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第十話 王の御期待に沿えず心苦しいです

今回はちょっと短めです。

 この広間での活躍も加味した俺の俸禄と領地の発表があって、王が退室すると、騎士団や貴族連の列が崩れる。同時にシュタークが俺に駆け寄る。

「任官おめでとうございます! それにしてもやはり、あなたはすごい! 騎士団の八割以上がオーダック卿に剣を師事している彼の弟子です。これでもう、騎士団であなたのことをどうこう言うものは現れないでしょう」

兜から溢れんばかりの満面の笑みだ。

 彼の後ろでは口を尖らせたレイナがそっぽを向いて立っている。

「さっきはありがとう」

 シュタークの肩越しに礼を言っておく。

「べ、別にあなたのために言ったんじゃありませんからね! ここでホーリーウォーターのスキルを使われたら大変だと思っただけで!」

 予想通りのツンデレ反応だった。

 広間を退出する騎士たちのうち、かなりの割合の者が、三人で話しているところにわざわざ歩み寄ってきて、俺にお辞儀をして行く。なんだかこそばゆい。

 そのうち、毛色が他の騎士たちと異なる鎧の騎士三人連れが立ち止まった。鎧の左肩に、星がある。ってことは、彼らが聖騎士だろうか。

「ハウアー卿、お見事でしたね。同じ聖騎士として鼻が高い」

三人のうち一番背が低いおっさんが話しかけてきた。やはり、この三人が現役の聖騎士らしい。一人ずつ握手を求めてきた。最初は背が低いおっさんだ。

「わたしは疲れ知らずのボルホー。タイアレスというスキルが発動すると、武器を振り続けても、疲れず息継ぎも不要で連続攻撃し続けられる。相手がイビル属性に限るんだがね」

次に背の高い細身の髭のおっさんだ。

「吾輩は皆中のワッケラン。飛び道具を使うときブルズアイというスキルが自動発動して、視界内のイビル属性のターゲットに必ず命中させられる。武器の射程外でもスキルの力で飛んで行って命中するが、さっきの魔将のように姿が見えないと発動しない。デテクトイビルの連発がデテクトインビシブルの代用になるとは、思いませんでしたよ」

最後は最年長っぽい中肉中背のおっさん。

「神速のホズミンと申す。アクセラレイションとフリームーブというスキルを使う。まあ、早く動けて束縛されない、ということだ」

 彼のスキルには属性の縛りがないらしい。

「あんたはさしずめ『七つ星のオリアルト』なのかな?」

ボルホーがにやりと笑いながら言った。

「それは、魔族の女がつけた呼び名です」

 でも悪くないかな。聖水のオリアルトとか呼ばれるよりも。

 更に場所を変えて長話でも、という雰囲気になったところへ横槍が入った。俺や国王の入場を宣言していたおっさんだ。おっさんは気を付けの姿勢からうやうやしくお辞儀をした。

「ハウアー卿、陛下がお呼びです。二人だけで話がしたいと」

これには、他の面々は引き下がるしかない。

「では、またの機会に」

俺の方も聖騎士の先輩たちに聞きたいことは多かったので、そう言って軽く会釈して、呼び出しのおっさんの後をついて行った。

 広間に続く、国王の控え室らしいところへ案内された。元の世界の5LDKの俺の家がすっぽり入るくらいの広さと天井の高さだ。ここも溶岩ドームをくりぬいて作られた部分なわけだが、壁のうち一面が外に面していて大きな格子のガラス窓でかなり室内は明るかった。窓の外は花壇になっていて、花いっぱいで眺めがいい。床には赤い絨毯が敷き詰められている。溶岩ドームは冷えて固まるときに自然と正六角柱になるため、削って作られた床は正六角形を敷き詰めた模様になる。すきまにコンクリートのような詰め物をして、きれいに平らに磨き上げたのが広間の床だったが、ここはそれに絨毯を被せているわけだ。

 王は部屋の窓と反対の面にある大きな壁画の前の派手な椅子に座って待っていた。壁画のテーマは神話の戦いらしい。神と人の軍と悪魔の軍の衝突の場面だ。神々しく輝く鎧の戦士が剣を持って飛んでいて神と人の軍を率いている。聖騎士の鎧は、この戦士のものを模したようだ。馬には乗っていないが、人は、こいつの再来を聖騎士の中に見ているのだろう。

 王の前に跪こうとすると、王が手で制した。

「聖騎士オリアルト。あなたに個人的なお願いがあって呼んだのです」

 命令ではなく、お願い、か。なんだか面倒な話のようだな。

「騎士団のレイナ・ドラスベインのことは知っていますね?」

ちょっと予想外な話だった。コイバナなのか?

「はい。アバルーン城の戦いで合流してからいっしょでしたから」

王は、俺の表情を探るように観察しながら、さらに訪ねた。

「さきほどの広間での発言、やはり彼女はあなたに惚れ込んでいるのでしょうね」

 『やはり』という部分がよくわからない。彼女が聖騎士にあこがれているから『やはり』ということだろうか。ま、ここも事実を話してオッケーだろう。

「いいえ。彼女はずっとわたしに反発してました。わたしへの言葉は嫌味か蔑みばかりでしたよ」

王は不思議顔だ。

「彼女が人に嫌味を言ったり蔑んだりするというのは想像できませんね」

 あ、しまった。王の思い人を悪く言ったことになるのか。

「あ~、彼女はわたしを聖騎士と認めたくないようでして。彼女が憧れている聖騎士フレイトル卿の鎧を着ていることも気に入らない原因のようです」

 うむ。そうだ、別に彼女が性格悪い女ってわけじゃない。

「それでは、わたしと、レイナのことは? 知ってますか?」

 知らない、と答えたら、王は自分の恋心を俺に説明する羽目になる。ここは正直に言っておくべきだろう。

「四歳のときと、大理石の東屋でのプロポーズのことは聞き及んでいます」

 王が、はっ、と目を見開いて、驚いたような表情を見せた。そこまで聞いているとは思わなかったようだ。

「なら、話が早い。あなたは……わたしの恋敵ではないのですか? 彼女に好意は?」

 いや、あれで惚れたらとんだマゾ男だろう。

「持っていません。その・・・・・・一般論として魅力的な女性なのは分かりますが、出会いも悪かったし、これからも口喧嘩相手ってことになるでしょうね」

 王は楽し気に笑った。

「彼女と口喧嘩ですか。羨ましい気もしますね。まあいい。だったらやはりあなたにお願いします。彼女をあなたの相棒として、聖騎士付きに任命しますので、彼女を身近に置いて守ってほしいのです」

 うわあ、レイナが嫌がりそうな話だなあ。それに、

「わたしは聖騎士として危険な戦場に赴くのではありませんか? 彼女もそこへ行くことになってしまう」

「そのうえで、彼女を守ってほしい。あなたにはそれができる」

 また、俺を過大評価してるのが増えてるみたいだぞ。それも俺の主人が俺を買いかぶってるときたもんだ。

「相棒の件は、御命令とあれば。そして、自分の相棒の命はもちろん守りますし」

「ありがとう。実は、魔物だけでなく身内からも守っていただきたいのです。わたしが彼女にぞっこんなのは公然の秘密なので、彼女を亡き者にして自分の妃候補を推そうとする勢力からのちょっかいもあるかもしれないのです」

 まあ。シュタークが言っていたドリーデット伯爵というやつも、レイナを騎士に推して、危険な戦場で彼女が命を落とすことを望んだわけで、未質の殺意があったのだろう。王が言っているのはその類ということか。

「わたしのスキルは人間相手には役に立ちませんよ。毒からは守れるでしょうが」

「さきほどの、刃物が人に当たらぬというスキルは?」

「あれは、武器を持った者がわたしを味方だと認識していなければ効果を発揮しません」

「そうなのですね」

ちょっと残念そうだ。王としては、俺の近くにレイナがいれば、あのスキルで人に害されることがなくなる、ということを望んでいたらしい。

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