表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/83

新人冒険者はあの日に見上げた背中を覚えている-2




 まずは腹ごしらえだと昼食を終えた4人はそのままギルドホールで、職業持ちになったセレスはどうするべきか話し合った。

 ジャスとダラスが勧めるのは、徹底的な隠蔽。

 欲に駆られた者達が、客人の嫁ではあるがこの世界の住民だからと理由をつけ、セレスに手出しするのを警戒しているらしい。


「おっちゃんとダラスさんも、セレスと同意見かー」

「だから言ったでしょう。人間はエルフより好ましい種族だけど、欲が絡むと虫以下の存在となるのよ」

「俺達も人間なんですけど・・・」

「ジャスさんは獣人と人間の混血だし、ダラスさんはドワーフと人間の混血よ?」

「ドワーフは大酒飲みの鍛冶屋の爺ちゃんだよね。獣人って?」

「簡単に言うと、動物の特性を持った人間よ。犬とか猫とか。ジャスさんには獅子の獣人の血が流れているけど、混血だから耳と尻尾はないの。でも獅子の特性は受け継いでいるし、人間の豊富な魔力も受け継いでいるわ」

「いいトコ取りって事? おっちゃんスゲー!」

「言っとくが俺は獣人族の血が入ってるから、魔力を身体能力の上昇にしか使えねえ。セレスのように魔法は使えねえんだぞ?」

「それでも凄いって。それにしても、セレスが職業持ちになったのは内緒かー」

「不満か?」


 リーミヤは首を横に振る。


「じゃ、セレスはこれまでと同じように生活すればいいね。俺は軽く薬草採取に行って来ようかなあ。かわいいお嫁さんを飢えさせたら、ヒヤマの名が廃るってね」

「薬草採取もいいが、ダッツ老がリーミヤの弓はもう出来上がっていると言っていたぞ」

「ウソ。弓ってそんなにすぐ出来る物なの?」

「この村に冒険者はいないし、兵の弓は軍から支給される。だが俺は籍だけ軍務省に置いてはいるが、現役の冒険者だからな。セレスがいない状態で村の外に出る時は弓を使う。それが壊れた時のために、材料は用意してあったんだろ」

「へー。なんか悪いね、おっちゃん」

「気にするな。夕方まではおよそ2刻ってくらいだ。近場で軽く獲物でも探すか、リーミヤ?」

「その前に弓の練習だろう。リーミヤちゃんは弓を使った事もないんだから」

「ふっふっふっ。それなら問題ないんだなあ、これが」


 ジャスとダラスは、自信満々のリーミヤからセレスへと視線を移す。

 弓を使った事もないのになぜ大口を叩くのか、知っているなら話せという事だろう。


「スキルを取ったんですよ、弓術の。初級と言っていますから、エルフ並みにとはいかないと思いますが」

「そんなんがあるのか・・・」

「しかも、1ポイント使って速射が巧くなるスキルまで取ってるんです。【3級武器製作】と【3級防具製作】、それに寿命を同調させるスキルにもポイントを使ったので、スキルポイントは0です。早くレベルを上げたいんでしょうけど、無茶だけは禁止ね!」

「はいっ。目指せ【夜鷹の目】! 父さんも持ってるんだよねー、楽しみっ」

「よくわからんが、つまりは狩りに行きてえって事だよな。準備してから弓を受け取って、南門に来な。春先だから、小物は村の近くまで下りてきてるかもしれん」

「了解。じゃ、大酒飲みのー、ダッツ爺ちゃんだっけ? の鍛冶場に寄ってから行くねー」

「おい、準備はしろって」

「アイテムボックスに全部入ってるから平気ー!」


 笑顔でギルドを飛び出すリーミヤを、ジャスは呆れ顔で見送った。


「あたしらは行かなくていいのかい?」

「ああ。夕方まで近場でムームーでも探してみるつもりだ。ダラスは寝室ごもりの話でも聞いてるといい。あんまりにも背徳的な行為なら、母親が叱ってやらんとな」

「任せときな。しっかりと聞いておくよ」

「あの、夫婦の秘め事を聞き出そうとする聖職者なんて、どこの世界にもいないんではないかと・・・」

「異世界のアレが、こっちで言う禁忌的なのだったらどうすんだい。アンタも経験がないんだから知らないだろう?」

「・・・せ、性行為に禁忌があるなんて聞いた事もありませんが?」

「いいから話しなっ。良さそうなら今夜、試してみるんだからさっ!」


 それが目的じゃねえか。そう思ったが口に出せば夜が怖いので、ジャスは黙って腰を上げた。

 新婚のリーミヤとセレスに気を使い、ジャスはダラスが管理しながら寝起きしている教会の一室に転がり込んでいるのだ。聖職者とて結婚は認められているし、村の人間達もジャス達の関係は知っている。今までナアナアの関係を続けていたが、セレスが妊娠でもしたらダラスと結婚して孫の子守を楽しもうかと思っていた。

 ダラスは何と言うだろうか。断られはしないと思うが、喜んでくれるだろうか。

 いつか来るその時を想像しながら、教会に置いてある狩りの装備を取りに向かった。


「おう、来やがったかジャス」

「なんでダッツ老がいるんですか。それにリーミヤ、そのおかしな座り方はなんだよ・・・」


 南門のだいぶ手前には、腕組みをしてリーミヤを叱りつけているダッツ老がいた。

 リーミヤは土下座である。寝室ごもりの3日目に、胸でお願いしますと言ってベッドの上でセレスにしていた最大級のお願いと謝罪のポーズ。

 残念ながら、セレスとは違ってダッツには効果がないらしい。


「・・・はっ。怒られる時は、癖でこの姿勢になるみたい。それより助けて、おっちゃん!」

「どんな癖だよ。あー、ダッツ老。リーミヤが何か無礼をしでかしたんですか?」

「このコゾウ、弓の代金代わりにならねえかって、腰のナイフを儂に差し出しやがったのさ!」


 憤懣やるかたない!

 そんな勢いでダッツが口から泡を飛ばす。

 頭を大げさに下げでリーミヤはツバが顔面に直撃するのを避けたが、ダッツはそんな事はどうでもいいらしい。


「なるほど。リーミヤ、その背負ってる弓や矢筒は村の住民の結婚祝いなんだ。代金を支払おうってのは、その気持を踏みにじる行為だぞ」

「問題はそこじゃねえだろうが!」

「ええ。ですから説教のジャマはしません。狩りは明日でもいいんで、しっかりと叱ってやって下さい」

「おっちゃん!?」

「ナイフの出来とその価値は教えただろう。リーミヤが悪い」


 しょんぼりしたリーミヤを見て思わず助け舟を出しそうになったジャスだが、今後の事も考えて心を鬼にすると決めた。


「ダッツ爺ちゃん、ちょっと聞いて!」

「何をだ、コゾウ?」

「このナイフは不用意に人に見せたりしない。そして、このナイフは換金しない。だからもう許して下さいっ!」

「・・・誓えるか?」

「はいっ!」

「フン。なら今回は許してやる。それとコゾウ」

「は、はいっ」

「その手、職人の端くれと見た。暇になったら鍛冶場を使わせてやるから、そのうち顔を出しな」

「いいのっ!?」


 返事をせずにダッツはリーミヤの頭を乱暴に撫で、背を向けて門とは反対方向に歩き出す。ジャスがその背に頭を下げると、隣に立ったリーミヤも黙って頭を下げた。


「行くか」

「ごめんね、おっちゃん」

「いいさ。それより、鍛冶場を使わせてもらえるとは驚いたな」

「機械いじりばっかしてたから、手の皮が厚いし傷痕も多いんだよねえ。それを見られたみたい」

「それだけじゃねえさ。気に入られたんだよ、かなりな」

「・・・嬉しいけど、スキルとか爺ちゃんに打ち明けるつもりはないんだ」

「それでいい。隠すのも優しさだぞ」

「・・・うん。じゃ、行こっか」


 落ち込んだ様子のリーミヤだったが、門を出た途端に目つきが変わった。

 周囲を油断なく見回し、いつでも剣を抜ける体勢である。


「おっちゃん、行き先は?」

「北に向かわなければそれでいい。任せるよ。ただ、山には入んねえぞ?」

「了解。じゃ、あの山の麓まで行こうかー。行き帰りの時間は、網膜ディスプレイで計算するよ」

「頼んだ」


 すっかり雪の消えた南門の前には、隣村に続く細い街道がある。馬車は通れるがすれ違うほどの幅はない、典型的な田舎道だ。

 それをわざと逸れて、リーミヤは一番近い山を目指す。

 ポツポツと背の高いガンダルがあるが、雪がないので前回の狩りの時より歩みは速い。

 半刻、リーミヤの言う1時間ほどで、2人は山の麓まで辿り着いた。


(やっと最初の獲物だ。おっちゃん、好きなように狩ってもいい?)

(待て待て、まずは確認してからだよ。どこだ?)

(左の茂みの向こう、だいぶ離れてる。こっち、移動すれば見れると思う)

(おや、ようやく狩りの始まりかい。こっちの聞き取り捜査は順調だよ)

(・・・あうぅ。リーミヤ、話が違います。やはり普通の夫婦は、あそこまでしないそうです)

(また敬語になってるし。石鹸もない世界じゃ、まあそうなのかもしれないと思ってたけど・・・)

(一体何をしてるってんだか。お、ホーホーじゃねえか)

(でっかい鳥だねえ・・・)


 2人が見ているのは、リーミヤの腰ほどの大きさの鳥だ。

 おっとりしていそうな風貌だが、れっきとしたモンスターである。


(ありゃムームーより倒しやすいが、臆病なんで狩りづらいんだ。あんなデカイのに飛べるしな)

(アイツの攻撃手段は?)

(鋭い爪だ。だが、人間に襲われると逃げる)

(目が大っきいけど、矢が刺さったら倒せる?)

(目にあたれば一撃で死ぬさ)

(なら、行って来る。食べられるんでしょ?)

(もちろんだ。寝室ごもりが終わったから、今日からギルドの酒場は営業再開だ。いいごちそうになるぜ)

(じゃ、逃す手はないね。セレス、恥ずかしいからあまり寝室ごもりの事は言わないでよ?)

(・・・もう遅いです)


 リーミヤが茂みに身を隠すようにして進む。


(おいおい、茂みに身を潜めてんだよな? 茂みを揺らさずに進んでるってんじゃねえよな・・・)

(進んでるよー。もうすぐ、距離100)

(ジャスさん。リーミヤの職業である猟兵とは、腕利きの猟師を兵隊として使う兵種なんだそうです。こちらで言うと、腕の良い冒険者を特殊な兵士として訓練したという感じですね)

(だからっておめえ、まるで国軍の隠密部隊みてえな動きだぞ)

(まんま【隠密】ってスキルもあるからねえ。それより、射つよ?)

(あ、ああ。よく見ておくぜ、索敵と接近は見事というしかねえが、弓はまた別だからな)

(了解。薬草採取ついでに狩りをするのを認めてもらえれば、俺はそれでいいかな)

(腕次第さ)

(・・・緊張させないでよ。じゃ、やりまーす)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ