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4-2

 その日、ハルとアキが調査へ向かおうとする道を阻んだのは、一人の男の訪問だった。

 降谷家のガレージから出てくるのを待っていたかのように、近くの電柱に寄りかかり、タバコを咥えてじっと立っていたようだ。


 男のボクサーのようにしまった体と猛禽類のような鋭い目をみて、ハルが「またかよ、勘弁してくれ」と言わんばかりに真顔でため息をつく。

 黒い髪の坊主頭に、こめかみ辺りからジグザグに刈り込みを入れた男だった。

 刈り込みは波のような曲線と鋭い直線で模様になっており、獣の毛並みか、見ようによっては鳥の翼にも見える。

 さらに真っ黒なシャツから見える浅黒い胸元には、黒狼のタトゥーが刻まれていた。

 狼の鬣と連なるようにして描かれた牙、そして幹部の証明である爪。


 片目を細めて二人を見下す男の目に宿る暗い光は、ある意味でマガミよりも裏社会を代表する面構えだった。

 身体ではなく精神に負った数多くの傷が、姿を見せずに表情として表れている。

 『触れるな危険』、と。


「面ぁ貸せ、八柄」


 男は短く言って、ポケットから手を出そうとはせずに顎で後方を示す。

 そこには、何の特徴もない、いや、特徴を上手く隠した黒いバンが停まっていた。


「それが人にモノを頼む態度か。

 てめぇの世界の常識が、どこでも通用すると思ってんじゃねぇぞ、ロック」


 黒狼の男、ロックの声よりも更に静かで端然とハルが返す。

 だがそれで引く男ではなかった。


「……てめぇ」


 じり、と僅かにハルに距離を詰めた時だった。


「ハル、ちゃん? アキ君?」


 ハルとアキの後ろから、小さな少女の声が聞こえる。

 二人が後ろを振り返ると、ルリが門から顔を出して心配そうに対峙する面々を見ていた。


「ル、ルリ!」


 アキが妹の方に駆け寄ると、彼女がロックを見ないよう被さるように立つ。

 それを見てハルが目線をロックに向ける。

 ルリが聞いていなければ、「小さい女の子脅してんじゃねぇクソハゲ」とでも毒づいていただろう。

 ロックはそれを察し、小さく舌打ちをして目線を外した。

 彼はハルに対して、あからさますぎるほどの敵意を持っている。

 だが少なくとも一般人の、それも子供に対してそれを当てるような人間ではなかった。


「アキ、ちょっと行ってくるよ」


 ルリに聴かせるように、極めて柔らかい口調でハルがそう告げる。


「え、だけど……」

「電話、すぐ出れるようにしといて」


 イヤホンの刺さった自分の耳を指さしながら、じっとアキの目を見てハルが言う。


「……分かった」


 ルリを巻き込むな、心配させるな、という彼の意を察し、アキがそう短く答えた。


「じゃ、行こうか。ロック『さん』」


 アキの言葉に軽く頷くと、ハルはロックの方に向き直り、まるで友達に言うように軽くそう言って歩き出す。


「気持ち悪……」


 その変わり様に、向けていた敵意も忘れたロックが頬を引き攣らせて呟いた。





 ロック、本名は六郷誠一郎。


 数日前、カラスから情報提供があった際に出てきた名前だ。

 黒狼成立当時から、マガミの片腕として動いてきた幹部でもある。

 マガミ程ではないものの、学生時代から暴走族の頭をするような荒くれた若者であった。

 数年前の暴力団抗争に巻き込まれてグループが解体、街を追放されていた。

 しかし一匹狼だったマガミが立ち上がったのを見て、自分たちを追放した奴らに一泡吹かせようと彼の傘下に下った、という経歴を持つ。

 言うまでもなく武闘派であり、今ではマガミを神のように崇めて、彼のためなら誰の命も惜しまない、忠実な臣下でもある。

 ハルとは元来の性が合わないのに加えて、様々な出来事の末に死ぬほど折り合いが悪く、ハルはともかくロックの方は完全に彼を敵と見なしている。

 だが裏社会の人間である彼がハルに手を出さないのは、他でもない彼の王が、それを禁じているかに他ならない。

 殺すことも脅すことも殴ることも、そしてこの街から追い出すことも、彼は禁じられている。


 だがそれもどうやら、今回の事件でぐらぐらと揺さぶられつつあるようだ。



 案内されたのは繁華街の一角、飲み屋の事務所として使われている部屋だった。

 もっとも今は人払いがされ、部屋にいるのはロックとハルだけだ。

 ロックはドアの前に立ち塞がるようにして、腕を組んで立っている。

 ハルはというと、部屋の中で一番値が張りそうな応接用のソファを見つけ、数回アルコール消毒を振りまいて、その真ん中にどっかりと腰を据える。

 華奢な体を跳ねさせるその様子には、緊張感の欠片もない。

 ロックもそんな様子に慣れているのか、子供のように座り心地を確かめながら上体を動かすハルを一瞥して、手早く話に入る。


「てめぇ、なんで俺らのことを嗅ぎまわってやがる」

「わざわざそんなこと聞くために呼び出したの?

 暇なの?

 忙しいんじゃなかったっけ」


 ハルは心地良さを確かめるようにして、柔らかい茶革の背もたれにグイグイと背中を押し付けながら、ロックの方を見ずに言う。

 彼の言う「忙しい」理由は、切り裂き魔に襲われたロックの従兄弟、後藤文一の件についてである。

 親類が傷つけられたということに加え、幹部を襲われたのに未だ犯人が捕まっていないという事実は、支配者としての沽券にも関わる。

 ハルの言い草に、ロックは舌打ちをする。


「あぁその通り、忙しいんだ。だから手短に答えろ」

「別に嗅ぎ回ってない」


 彼の要求通り、三秒もかけずにハルが答える。


「それが通用すると思ってんのか、あ?」

「するもしねぇも、それが真実だ。

 大体なんで、俺がお前らのことを嗅ぎまわってるなんて思うわけ?」


 唯一黒狼側とつながりがあるのは、カラスだ。

 露見するとすれば彼からだろう。


「切り裂き魔にやられた俺の従兄弟のことは、どうせ知ってるだろう。

 数日前、カラスが急にアイツから目を離すなとか言い出しやがった。

 よく分からねぇが、とりあえず奴の言うとおりした結果、僅かな隙をつかれて、もう一度アイツは襲われた。

 なぜ襲撃が予想できたのかを問い詰めても、カラスは喋りやがらねぇ。

 それはカラスが俺らには言えねぇ奴から、それを聞いたからだろう。

 つまり俺の従兄弟の事件に関して、カラスと『そいつ』は、何らかの情報交換をしてると考えるのが普通だ」


 そうだろう? と言うように、ロックは『そいつ』、つまりハルを顎で指す。


 どうやらカラスの言ではなく、その行動から疑いを持たれたようだ。

 ハルはカラスに対して口止めをしていないし、所詮は金で雇った人間である。

 それに必要な情報が入った今、彼らの繋がりが明白になることは別段痛手ではなかった。

 このように拉致まがいの手で腹を探られる事以外は。


 とりあえず義理を通してくれたカラスに心の中で感謝しつつ、できれば何らかの形でごまかして欲しかった、というわがままはハルの心の中で終わらすことにした。


「カラスさんとは世間話をしただけなんだけどなぁ。

 それに俺が聞いた内容だって、別にお前にとっては今更大した情報じゃないぜ?

 襲われたのはお前の従兄弟だとか、幹部でマガミに気に入られていたとか、どこで事件が起こってどんな状況だったか、くらいしか聞いてない。

 というか、お前らもカラスさんも、今回のことについて詳しいことは何も分かってないんだろ? 

 そんなカラスさんと俺が、特別な情報のやり取りなんて出来ると思ってんの?」


 ハルは足を組み、胸の前で軽く指を絡めてどうでも良さそうに言う。

 だがそれでもロックは納得していないようだ。


 ドアから背中を離し、ゆっくりとハルの前まで歩くと、小さな彼を威圧するように見下す。


「じゃあなぜ、アイツがもう一度襲われること知っていた。

 お前、この事件について何を知っている」


 低い声が緊張した空気を震わせる。

 二十半ばの若さとはいえ、黒狼成立時から裏社会の人間とやり合っていた人間だ。

 ただの族上がりだった若者は、生死問わずの凄惨な場面を踏み越えるたびに、もはや洗い拭うことのできぬ色の染みで、その体を染め上げていた。

 殺気ともいえる静かな威圧感を、目の前の少年に向ける。


「それに答える義務が、俺にあるのか?

 最近の大人はモノの頼み方も知らねぇのかよ」

「口の聞き方に気をつけろ。

 どんな手を使ったっていいんだぞ、ガキ」

「……『人は鏡』ってのは、よく言ったもんだ」


 対するハルは殺気一つ見せず、ボソリとロックには理解できない言葉を呟いた。

 そしてだた悠然と、いつ手を出してもおかしくない男を前にして、イヤホンのコードに指を絡ませて弄ぶ。

 無関心は、最大の挑発だ。

 ピクリとロックの頬が歪む。

 彼の弛緩させた体の筋肉は、力を入れれば一瞬でハルの座っているソファを壁まで飛ばすだろう。

 そんなロックの微細な感情と表情の変化を見て、ハルが僅かに身を前に乗り出す。


「ん、殴るか? 脅すか?

 俺の仲間ぁ人質にとって、俺に土下座でもさせて吐かせるか? 


 やってみろよ。

 お前が俺のモンに触れた瞬間、お前の世界を片っ端から叩き壊してやる。

 なぁ、お前なら言っている意味が分かるよな?

 俺を脅すってことはそういうことだ」


 真正面から対峙する底なし沼のようなハルの瞳の奥には、僅かだが光が見て取れる。

 それは緻密で慎重すぎるほどに薄く研がれた刃を、ふとした気まぐれで顔色一つ変えずに首に叩きつけるような危うさを持つ光だ。

 意志を奥に秘めた者、爆発的な力を光らせるもの、冷徹な知性を研ぎ澄ますもの、狂気とも言える残酷な感情を持つもの、様々な目をロックは見てきた。

 だが、ハルのそれはどれにも当てはまらない。

 ロックがこの小さな少年を知り、現在に至るまで一貫して持ち続けている感情は、薄気味の悪さだ。

 カテゴライズ出来ない歪さは、ロックが敬愛してやまないマガミとは真反対の位置にあるように思えてならなかった。


 ぶつかり合う視線を先に逸らしたのは、意外にもハルだった。

 面倒くさそうに、背もたれに沿わせるようにして天井を仰いで目を軽く瞑る。


「……仕方ねぇか。

 いつまでたっても不良仲間の仲良しこよし、じゃあ見えるモンも見えねぇわな」

「なに?」


 心底馬鹿にしたように鼻で笑うハルに、ロックの頬が再度歪む。

 ハルは目を瞑ったまま、今度は明らかな挑発を続ける。


「デカイ面して街を徘徊して、何人も兵隊置いて警戒態勢とって人ビビらせて情報集めて? 

 それで何も分かりませんでした。

 しかもまた仲間が襲われました。

 でも理由が分かりません。

 頭使っても分かりません。

 だから事情知ってそうなガキに凄んで脅してみます、ってか? 


 恥ずかしいよなぁ。

 あぁ、すげぇ恥ずかしい。

 洗面器いっぱいの腐った牛乳に頭突っ込んで死んだほうがマシだ」


 やれやれと首を振るハルの数センチ右の背もたれが、くぐもった打撃音を伝える。

 ロックの靴底が叩き付けられたようだ。

 柔らかい素材に食い込むようにして高そうな革靴が沈む。

 ハルの座ったソファは、前足を上げてぐらりと後ろに傾ぐ。


「いい加減にしろよ、ガキが」


 瞳孔の開いたロックの目が、薄く開けたハルの目の拳一つ分先まで迫る。

 声こそ荒げないものの、そのこめかみには太い血管が浮いて出ていた。

 しかしハルは表情一つ変えない。 


「ガキはお前だろうが、何度言わせんだよ。

 いつまで仲良しこよしやってんだ。

 足を使え。

 頭を使え。

 理由を探せ。

 場所も時間も根拠も言葉も裏も表も、見つけなきゃいけねぇのは、俺じゃなくてお前だろうが。

 なんでお前の大事な奴のことを、俺じゃなくてお前が分かってやれねぇんだ」


 彼は口元をほとんど動かさず、ただ目の前の男に静かに言葉を吐き出す。

 いつものように抑揚はなかったが、腹の中から響き出るような低い音の中には、僅かに怒気が含まれている。

 僅かに、だが確かに。

 それは他でもないロックに向けられた、静かな怒気だ。

 いつもは感情を掴みにくいハルが発するそれに、ロックは自分の感情も忘れて、一瞬口ごもりながらも言葉を返す。


「あ? んなことてめぇに言われなくても……」

「分かってねぇから、わざわざ言ってやってんだ。

 それともガキに言われんのが、そんなに悔しいか? 

 ふざけるなよ。

 俺はお前が飯食ってる時も、寝てる時も女とヤッてるときも、お前がアホ面こいて時間を浪費してる間、いつだって自分の頭ン中引っ掻き回して、理由と答えを探している。

 お前の何倍も、俺は生きている」


 彼の言う理由とは何か、答えとは何か。

 ロックは聞かなかった。

 だが自分の目を真っ直ぐ見返すハルの目は、まるで自分を責めているように思え、今度はロックが先に視線を外す。

 マガミとは違う形で彼の才能を開花させてNo.2へと押し上げた、目の前の小さな体と目は、数年前の当時と同じようにロックには写った。


「マガミはそれでいいさ。

 アイツはアレで成り立ってんだ。

 下手な思考や下策は自分自身を殺すようなもんだ。

 だがお前は違うだろう。

 そんなカスみてぇな情報しか無いくせに、よりによって俺に聞きに来るなんて自棄起こしてんじゃねぇよ。

 ……あれだけビジネスのやり方、叩き込んでやったのになぁ」


 静かに諭すような声に、ロックは足を下ろす。

 言葉の節々に思い当たるところがあるのか、ロックは複雑な感情を抑えるように唇を噛み、力なくハルの横に身を投げるようにして座り込む。

 弾力性豊かなソファは、それを優しく受け止めた。

 軽くうなだれて目頭を抑えるようにして、ロックが俯いたままため息をつく。


「切り裂き魔を探し出して、お前はどうするんだ」


 ハルは格好を変えず、上を向いて天井とその先を見透かすように目を細めながら問う。


「殺す。

 フミの前に突き出して、アイツと同じようにして、そのあとは俺の手で殺す。

 アイツは俺の弟みてぇなモンだ。

 てめぇの体で償わせてやる」


 奥歯を強く噛む音がする。

 フミ、と従兄弟を呼ぶロックは、いまや親しきものを傷つけられた一人の青年だった。

 だがそんな彼を、ハルは軽く鼻で笑う。


「つい前までカタギだった明るく爽やかなスポーツ青年が、絶望を乗り越えて前向きに生きようとしてんのにか? 

 残酷にもてめぇに起こったことを認識させるように、わざわざもう一度同じ光景を見せるわけだ。

 優しいお兄ちゃんだな、畏れ入ったぜ」

「じゃあどうしろってんだ!

 このままみすみす野郎を見逃せってのか!?」


 顔を上げたロックがハルの襟首を掴もうとする。


「近づくな、クソハゲ」


 ……が、一瞬早くハルがアルコール消毒をロックに浴びせる。

 もろに顔面に浴びたロックは、ぶっと口に入ったアルコールを吐き出すようにして咳き込み、今度は違う意味で顔を伏せた。

 怒りやら情けなさやら苦しさやらで行き場のない感情を喉の奥で唸らせる彼を、汚物を見るように横目で見ながらハルが足を組み替えて言う。


「そうは言わねえが、怒りに走らず少しは考えろ。

 仇討ちは、お前の勝手。

 示しをつけんのは、組織の勝手。

 だが当の本人が何を望んでる? 

 ……少し休んで考えてみたほうが良いかもしれないな、お兄ちゃんは」

「………」


 ひんやりした顔は伏せたまま、ロックが目だけでハルを見る。

 しかし若干霞んだ視野に映る彼の表情は、いつも通りただ整っているだけの無表情で、何を考えているのかは彼には分からなかった。


「調べるのも追い詰めるのも好きにしたらいい。

 お前らがどうしようが、俺には全く関係ない。

 興味も無い。

 だが、お前が一番会いたくない俺に会いに来て収穫なし、じゃあちょっと可哀想だから、一つだけ予言してやるよ」

「あん?」


 その言葉にロックが顔を上げる。

 相変わらず読み取れない表情で、光のない目だけがロックのほうを向いている。


「切り裂き魔は、捕まらない」

「……は? どういう」


 どういう意味だ、とロックが聞こうとした時だった。

 ハルのパーカーのポケットから着信音が鳴る。

 彼はロックの追求を片手を上げて制すと、携帯を引っ張りだして画面を見る。

 そこに写っていたのは白兎、クリスからの通信だった。


 通話ボタンを押す。


「なんだ?」

「ハル様、あの……弟様が少し不審な動きを」


 クリスが電話の向こうでためらいがちに言う。

 弟、という言葉にハルがぴくりと反応する。


「何かあったのか」

「弟様のチャットに現れた『Kalu』というプレイヤーを覚えていますか。

 このプレイヤーが弟様に再度メッセージを送りました。

 その内容が、[たすけて、Ripperに追われてる]というものでございまして。

 それを受けた弟様が、一人で……」

「場所は」


 クリスの言葉を切ってハルが問う。


「ガレージから二ブロック南東の方角に、今は使われていない廃工場があります。

 『Kalu』はそこに逃げ込んだと、チャットでメッセージを送っています。

 ただいま『眼』で追いかけていますが、それを見る限り、弟様も真っ直ぐそこに向かっていると思われます」

「あいつは今どこだ」

「ガレージを過ぎた辺りです。

 距離と速度からして、あと数分で到着しますわ」

「一人か。ミズキは?」

「弟様から一本電話がかかっています。

 恐らくミズキさん宛てでしょう。

 通話終了後、彼もそちらに向かっています」


 それだけ聞くと、ハルは人差し指を口に当ててクリスに指示を飛ばす。


「ガレージに連絡をしろ。

 ライカとカイは工場に行く前にミズキを捕まえて保護。

 工場へは向かわせるな。

 アキはすぐに現場に向かわせろ」

「了解しました。お気をつけて」


 ハルはすぐさまポケットに携帯を押し込むと、ドアまでの直線距離にあるテーブルや他のソファの上を、軽々と全て乗り越えて外に出ようとする。


「おいちょっと待て、まだ話は終わってねぇぞ」


 展開の切り替えに驚いたのはロックだった。

 立ち上がり、既にドアの前まで飛ぶようにして到着したハルを慌てて止めようとする。


「同情くらいはしてやるよ、ロック。

 大変だよなぁ。

 お兄ちゃんってのは」

「……は?」


 振り向きもせずに短く言って蹴るようにドアを開けて飛び出したハルに、完全に置いていかれたロックが、部屋の中でぽかんと呟いた。 


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