れんあいそうだん!!
まだ愛と勇気があった時代の物語
◇
始まりとは大事なものだ、だが今しばし待ってくれ先に説明すべき事がある
ウィザー族
そうウィザーという種族がいる、今目の前にいる男がそうだ。顔は四角く固そ、いや固そうと表現するよりは固定されていると言ったほうが伝わりやすいか
この男はくしゃみや咳き込みなどの動作はもちろんの事、瞬き一つすらしない、私に向けている男の目も、どこかもっと遠くの場所に視線を置いているようだ……少し気味が悪いが別段と怖がる必要はない
この男は油断はしないのだろう、隙を作りたくないと言った感じだ。例え街の中や宿の中や今いる酒場の中ですら、だ。現にかれこれ30分程いるのだかこの男は酒瓶の一つすら開けていない
ウィザーの特徴としては大柄で多毛だ、薄青の毛が顔と手のひら以外の全身に生えている。
寒い場所ではこの上なく頼もしいのだが暑さに関してはいつだって冷却魔法を必要としている癖のある奴らは
無骨で寡黙、大柄で少々細かい事と考える事が苦手な種族 これが私の印象だ
でもだからこそ話相手には持ってこいのだろう
黙って話を聞いてくれる姿勢が、私の中では好感できる
さてさて話をさせて貰おう
先月この男は冒険ギルドに訪れた、大きな体躯であり筋骨隆々のその姿は誰もが見ても偉丈夫でありこの重厚ともいえる肉体を見、私には彼が只ならぬ者だと思えた。
そしてこの男の容姿こそが事の発端となった
ウィザーという種族は皆が自身の大柄の体格を超える大剣を所持している。老若男女誰もがだそして面白い事に犯罪人でも同様である。
なのだがこの男の背中には体格には不釣り合いな小さな皮袋しか見えない。
男の容姿を確認してからギルドの連中は訝しんだ。無論俺もだ
ウィザーの連中は弱い者いじめはしない、例え相手が悪かろうとも弱いと断じれば自らは手を出さない
その証拠として自らの体より大きい剣を所持しているのだ。自らよりも大きい相手と戦う為に
自分より強いもの、自分より大きいものにしか相手にしない、それがウィザーの掟であり誇りであるのだから
つまりこの男はウィザー族でありながらウィザー族の誇りを持っていないと
彼は何者なのだろう、とその問いが俺の頭の中でモヤモヤと広がった
それをギルドの連中も分かっているからこそ男という存在に疑問視を置いている
その異様な空気に苛まれてか男は、しばらく入り口付近に佇んでいた。
やがて男と同じ種族の女が話しかけた
背丈は高く男と同じく異父堂々として長い剣を背負う足取りも颯爽としていて目には心の芯まで射抜く
ような鋭さを感じる
コレこそが典型的なウィザー族であった
その女が剣を持たない同族相手にどう対応するのか
固唾を呑んでギルドの連中は見つめる
「貴様はどうして剣を背負わないのだ!!」
地が震えるような大声だった
女の台詞は俺の期待通りの反応とでも言いようか
女は、やはり軽蔑しているのか初対面の相手に言うセリフではない事を口走る、というより怒っている
男は女の話を聞きやや黙りこけこう答えた
「ワイバーンは剣を持つか?大赤鳥は槍を使うか?
考えても見たまえ、剣を持たない相手に剣を使う自身の弁解を」
男はその後に続けて何かを言おうとしたのだけれども最初の音を発する以前にその口は女のストレートで遮られた
ゴツッという鈍い音を出しながら男は転がった
男の大きな体が2回転しそのままギルドの入り口から退場し、有効的な打撃だと誰もが確信した
それからは静寂といってもいいくらいだ
まるでギルドの中で誰も呼吸してないかのように
皆が沈黙する
続けて女は大声で
「なんだ?言いたい事はそれだけか」と怒鳴る。
その時私は思ったいや誰もが思った
お前が男の話を止めただろと。
男に同情した
だかスクッと立ち上がった男が放った言葉は衝撃的な内容であった
「すまない、本当は貴女に殴りかからなければならないのだが生憎と私は弱い奴には手は出せないのだ」
コイツは殴られたいのか、開いた口が塞がらない
俺は終わったと思った
女の方から血管が切れる音が聞こえたかと思った
本当に聞こえた訳ではない
聞こえたと思った理由は
女がその後突飛な速さで男に襲いかかったからだ
ゴツっゴツっゴツっ
堅い物を砕くような音が響く
このままでは奴が死んでしまう
呆然としてたが事の重大さに気付き慌てたギルドの連中が止めに入るまで、男は女から踵落としを食らっていた
アルマジロ体勢になった男は少し可愛いと思ってしまう
女が「放せ」とヒステリックに怒号を喚きがら数人に取り押さえられていると、騒ぎを聞きつけた野次馬の中の魔法使いの一人が何か悪い事を思い出したような真っ青な顔で男に質問した
「貴方はもしや素手のブラウンでは」
「」
その時場は一瞬にして静まり返り、次に男が言う 内容に皆が集中した
「如何にもその名は私の物だ」
服に付いた埃を落とそうと手で払いながら
素っ気なさそうに男はそう答えた
俺も含めギルドの連中は目を丸くした
五人掛かりで抑え付けられた女も目を丸くした
この冒険ギルドで アルバの怪物 と称される人間と会った者はここに誰1人としていなかったのだから
◇
ともあれ、大騒動になった日から一か月
時の流れとは速いもので
空前絶後のアルバの怪物と呼ばれた男もまたその流れに乗るように、すんなりと周りから受け入れられたようだった
そして周りとは勿論俺の事も入っている
「旦那ァあっしの生まれは黄金の国と呼ばれてたんですがねェある時黄金に目がくらんだ隣の国が攻めて来たんでさ、こちらに地の利がありすぎてあまり大きな戦にはならなかったんですがね、あっしはその話を聞く度に思ったんです、もしあっしの国に黄金がなければ隣の国はきっと攻めてはこなかったのだろうと」
「ーでは黄金とは?」
「それは呪いでさ」
「呪いか、確かそのような物語を昔読んだ事がある、黄金ではなくて指輪だったがな」
「本質は同じでありましょうて」
何かに執着する、その怖さ恐ろしさを伝えたかったのだとしたら
そう最後に俺はブラウンに言いたかったのだか
生憎と一人のレイシストによって遮られた
名をサンタンデールと言う
この章は彼を中心にして廻る
◇
冒険ギルド
田畑を荒らしにくる魔獣の駆除や渡り歩く行商人の
護衛、盗賊達の討伐や村々の用心棒兼治安維持活動
地図の空白地帯の穴埋め及び地下の魔界から噴出する魔障の除去。その他色々
国の手が回らない雑多を引き受ける形で
前の時代に旅人の駄賃稼ぎの為に作られた冒険ギルドは当世に於いてその規模は大きくなっている
サンタンデールはこの地方の出ではない。
元は没落した池主の息子であり、元は剣闘士であった
追っ手から逃れる際、まだ幼いサンタンデールを重荷だと感じたサンタンデールの母は自らサンタンデールを殺そうと努めた、だが母にとってサンタンデールとは可愛い我が子であるため中々決行でぎずにいた
そこでサンタンデールの母は
「梅の木に咲く花はとても美しゅうございます。なので今からあの木の側で死ぬ事を本願となさいませ」
あの梅の木側で自害せよと、サンタンデールに言いつけたのだか
当のサンタンデールは、訳が分からずただ泣き叫ぶばかりであった
サンタンデールを死なす事が出来ないサンタンデールの母は苦し紛れに自分の息子を奴隷商に金貨二枚で売りつけたのは、今から7年前の事だ
7年という歳月はとても長い
7年あれば
ブブルゼブラの街から王都を結ぶ街道が出来
交通が容易になったお陰か若い男衆が次々と村を離れたため、村の人材が不足し始め
その現状を嘆いた隻腕の元騎士が、闘技場から有能なそして剣奴の若者達を連れ出し、その村に新たにギルドを立ち上げるまでの時間を一年余らせて完了出来てしまうくらいなのだが、サンタンデールにとってみて7年とはあっという間としか答えようがなかった。
サンタンデールは剣奴上がりである
金貨二枚で売られた後、細めであるが年に似合わず背の高いサンタンデールにたいして
奴隷商は剣術を習わせた。今は余り値は張らないものの、一年もすればこの奴隷は格段に伸びると読んでの投資である。
かくして奴隷商人の読み通りになりサンタンデールの腕前はメキメキと上達していく
サンタンデールにとってみれば
ただ剣を振り回していればいる程飯が豪華になるので、振り回していただけの話だが
僅か半年で奴隷商人の予想以上の身体能力を手にしたサンタンデールはそこそこ名のある闘技場から金貨20枚で買われ、「林檎樽が馬車になった」と奴隷商人からお礼をいわれる事となった
サンタンデールは闘技場での事を余り覚えていない
だからあっという間としか答える事が出来なかった
闘技場での事をサンタンデールが余り覚えていないのは退屈だったのではないのだろうか、
闘技場とは今や名前だけで真剣であっても真剣勝負などではなく、命の奪い合いなど起こる事もなくプロレスと化したショーを延々と続けなければならい事にサンタンデールは腹に据えかね、等々闘技場の役員に食って掛かった
「人を斬らせろ」
剣術は扱えても礼儀は教わらなかったサンタンデールの言葉は酷く乱暴であった
闘技場の役員らはサンタンデールの怒りをどうしたものかと思い悩んでいた
確かに闘技場は昔は"ちゃんとした殺し合い"を行っていたのだが、チョビチョビと安全圏から剣を小さく突いて相手の消耗させる事でしか勝つ術がなく、その理論が確立されれば大抵の場合長丁場になる。
当初は殺し合いと聞いて興奮していた観客達も一試合に小一時間もかかるようになると次第に飽きが来て、闘技場から客足が遠のいてしまった。ちゃんとした殺し合いとはすべからく地味であった。また一度剣奴が死ねば、また奴隷商人から人間を買わなければならず、闘技場側にとって真剣勝負とは正に貧乏神そのもので昨今では真剣勝負は拳で闘う事を言うまでになった
闘技場にサンタンデールが初めて顔を出したのは
背丈が大人と対して変わらなくなっていた頃だ
奴隷商人が貴族ご用達の剣術道場にサンタンデールを通わせたせいもあり綺麗な型で剣を構える
そこに自己流の理論を組み合わせるとサンタンデールはまるで風車のように己を中心に体を回転させながら剣を振る。
その様は粋であった
一目見れば観客達はサンタンデールの剣技に魅了され、二目見れば観客達はサンタンデールの虜となり
、闘技場にとってサンタンデールは一輪の花となった
そしてサンタンデールは煽てれば頭に乗る事を忘れない
武器屋とは闘技場にとってスポンサーであり
闘技場とは武器屋にとって宣伝の場である
大手の武器屋では剣奴に自分の武器を装備させ、自分の武器の仕上がり具合叉は切れ味を観客達に見せつける。
剣同士が衝突した際、どちらかの剣が折れたり、
剣を盾で防ぐ際も、盾が破損したりと、不備や欠点が刮目の元に晒されるので
見世物としてでも実践に近ければなおのこと世間の注目は剣奴が装備する数多の武器、数多の防具に向けられる。
闘技場の花と化したサンタンデールに幾つものそして有力な武器屋、防具屋の店主達が声をかけるのは
至極当然の流れであった
自分のクライアントを持ったサンタンデールは、武器、防具屋の商人達から是非自分達の品を使ってくれと、剣と共に銀貨が贈られたり、サンタンデール自身の汗を香水として女性達に高値で売られたり
、豪商達のパーティーに呼ばれたり
奴隷として身分でありながらその他大勢の市民よりも良い暮らしをしていた
ある時何時もの名のある武器屋が主催するパーティーに参加していた時のこと、サンタンデールに
「貴方が扱う剣術はとても美しい、しかし貴方が扱う剣術が美しいのは実践ではないからだろう、もしかりにちゃんとした殺し合いを行えば、貴方はたちどころに負けるのではないか?」
そう問いかけた者がいた
酒の勢いとはいえ聞き捨てならない事を言われたサンタンデールはパーティーを途中で抜け出し
闘技場にある宿屋に閉じこもり
「人を斬られせろ」と言うばかりになった
闘技場の役員達は困りはて
一度くらいは実践をやらせてやっても良いのではないか、とそう結論付けた
この役員達の決断はサンタンデールにとって悲劇であったが、サンタンデール以外にとっては喜劇になった
王都の花々が咲き乱れる季節に行われた
サンタンデールの為の"ちゃんとした殺し合い"に
付いて余り詳しくは、話さないでおこう。
その方が面白いから
ただこの試合に於いて初めてサンタンデールは臆病者の称号を得た事を記述しておく
試合の後サンタンデールの評判は急落し、隻腕の王都直属の騎士だった男に僅か20枚の銀貨で買われ、小さな村にサンタンデールは移住する
それから二年後
サンタンデールは解放奴隷となり
村のギルド直属のBクラスのハンターとなり
今日もサンタンデールは多くの仲間達と共に酒を飲みにギルドへ戻る
一週間前に仲間と共に選んだ仕事を片付けたサンタンデールは道具の後処理を終えギルドへ帰った夜、ブラウンに相談したい事があった
何時もよりも遅く来たせいか
ギルドの温かいそして賑やかな室内へ入ってみれば
ブラウンは背中越しで有角族の男と話をしていた
サンタンデールはその時、無性に腹が立ち有角族からブラウンを離そうとブラウンの目の前の椅子に腰掛け話かける
「そういえばあん時もっと早く話していればお前さんも蹴られずに済んだものを」
「あの時とは何だサンタンデール」
「お前さんが転がった日だよ」
「あれか」
「自ら名乗るのが嫌いなんだ、自慢しているようで気に食わない、というより入ってすぐ殴られるとは思わないだろ」
普段は冷静な女があれだけ怒るとは私も思わなかった、矢張り同じ種族として何か想う事があったのだろうか
「まあ確かにな」
「んー何の話だニァ?」
後ろから抱きつかれた
肩に重みを感じる
泥酔したジュリアが話の中に入ってこようと近寄ってきた。初日にブラウンを殴った女だ
「お前がブラウンを殴った話だよ」
「あの事かニァもうあれは、おしまいで良いとブラウンは許してくれたニァ」
「ジュリア、ブラウンはまだ根に持っていたぞ」
口を顔に近付けるな酒臭い
ジュリアはブーと嫌そうな顔をした後急に解決策を思い出したような
パアと豪雪から向日葵が飛びだした所を目撃したような顔になって
「しょうがニァいニァ特別にニァア自慢の乳を揉んでいいニァ♪」
そしてブラウスの紐をほどこうとしている
「こ、断らない!」
ブラウンは立ち上がりジュリアの胸元に手を合わせる
神様か何かとブラウンは勘違いしているらしい
「はい其処まで、お前今回こっちの班じゃねえだろ部外者は余所へ移動しな」
シッシッと犬を追い出すような仕草をすると、ジュリアは
サンタンデールはおせっかちだニァと言い残しその場を後にした。普段はクールで男勝りな女が酔っぱらうとニァニァ言いながら男に甘えてくるのはブラウン的にはどうだろうか
「あの女は何時も酔うとああなのか?」
ジュリアのフラフラと歩く後ろ姿を見ながらブラウンは尋ねた
「ああって?」
「ニァ」
「ああ ああそうだぜ、大体翌日になって私はなんと愚かな事を、とか何とか仕事中に叫んで、またそれを忘れようと酒飲んでまたニァニァ叫ぶの繰り返しだニァ♪」
「寄せ、大の男がやると虫唾が走る」
虫唾が走るとはブラウンは言い過ぎではなかろうか
ひょっとしてこの男は本当に揉もうとしたのだろうか
彫刻を思わせる滑らかな青白い素肌、ウィザー特有の大きな胸元。幸いな事に毛深いのは男性だけだという事実がどれ程救いか
「分かったニァ♪」
「畜生め、可愛いから許す」
ブラウンは表情は読めないが話してて面白いな
「あれは青かったからな」
「何だよ急に」
「悲劇だよサンタンデール、アイツの肌を見た時からこうなる事は決まっていたのさ」
「で俺に頼みたい事があるんだろ」
恋愛相談とブラウンは最後につけ加えた
「まあな、だからこそ今目の前にいるのだが」
「本題に戻るとして実はな、とある知り合いが意中の相手にラブレターを書こうとしているんだが中々上手くいかんらしい、俺が何とかしよう
としたんだが、最初の文面から思いつかん。其処でお前ならどうするか参考までに詳しく聞きたくてな」
そう言えばブラウンは酒に手を付けないな
油断するとかいう話ではなく矢張りあの女と同じようにウィザー族は酔っ払うと周囲に甘えてくるのだろうか
先ほどブラウンが「大の男がやると虫唾が走る」と言ったのは、もしかしてそれはブラウン自身の事ではと考えてしまう
「ふむ」
ブラウンは沈黙する
而して言うなればコイツは表情が変わらないので考えているのか、ぼうっとしているのかハッキリしない
「それでその女性はお前の知り合いの顔を見た事があるのか?」
「いやないらしい、というより相手は高貴なる人物で夜空を窓から見上げる物憂げな表情しか見ていない。それがたまらんらしく、てなどうにか接点を作ろうと手紙を書く事にしたと」
「なる程」
「そうかそうか」
また暫く黙りこむブラウン
「分かった1日だけ時間をくれ俺が何とか手紙を書いてやる」
快諾と言っていいくらいだまず知り合いの容姿や性格などを質問したのちもう何時間かは考えるのに
「おお意外だな何時もなら但しイケメンに限るとか付け加えるのに」
「何友人の為、その程度の事お安いご用だ」
では失礼すると言い残しブラウンは酒場を後にした
ブラウンが宿でどんな恋文を書いて入るのだろう想像しながら、暫く1人で飲んでいると、隣で話しを盗み聞きしたであろう有角族の小柄な男がニヤニヤしていたので、何か文句あんのかと言うと
「いや旦那にちょっと質問がありやしてね?」
「何だ言ってみろ」
有角族の男は常時ニヤニヤしながら
では「チョイと失礼して」と続き
「旦那は一言でも意中の相手が女性とハッキリ申されましたかねぇ?」
「………」
糞
しくじった
サンタンデールの舌打ちは有角族の男にしか聞こえなかった




