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黒旋律の歌姫  作者: 梔子
二章【再会編】
31/64

冒険者の国

今回は別視点です。


とある国の、あの男がチロッと出てきます。

ガンダリュートの首都、リュートは三方を大河に囲まれた土地だ。かっては雨が降る度に洪水が起きる土地であったが、初代国王が治水工事を行い、人が住めるようになった。


三方を大河に囲まれた此処は、天然の堀に囲まれた守にたやすく攻めるには難しい。また、大河を有すことで船舶貿易が盛んになり街を潤した。


この国は元々は流浪の民により建設された国だ。初代国王時代、彼等は今の冒険者が行う仕事を各地を周りながら行っていた。彼等は悪魔と呼ばれる異形の民であった。


彼等は今で言う魔人だが、当時の価値観では、強すぎる魔術を操り奇抜な髪色などの姿をした彼等は畏怖と恐怖の対象だった。一部の回復術に恵まれた美しい外見の者は神の使いとされていたが、それ以外は悪魔と呼ばれ生まれた土地を追われていた。


孤独に飢えた彼等はいつしか同じような悪魔と群れ、同時に各地で忌まれる人々と集まりとある団を作った。


それが【離れがたき旅団】彼等の【家】である。強い力を持つ彼等は魔物を狩る仕事を請け負った。当時、魔物は汚れた物とされ、殺せば呪いを受けると信じられていた。魔物狩りは汚れた仕事。彼等にはそれしか、金を得る仕事はなかった。


魔人達なら狩りができよう。上手い獣を狩れよう。だがしかし、悪魔が狩ったソレを買うものは誰もいなかった。


だから、魔物を狩るしかなかった。通常の者では小型の物でも命の危険がある魔物狩り。希少価値が高いソレや人的被害の高いソレを狩る事が唯一の残された稼ぐ術だった。


飢えは魔術や狩りで癒される。だがしかし、人間が人間として生きるにはそれだけでは無理だった。


道具はどうする?

衣服はどうする?

野菜はどうする?

倒れた幼子を治すには?

子供達への知識は?



野人と同じ生活をするなら金はいらない。だがしかし、守るべき者に辛い思いをさせたくなかった。


だから旅団の大人達。働ける者は年齢性別関係なく、彼等は狩りに向かった。


時には魔物に苦しめられる寒村に法外な金品を求め、貪欲に魔物を狩る彼等は厭まれた。


石や汚物を投げ付けられながらも、金色に輝く金属の塊が満ちる革袋を握りしめた。


そんな彼等が得た住家がガンダリュートである。


当時、一帯を治めていた国に住み着いた狂竜退治。


魔人でさえも多くの被害者を出した一大仕事。その対価によって得た土地がこの中洲土地である。


クシュナとの関係はこの時から始まる。


土地を得た当時の旅団は傷付いていた。彼等の財産を狙う略奪者から領地を守りながら、家族を養うことは困難だった。当時の価値観では【悪魔】である彼等から何かを奪っても良かったから、土地を得た彼等は絶好の獲物だったのだ。


何より、悪魔が何かを得る事は生意気だと誰ともなく言っていた。彼等に魔物狩りと引き換えに、家族の命を救う事を引き換えに金品を搾り取られた民達が、自分達を救ってくれた傷付いた戦士に刃を向けた。


復讐だと道理が通らない言葉がまかり通った。


それを主導していたのが狂竜退治を依頼した国であった。国は奪われた土地を奪い返そうとした。それでも彼等は逃げなかった。それほど、彼等は帰る場所に、故郷に飢えていたからだ。


だがしかし、その時僅かな人々が立ち上がった。憎まれる彼等を援護し、護った人々。


それがクシュナだ。


クシュナの人々は旅団に物資を運び、男達は剣を持ち、女達は幼い者を世話し傷付いた悪魔を助けた。


何故と呟く初代国王に、当時のクシュナの姫君は微笑んだ。


クシュナに毒を吐く魔物が現れ、水を汚し、贄を求めた時。誰も助けてはくれなかった。ただ哀れだと歎きながら救いはなかった。


だけど、たった一人が助けてくれた。それが貴方。毒により右手を無くそうとも貴方は救ってくれた。


それは金の為だ。


嘲る初代国王に、姫は毅然と答える。


金の為であろうとも、巨躯の魔物に立ち向かった貴方が恩人である事はかわりません。貴方が私達の為に血潮を流し傷付いたのは揺るぎのない事実なのだから。


微笑む姫君に、悪魔達は何故か涙がとまらなかった。


クシュナの者の彼等の反抗は小さかった。だがしかし、彼等によって流れは変わった。


世情に違和感を持つが周りに流されていた者が、クシュナの者を見て行動した。


それは小さな小さな動きだが、奔流へと変わった。


そしてそれは数年の動乱に変わり、結果的にガンダリュートは国となった。


それから何百年。


彼等は必死に働き、ギルドを組織した。魔物狩りを改名し、自らを冒険者と名乗った。以前の横暴はなりを潜め、他者との理解に努めた。以前の危機は、生きる為とはいえ、横暴過ぎる自らの行いのせいだと理解したからだ。


彼等の努力や学力の向上により魔人達の差別は無くなり、地位は向上した。魔物狩りは冒険者と名を変えて認知され、人々が憧れる、人を護る英雄職となった。


そんな建国の由来からか、ガンダリュートは【剣は護る物】という認識が強い。それ故か彼等の土地は、華やかな戦果に比べて小さい。これは彼等が侵略を好まないからだ。


あくまでも彼等が戦うのは自国や同盟国の防衛の為。。それが


■■■■■■■■■■■■


「剣と冒険の国ガンダリュートねぇ……」


とある城の一室にてソファーの上にだらし無く横たわる青年が軽く呟いた。


軽い……。


それが青年を表現するに最も最適な単語だ。高めの声音は美声と言って良い程なのに何処か軽く、言葉に重みがない。ひょろ長い体躯も身軽な印象だ。身嗜みを気をつけている様子は、彼の身分を考えれば当然で、真紅の髪をオールバックにしているのも違和感がないのだが、やはり軽い軽薄な印象を与える。


青年は自国の歴史が書かれた本を放る。すると文官が不機嫌に受け止め、本の角を叩きつける。


青年の額に…。


「ぶげら!?」

「あっすみません」

「何してんだよ!」


涙を流しながら怒る青年だが、やはり言葉が軽い。本気で痛がっているか疑問に思ってしまう。


「誠に申し訳ありません。つい……」

「ついって!?」

「心から反省しております。医者を呼んで無事か確認しましょう。本の……」


文官は心から謝りながら、主人ではなく本を心配そうに見遣る。彼は本気で後悔していた、この希少価値が高い歴史書で主の頭を殴った事を。


敬愛する初代国王の英雄談を書いた本で殴るなんてなんてことを!?殴るなら私が所有する量産品で殴れば良かった!!


苦悩する美しい顔を見上げた青年は溜息をつきながら横たわる。


「本当にお前は初代が好きだよな」

「はい。殿下に同じ血が入っているなんて失礼です。謝って下さい」

「お前が失礼だよ!」

「……ハア」


溜息をつく文官の、主を主と思わない態度に青年はツッコミをいれる。


「歴史マニアが…。お前ってさ、だからフォルテス達を贔屓してるのか?」

「そうですね。否定は出来ません。彼等の英雄談は正に」

「初代の再来だな。その経歴とか冗談みたいな強さとかな。先日、フォルテスの奴ったら、初代と同じように海を割ったしな。あれ、マジで大変だったんだぞ。海流変わったって地元の自治体から大非難の嵐で、そんな所も初代と同じにすんなよ。後始末大変だったんだからな。町では初代の再来とか言われてるし、スゲー人気。直系としても、親父も気にかけるわな」

「それを台なしにしそうになった張本人が、何を宣ってるんですか?」

「酒が……全ては酒が悪いんだよ……」


酒に酔い、貴族の子弟が集まるパーティーにて、自分の直属部隊の隊長の秘密をゲロッてしまった王子は、わざとらしく泣き伏した。


十年間秘密にしていた英雄からしたら憤怒ものだ。捜し人の性別や特徴等を言わなかったのが、せめての救いか……。



「はいはい。自分のケツは自分で拭いて下さい。殿下のヘマの結果である、パクス氏の捜し人候補達をどうにかして下さいね。馬鹿な詐欺師は私達がぶっ飛ばしていますが、中には高位貴族の姫君とかいて私達では対応することは無理です」

「げっ!?」

「夢見がちな乙女は怖いもの知らずですからね。頑張って下さいませ」


最後に絶対零度の目線で言い放った文官は、部屋から足速に立ち去った。


一人残された王子はガクンと首を垂らすと、脱力してソファーに横たわった。


「ハアー。まさかこんなに有象無象が集まるとはな。アイツの人気舐めてたわー。アイツに助けられて一目惚れした奴らの多いこと多いこと…」


先日から絶え間無く問い合わせをしてくる大臣や貴族達を思いだして溜息を吐き、眉間を揉んだ。


先程までヘラヘラしていた王子の表情が変わっていた。


「さっさと手をうたねーとな」


実は彼が情報を漏らしたのはわざとだ。それには理由があった。


民衆の目線をごまかす為だ。


先日、フォルテス達はシレービュ出身の魔術師を救った。それが一時期、国内を騒然とさせた。


彼等は、とある町で捕われ迫害されていた女魔術師とその女児を救ったのだ。それは王子から見ても当然と言えた。だが、この国は先の戦のせいでシレービュ出身の魔術師に対する風当たりが強い。


アレルギーと言っても良い。そして、フォルテス達は十年間で救い過ぎた。


民が語る英雄像は天井知らずで高くなり、実際の彼等との開きは大きくなる。実際は英雄とは程遠い異端児ばかりなのに、華やかな戦歴や彼等の麗しい外見に惑わされる。


そして、民衆は自慢の英雄達に悪役であるシレービュの魔術師を倒して欲しいのだ。


だからこそ、シレービュの魔術師を救った事に驚愕した。魔術師がどんな人物か関係ない。感情が拒絶する。


民衆とは勝手に作り出した期待を反古にされると怒り狂う者だ。


何故、シレービュの魔術師を救ったのか?もしやシレービュの魔女に若き英雄は誑かされたか?


そんな根も葉も無い流言が流れた。そんな時に突然知らされた英雄の捜し人の存在。


捜し人は貴族出身の絶世の美女。いや違う、生き別れになった幼なじみだ。


様々な噂が流れ、人々の意識は一気にソチラに向いた。そんな捜し人がいるなら英雄は魔女には誑かされなかったのだろうと、流言や反感はいつの間にかなくなった。


民衆とは単純なものである。


今回は大事にならずに済んだ。だが、騒動を利用した一部貴族が彼等を潰そうと動き出していたのだ。


腹芸を嫌う彼等は何かを救うのに躊躇しない。腹心をつけたが、そんな事はどこ吹く風。忠告をしようとした瞬間に、既に突っ込んでいる。


権力にも、評判にも屈しず、自らに従い救う。だからこそ、反感も買いやすい。


今は彼等の身の振り方は認められている。だがしかし、態度を改めなければ、いつか重大な災いが起きるだろう。


「だけど、そんな奴らじゃねーんだよなー」


彼等は別に今の地位に固執していない。化け物の討伐と捜し人の探索に都合が良いから居るだけだ。(あと王子が土下座した)


彼等は上流階級に全く興味がなく、出世しようという意志はない。単純に今の立場は、彼等からすればギルドの延長、王子に雇われているという考えなのだ。


だが、英雄となった今はそれでは駄目だ。


せめて貴族には相応の対応をしてもらわないと。


じゃなければ、いつしか彼等は国での居場所をなくし、彼等も未練なく国から立ち去ってしまうだろう。


それはいけない、彼等は国に必要だ。


英雄の存在は軍の士気に直に影響する。他者では無理な偉業を成し遂げる彼等。


シレービュは解体され、現在はガンダリュートが仮統治している。表立って抵抗する勢力はない。なのに、化け物の災害は逆に増えている。


去年は大群が現れた。もし、彼等がいなかったらと思うとゾッとする。


彼等は必要不可欠だ。だが、他にも理由がある。


「俺もお前に負けない位好きなんだよ初代をさ。だからこそ、そっくりな奴らに捨てられたくないわけよ。この国を故郷にして欲しいんだ」


そう、呟やく彼は単純に英雄達が、気のおけない友人達が好きなのだ。


だからこそ、言われのない悪評を受けて欲しくない。そして救われて欲しい。


「何処に居んだよ天使君よー」


悪魔が執心する天使。フォルテスの仲間以外でそれを知る数少ない人物である彼は、頭を抱えた。


十年間、戦後の混乱の中で様々な人物が探した。国とは違った情報網を持つギルドや自分も密に探した。彼等の出生を知れば、おおっぴらには出来なかったからだ。


だがしかし、天使は見つからなかった。


優秀な者が集まり、これだけ探しても見つからない。


彼はもう既に……。


誰も言わないが、そんな空気が広がった。捜す場所は次第に少なくなり、息が詰まる厭な空気が広がった。

そこで騒動を引き起こし、ソレを一新させようとした。


それに、今の国内では探し人への関心が高まっている。何か有力な情報が集まってくるかもしれない。


彼も、そんな都合良く情報が集まるとは思ってはいない。だからこそ、詳しい特徴は流さなかった。


手詰まり感が出てきた仲間達へのイベントだ。有力な手ではないのは、本人が一番理解している。


「馬鹿なイベントは俺様に任せな」


軽い王子はうそぶきながら天井を見上げる。キラキラとシャンデリアが輝いていた。


「お調子者も大変な訳よ」


溜息を吐く王子は、少し老けて見えた。



■■■■■■■■■■■■


とある宿舎の中を走る少年がいた。


歳の頃は十代前半。栗色の瞳はクリクリと良く動き、長い茶髪はボサボサで、問答無用と言わんばかりに頭頂部で一つに纏めている。顔には絆創膏が貼られ、それは彼の腕白さを意志表示しているようだった。


近所の腕白坊主といった外見には似合わず、その身に纏う衣装は分厚い生地で作られた、堅苦しいデザインの紺色の衣装であった。開襟型の上着にはポケットが幾つもあり、中には黒いシャツを着ている。足元を守る頑丈なブーツや、邪魔くさそうにベルトに挟まれた同布の制帽。


機能的なデザインや国属を表す黒金の鎖が胸元に飾られているから、恐らく軍服の一種だと思われる。


だが、それはシャツの裾が飛び出たりして、だらし無く着崩されている。下に穿いているのも、カーゴ生地の動きやすいズボンであるが、多分勝手に穿いているのだろう。


そんなヤンチャを絵に書いたような少年の片手には、不釣り合いな可憐な封筒。可愛いらしい小さな花柄が刻印され、フンワリ甘い香りがする。


少年はとある部屋に辿り着くと、グフグフ笑いながら扉越しに中の人物に話し掛けた。


「たいちょーたいちょーたーいーちょー」

「……うるせえ」


ドンドンどころか、扉を蹴ってガンガンと少年が騒音を響かせていると、扉の向こうから明らかに不機嫌な声が響いた。


重低音の声で単語しか話さない口調は、彼の不機嫌さを隠していない。


まるで生皮を剥がれそうな声音だ。だがしかし、少年は気にもしない。


逆に、声を聞いて部屋の主の不機嫌さを感じた少年は、ニンマリと嬉しそうに笑った。


「隊長ー。また、あのお嬢様から手紙がきてるよー」

「あ?」

「だから!お嬢様!運命の相手がどうたらこうたら言ってた娘!」


少年の言葉に心当たりがあったのか、深い深い溜息が聞こえた。


「くそっ……馬鹿王子が」

「ねーどーすんのー?」


毒づく声を聞いた少年は、ペラペラと封筒を振る。すると、面倒臭そうな声が返ってきた。


「お前が返事を書いとけ」

「マジで!?僕の芸術的感性爆発させて良い?」

「おう、やれやれ」

「よっしゃー!!」


王子様の気遣いを知らず、英雄達は相変わらず唯我独尊である。

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