第十三話 やはり俺はおまえの天敵らしい、許せ
二週間以上たっちゃってますね。連載って難しいです。
俺の任務は補給路の確保なのだが、補給部隊の隊長の話だと、次の輸送は三日後らしいので、そのときに街道まで迎えに出ればいいということになるだろう。
ソロント城はアバルーン城よりもひとまわり、いや二回り大きな城で、堅固な石壁で囲われていた。中ではせわしなく兵たちが動き回って戦の準備をしていた。
われわれは谷と反対側の街道に面した南門から入ったのだが、到着報告をするべき相手の指揮官が、北門の守備の指揮をとっているということなので、レイナといっしょに城壁に上がらせてもらって東側を回って北門の方まで行ってみることにした。
城の周りは、街道が通っているあたりと違ってほとんど気が生えていない荒野で、見晴らしがよかった。北側には2キロメートルほど先にV字の谷があり、谷の出口から城のあたりまでは扇状地になっていた。扇状地の扇の要、谷の出口のあたりに石壁が見える。魔族が築いた砦の壁らしい。
谷の出口をダムのように完全に塞いでいるようで、堅固そうな門が見える。
ソロント城は、渓谷を抜けてくる敵の軍隊が避けて通ろうとしても矢で攻撃できるような位置取りの城だったが、魔族の砦はまさに関門のように道を塞いだ形になっている。あの向こうにどれほどの軍隊が集結していることやら。そして俺たちが向かっている北門が、その魔族の砦と向かい合っている門なのだ。
門の左右の城壁の上に、門を守る飛び道具、バリスタが据え付けられている作業中だった。門のすぐ東の塔の上から作業を見下ろしながら指揮しているのが現在のこの城の軍の指揮官、ドラスベイン卿だった。騎士としては年配で、ちょっと胴回りが大きくなってきている体形で、戦闘員というより指揮者という感じだ。体系に合わせた騎士の鎧を着ている。
レイナとシュタークのお父上だ。
俺たちが塔の屋上まで登り切ると、ドラスベイン卿が出迎えてくれた。
「よく来てくれた。途中、さっそく補給部隊が襲われたところを守ってくれたそうだね」
第一印象は、物分かりの良さそうな大人という感じだった。
「レイナ、元気そうだな。ここは最前線で、いつ大規模な戦闘になるかもわからん。気を引き締めていろよ」
今度は父親の顔で、レイナに話しかけた。
「はい、お父様。いつでも戦う準備はできています」
まるで、その言葉にタイミングを合わせたように、魔族の砦に動きがあった。
門が開いて、ぞろぞろと軍勢が出てき始めたのだ。
ソロント城側に緊張が走る。各部隊のリーダーが戦闘準備を指示する声があちこちで上がる。
魔族の軍勢は門からまっすぐこちらに下るのではなく、左右に分かれてこちらを囲うような動きをみせている。また、門から歩いて出てくる魔物とは別に、そらを飛んで出てくるものもいて、そいつらも左右に別れた軍勢の上を滞空するように速度をあわせてついていっている。
身長が人間より低いゴブリンのようなやつから、五メートルはありそうなやつまで、混成の軍勢だ。飛んでるやつらも大小さまざまだ。指揮者らしいのはまだ出てきていないようだ。
軍勢は途切れることなくあとからあとから湧いて出てきている。歩きの魔物と同数くらいの飛んでいる魔物がいる。城攻めに羽根つきだなんて卑怯じゃないか? というか、城壁で守れるのか?
「射撃戦になるぞ。上空に狙いを定めるよう指示しろ」
ドラスベイン卿が指示を出す。歩いてくるやつは、俺がスキルで相手をすることになるかな。今、敵が布陣しているあたりは扇状地の坂の上のほうだから、おそらく波で攻撃することはできない。ある程度下ってきたら波に飲み込ませることができるだろうが。
魔物たちの出撃は20分ほど続いた。こちらを半包囲するように半円に沿って広がっている。端から端までは3キロ以上。列にはそれなりの厚みもある。
「一万五千といったところか。こちらの三倍だな」
ドラスベイン卿が言った。出撃が終わると、魔族の砦の門が閉まった。門外の魔物たちからは戦いの前の興奮が発するうなり声のようなものが伝わってくる。
閉じた門の上を越えて、こちらへ向かって飛んでくる紫と青い点がある。既視感があるな。
タストクリスとアマンダのようだった。この登場の仕方は、この一万五千の軍勢を指揮するのがタストクリスってことなのか? いまだに従者のヴォルトック以外の配下を持たない俺とはおお違いだな。ここへ派遣されたときの弓兵百人もレイナが指揮してるし。
俺の聖水攻撃を警戒してか、4,5百メートルほど先で止まって、大声で呼びかけてきた。
「七つ星のオリアルト! 今度は俺とお前の格の違いを判らせてやる! 俺のメジャースキルの力を見ろ!」
タストクリスの手の甲が輝く。男性アナウンサーの声が響く。
「デビルズボイス」
なんだ? 悪魔の声? いやな名前だな。すると、タストクリスの後方、魔族の砦の門の上あたりに黒いもやが発生し、巨大な顔の形になった。ヤギのような角がある悪魔っぽい顔だ。そいつの口が開くと、地の底から湧き上がるような低い声を発しはじめた。
「をおおおおおおおおおおおおおおおお」
空気が震えてる。俺のヘルメットが反応した。
「リムーブコントロール」
つまり、デビルズボイスは精神支配系のスキルなんだ。
まず、広く展開している魔族たちから歓声があがった。
「おお!」「うおおおお!」「ぐがあああああ!」
一万五千が口々に威嚇の雄たけびを上げる。
そして、こっちの兵たちは、耳を塞ぐ者や頭を抱え込む者が、伝染するように拡がる。横を見ると、さっき意気込みを語ったばかりのレイナが不安そうな涙目になっている。ヴォルトックは頭を抱えて座り込んでいる。指揮官のドラスベイン卿は耳を塞ぎ、
「聞いてはならん! 悪魔の声は士気を奪うぞ!」
と叫んでいたが、耳を塞いでしまっている兵士には届かない。
「はははははは!」
タストクリスはこちらに聞こえるように高笑いした。
「どうだ! これがおれの力だ! さあ! 者ども、あの城を攻め落とせ!」
タストクリスの号令で、魔族の軍勢が一斉に前進を始めた。包囲の列から城までは二キロ近くあるから歩いてニ十分はかかりそうだろうか、とか思っていると、上空を飛んでいる魔族が徒歩の魔族を一人ずつ持ち上げ始めた。ほぼ同数いるようだから、全軍が空挺部隊ってことだ。これなら数分でこっちに到着する。高さ五十メートルほどを飛んでくるので、俺の聖水の波では攻撃できない。というか聖水の波対策なんだろう。
飛んでいる魔族を弓矢で攻撃しなきゃいけない場面だが、城の兵たちは恐慌状態だ。飛んでる魔族を射落とせば、運ばれてる魔族は地面に落ちて大ダメージを負うだろうから、まさに一石二鳥状態なんだが。
聖水カッターで攻撃するしかないか、と拳を前に突き出したとき、ふと思った。俺のスキルの星はあとひとつ残っている。タストクリスのスキルと俺のスキルの噛み合い具合からすると、ひょっとしてデビルズボイスと噛み合うスキルなんじゃないか、と。そう、ふと考えただけだったんだが、残ったひとつの星が、そのときガントレット越しに輝いた。
「ゴッズボイス」
アナウンサー声を聞いて、自分の背後の空を振り返ってみると、白いもやがみるみる巨大な顔になる。ヒッピーのような(ごめん神様)波打つ長髪で髭姿のおっさんの顔だ。口を開き、地響きのような声を発する。
「おおおおおおおおおおおおお!」
城の中では、耳を塞ぎ、頭を抱えていた兵士たちが我に返って何があったのかときょろきょろしている。そして城外では、勢いよく距離を詰めていた空挺部隊の勢いが止まった。今度は魔族が恐慌状態のようだ。むごいことに、百体くらい、羽根つきに運ばれていた魔族が、手を離されてしまって地面に落下してしまったようだった。
タストクリスのスキルを打ち消して、さらにこっちの効果が勝ったようだった。
まったく点にしか見えないタストクリスの、切れる顔が見えるようだ。
「七つ星のオリアルト! き、きさまああああ!」
とことん俺はやつの天敵らしい。
再度タストクリスの手の甲が光る。
「デビルズボイス」
スキルの再発動だ。魔族の恐慌が収まって進撃が再開される、だが城内の兵へは、もう届かないようだ。バリスタや弓兵が迎え撃つ準備を始めている。
「十二従将! 俺と一緒に来い! 七つ星のオリアルトはあの塔の上だ!」
タストクリスの声がする。いかにも強そうな飛行魔族が十二体、彼に従い突進してくる。城の弓兵の一部隊がいっせいにそいつらに射掛けるが、タストクリスのスキル「シールド オブ ミサイルウェポン」に阻まれてしまう。
この屋上で13体を相手か? レイナを守ったりはできないぞ。
「ヴォルトック! レイナを連れて下へ行ってろ!」
この指示に、レイナが長剣を抜いて空を睨みながら俺に噛みつく。
「わたしは騎士です! ここで戦います!」
従ってくれよ。王様になんて言えばいいんだよ。だから俺といっしょはやばいって言ったのに。
「レイナ! 気合で負けるなよ!」
頼みのお父様まで、剣を構えながらそんなこと言ってるし。
ああ、しまった精神集中している間がない、聖水カッターで迎撃するチャンスをフイにしちまった。
「フレンドリーファイアー・キャンセラー」
あああ、もう白兵戦が始まっちまうらしいや。




