第6話 みんな大変だった
まおーちゃんが魔王。
これは幼女が女帝だったアイリスパターンなのか、自称影の支配者だったシュゼパターンなのか。
とりあえず私はシュゼパターンを採用して、ルリの話を聞こう。
「ええと、聞きたいことが多すぎて、何から聞けばいいのか分からないんだけど」
「……きちんと、全部、話す……」
私たちがジュウの勇者一行であると知って、ルリも安心したみたいだ。
だからこそ、彼女は全部を話してくれるんだろう。
ルリはまおーちゃんを抱いたまま、特徴的なゆっくりとした口調で説明をはじめる。
「……わたしと、イの勇者であるイショーちゃんで、北の地方のマモノを退治、していた……マモノ退治を、していると、まおーちゃんを、見つけた……まおーちゃん、1人で泣いていた、から、わたしとイショーちゃんが、まおーちゃんを、保護した……」
「なんでまおーちゃんは1人で泣いてたのかしら?」
「……『ヤミノ世界』で、魔女のメトフィアが、反乱を起こした、らしい……まおーちゃんは、メトフィアに『ヤミノ世界』を、追い出され、『ツギハギノ世界』で、ひとりぼっちになって、いた……」
「まだちっちゃい子なのに、大変だったわね」
心配そうに、それでも笑顔は絶やさず、スミカさんはまおーちゃんを見つめる。
ちっちゃい子(500歳)ってところは黙っておこう。
にしても、ルリの話には驚いた。
まおーちゃんが本物の魔王だとしたら、けっこう大変なことが起きているんだから。
この辺りについては、アイリスパターンを採用するシェフィーが質問する。
「もしかして今、『ヤミノ世界』は魔王不在なんですか!?」
「……そう……今の『ヤミノ世界』を、支配しているのは、メトフィア……」
真の敵は魔王ではなくメトフィアであった。
なんだかシュゼが好きそうな話になってきたね。
真剣な表情をしたルフナは、顎に手を当て尋ねる。
「となると、マモノが増えているのも、それが関係していると考えていいんだな」
「……ええ……マモノの増加は、メトフィアが、原因……」
あり得なくもない話だ。
まおーちゃんは500歳、つまり100年は魔王の地位にあったと考えられる。
にもかかわらず、マモノが『ツギハギノ世界』を襲いはじめたのはここ1年の出来事。
なら、メトフィアが『ツギハギノ世界』を襲っていると考えるのが妥当。
そろそろ私もアイリスパターンを採用した方がいいかも。
ここでミィアが手を挙げ質問した。
「イショーさんは、どこに行っちゃったの~?」
残された謎だね。
ルリは途端に表情を曇らせ、誰にも目を合わせずに答えた。
「……『いろんな島がある国』に、テイトに繋がる転移魔法陣が、あるらしい……メトフィアの手下が、これを奪おうと、している……それを止めるため、イショーちゃんが1人で、メトフィアの手下を探しに、行ったの……」
そして、小さな声でつぶやくように言う。
「……でも、もう3日間も、帰ってこない……」
弱々しいその言葉は、ルリのイショーに対する心配でいっぱいだった。
その後、ルリの説明は続かない。
話は一通り終わったみたいなので、私がまとめに入る。
「まとめると、まおーちゃんは『ヤミノ世界』を追い出されて、追い出された先でルリたちに保護された。イショーさんはメトフィアの手下を探しに出かけて行方不明」
「……その通り……」
どうにもルリとまおーちゃんは苦労が多いらしい。
ルリの話を聞いて、みんなはどう思ったのか。
そんなの決まりきってる。
みんなは一斉に声を上げた。
「ユラちゃん、私たちでイショーちゃんを探しましょう!」
「うんうん! ミィアもスミカお姉ちゃんにさんせー!」
「私もだ。イの勇者を手伝え、が今の目的だからな」
「ユラさん」
「分かってるって」
私だって、答えは決まってる。
だから、その決まりきった答えを、ルリとまおーちゃんに伝えた。
「ルリ、まおーちゃん、私たちがイショーさんを探す手伝いをするよ」
「……ありがとう……」
小さな笑みを浮かべたルリは、ゆっくり頭を下げる。
プイッとしたままのまおーちゃんも、ルリを真似して頭を下げた。
これで明日からの予定は決まり。
そう、これは明日からの予定。
今日は日も暮れちゃったし、ゆっくりしよう。
スミカさんはキッチンに戻り、いつもの調子で手を叩いた。
「さて、まずは夕ご飯を食べましょう!」
待ちに待った夕ご飯の時間だ。
北方で採れる食材を使った南国料理が食卓に並ぶ間、ルリは私に話しかけてくる。
「……ユラ、さっき、このコスプレに、気づいた……」
「うん。クオリティ高すぎて一発で分かったよ」
「……ユラは、『マジック・サイエンス』の、誰推し……?」
「ふーちゃん先輩!」
「……あとで、ゆっくり話そう……」
メガネを持ち上げて、ニタリと笑うルリ。
これはあれですね、オタクの圧ですね。
なんだかルリとは深い話ができそうな予感。
一方で、まおーちゃんにはプイッとされたままだ。
まおーちゃんと仲良くなる日は遠いかも。
今回で第17章は終わり、次回からは第18章『海系スキルを解放しまくる話』がはじまります! どうぞ続きもご覧になってください!
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