↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

6限目 葬列の帰還



 しばらくスライムやバスケットボール・ピルバグを杖で突きながら歩いていると、彩葉いろはさんが立ち止まった。


「あの……」

 彩葉さんがモジモジしている。


「どうしたの?」


「あの、わたし……おトイレに行きたいです」

 彼女は顔を赤くして、下を向いている。


「上まで持ちそう?」


「無理……です」


「ちょっと、あそこの岩陰で……してきます」

「大丈夫?」

「はい、母から聞いていて、その覚悟は出来ています! あの……、近くで見張っていてくれますか……」


 彩葉さんは岩陰に向かった。

 ぼくも仕方なく傍までついて行く。


「この辺でいい?」

「怖いので、もう少し近くでお願いします」


「この辺?」


「はい。ちょっと汚れると困るので、袴(はかま)脱ぎますから、時間がかかります……」


『もう、勘弁してください……彩葉さん。ぼくを悩殺する気ですか……』心の叫び。


「あの……。音、聞かないで下さいね……」

『やめて――!』心の絶叫。


「終わりました……。今、袴をはきますから……」

 実況せんでよろしい!


「じ、じゃあ、オレ、向こうで待っています」

しばらくぼくは円周率を言えるところまで念じながら、彼女を待った。


「キャ――――!」

 突然、辺りを引き裂く彩葉さんの悲鳴が聞こえた。

 彼女は岩陰から飛び出すと、一目散にオレに向かって走って来る。


 彼女の後ろから……!

 全長三メートルはあろうかと目される、平べったい巨大ムカデが追いかけて来た!

 ぼくは唖然とする間もなく、反射的に彼女へ向かって走った。


 巨大ムカデは変に素早く、あっと言う間に彼女の後ろに迫った。

 するとヤツは、斜めに大きく反り上がった! 尾っぽの巨大な刃物で攻撃するようだ。


 オレは彩葉さんの両腕を掴むと、遠心力を利用して、そのまま彼女を後方へ、思い切り放り投げた。


 彼女が転がる様子が見えた。

 同時に腰のあたりに物凄い衝撃を受けた。


 ぼくの視界には洞窟の景色が流れ回転した。

すぐに視界は天井に固定された。


そしてすべてが暗くなった…………。



  *  *  *  *  *



「どうした! 彩葉!」


 彼女の只ならぬ悲鳴を聞いて、上級生達が駆けつけて来る。


「ソードテール・センチピートだ!」

 そう叫んだ副部長の創介が、一番に彩葉をかばい、盾を構える。

 すかさず京弥が巨大ムカデの頭を射抜いた。

 凄まじい迫力で躯体をくねらす巨大ムカデ! 尾の先端についた鋭利な刃を振り回す。


 距離を取って仁王立ちする部長が自慢のワンドで、地面をチカラ強く突いた。


「炎弾(フレイムバレット)、六連!」

 瞬時に部長の前に、六個の小さな火の玉が、リボルバーの様に同一円周上に出来上がる。

 そして高速で連続発射され、巨大ムカデのテカる深緑色の躯体を貫通していった。


 焦げた臭いを発して、巨大ムカデは沈黙する。


「こいつは二十層以下の魔物だぞ! なんでこんなところに……」


「ああ、ぼく、聞いた事があります。産卵の次期になると幼虫の餌が豊富な上の方に、卵を産みに上がって来るそうですよ」


 巨大ムカデの消滅を確認すると、部長と京弥は倒れている翔流の方へ歩み寄った。


 すでに白魔導士の結夢(ゆめ)が治癒にあたっている。


「どうだ……と、聞くまでも無いな……」


「グロイですね」

 翔流の身体は腰のあたりで切断されていた。内臓が※※※している。

 下半身は崖下に落ちたようである。

「半分以上は残っているよな」


「大丈夫だと思いますけど、このまま血が抜けると……解りませんよ」


「そうだな……」


 部長はワンドの尖端を翔流の切断面にそっと当てた。


 そして凍結の魔力を流し込むと、そこは凍って流血が止まった。



「イヤ――! 翔流さん――!」

 彩葉が絶叫して翔流の元へ駆け寄ろうとする。


「行くな! 刺激が強過ぎる!」

 創介が片手で抱き留めた。


「結夢、後始末が終わるまで彩葉を眠らせてくれ」

「わかりました」

 白魔導士結夢は、泣き叫ぶ彩葉の前に歩みより、白銀の杖を突いた。


「強制(コンストゥレイント)睡眠(スリープ)!」

 彩葉は泣きながら眠りについていく……。



「さてと、翔流を連れて帰らないといけないな」


 みんなが頷いた。


「京弥、寝袋持って来たか?」

 創介が尋ねた。 

「こっちの世界のであれば、一つありますよ」

「仕方ないだろう……こんなところで死んじまったバツだ。あとロープも出してくれ」

「了解」



 創介は翔流の上半身を抱きかかえ、寝袋の中に収めた。

「俺の背中に括り付けてくれ」

 腰を落とした創介は背中を差し出した。


 京弥と部長はロープで縛り付ける。


「悪いな創介。どうだ、行けそうか?」

 部長が心配そうに創介に聞いた。


「ああ、大丈夫だ。半分だから結構軽いよ。京弥、俺の盾を頼めるか」


「了解!」


「よし、結夢。彩葉を起こしてくれ。帰るぞ」


「わかりました……」


「まずはベースに戻って制服に着替えよう。それから聖域に入る」



 白鹿山高校山岳部は、まるで葬列の様に帰路についた……。


 白く靄もやった聖域に入ると、創介はそっと翔流の上半身を横たえた。


「再生はきっとグロイから、みんな見ない方がいいぞ……」

 部長は翔流の上半身に背を向けた。

 他の部員もそれに習った。



  *  *  *  *  *



 目を開けると凄く眩しかった……。

「あれ、ぼくはどうなったんだっけ……」


 ぼくの声を聞いてか、彩葉さんが首元に抱き着いてきた。


「よかった~! 翔流さん――!」

 ボロ泣きしている彩葉さんは、涙で濡れた頬をオレの頬にこすりつけた。

 ああ、彩葉さんのいい香りがする。

 擦れる髪がぼくの五感を刺激した。


 いけません、そんなに激しくしたら……。

 それにしても上半身が上手く動かない。


「キャッ!」

 足元の方で結夢先輩の小さな悲鳴が聞こえた。


「ほう、翔流。再生した途端に機能試験か⁈ 精が出るな!」

 なんですか部長? その誤解を招きそうな言い方は……。


 ぼくは腕組みしている部長を下から見上げた。


 部長~。制服のスカート丈短いです。パンツ見えてます~。


 そしてぼくは、部長の冷ややかな視線の先を推測した。

 とてつもなく嫌な予感がした。


 彩葉さんも上体を起こして、ぼくの足元の方へ視線を移した。


「キャ――――――ッ」!

 ぼくは彩葉さんの表情の変化を、下からつぶさに観察出来てしまった。


 涙をたたえた彼女の瞳は大きく見開かれた後、急速に顔を紅潮させ、刹那その表情は両手で覆われた。


 ぼくは悲劇の現場を見なくても、すべてを理解するに至った……。


「お願いします~! 酷過(むごす)ぎます~! 誰かせめてタオルでも掛けてもらえませんか~~!」


 ぼくは涙を流しながら懇願した。


「おまえ、下半身だけそんなにクネクネさせると、さらに犯罪だぞ!」

 そう哀れみながら創介先輩が、優しくタオルで覆ってくれた……。


「翔流~。そんな恥ずかしい所にもテントを張るとは……やはりおまえは選ばれし冒険者だな!」


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。