私物がないと、前日準備はすぐ終わる
今回は少し短いです。
あれから二日が過ぎ―――明日が学院編入日となった。
それまでに俺はミーナの指導の下、学生寮に案内され、洗濯物や掃除などの場所と時間帯を正確に頭に叩き込んだ。ミーナの部屋での決まり事(ベットの下や本棚の奥を漁ってはいけない等)も覚えた。
そして現在お昼過ぎ……俺はミーナの部屋にあるキッチンを借りて、プリンを作っていた。
ミーナの部屋は、色々な装飾品やぬいぐるみがおいてあり、部屋のデザインも明るいのでとても女の子らしい部屋だなと俺は思った。
俺はプリンを作りながらミーナの方へと視線を向ける。ミーナは椅子に座って読書に集中している。読書をしている時は、黒縁の眼鏡を掛けていてるので何だかとても新鮮味を感じる。たまに、テーブルに置いてあるティーカップを取るとミーナは紅茶を飲む。ペラ……ペラ……と、ページのめくれる音が、この静かな部屋によく響いた。
俺はテーブルを挟んでミーナの反対側へと視線を動かす。するとそこにはアルティナが暇そうに頬杖をつき、窓の外をボーっと眺めているのが見えた。そしてアルティナは、ミーナの部屋にも関わらず帯剣していた。
俺はプリンを冷やすために冷蔵庫に片付ける。
「あとは冷蔵庫に入れたプリンが冷えたら完成だな…」
一人そう呟くと、ミーナとアルティナが反応した。
「マナさん、わざわざ昼食だけでなく、デザートまでありがとうございます」
ミーナは読んでいた本を閉じて眼鏡をはずすと、こちらの方へと向いて礼を述べた。実は、料理の練習がてら昼食としてミーナとアルティナに食べて貰ったのだ。ちなみに作った料理はオムライス。
ミーナが吸血鬼だとアルティナにバレないように、ミーナのオムライスに俺の血を少量混ぜていると、それを見たミーナがなんとも嬉しそうな表情でオムライスのケチャップがかかってある部分を見つめていた。
口を見れば牙がキラリと光っており、それはもう、とても印象的だった。
「好きでやってる事だし気にしなくていいぞ…。あと、冷蔵庫に入れたプリンだけど夜にはもう出来上がってるはずだから二人で食べてくれ」
俺はそう言いながらミーナとアルティナのいる方へと歩き、その近くにあった椅子に座る。
「料理、洗濯、掃除……色々と器用に出来て羨ましい限りだ…」
アルティナは自身と比較しているのか、落ち込み気味に言う。そんなアルティナの様子を見て、俺とミーナは苦笑した。
「さて、ミーナのおかげで必要な事は全部覚えたし、これから何かするか?」
俺は二人へ言葉を投げ掛ける。
「何かとはなんだ…?」
アルティナが不思議そうに聞いてくる。俺も何か考えていた訳ではないので返答に困った。
「うーん……何か?」
「考えての発言ではなかったのか…」
首を傾げて言った俺に、アルティナが呆れたような目をしながら言った。思い付かなかったんだから仕方ないじゃん…。
「あの……明日マナさんがこの学院に編入するんですし、そのための準備とかをした方がいいと思うんですけど…?」
「「あ、そうだな」」
ミーナの指摘に、俺とアルティナは声をハモらせて納得した。
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「……とは言ったものの、俺の私物なんてほとんどないからなぁ…」
小屋に戻ってきた俺は、溜め息を吐きながら呟き、ベットの方へと視線を向けた。そこには学院長であるキャリアスさんから支給された学院の制服や教科書、鞄、筆記用具などの必需品が置かれていた。制服以外は昨日、いつの間にか届けられていたので、軽く恐怖を覚えた。
俺は必要な物を鞄へと入れていく。するとどうだ…?ほら、こんな簡単かつ短時間で準備が終わっただろ…?…………なんでだろう?俺の求めていた準備と何かが違う…。こう、なんというか、旅行を前にした子供が感じるようなワクワク感が欠片もない。
もっと具体的に言うと、小学校へ初めて通う前日って、ワクワクしないだろうか?そんな経験ある人は少なからずいると思うけどなぁ…。
俺はどことも知れない所へ同意を求めていると、ミーナとアルティナが小屋に入って来た。
「なんだ…?もう、準備が終わったのか…?」
小屋に入って来たアルティナが意外そうに呟いた。
「ああ、終わったよ……そして俺の期待もある意味終わったよ…」
「?何を言っているんだ…?」
俺の言葉にアルティナが意味不明だというように不思議そうな顔をした。実際、俺でも何を言っているのかあまり理解してない。
「ふむ……やはりいつ見ても殺風景な小屋だな…」
「必要な物しかないからな…。そりゃそうなるよ」
「街へ買い物しに行くとかどうですか…?」
「いや、やめとくよ。ここへ来たばかりだし、この学院でしばらく生活してからだな」
俺はミーナの提案をやんわり断っておく。慣れてもいない土地を離れて知らない街へ行くのはリスクが高過ぎる。
「さて、準備もすぐに終わったしマジですることなくなったな…」
俺は少し困ったように呟くと溜め息を吐いた。
「あ、なら私と一緒に鍛練するのはどうだ…?」
「鍛練……?」
「ああ、鍛練だ」
アルティナの提案に俺は目を丸くした。アルティナは目をキラキラと輝かせ、期待を込めた眼差しを俺へと向けてくる。
「今日はやっていなかったからな……。ちょうど暇になったんだし、マナも一緒にどうだ…?」
「うーん、そうだな。俺も運動不足だと思ってたところだしいいぞ」
俺は走り込みでもするのかな?…と、思いながらアルティナの提案に乗った。
「では、私はお邪魔する訳にはいかないので自室に戻りますね…」
「ああ、わかった。少しマナを借りていくぞ」
「はい…!いってらっしゃい…!」
歩き去る俺とアルティナへミーナは手を振って見送った。
そして俺とアルティナはしばらく近くの森の外側を沿って歩く。
「そういえば、どこで鍛練するんだ…?」
俺の疑問にアルティナは「あぁ…」と思い出したように答えた。
「闘技場………と言いたいところだが生憎、他の生徒達の目もあるのでな……小屋の近くにある森でいいだろう…」
意外と近くだった。俺は小屋の近くにある森へと視線を向けた。木々が乱立し、茂みで足場が見えない。そして、昼だというのに少し暗い。とても鍛練出来るような場所には見えない。
そんな俺の様子にアルティナは、俺が何を思ったのか察したらしく、詳しく説明してくれた。
「…それに、この森には特定の場所に広場があるんだ。そこだけはちゃんと整備されていて、私が鍛練する時にいつも使っている。もちろん、人もいない」
「なるほど……それは確かに都合がいい場所だな…」
アルティナの説明に俺は納得した。今の俺はまだ、この学院の生徒ではないので他の生徒に見つかると厄介事に巻き込まれ兼ねない。俺はアルティナの何気ない気遣いに感謝した。
「ありがとな、アルティナ」
「べ、別にこれくらい何でもないだろうに………ほら、早く行くぞ…!」
礼を言うと、アルティナは少し恥ずかしげにしながら早歩きで先へと行ってしまう。
「ふむ、アルティナは感謝や誉められるのに慣れてないのか…?」
俺はそう呟くと、アルティナを見失わないように後に続くのだった。
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