります!」
女性は怯えたように逃げ去り、群衆たちは怪訝な目を雨合羽男を寄せる。
「ば、馬鹿な……たった5年やそこらで何が変わったんだ……」
「おい、お前か? 通行人に妙な言論を吹き込んでいるっていう奴は」
遂に男の元に、通報を受けた警官が現れた。
「変な言動? 何が?」
「とぼけやがって、獣人差別してたんだろ」
「普通の事を言っただけだ。数年前は皆こう言ってた」
「ああ、数年前はな! いい加減やめろ!」
「おかしい! 皆、どうしてしまったんだ!」
「雨が降っていないのに、雨合羽を着ているお前の方がよほどおかしい! 顔を見せろ!」
若い巡査が手を伸ばして、男の雨合羽を剥ごうとした。
しかし、その手は鮮やかに男によりねじ伏せられた。
そして、男は重い雨合羽を着ていると思えない動きで巡査の手を逃れ、走り去った。
「痛! 止まれ! 公務執行妨害だ!」
「いや、待て! 行くな!」
すぐに追おうとした若い巡査を、相方であるベテラン警官が止めた。
「あの男の動き、連邦陸軍式格闘術だった」
「では、元軍人だと? 」
「うむ……。
それだけならまだしも、動きが錆びついていなかった。
廃れた筈の格闘術を、今なお日々鍛錬しているようだ。
危険なテロリストかもしれん。
今すぐ本部に応援を呼ぶんだ」
一方、その頃、雨合羽男は素早い身のこなしで、群衆の目から逃れ、人気の少ない路地へと入っていた。
そして、住宅の壁から生えている雑多な配管類に足をかけ、上へ上へとよじ登り、高層住宅の屋根からバルタニス共和国の街並みを見下ろす。
こうしてみると、英雄アロンソの像や連邦の威厳を示す巨大なオブジェは一通り撤去されたが、かつての連邦時代の街並みの面影は残っている。
「そうか、俺が潜っている間に、世界は変わってしまったのか……」
男は呆然と呟き、俯く。
だが、ややあって顔を上げた。
「だからといって、止まれるわけがない。
俺は5年も待ったんだからな……!」
男は雨合羽を脱ぎ捨てた。
その中からは、連邦の軍服が現れた。




