とある提案と未来への危惧
こんにちは、綾瀬優です。今回は結構な自信作なんじゃないかとちょっと天狗になってます。はい。
「それで……退屈な書類仕事を放置して逃げ出した挙げ句に秘書のイリーさんに見つからないよう天井裏に隠れていたところたまたま困っている俺たちを見つけたと…」
天井からシュタッと慣れたように降りてきた学院長もといキャリアスさんは、自身の状況を俺たちに教えて今に至る。
「ああ、その通りだ」
「何やってんだあんた…」
「あはは…」
キャリアスさんは悪びれもせずに頷いた。さすがにミーナもフォロー出来ないのか顔をひきつらせて苦笑している。そしてその隣にいるアルティナは頭痛でもするのか、頭を抱えていた。
「それで……さっき言ってた私に任せろってどういう意味だ?」
俺は呆れながらもキャリアスさんに問う。それを聞いたキャリアスさんは待ってましたと言わんばかりに話し出す。
「そのままの意味だ。全て私に任せておけばいい」
「不安しかねぇよ…」
あんな事を言っているがとても安心出来ない。安心出来る奴は余程、人の言うことを信じやすいタイプの人か……ただの能天気な奴くらいだろう。
「あの、学院長。具体的な内容を教えて頂きたいのですが……」
俺がそんな事を考えているとミーナが具体的な内容についてキャリアスさんに問い掛けた。
「さて、ミーナ・クロスフィア。これはなんだと思う?」
キャリアスさんはそう言うと、ニヤリと口角を吊り上げた。そして着用しているローブの袖口から何やら服を取り出し、広げてみせた。
「こ、これは…」
「学院の制服……?」
ミーナとアルティナが何故、学院の制服を取り出したのか分からないというように頭に疑問符を浮かべている。実際俺も、キャリアスさんの狙いが分からない。
「それにしても、その制服……私たちのとデザインが違いますね…」
「そういえば……そうだな」
ミーナとアルティナは自分たちの制服と見分ける。
確かにミーナ達の制服はリボンやスカートがあるが、キャリアスさんの持っている制服はリボンがなく、代わりにネクタイがある。下の方もスカートではなく、長ズボンになっている。そう、言うなればまるで男物の制服のよう……。
(なんでだろう……もの凄く……嫌な予感というか……悪寒がする)
俺は得体の知れない寒気を覚え、パーカー越しに両腕を摩る。そしてキャリアスさんを見ればなんとも楽しそうな笑みを浮かべていた。今の俺には、その顔は悪魔の微笑みに見えた。エクソシストを呼ぼうかと思うくらいのレベルである。
「えーっと…………それってまさか……」
ミーナが俺と学院長の様子を見て答えに辿り着いたらしい。その顔はなんとも言えない笑みを浮かべていた。アルティナの方も答えが出たらしく、明後日の方へと向いていた。
「そうだ。今、ミーナ・クロスフィアとアルティナ・ランデストの思っている通りだろうな」
そう言うとキャリアスさんは俺へと視線を向けた。
「マナ・ヤトガミ。早速だが小屋に戻ってこれに着替えてこい。色々と調節しなければいけないかもしれないのでな…」
「………えぇっ!?なんでそれを着なきゃいけないんだ!?」
キャリアスさんの唐突な発言に俺は堪らず叫んだ。
「お前、その服以外に着替えがないだろう?」
「うぐっ…!」
的確な指摘に俺は思わず言葉を詰まらせた。確かにそうだけど……そうなんだけど!
「着替えるだけですか…?」
「いや、その後私の執務室で編入手続きを行ってもらう」
「「「え?」」」
今度の発言はミーナ達も予想外だったのか、見事に声がハモった。
「学院長……それは問題になるのではないでしょうか?」
ミーナとアルティナが怪訝そうな顔をしてキャリアスさんに問い掛けた。
「大丈夫だ。私の権力で問題を一掃するからな」
「それを大丈夫とは言わねぇよ…」
ツッコミどころ満載の発言ばかりするキャリアスさんに、さすがの俺も呆れる。しかも権力にものを言わせるやり方は、もはや完全に独裁者のそれである。
「ほら。これ持って着替えてこい」
そう言うとキャリアスさんは持っていた制服を俺に向けて投げた。俺はそれを受け取ると小さく溜め息を吐いた。
「俺は学院に通いたくないのですが…?」
俺はキャリアスさんにジト眼を向けながら言う。どうもこの学院(主に生徒)は魔力至上主義っぽいし。魔力がない俺が行ったところで、あまり好意的に捉えらる事はないと容易に想像出来る。
キャリアスさんはそんな俺の様子をお構い無しに視線をミーナ達の方へと向けて話し掛けた。
「ミーナ・クロスフィア。マナ・ヤトガミをこの学院に編入させればお前の魔法技術の成績を一つ上げてやるぞ…?」
「…………………………………ッ!!」
なんか言い出したぞこの人。キャリアスさんの言葉にミーナはピクリと反応した。そしてその反応を見たキャリアスさんはアルティナへと視線を向けた。
「アルティナ・ランデスト。お前も協力すれば古代言語学の成績を一つ上げよう」
「……………………………ッ!!」
それわ聞いたアルティナはミーナと同様にピクリと反応した。キャリアスさんのやり方は実に汚いとこの時、俺は思った。
(生徒を買収する学院長なんて初めて見た…)
なんてどうでもいいことを考えていると謎のオーラを纏ったミーナとアルティナがユラッと後ろに現れた。俺はそれに恐怖を覚えると、その恐怖を誤魔化すように話し出す。
「ま、まさか学院長であるキャリアスさんが……せ、生徒を買収するなんて………も、勿論、ミーナとアルティナはそんな事に応じるはずが――――」
「マナさん…」
応じるはずがない。そう言おうとしたがそれはミーナによって遮られ、最後まで紡がれることはなかった。ミーナは俺の名を呼ぶが、俺は何も聞こえないと自分に言い聞かせて沈黙する。
「マ ナ さ ん」
「ハ、ハイ…」
恐怖に心が根負けして俺は返事をする。個人的な感想を言うとゆっくりと自分の名を呼ばれるのが一番心に(恐怖が)来た。
ミーナとアルティナはそれぞれ片手で俺の肩をガシッと力強く掴むとにっこりと笑って見せた。
「人間には勝てない欲求だってあるんですよ…?」
「ミーナの言う通り、大人しく編入してもらおうか…」
「俺の意思は?」
「「ない(です)」」
「アッハイ」
どうやら強制らしい。キッパリと断定されたので俺の抵抗感は激減した。俺はミーナとアルティナにズルズルと引きずられ、こうして教室前を後にするのであった。
―――◇◇◇―――
「さて………予想以上に上手くいったな…」
もう誰も残っていない教室前の廊下で、学院長はボソリと呟いた。
そして視線を廊下の端へと向け、そこに落ちてある天井の一部を魔法で即座に修正する。天井の一部は時間が巻き戻されたかのように元通りになった。
「ここにいたんですか、学院長……」
そう言って呆れた様に学院長の背に声を掛けた人物がいた。学院長は後ろに視線を向けると予想通りだなと言うような顔をする。
「なんだ、イリーか。いつからいたんだ?」
そこに立っていたのはイリー・ローエン。現在学院長の秘書を勤めている女性である。そして彼女は、教師と少し違ったデザインの服装をしている。
整った顔に眼鏡をかけ、明るい橙色の髪は三ツ編みにされている。そしてその髪の明るさとは反対に眼は少し吊り上がっている。多分、学院長が仕事を放り出して逃げた事に対して怒っているのだろう。
「どうせ気付いてたくせにどの口が言うんですか…」
「まぁな。私がミーナ・クロスフィアとアルティナ・ランデストを買収したところくらいからお前の気配を感じたからな」
「ええ。あの時は本気で殴ろうかと何度も思いました…」
イリーが手をグッと握って拳を作る。先程の光景を思い出したのか、更に怒り度が上がった気がした。それに対して学院長は飄々と受け流す。
「はっはっは。怖い秘書を持つと大変だ」
「毎度の如くあなたの気分に振り回されるこちらの身にもなって下さい」
「善処するよ」
「したことないじゃないですか。厄介事を持ってくる度に私の仕事が増えてるんですよ…」
「だが、その分の給料は貰っているだろう?」
「そういう問題ではありません」
学院長が厄介事を持ち込み、それに対してイリーが小言を言う。そんないつものやり取りをしながら、イリーは気になる事を学院長に聞いてみた。
「そもそも、学院長は何故そこまでしてマナ・ヤトガミを編入させたいのですか?」
そんなイリーの質問に学院長はいつもの軽い態度をやめ、真面目な顔をする。その学院長の態度にイリーは姿勢を正した。
「あんな面白そうな奴を手放す訳ないだろう……というのが九割程度だな」
「…ほぼ全部じゃないですか。真面目な顔をしてそんな事を言わないで下さい。姿勢を正して真面目に聞いていた私が馬鹿みたいじゃないですか」
「なんだ、違うのか?」
「本気でぶちのめしてやろうか、このアマ…」
イリーの怒り度がまた上がる。ついでにその周辺の温度も少し上昇した。眼鏡をクイッと軽く上げると、キラリと眼鏡が怪しく光った。
「で、残りの一割はなんですか…?」
このままでは話が進まないとイリーは軽く頭を振り、怒りを沈める。イリーの冷静な判断力にいつも学院長は感心する。
「残りの一割は…………」
「………?」
何故か難しそうな顔をして、言い淀んだ学院長にイリーは意外そうな顔をする。そして学院長は、言葉を選ぶようにゆっくりと話し始めた。
「そうだな……正直、私にも分からない。アレが一体なんなのか……。まるで…底知れない何かを持っている気がする……私の勘でしかないがな」
学院長はただの勘だと言ってはいるが、これでも【災禍の魔女】という二つ名を持っており、この国では最強の魔法使いとして恐れられている。だからこそ、その勘を杞憂だと決めつけて切って捨てる訳にはいかないのだ。
しかしそれでもイリーは納得がいかず、一応学院長の勘を杞憂ではないか、と呼び掛けた。
「私も報告書を見ましたが、ステータス等を考慮しても、とても脅威になるような存在ではないかと…」
その言葉に学院長は少し目を細める。まるでこれから何かが起こることを危惧しているかのように…。
「だが、念のために監視はさせておけ」
「了解しました」
そう言うとイリーは立ち去ろうと学院長に背を向けて歩き出した。
「……何も起こらなければいいのだがな…」
また、学院長がボソリと呟く。大切なこの学院に危険をもたらせる事だけは絶対に避けたい。
「あ、そういえば学院長」
「なんだ…?」
一人物思いに耽っていた学院長に、イリーが何かを思い出したように話し掛けてきた。学院長はまだ用事でもあるのかと思い、返事をした。
珍しくイリーがニコニコと笑顔でいる様子に学院長は何か嫌な予感がして、急いで転移魔法を発動させようとした。しかし、それはイリーが学院長の襟首を掴む事によって中断される。
「さて学院長、これでもう逃げられませんね。逃げてサボっていた分の書類仕事が沢山残っていますので、一緒に頑張りましょう」
その言葉を聞いた学院長がしまったと、仕事を放り出して逃げていた事を思い出した。そして今、イリーに襟首を掴まれている状況を即座に理解して、絶望した。顔面蒼白になり、汗がダラダラと流れ落ちていく。
「……ッ!!……く、は、放せッ!!私は【災禍の魔女】と恐れられし最強の魔女だぞ!」
「そうですね。確かにあなたの気分次第でいつもいつも仕事を増やされる私にとってあなたは災禍でしかありませんね」
必死に抵抗するもイリーの力は半端ではなく、学院長が暴れても微動だにしない。
「さぁ、お仕事の時間です学院長。私の目が黒いうちは執務室から逃げられると思わない事ですね」
「な、放せッ!!今すぐその手を放すんだッ!………うわぁぁああッ!!書類仕事は嫌だぁぁぁああああああッ!!!」
学院長が悲痛な叫び声を上げる。その姿にはもはや、この学院の最高責任者としての威厳などなく、駄々をこねる子供にしか見えない。
そんな学院長をイリーは容赦なく、執務室へと連行するのであった。
ーチャット風の会話ー その2
イリー:さぁ、学院長。楽しい楽しいお仕事の時間です。
キャリアス:くっ…!よもや最強と謳われた私もここまでなのかっ……!(≧口≦)ノウガー
イリー:はいはい。そんな事を言ってる暇があったら一文字でも多く、書類仕事をこなして下さい。
キャリアス:うぅ……それにしても私の扱い酷くないか?
イリー:気のせいですよ。
キャリアス:本当か?
イリー:そう思うなら作者にでもポジションを変更するように書類申請でもしたらどうですか?
キャリアス:また書類なのか……ここの職場は本当にブラックだな…( ´-ω-)y‐┛~~ヤレヤレ
イリー:いや、あなたがその職場の最高責任者でしょうに……。それに、いつも必要以上に仕事を増やされる私の方が文句を言いたいのですが?
キャリアス:(*≧∀≦*)テヘペロ
イリー:その無駄に脂肪ののった大きな胸を潰してやろうか…?(ハイライトオフ
キャリアス:イリー、素が出てるぞ。((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル
イリー:それは失礼しました。
キャリアス:そういえば作者が私を呼んでいたんだったな。今すぐ行かないと。
イリー:そうやってすぐ逃げようとしないで下さい。(壁ドン
キャリアス:いや、今回は本当に呼ばれているんだっ!(壁ドンされ
イリー:そうやってこの前は逃げたじゃないですか…とても信用出来ませんね。(壁ドン中…
作者:おーい、キャリアスさーん、遅いから迎えに来て………やった……ん……だが………(ドアガチャ
イリー:あ
キャリアス:あ
作者:…………………………………………。
イリー:………………………………………………。
キャリアス:………………………………………………………。
作者:( ゜д゜)ポカーン
作者:すまん、邪魔したな。(ドアシメ
キャリアス:お、おい待て!何か勘違いしてないかっ!?
作者:勘違いなんてしてないよっ!?イリーさんとキャリアスさんはそういう関係だったんだろ!?
キャリアス:それを勘違いしていると言うんだっ!
イリー:そんな…!私とは遊びだったのですか…!
キャリアス:止めろ、イリー!無闇に煽るんじゃないっ!(*`Д´*)
作者:やはり、間違っていないじゃないかっ!?
キャリアス:ああ、もう!貴様らいい加減にしろっ!!《エクスプロージョン》っ!!
作者:え、ちょ(;゜∇゜)ヤバイ
イリー:これはまた、後始末が大変ですね。
この後、執務室が爆発した。作者の勘違いをキャリアスさんが必死で説得するのはまた、別のお話である。
to be continue…?