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結界都市 エトピリカのエコーズ アナザーエンド  作者: 因幡雄介
第1章 王のいない城

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23/25

両目は赤かったか?

 早朝、イデリオ城近くにある湖畔。



 カンタロウは、ルウのお墓をつくっていた。



 気持ちの良い朝風が、頂から吹いてくる。


 白く、くちばしの黄色い白鳥が、優雅に湖畔を泳ぐ。


 水鏡に、鮮やかな森の緑が映った。




「ふう、これでよしと」




 カンタロウは汗を拭うと、木の枝からつくった、十字の墓を土に突き刺す。


 細腕のわりには、引き締まった上腕二頭筋。


 上着を脱いだシャツからでる、三角形の僧帽筋。


 汗が流れているためか、男らしい体つきがよく見える。




 アゲハはそれを、しばらく眺め、




「すごいじゃん、カンタロウ君。とっても綺麗」


 何気にそんなことを、言ってしまった。


「こういうのは、よく作っていたからな」


「そうなんだ」


 カンタロウはアゲハの視線に、気づいていなかったようだ。




 アゲハはほっと、息をついた。




「すまなかった」


「ん? 急にどうしたの?」




「いろいろと悪いことを思い出してしまって、ついあんなことを言った」




「別にいいよ。気にすんな」


 アゲハは座っていた岩から立ち上がる。ルウの墓を手でなでた。


「ねえ、カンタロウ君」


「うん?」





「人って――どうして醜いことができるの?」





 青いガラスのような翅をもつ蝶が、アゲハの手の甲にとまる。


 カンタロウはその蝶に見とれ、




「誰もがそうじゃないさ。良い奴もいれば、悪い奴もいる。馬鹿な奴もいれば、えらい奴もいる。人は一人一人違う。誰もが一緒じゃない」




「そうだね。少なくとも、カンタロウ君は、かなりマシな方かな。マザコンさえなければ」


 アゲハは柔和な笑みを見せた。




 カンタロウはその笑みを見た瞬間、胸にこみあげるものを感じ、つい視線をアゲハからそらした。




「マザコンじゃない。俺は親孝行してるんだ」


「はいはいっと、それじゃ、太陽もでてきたし、お城から娘達を助けますか?」




 大きく背伸びするアゲハ。


「そうだな」


 カンタロウはうなずくと、上着を手に取り、肩にかぶせた。






「じゃな、親友」






 青い蝶が、それに応えるように、墓の上で翅を上下に動かしていた。





 カンタロウ、アゲハ、ソフィアは、城を探索し、四人の娘達を発見することができた。



 彼女達は応接間の、ベッドの上に寝かされていた。


 日当たりがいいためか、太陽の光が窓から射しこむ。


 家具も多く、置かれていた。



 アゲハが女性達の額に手を置く。


 眠りの魔法が、かけられているようだ。


 魔法はすぐにとけるようなので、アゲハが魔法解除を担当した。




「ここは?」




 一人の女性が目を覚ました。



 赤毛で、瞳は茶色。


 顔半分に火傷の痕があり、皮膚が黒く変色している。


 服装は他の女達と同じ、白いワンピースを着ていた。



「クシギさん」



 ソフィヤは声から、女性の名前を言い当てた。





「あれ? ソフィヤじゃないか? 何してんの? って、あんたら誰?」





 アゲハはクシギに、今まであったことを説明し始めた。


 最初は驚きを見せるクシギだったが、思い当たる節があるのか、わりと素直に受け入れていた。


 ただ、カインがゴーストエコーズに変わってしまったことは、伏せておいた。



「……そっか。あいつ、そんなこと考えてたんだ。まっ、城に招待されたときは、あの頭のおかしな王様の慰み者にされるだろうなって思ってたけど。そんなことになってたとわね」



「カインとはどういう関係だったんだ?」


「うん。話仲間。あいつ背が小さくて、子供みたいだけど、見かけはもう立派な大人だったからさ。みんな気味悪がって近づかなかったんだよ。まあ私もこのとおり、顔に大火傷おっちまって、化け物みたいだろ? 同じ化け物同士、気が合っただけさ」


 冗談っぽく、クシギは笑う。


 まだ若いからか、とても化け物には見えない。


 むしろ快活で、容姿の美しさの方が目立った。



 クシギはベッドから立ち上がると、眠っている女性の額に手を置いた。その女性は片足がない。


「この三人もそうだよ。カインのこと、わりと嫌いじゃなかったみたいだね。ヒバリなんて、惚れてたみたいだしね。今思えば、あいつが本当に笑顔になれたのは、私達の前だけかもしれないね」


 クシギは、懐かしそうに、カインと過ごした日々を思い出す。


 暖かい表情だ。恨みや憎しみは存在しない。


「なあ、あいつが死んだのは、天罰だと思うけどさ。恨まないでやってほしいんだ。王から相当な虐待を受けていたし、使用人達も重い荷物をわざと持たせていじめてた。あっ、それが殺す理由にはならないと思うけどさ」


 クシギは、カインのことをかばうように、弁解する。


 カンタロウとアゲハは、静かにそれを聞いていた。


「でも、あいつと話していると、優しい奴だなというのは伝わってきてた。なんか、気分が晴れるというか、すっきりするというか、温かくなるというか。結局、人って同じ境遇の者同士じゃないと、理解しあえないっていうか、そういうやつじゃないかと思うんだよね。だからさ、あいつを許してやってほしいんだ。無理かもしれないけど」



「もちろんだ。俺はあいつを、恨んでなんかいない」



 カンタロウはクシギに即答した。





「ありがとう。本当に。ぐすっ」





 クシギは、目元を指で拭った。


「あっ、そうだ。ちょっと聞きたいんだけど」


 アゲハがクシギに向かって手を上げ、


「なに?」





「カインさんて、あなたと会っていたとき――両目が赤かった?」





「いいや? 確か、青かったと思うよ」


「髪の色は?」


「白銀。きれいな髪だった。顔もわりといい男だったよ」


 アゲハは事実を確認するために、カンタロウの方を振りむく。


 カンタロウはコクリとうなずいた。



 カインは元人間であったことが証明された。



「そうなんだ。ありがとう」


「どうしたんだい? なぜそんなことを?」


「ううん、なんでもない。気にしないで。あと最後の質問なんだけど、カインさんて、結界の外にでたことある?」


「う~ん……。ないと思うよ。王様の許可がないかぎり」


「そっか、わかった」


 アゲハは納得したのか、もうクシギに質問はしなかった。


「それじゃ、町に帰ろうか?」


 カンタロウが背に乗っている、ソフィヤに話かける。



「うん」



 ソフィヤは明るく、それに応えた。


「私はこの三人が起きてから、町に帰るよ。ソフィヤを先に送っておくれ。お姉ちゃんが心配してるだろうからさ」


「わかった。気をつけてな」


「あんたもね。あっ、そうだ。ちょっと」


「なんだ?」


「もうちょっと、顔だして」


「うん?」


「チュッ」


 クシギはカンタロウの頬に、口づけをした。




「ああっ!」アゲハはつい過剰に反応してしまう。




「お礼だよお礼。あんた達の、旅の無事を祈ってるよ」


 クシギは少し頬を赤く染め、カンタロウ達にお礼を言った。




 アゲハは城をでるまで、カンタロウに話かけなかった。


 カンタロウの方も、一言もしゃべらない。


 町へ帰る道を進んでいくうちに、アゲハの方が沈黙に耐えられず、折れることにした。



「よかったじゃん。美人なお姉さんにキスされて」



 なぜか嫌み気な口調になってしまう。


 カンタロウの反応は鈍い。元気がない。





「ああ――母さんにだけ許していたものを、奪われた気分だ」


「えっ? 何言ってんの? カンタロウ君。お~い?」


「母さん――ごめんよ」


「ちょ、カンタロウ君? なんか白くなってるけど? 真っ白になってるけど? あっ、駄目だこりゃ。燃え尽きてるわ」





 カンタロウの肌質は、真っ白になっていた。


 エネルギーを、女にすべて吸われたかのようだ。


 自分の好みの女性ではなかったらしい。





「じゃ、ソフィヤがキスしてあげる。チュッ」





 今度はソフィヤが、背中からカンタロウの頬にキスをした。


 ませた子供だなと、アゲハは思ったが、今回は特に感情的にならなかった。



 カンタロウの反応を見てみると、白かった肌が、元の肌へと回復していっている。




「ありがとな、ソフィヤ。――すべてを取り戻せた」




 カンタロウは精神肉体ともに回復した。




「ええっ! 何が違うの! 訳わかんないんだけどっ! やっぱりお前ロリコンだろ!」


「違う。俺はマザ……親孝行者です」


「あっ、今! 今マザコンって言いかけた!」


「違う。マゼランって言いかけたんだ」


「誰よそれっ! とっさに考えたのが、まるわかりだよ! もっとマシなこと言いなよ」


「うるさい。ほっといてくれ」




 恥ずかしいのか、カンタロウは顔をプイッと逆方向にむけた。


「まっ、ソフィヤのキスで回復するのなら、アゲハ様のキスで全快だな。軽い程度ならしてやるぞ」



「いや、ほんと勘弁してください」



「なんでよ! このっ!」


 アゲハはカンタロウの足に、蹴りを入れる。


「いたっ! 蹴るな!」


 カンタロウはちょっとだけ飛び上がった。


 二人のやりとりを聞いていたソフィヤは、クスクスとおかしそうに笑っていた。

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