106.
港に到着すると、そこはギルド以上の熱気と怒号が飛び交っていた。
巨大な帆船が何隻も停泊し、クレーンや網を使って大量の木箱や麻袋が陸揚げされている。
私は受付でもらった依頼書を手に、現場を仕切っているらしい筋骨隆々の親方に声をかけた。
「ギルドから来ました。荷下ろしの補助です」
親方は振り返り、私とキャンピー、そしてテンコとそーちゃんを交互に見て、盛大に顔をしかめた。
「はあ? ギルドの奴ら、何を考えてやがる。こっちは戦場なんだぞ! 女子供とペットの遊び場じゃねえ!」
「遊びじゃありませんよ。しっかり働きます」
「帰れ帰れ! 怪我されても困るんだよ!」
親方がシッシッと手を振る。
すると、横から嫌な笑い声が聞こえてきた。
「親方、いいんじゃないっすか? やらせてみりゃ」
見覚えのある顔だった。
ギルドで私たちを鼻で笑い、「ガラクタみたいな犬」と抜かした冒険者の男たちだ。
彼らもこの現場で小銭稼ぎをしているらしい。
「持てなくて泣きべそかくのがオチでしょうが、身の程を知るにはいい薬ですよ」
「違いない」
男たちがゲラゲラと笑う。
テンコの尻尾の毛がぶわっと逆立ったのがわかった。
「……スミコ。妾は今、猛烈にこの者たちの顔面に前蹴りを叩き込みたい衝動に駆られています」
「ストップ。暴力は給料が出なくなるからダメ。稼いで海鮮食べるんでしょ」
「むぎぎ……! 海鮮……!」
食欲と怒りの間で葛藤し、テンコがギリギリと牙を鳴らす。
私は親方に向き直った。
「とりあえず、どれを運べばいいですか?」
「あ? あー、じゃあそこの木箱だ。第一倉庫まで頼むわ。まあ、一つでも運べたら日当は出してやるよ」
親方が顎でしゃくった先には、私の背丈ほどもある巨大な木箱が山積みになっていた。
中身は金属の鉱石か何かだろう。男たちが数人がかりでやっと持ち上げているような代物だ。
どう見ても嫌がらせである。
「なるほど、あれですね。キャンピー、お願い」
「…………」
私の隣に立っていたキャンピー(少女アバター)が、無言でコクンと頷いた。
そして、とことこと木箱の山へ歩いていく。
「おいおい、あんな細い嬢ちゃんにやらせるのかよ」
「潰れちまうぞ!」
男たちが嘲笑う中、キャンピーは巨大な木箱の前に立ち、ひょいっと片手を伸ばした。
そして。
バシッ!
木箱の底に手を引っ掛けると、まるで空箱でも扱うかのように、片手で軽々と頭上へ持ち上げた。
「「「は?」」」
親方と男たちの間抜けな声がハモる。
だが、キャンピーの仕事はそれで終わらない。
彼女は片手で木箱を支えたまま、空いたもう片方の手で次の木箱を掴み、ヒョイッ、ヒョイッ、とアクロバティックに上に積み重ねていく。
一つ、二つ、三つ、四つ。
あっという間に、木箱の塔が完成した。
「…………」
キャンピーは木箱の塔を片手でバランスよく支えたまま、こちらを向いて親指をグッと立てた。
そして、そのままの姿勢で、弾丸のような猛ダッシュで第一倉庫へ向かって走り出した。
ドドドドドドドッ!
地面を揺らしながら、キャンピーと木箱の塔が彼方へ消えていく。
「な、ななな……」
「なんだあのアホみたいな馬力は!?」
男たちが目を剥き、顎を床につきそうなくらい開けて驚愕している。
親方に至っては、膝から崩れ落ちて白目を剥きかけていた。
人間形態とはいえ、彼女の本体はチートキャンピングカーだ。
積載量と馬力という概念において、人間の常識が通用するわけがない。
「妾も負けてはいられません! 海鮮のために!」
テンコが気合を入れ、巨大な木箱の山へ飛び込んだ。
ふさふさの尻尾を伸ばし、木箱を五つほど一気に巻き取って宙に浮かせる。
そのまま四つ足で力強く地面を蹴り、空中をふわりと跳躍して倉庫へ向かっていった。
「そーちゃんもやるー!」
そーちゃんがトテトテと走り出し、小さな両手で木箱を持ち上げようとする。
「あ、そーちゃんはいいよ。危ないからね。私がやるから」
私はそーちゃんを抱き上げ、アイテムボックスを開いた。
「えいっ」
シュンッ、シュンッ、シュンッ!
残っていた数十個の巨大な木箱が、一瞬にして光の粒子となり、私のアイテムボックスへと吸い込まれていく。
私は収納を終えると、パンパンと手を払った。
現場は、水を打ったような静寂に包まれていた。
「あー、親方。とりあえずここにあった分は全部倉庫に入れましたけど。次はどうします?」
私が尋ねると、親方はガクガクと震えながら私を指差した。
「ば、化物パーティだぁぁぁぁっ!」
男たちは腰を抜かし、その場にへたり込んでいる。
「ガラクタどころか、神獣様じゃねえか!」
「あんな重いものを尻尾で!」
「アイテムボックス持ちの魔導士までいるのかよ!」
さっきまでの威勢はどこへやら、男たちは完全に戦意喪失し、ガクガクと震えていた。
私はふぅ、と息を吐く。
「だから言ったでしょ。しっかり働くって」
ほどなくして、倉庫から戻ってきたキャンピーとテンコが合流した。
「スミコ! 仕事は終わりました! さあ、約束の海鮮です! 馳走です!」
「…………!」
テンコが目を輝かせ、キャンピーも激しく頷いている。
「わかってるわかってる」
私は親方に向き直り、ニッコリと笑った。
「というわけなので、日当、いただけますよね?」
「は、はいぃぃぃ! ただいま!」
親方は猛スピードで財布を取り出し、規定の三倍の銀貨を私の手に押し付けた。
どうやら特別ボーナスらしい。
「よし、稼いだ! 行くぞお前ら! 海鮮パラダイスだ!」
「「「おー!」」」
私たちは歓声を上げ、港の市場へと駆け出した。
潮風に乗って、イカの焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。
新しい街での生活は、最高の滑り出しだった。
【おしらせ】
※4/3
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