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*ゆれる風景

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 ゆれる風景



 急行列車は県境の陸橋を行く。車内には傾いた日が差し込み、岬の頬を温かく染めている。岬はずっとこちらの手を握り続けている。

 これから何もかもの秘密を話す。ひとつ残らず、彼女に伝える。重大な告白を控えていると、雑談として言葉にすべきことが見つからなかった。先ほどから何も話していない。岬も唇を浅く噛んで、ずっと黙っている。

「幼いころ、科学の本か何かで見たんだけれど」

 話し掛けると、岬は首を素早くこちらに向け、目を潤ませた。岬の手を握り直して安心させたいと思う。けれど指に力が入らない。仕方なく言葉を続ける。

「楓の木を増やすには、接ぎ木をするんだ。楓の枝を適切な大きさに切って、別の切株に括り付ける。括り付けられた接ぎ穂は次第に台木と繋がり始め、幹から栄養を吸い取るようになり、やがて一本の立派な木になる」

 岬は黙っている。

「成功率は低いんだ。括り付けたはいいけれど、うまくくっつかない事も多い。葉が変色したり、しおれたりする。接ぎ穂は栄養が行きわたる前に枯れてしまう」

 岬の揺れる瞳に涙が浮かんでいる。雑談のつもりだったが、もう本題に入った方が良さそうだった。車窓の外、夕焼けの色が幅広い川にが溶け込んで反射している。目を閉じると瞼の裏も赤かった。岬の手は温かかったけれど、ほどなくして震えはじめた。車輪の騒々しい響き中で、瞼の赤さと震える体温だけが残った。


 これから何もかもの秘密を話す。ひとつ残らず、彼女に伝える。今までの関係は全て無かったことになるだろう。その方がいい。自分には、あまりにも荷が重すぎた。



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