142.
真理の完璧なルート検索と、わたしの神業ドラテクにより、キャンピーは深海の激流を見事に読み切った。
ギュルンッ! と最後に大きく車体を回転させ、恐ろしい海流のトンネルから勢いよく飛び出す。
ザパーーーンッ!
「おおっ! ここは……水がないぞ!」
「空洞になっているのか!?」
後部座席のおじさん冒険者たちが、窓の外を見て驚きの声を上げた。
ヘッドライトが照らし出したのは、巨大なドーム状になった『海底洞窟』だった。
キャンピーはサブマリンモードを解除し、タイヤを出してザクザクと砂浜に上陸する。
「ふぅ、なんとか生きて最下層に辿り着いたね」
わたしは大きく息を吐き、額の汗を拭った。
カーナビの反応によれば、この海底洞窟のどこかに真理の本体、あるいは何らかの手掛かりがあるはずだ。
わたしはキャンピーのハッチを開け、警戒しながら洞窟の奥へと歩き出そうとした。
その時だった。
ゴゴゴゴゴゴォォォォッ!
突如として、海底洞窟全体がひっくり返るような激しい地響きに包まれた。
「な、なんだ!? 地震か!?」
おじさんたちが悲鳴を上げ、テンコがサッとわたしの前に出て牙を剥く。
見ると、洞窟の中央にある巨大な地底湖の水面が、異常なほどに大きく盛り上がっていた。
ザバァァァァァァッ!
滝のような水しぶきとともに姿を現したのは、見上げるほどに巨大な筋肉ダルマ――いや、違う。
神々しい光を放つ三叉槍を持ち、下半身が魚のようになっている超巨大な存在。
水没階層の絶対的な主、『海の神トリトン』であった。
『我の眠りを妨げる愚か者は、貴様らか……』
脳内に直接響き渡るような、重低音の威圧ボイス。
その瞬間、空間全体がグニャリと歪むような錯覚に陥った。
人間という矮小な存在が、人知を超越した『神』という絶対存在を直視してしまったことによる、強制的な精神攻撃。
いわゆる、『さんチェック(正気度ロール)』の発生である。
「ひ、ひぃぃぃぃっ!」
「あ、あばばばばばばっ!」
一般人であるおじさん冒険者たちは、一瞬にしてメンタルをゴリゴリと削り取られてしまった。
彼らは白目を剥き、膝から崩れ落ちて洞窟の隅でガクガクと震え出してしまう。
宇宙の真理に触れてしまい、完全に発狂寸前の状態だ。
「スミコ! 目を合わせちゃダメです!」
テンコがふさふさの尻尾でわたしの視界を遮ろうとするが、時すでに遅し。
わたしは、海の神トリトンとバッチリ目が合ってしまっていた。
「へー。なんか、すっごいでっかいおっさんだね」
わたしは首を傾げ、ポカーンとした顔でトリトンを見上げた。
狂気? 精神攻撃? 何それ美味しいの?
わたしの図太すぎるメンタルは、神の威圧を前にしても1ミリたりとも削られず、見事なまでにケロッとしていた。
「な、なんという精神力だ……!」
「あのような恐ろしい神の威圧を、涼しい顔で跳ね返すとは……!」
正気を失いかけていたおじさんたちが、わたしの後ろ姿を見てブルブルと震えながら感涙を流している。
「やはり、ただの給油係ではなかったのだ……!」
「さすがは聖女の御使さまぁぁっ!」
いや、ただ単に図太くて鈍感なだけなんだけどね。
わたしは心の中でこっそりとツッコミを入れつつ、アイテムボックスからサバイバルナイフを取り出した。
相手が神様だろうが何だろうが、ここを通りたければ海鮮バーベキューの具材になってもらうまでだ。




