第二十二話 魔王さん、お邪魔します
神に新しいスキルを与えられ、魔王に会うように言われたオリアルトは、最後の決戦に挑む。
いよいよ最終話、一話で終わりまで書いたら、ちょっと長めになっちゃいました。
もらった護符を身に着けてその上から鎧を装備しなおすころには、砦では、すでに戦闘準備が整いつつあった。
俺たちが着く前に王城からの伝書鳩で、指示が届いていて準備を始めていたのだ。
主だった面々が集合して、大きな木のテーブルの周りに鎧姿で立って、最後の作戦会議が行われた。といっても、もう作戦立案は終わっていて、俺への説明の場だった。
テーブルの上には、地図のかわりに、食器や武具が、地形を表すように置かれていた。
兜を脱いで脇に抱えたオーダック卿が説明を始めた。空いている手で、テーブルの上の伏せた木の椀を指し示す。
「このカップが、今いる砦です。今回の目的は、オリアルト殿が魔王と会うこと、その一点です。考えられる方法は二つ」
次に、椀から離れたところに裏向きに置かれたの大楯の中央に伏せたコップを指さす。
「ひとつめは、魔王の居城、魔王城までオリアルト殿が到達すること。しかし、魔王城までは160キロほどあります。しかも、平坦なのは最初の100キロだけ。その先は絶壁に囲われた大盆地。魔王城はその中央の塔状の岩山の上です。馬で100キロ進んだとして、その先オリアルト殿は空を60キロ走らなければならない」
裏返しの大楯は大盆地を表すらしい。
「もうひとつは、向こうから会いに来てもらう手です。あちらはこちらの目的や、オリアルト殿の新しいスキルのことは知らない。魔王が前線に出て来ざるを得ないような状況にすればよいわけです」
簡単に言うなあ。
「魔王というのは、単なる君主の称号ではありません。魔族軍最強の存在です。だからこそ、前線の主だった魔族のリーダーたちを、オリアルト殿がことごとく倒せば、オリアルト殿を止めるために必ず自分で戦いに出てくるはずです」
簡単に言うなあ!
「他の者ではなく、オリアルト殿を問題視してもらわねば、オリアルト殿の前には現れません。したがって、わが軍は、砦を出たら広く散開し、なるだけ多くの敵と戦います。幹部級の魔将を見つけたら、オリアルト殿を呼び、倒していただく。オリアルト殿が駆け付けるまで、魔将を引き付けておくのが各軍の役目です。同時に複数の箇所で捕捉したら、後になった戦線では、それだけ長く持ちこたえる必要がある。
「散開した部隊は、臨機応変に終結し、援護し合う。どこかを魔族軍に逆突破されても、今回に限ってはかまわないことになります。砦に守備は残しません。砦を奪取されようが、その先、王国に攻め込まれようが、オリアルト殿が魔王と対面できればいい。そういう作戦です」
テーブルを囲む面々がテーブルを睨みながら頷く。
「各部隊には、連絡用の狼煙火を上げる魔法筒を渡します」
リレーのバトンくらいの、赤と青の包帯のような布で巻かれた筒が大盆地の前に置かれた。
「青は魔将発見をオリアルト殿に知らせるもの、赤は魔将を見つけた状態で、オリアルト殿が到達するまで持ちこたえられそうになくなったときに、応援を求めるためのもの」
「用途はこのふたつだけです。魔将がいない箇所で敗れそうになっても、赤を上げてはなりません。戦いの目的を忘れないように」
オーダック卿がテーブルを囲む面々の顔を見る。面々は、今度はオーダック卿の方を見ながら頷いた。
疲れ知らずのボルホーが、場を紛らすように軽口をたたく。彼はそういう役回りらしい。
「魔王がせっかちな奴だといいですな。すぐに出てきてほしいもんです」
笑いが起こる。
「では、出撃は一時間後。順次門外に出て、横列に布陣してください」
会議は解散となった。俺には、出撃前に憂鬱な大仕事がひとつあった。
「レイナ」
俺が呼び止めると、彼女が振り返った。真顔でこっちを見ている。俺が何を言うつもりなのか解っているようだし、そしてどう答えるつもりかも決めているようだ。
あの、王との話ではうやむやになったが、はっきりさせておかなければならない。このまま戦場に出てしまったらなし崩しになりかねないから。
「今度こそ、俺とは別行動で、戦うならオーダック卿かシュタークの傍で戦ってくれ。俺はあちこち駆け回って戦うことになるし・・・・・・」
「わかっています」
意外なことに、彼女はあっさり承諾した。てっきり、また、騎士扱いしろと怒り出すのかと思ってたのに。
「あなたはきっと、勝って、私の前に戻ってきます。だから」
彼女は俺の頭を手で押さえて、俺に下を向かせた。彼女の顔が近寄る。下を向いた俺の目に、彼女が背伸びしているのが映った。やわらかくてあたたかいものが、額に触れる。そして離れるときに、「チュッ」と音を立てた。
「この額の星がその証、お守りです。頑張って神命を全うしてください。武運をお祈りしています」
レイナって、こんな殊勝な女の子だっけか?
「あ、ああ」
呆けたように答える自分の声が聞こえた。
いたずらっぽく口の端を上げた彼女が、振り返って走り去ってしまった。
俺がまたがると、ひかり号は、今回が決戦だと知っているかのように、いつもより荒ぶっていた。
しきりに前足で地面を掻くようにしている。
「落ち着け、ひかり。旅の疲れがあるだろうが、今日は頼むぞ」
ポンポン、と首の横を叩くと、すこし落ち着いたようだ。
門をくぐって外に出ると、砦の全軍が外に出ていて、砦の壁の前に横に広がっていた。
中央の最前列で待つオーダック卿と轡を並べる。
「ハウアー殿、あなたは少し後ろに居て、青い狼煙火が上がるのを待って下さい」
「はい」
俺が答えると、オーダック卿は前を向いた。
「出撃!」
卿の合図で全軍が前進を始める。前進するにつれて、五つに別れて進む。前を行く騎兵、それに続く弓兵と槍兵。敵はまだ見えるわけじゃないが、出撃の歓声が沸き起こった。
ここで、なにか俺にも皆を元気づけることができないか、ときょろきょろ見回していたら、左手の甲の星が光った。
「ゴッズボイス」
男性アナウンサーの声に続いて、
「おおおおおおおおおおおおお」
砦の上に雲でできた神の顔が応援の声を上げている。
前を進んでいた兵たちが、一度振り返って砦の上を見、そして前を向いて武器を振り上げて歓声を上げる。
「おお!」「うおお!!」
これがほんとの使い方だな、このスキル。魔族の領土に攻め込んで幹部を誘い出す戦いに赴く兵士の士気を高める。なんだか、役に立った気がしてうれしい。
砦が見えなくなるくらい前に進んだところで、俺はひかり号の手綱を引いて止まる。先を進む部隊が見えなくなっていく。空はどんよりと曇っていて、隙間から見える空は暗い紫色をしている。まるで別世界のようだ。火山でもあるのか、あちこちから蒸気が上がっている。植物はほとんど生えている様子がない岩だらけの荒れ地。
ヒュッ
口笛のような音がする。右前方で、細い煙の筋が上空へ向かって昇って行く。その筋が消えた延長線上の上空で、花火が炸裂する。
青だ!
「いくぞ! ひかり!」
俺が腹を蹴る前に、ひかり号は狼煙火へ向かって駆け出していた。
前方で戦いの気配がする。
「デテクトイビル」
およそ千以上の反応が前方に固まってる。反応が平面的には重なって感じられる。つまり、上下に重なってイビルが居る。飛んでるやつと地面のやつが重なって感じられるんだ。
「フレンドリーファイアー・キャンセラー」
どうやら戦場がスキルの範囲内まで近づいているらしい。
まず、人間の兵士がゴロゴロ地面に転がっているのが見えた。そこらじゅう血の海だ。そして今度は魔物たちの死体が同数くらい転がっている。その先が戦場だった。つまり、当初の戦場から移動して、人間側が押しているんだ。
ここの部隊は聖騎士の疲れ知らずのボルホーさんと皆中のワッケランさんが居る部隊だ。槍兵と弓兵が横に広がって戦線を作る中、ふたりが中央で戦っていた。
相手の魔将は、タストクリスだ。ボルホーさんが両手で二本のメイスを持って、その重いメイスを太鼓のバチのように、軽々と振るい続けている。タイアレスのスキルを発動した連続攻撃だ。タストクリスはたびたび飛び上がろうとしたり、スキルを使おうと身構えたりするが、ボルホーさんの連続攻撃がそれを許さない。
魔族軍の従将クラスが、二人に割って入ろうと近寄ると、ボルホーさんの後ろ二十メートルほどで弓を構えているワッケランさんがその頭を射抜いて、ボルホーさんに近づかせない。
タストクリス自身は、自動発動系のスキル、シールドオブミサイルウェポンによって飛び道具から完全に守られていて、ワッケランさんの弓は当たらないから、サポートに徹しているんだ。
タストクリスの攻撃系スキルは自動発動じゃないから、ボルホーさんが攻撃し続けることで精神集中を妨害され発動できないんだ。
「ちくしょう! オリアルトが来てるのに!」
俺に気が付いたらしい。かなり必死になってるがボルホーさんの連打を受けるので精一杯だ。
「おまえの相手は、わたしだ! ほらほら、よそ見をすると当たるぞ!」
俺が手を出さなくても押してる感があるが、だからこそチャンスだ。馬上からひかり号の首をすり抜けてハルバートの回転投げだ。
ボルホーさんの背後に回転するハルバートが迫る。背中に吸い込まれるようにすり抜けると同時に、タストクリスに命中する。
「ボーナスダメージバーサスイビル」
爆発が起きる。
タストクリスの身体がはじかれて土埃を上げながら吹っ飛ぶ。
「ぐ、ぐううううう!」
大量の青い血を流しながら、起き上がると同時に巨大化する。筋肉質の身長5メートルの青いゴリラに変身する。腹にはハルバートによって負った傷が残ったままだが、筋肉が傷を覆い隠すように盛り上がっている。
俺は脚を前に蹴り上げるようにしてひかり号の左側に飛び降りる。
「エアウォーク」
地面に両足をついたのはそれまでで、そこからは空を駆け上る。左手の盾はそのままに、右手で剣を抜く。巨大化したタストクリスの頭部へめがけて駆け込む。
タストクリスと彼の従将がなにかしようとするところへ、
「ホーリーファイアーバースト」「ガン!」
範囲攻撃でひるませて、駆け込む時間を稼ぐのに成功した。
「イビルスレイヤー」
振りぬく剣は空を切るように手ごたえがない。だが、その軌跡はたしかに巨大化したタストクリスの首を通過していた。やつの首が、ぽーんと飛んでいくのが見えたのと、その向こうで細い煙の筋が昇って行くのが見えたのは同時だった。
パン!
青い花火が炸裂する。
「ハウアー殿、急いで! 右翼の方だ!」
ワッケランさんが弓を持った手で指し示す。
振り返ると、ひかり号が俺を迎えに駆け寄っていた。岩場から飛び降りるイメージでエアウォークの空中足場からひかり号の背中の鞍に飛び降りる。剣を鞘に納めると、ハルバートが飛んで行った方に手を伸ばす。
「リターンウェポン」
ハルバートはブーメランのように俺の右手に戻ってきて、ひかり号はすでに走り始めていた。もう、以心伝心だ。手綱を操らなくても行きたい方へ行ってくれる。
険しい岩場を避けて回り込むコースを、サラブレット競走馬なみのスピードで駆け抜ける。そのとき後ろで音がした。
ひゅっ! シュー!
振り返ってそらを見上げると、
パン!
青い花火! 左の方でも魔将出現だ。
こっちの身体はひとつだ。一カ所ずつ潰すしかない。
戦場が見えてきた。兵たちより、魔族軍のほうがあきらかに多い。俺が後列の弓兵たちの間を駆け抜けるのと、この部隊を指揮するシュタークの命令で兵が赤の狼煙火を上げるのが同時だった。
さらに、後回しにしたほうの戦場のあたりでも赤が上がる。
その向こうでは青が!
早く片付けて次に行かないと!
精神を集中するんだ。スキルでこの場を有利な戦場に変えるんだ。
シュタークがハルバートで戦っている相手が、ここの魔将だろう。
サイズは3メートルほどで緑の毛に覆われた魔族で、トライデントを振るっている。
周りの兵士は従将クラスの魔族に押されている。
「クリエイト・ホーリーウォーター」
波とともに駆け込み、
「ホーリーファイアーバースト」「ガン!」
エリア攻撃で魔族軍をひるませたところに波が押し寄せて魔族たちを流していく。
俺をみつけた魔将は、背後に引いてシュタークからちょっと距離をつくる。やつの左手甲の月が光る。
「ドッペルゲンガーズ」
五体に分身しやがった。
見分けはつかない。真ん中のやつにハルバートを投げつける。
まるで、俺のスキルの「フレンドリーファイアー・キャンセラー」のように、やつの身体をハルバートがすり抜けた。
つまり、五体になったわけじゃない。幻で姿を増やしているだけだ。
だったら簡単だ! 俺は剣を抜きながら集中した。
「デテクトイビル」
左から二体目だけが反応した。ひかり号を飛び降りて、そいつに向かって空を走る。
奴は胸の前で指を組み、印を組んだ。赤い魔法陣が宙に浮かぶ。炎系の魔法を使う気だ。
「グレートファイアー」
魔法が発動する。炎が魔法陣から噴き出す。
大楯を向け、身体を陰に隠す。この盾も伝説級のアイテムだ。
「アンチマジック」
分かりやすいぜ。
ドラゴンのブレスのような炎が盾に当たるところでかき消すように途切れる。
盾には何ヵ所か、縦のスリットがある。長さニ十センチくらいで、幅は二センチくらいの。
大楯を構えたまま、敵を透かして見るよう、のぞき窓になっている。だが、今は、別の使い方をする。スリットのひとつに、長剣を刺し込み、そのまま盾ごと体当たりする。
剣の手ごたえはない。しかし盾がやつの身体に当たる。剣は身体を貫いているはずだ。
「ホーリーファイアーバースト」「ガン!」
「ホーリーファイアーバースト」「ガン!」
そのまま二回喰らわすと、やつの身体が燃え上がって崩れた。
灰になって崩れ落ちたやつを、息を整えながら見下ろす。俺はまだ地上50センチほどで浮かんで立っている。この戦場の周りの戦いも、ホーリーウォーターとホーリーファイアーバーストで、形勢逆転していた。
休んでる暇はない。ひかり号に目をやると、駆け寄ってきて俺が載りやすいように背を横づけしてくる。
「ご武運を!」
シュタークが声を掛けてくれる。彼は何ヵ所か怪我を負っている。決して浅い傷ばかりではないようだ。
力を込めて頷くと、三つ目の青狼煙火の地点へ向かう。
シュッ! パン!
四つ目の青のあたりで赤狼煙火が上がった。もう、どっちもやばいんだ。
「ボルホーさんじゃないけど、早く出てくれよ、魔王さん」
ひかり号を走らせながら、思わず口から出た。
次の戦場では、オーダック卿が戦っていた。もう、立ってるのは彼だけだ。周りの友軍は地面に転がっている。オーダック卿は八人ほどの従将に囲われている。周りには槍兵や騎士が倒れている。怪我をしているというより、焼けてる。魔法でやられたんだ。
「なるほど、あの狼煙はあなたを呼ぶものだったんですね」
ギャラガンが浮かんでいる。
なにか話すべきなのか? いや、目的は魔王だ。とにかく、右手に持ったハルバートを投げつけた。
前のことを考えれば、また、すり抜けるだけかもしれないが。ところが、
今度はギャラガンがハルバートを避けた。
ぎりぎりのところで身体をひねって避けたのだ。
俺は飛んで行ったハルバートをガントレットで呼び戻す代わりに、腰の剣を抜いた。
「どういうつもりです? オリアルト殿。まさかこの兵力で魔族軍を全て打ち破るつもりではないでしょう? 魔王城まで攻め込むつもりですか?」
宙に浮かんだギャラガンが俺を見下ろして言う。
ひかり号を降りて、ギャラガンに向かう。
「エアウォーク」
階段を上るように、一歩一歩宙を歩いて奴に近づく。
「ギャラガン! あんたの言ったとおりだったよ。そして、これが神の答えなんだ!」
俺の言葉に、ギャラガンは何かを悟ったようだ。
「・・・あなた、神に会ってきましたね?」
やつは身構えるように俺を睨む。なにかを読み取ろうとするように。
俺が近づくにつれて、身体全体で身構えるような姿勢を取っている。今度は幻じゃなく、実体なんだな、やはり。
そのとき、やつの斜め後ろに落雷があった。光と同時に雷鳴が轟く。光で真っ白になった視界が元に戻ったとき、そこにマント姿の魔族が浮かんでいた。羽もないのに宙に浮いている。まあ、人のこと言えた義理じゃないが。
身長3メートルほどの筋肉質の男だ。頭にヤギのような角が生えている。こいつが・・・
「魔王様!」
ギャラガンが、真っ先にばらしてくれた。
「いけません! こやつは神になにやら吹き込まれて!」
おいおい、ひどい言い様だな。
さあ、神様よ、どうすんだ。魔王と対面したぞ。
「おまえが魔王か!」
俺がそう叫ぶと、ギャラガンの言葉にも、まったく動じる様子もなく落ち着いた声が返ってくる。
「そうだ。魔王バリオだ。おまえが七つ星のオリアルトか」
「ああ、今は八つ星だがな!」
俺の言葉の意味に反応したのはギャラガンだった。やつが動いたのは俺の額の星が、輝き始めるのと同時だった。視界が光につつまれていく。俺の額に増えた八つ目の星の意味を読み取ったギャラガンが、魔王と俺の間に入ろうと動き出すのがスローモーションのように見えて、その姿も光の中に消えていった。
「エンバイロメンタル モディフィケーション」
男声アナウンサーの声がスキルの発動を伝えた。
俺の脳内では英語として認識される。それはつまり、身体の元の持ち主のオリアルトにとって外国語だということだ。
意味がピンとこない。なんだか攻撃的なニュアンスはなさそうだ。デビルスレイヤーとかなんちゃらキラーとかいう攻撃的な響きがない。
俺の額の光が収まっていく。魔王と彼の前に立ちふさがるように浮かんだギャラガンの姿が見えてくる。
違う。
さっきまでと、世界の景色が! 違う!
黒くどんよりした雲がない。白い雲だ! 空が、青い!
眼下の荒れ地も・・・荒地? 荒地じゃない! 森が、緑が広がっている。その緑は、波紋のように荒地を広がっていく。
「環境、改変?」
ギャラガンがつぶやいた。
そうか、それがあのスキルの意味。
「この地を、魔族の棲む場所を肥えた大地に変えることが、神の答えだと」
魔族は、豊かな土地を求めて人間の国に攻め込んだ。自分たちの土地が豊かになれば、戦う理由はなくなるんだ。これが神の意図した俺のスキルの力。魔王と対面することで発動する神の意志。
「こんな解決法なら、戦わなくても、ギャラガンとの交渉の席でよかったんじゃないか?」
俺が愚痴まじりに言ったらギャラガンに聞かれたらしい。
「どんなスキルか知らされてなかったんですか?」
「ああ、訪ねたが教えてくれなかった」
ギャラガンは、鼻で笑った。
「フン。神とはそうしたものなのでしょうね。こんなことでは、われら魔族から信仰されるなんてことは、これからもあり得ませんよ」
どうやら環境改変をありがたがるつもりはないらしい。
たしかに、これができるんならもっと前からやれよ、ってなるよな。
魔王だけが、何事もなかったかのように、平然とした口調で俺に呼びかけた。
「八つ星のオリアルト。兵を引け。こちらも停戦指示を出す。もう、戦う理由はない」
「ああ、わかった」
あ、そうか、もしもこの戦いがないまま環境改変が起こっていたら、今まで攻め込まれ続けていた人間側が収まらない。だが、魔族の地へ攻め込んだ状況であれば。
そういうことだったのかな。
各部隊に、俺自身がひかり号で走り回って、停戦を伝えて回った。
環境改変が起こって、尋常じゃない状況の変化は誰の目にも明らかだったし、魔族軍は一斉に引いたので、停戦自体はすでに成っていて、理由を伝えて回っただけだったが。
全軍が砦まで戻ったときに、やっと、オーダック卿や聖騎士の面々と再会した。
「ハウアー卿、お疲れさん」
出発したときと同じで、全く疲れた様子がない疲れ知らずのボルホーが手を振る。
その隣に居たオーダック卿は、いったん気を付けの姿勢になってから、俺に向かってお辞儀をした。こちらもかしこまって礼を返す。
「魔将二人、お見事です。二人を失っていながら魔族軍がすんなり引いてくれたのは、今後へ向けて幸いでした。これなら和平も可能でしょう。神が望んでおられることなわけですし」
長く続いた魔族との戦いも、これで終わる。
そして俺も、これでもう イビル属性の敵と戦うこともない。
そうすると、俺はまた役立たずに逆戻りだ。
砦に見張りを残して、軍勢は王城へ戻ることになった。谷を戻る。ある意味凱旋だ。
俺はこれからどう生きていけばいいんだろう。イビル相手に戦うしか能がない俺は。
どこかに魔物で困ってる国とかあれば、な。まあ、聖騎士として領地とかもらってるから、そこを治めて生活すればいいのかな。
ひかり号の上で、そんなことを考えていた俺に、レイナが馬を寄せてきた。
「聖騎士オリアルト。この大陸の西の大洋の向こうに、魔物と人が戦い続けている大陸があります。わたしといっしょに海を渡りませんか?」
レイナはまっすぐ俺を見ていた。俺の目、いや、額の星を見ていたのだ。
まるで、ヴォルトックが聖騎士を目指さないかと誘ったときのようだ。
レイナはいったん恥ずかし気に顔を伏せ、頬を染めて小さな声で続けた。
「わたしも、ヴォルトックさんと同じだったんです」
「え?」
なんのことだ?
「五年前、枕元に女神が現れて、わたしに言ったの。『あなたの前に、額に星を持つ聖騎士が現れます。その聖騎士がこの土地での役目を終えて将来の目的を見失ったら、西の大陸へ誘いなさい。ともに戦う騎士として、あなたもいっしょに海を渡るのです』と。だからわたしは騎士にならねばならなかったし、今が女神の言葉のときだと思うの。どう? 西の大陸へ行ってみる?」
女神様は未来をお見通しってことか。
あのときと同じだな。そして俺の答えも。
「ああ、そうだな。王にご相談してみよう」
この場合、俺がいなくなってどうこう、よりも、王の思い人のレイナがいっしょに行くって部分が問題だな。女神は、ほんとうにそこまで言ったんだろうか。レイナの真意はわからない。満面に満足げな笑みを浮かべているレイナの顔を見たら、神が言ったのかレイナが望んで言ったのかなんて、どうでもいいような気がした。
一応、続きもアリな終わり方で。
お付き合いくださった方、ありがとうございました。
アップ後見返したら誤変換だらけでしたね。すみません。




