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移動要塞自宅~勇者に選ばれたおウチと旅をすることになりました~  作者: ぷっつぷ
18けんめ 海系スキルを解放しまくる話
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第3話 苦手克服!

 釣りは順調すぎて怖いくらい。

 たぶん魚が釣れるのを待つより、釣竿に餌をくくりつける時間の方が長かったと思う。

 2時間もしないうちに目標の100匹は達成しちゃった。


 もちろん、100匹の魚の置き場所はないから、ほとんどはリリース。

 それでもリビングには20匹くらいの魚が残る。


「大漁だね」


「……これで、条件4、達成……」


 残るは条件1から3まで。

 うち条件1と2はスミカさんとルフナの出番。


 釣りを終えた直後、自宅は再び時速100キロ以上で移動開始、スミカさんとルフナのマモノ退治がはじまった。

 窓の外は、高速で移り変わる景色と、炎攻撃、銃弾、砲弾、ミサイルでいっぱいに。


 一方のリビングでは、シェフィーが魚を前に真っ青な顔をしている。


「さ、さささ、魚がたくさんです……目を開けられないです……」


「大丈夫? 他の部屋に避難する?」


「そそ、その方が、いいかもしれないですね」


 目を瞑ったまま魔法陣製作キットを持ち、シェフィーはリビングを出ようとした。

 その背後で、ミィアと一緒にゲームで遊んでいたまおーちゃんがつぶやく。


「おさかな、おいしそー」


「……まおーちゃん、野菜の次に、魚が好き、だもんね……」


「そうなの〜? ならなら、今日の夕ご飯はお魚料理がいいね〜!」


「うん。おさかな、いっぱいたべたい」


 純粋すぎるまおーちゃんの言葉。

 これを聞いて、シェフィーの優しさとかわいい好きが暴発したらしい。

 シェフィーはリビングの扉から手を離し、振り返ると、目を瞑ったまま宣言した。


「わたし、頑張ります! 頑張って、まおーちゃんのためにお魚料理、たくさん作ります!」


 胸の前で拳を握ったシェフィーは本気みたいだ。


 けど、やっぱり目は瞑ったままで、少しだけ腰も引けてる。

 いつでも一生懸命なのはシェフィーの長所だけど、それで無理をしちゃいけない。

 だから私は、とりあえず尋ねた。


「本当に大丈夫?」


「ヒトザカナ伝説はお母さんのウソだったんです! だから、お魚を怖がる理由はありません! これを機会に、お魚恐怖症を克服しようと思います!」


「そっか。よし、じゃあ私も手伝うよ」


 一度やると決めたら、シェフィーは必ずやり遂げる。

 なら、私はそんなシェフィーを応援するに決まっている。


 ということで、私たちはキッチンへ。

 ここからはお魚恐怖症克服兼まおーちゃんを魚料理で喜ばせようの時間だ。

 イワシっぽい魚をまな板に置いた私は、まだ目を瞑ったままのシェフィーに言う。


「目を開ける前に、まずは包丁を持とっか。気をつけてね」


「は、はい! でも、どうして目を開ける前に包丁を?」


「武器があるかどうかで、安心感は段違いだから」


「なんだかユラさんのアドバイス、戦場でのアドバイスっぽいです!」


 当たり前だよ。

 苦手克服は戦場と同じくらいに厳しいものだからね。


 シェフィーが慎重に包丁を握れば、私はシェフィーの肩を叩いた。


「目を開けよう」


「うう……」


 おそるおそる持ち上がるシェフィーのまぶた。

 べたっとまな板の上に横たわるイワシがシェフィーの視界に入ると、キッチンに悲鳴が響き渡る。


「ひっ!」


「見た目に負けちゃダメだよシェフィー! 相手はまな板の上のイワシ! 人間様に楯突くことなんて到底できない、無力で哀れで、能のない、矮小な存在でしかないんだよ!」


「ユラさん、セリフが悪役っぽいです! でも、なぜか自信が湧いてきました!」


「さあ、次は魚を切ろう! その包丁で、生態系のトップが人間様であることを、無力な魚たちに教えよう!」


「やります! やってみせます!」


 震える手で必死に握られた包丁が、魚の腹に食い込んでいく。


「あわわ! ぬるぬるして気持ち悪いです!」


「それが魚の最後の抵抗だよ! でも逆に考えてみよう! 魚はその程度の抵抗しかできない、愚かで小さな能無しなんだ! 魚は無力なんだ!」


「お魚は無力、お魚は無力……ええい!」


 少しずつ魚は捌かれていく。

 少しずつシェフィーは魚に慣れていく。


 そんなキッチンの光景を眺めていたルリとミィアは、素朴な感想を口にした。 


「……どっかのアニメで、見た……あれ、悪の幹部が部下に、人の殺し方を教えてる、シーンに似てる……」


「悪の幹部ユラユラだ~!」


 あんまり嬉しくないあだ名が追加されたね。

 個人的には、まおーちゃんが私のことを怖がり、完全に目を合わせてくれなくなったのが悲しいよ。


 とはいえ、シェフィーの魚恐怖症克服は順調だ。

 1匹のイワシを捌き終えると、その後も続々とシェフィーは魚を捌き続ける。


「だいぶ、お魚に慣れてきました」


「そうみたいだね。じゃ、魔法陣を使って魚を焼いてみようか。自分の得意技で魚をねじ伏せれば、もう魚なんて怖くないって実感できるからね」


「分かりました!」


 さっそくテラスに出て、炎魔法陣を使った魚の調理開始だ。


 炎魔法陣が放つ炎に焼かれたイワシやサバっぽい魚は、白い煙をもくもくさせる。

 さすがシェフィーの魔法陣で、炎魔法陣は魚ごとに細かく炎の調節をしていた。


 焼いてる途中の魚に醤油をかければ、いい匂いが辺り一面に広がり、私たちのお腹が鳴っちゃう。

 同時に、フライパンを使った魚のムニエルも作っていく。


 もうシェフィーが魚を怖がる様子はない。


 スミカさんとルフナがマモノ退治を終えれば、シェフィーの魚料理による夕ご飯のはじまりだ。

 完成した魚料理は、ポン酢や醤油で味付けした各種焼き魚に、きのこのホワイトソースをかけたムニエル、そしてたっぷりの白米。

 食卓を囲んだ私たちは、シェフィーの料理を楽しむ。


「あら! このムニエル、とっても美味しいわ!」


「焼き魚も絶品だ。米と合うし、何より焼き加減がちょうどいい」


「シェフィーの炎魔法陣、お魚ごとに細かく炎の調節してたんだよ〜!」


「……魔法での料理、すごい……」


 幸せ気分でいっぱいの食卓。

 シェフィーは優しい笑みを浮かべて言った。


「不思議です。あんなにお魚が怖かったのに、みなさんの笑顔を見ていると、またお魚料理が作りたくなってきました」


 そしてシェフィーは、私に向かって頭を下げる。


「これもユラさんのおかげです。ありがとうございます」


「いや、私はちょっと手助けしただけ。一生懸命なシェフィーの頑張りがあったから、恐怖症は克服できたんだよ」


「……ありがとうございます!」


 そのにっこり笑顔に、私も思わず心があったかくなった。

 あんなに怖がっていた魚を料理で克服しちゃうなんて、シェフィーはすごいね。


 さて、料理を食べ終えると、まおーちゃんがてくてくシェフィーの前にやってきた。


「シェフィー」


「おや? まおーちゃん、どうしましたか?」


「おさかな、おいしかった。ありがと」


「ふわあぁ〜、まおーちゃんはかわいいです〜!」


 遠慮なく、思いっきりまおーちゃんに抱きつくシェフィー。

 対するまおーちゃんは、特にこれといった反抗はしない。


 もしや、魚料理のおかげでまおーちゃんがシェフィーに懐いたのか。

 魔王の心まで掴んじゃうなんて、やっぱり料理パワーはすごい。

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