第十一話 宿敵登場を予想してなかったのは悪かったと思う
そろそろキャラクターがそろい始めました。まだ、続きます。
レイナへの辞令はすぐに伝達されて、不満顔の彼女と、王との謁見を終えたオレが、顔を合わせたのは騎士団の作戦指令室と言われる部屋だった。俺に言わせると、単なる貴族の書斎兼接客室みたいな華美な部屋だが。大理石の女神の胸像や、きれいな壺、ひとりじゃ持てないくらいのサイズの風景画、なんていうのは、作戦指令室という名にふさわしくない。
作戦指令室としてふさわしいと言えば、さっき騎士団の最前列の一番中央寄りに立っていた騎士団長らしき人物が、俺に試合を挑んできたオーダック卿といっしょに居るということだろうか。鎧をまとった男女四人が立ち話するのは、作戦指令室らしいかもしれない。
「オリアルト・ハウアー卿、わたしは騎士団長のバリオルバ。オーダック卿はご存じだな」
みかけ通りの重厚な声だった。
「はっ」
「きみの力は、われら皆の知るところではあるが、この国や、この国と魔族との戦いについては疎いと聞き及んでいる。そこでレイナ・ドラスベイン騎士を補佐としてつけることとなった。すでに王都まで同行して来たから紹介は不要だろう。これからも、いっしょに行動してくれ」
ちらりとレイナを見る。無表情を取り繕っているのが見え見えだった。笑いをこらえて団長に答える。
「はっ」
「さて、さっそくだが、きみの力を必要としている戦場がある。広間でオーダック卿が触れたとおり、先月のトーリッツ渓谷の戦いにおいて、きみがさっき倒した魔将ガウツのせいで、わが軍は敗退し、今、戦線は後退して渓谷の出口のソロント城の攻防となっている。きみが救ったアバルーン城への攻撃は、わが方の戦力を分断するための陽動と知れたわけだが、きみの活躍であちらに増援は必要なくなった。ソロントに主力を送り込む準備は進んでいるのだが、ソロント城と王都を結ぶ街道が、魔族のゲリラ戦法によって脅かされている。街道の安全を維持できねば、ソロント城の補給は途絶え、大軍を送り込むこともできなくなる。ゲリラ戦を指揮しているのは魔将タストクリスと名乗る者だ。きみたち聖騎士や、さきほどの魔将ガウツのように、スキルを持っている魔物だ。魔将のスキルは三ケ月型の紋に宿る。きみたちの星に対して、な。ガウツはインビシビリティのスキルひとつだけだったが、タストクリスは『六月』だという。神話の戦いでしか聞かぬほどの相手だ。こちらは『七つ星』のきみをやつにぶつけることにしたわけだ」
「ゲリラ戦をやってるやつらの相手をしろと? あ~、たしかにわたしは広範囲のデテクトイビルを使い放題だから、向いているというわけですね」
団長は、両手を広げて笑った。
「察しが良くて助かる。期待しているよ」
ポン、と団長が俺の肩を叩くと、ガントレットと鎧の肩があたって金属音を立てた。そのときになって団長は、俺の鎧の肩に金の肩章がないのに気が付いた。
「おや。フレイトル卿の鎧だと聞き及んでいたが、肩章は取ってしまっていたのか。すぐ新しいものを用意させよう」
「身分詐称にならぬよう、外しておりました。もう、つけてもよろしいなら、それを付けなおします」
「おお、それがいい。フレイトル卿が付けていたものは卿が聖騎士になるにいたったヒスコープの聖戦での英雄的活躍に対し、先代の王が特別に作らせたもの。歴史的価値がある伝説そのものだ」
腰にある金属製の小物入れから取り出して、自分でつけていると、横から「ごくり」とつばを飲み込む音が聞こえた。レイナが目をまんまるにして凝視している。フレイトル卿のファンであるレイナからしたら、お宝中のお宝なんだろう。
俺に見られていることに気が付くと、咳払いをして横を向いてしまったが、それでもまだチラチラ見ているようだった。
俺とレイナに100人の弓兵が付けられ、街道をソロント城に向かう。
相手のタストクリスという魔将のことを考えた。
俺は転生するときにスキルを得て、この世界にやってきた。タストクリスも同じような転生組なんだろうか。ほかの聖騎士にも聞いてみればよかったな。みんな俺と同じところから来たんだろうか。そしてたまたま、魔物側に転生したら魔将になるのだろうか。だとすると、あのガウツという魔将も、俺と同じ世界から来た転生者だったんだろうか。俺はそれを殺したのか? そもそも俺は、魔物たちをいったいどれだけ殺している? そんなこと許されるんだろうか。俺を転生させた再生の女神クノーティアとやらは、どういうつもりだったんだろう。
そうだ、魔将のスキルを与えたのも、同じ再生の女神クノーティアなんだろうか。それとも魔物には魔物の神が居るのか? そして人の神と対立しているんだろうか。
三日目になって、ゲリラが出るあたりまで来たので、俺はデテクトイビルを連発し始める。と、前方にこちらより進行が遅い荷駄隊が見え始めた。先に出発していた補給部隊らしい。これは、図らずも囮部隊ということになるのだろうか。
一時間ほど進むと自然に追いついた。先頭を進む隊長に、護衛に付くと告げていたときに、デテクトイビルに反応があった。街道はなだらかな起伏のある林を抜ける切り開かれた幅五メートルほどの道だった。2時の方向の空中に反応が2つあった。すぐ次のデテクトイビルで、相当近づいている。飛んできているんだ。
「二時の方向から敵が二体飛んでくる」
レイナに伝えると、レイナが兵士に指示を出して、散開して弓を空に向けて構えさせた。
五百メートルほど先の上空百メートルほどに、点のような飛んでいる魔族が見えた。コウモリのような羽根。右側は遠目にもシルエットが女性っぽく、全身が紫色のようだった。因縁の、あの女魔族らしい。左は青い。
青いやつの左手がひかりを放った。つづけて聞きなれたアナウンサー声が聞こえる。
「クリエイト アンホーリーウォーター」
飛んでるやつとこちらとの間の林で、どす黒い水の壁が立ち上がった。高波となってこっちに向かってくる。俺のクリエイト ホーリーウォーターの魔族版らしい。あの水が全部アンホーリーウォーター、人間にとっては病のもとになる毒の水だ。
対抗する! 念じると、拳の星が光った。
「クリエイトホーリーウォーター」
向かってくる波の前にきらめくホーリーウォーターの波が立ち上がる。規模はアンホーリーウォーターの波と同じくらいだ。
波同士が激しくぶつかる。
正面からぶつかって合わさった波の壁の中で稲光が見える。化学反応のように、アンホーリーウォーターとホーリーウォーターが反応しているんだ。ただの水になっているようだ。どす黒い色が透き通った水になるので、まるでこっちのホーリーウォーターが勝ったように見えなくもないが。
波は崩れて、水が流れるように押し寄せてくる。ひかり号の蹄の上くらいまでの水位で広がって、すぐに水位は下がってしまった。
二体の魔物は近寄ってきた。やはり紫のほうはあの女だ。今度こそ名を聞かないとな、倒すにしても。
六月のタストクリスらしき魔物は、十四、五の少年のようだった。
「撃て!」
射程内に入ったと見たレイナが号令する。弓兵が一斉に矢を放つ。
「シールド オブ ミサイルウェポン」
タストクリスの左拳が光り、アナウンサー声がする。黄色い光の壁が、彼らをめがけて飛んでいた矢をはじき返してしまう。
女魔族が俺を見つけた。
「いたね! 七つ星のオリアルト! あいつだよ! タストクリス! あいつがオリアルトだよ!」
腕組みして滞空しながら、タストクリスが若い声を聞かせてくれた。
「七つ星のオリアルト。俺が六つなのに、七つだなんてイヤミなやつだ。ここで勝負しろ!」




