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竜王の求婚は本能でした ―手の甲の紋様より、あなたの「好き」が欲しかった―  作者: チュチュ


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エピローグ


王城に戻った日、俺を迎えたのは、以前とは全く違う空気だった。


「カイン様、お帰りなさいませ」


使用人たちの笑顔には、心からの祝福が滲んでいた。側妃という立場に脅かされることのない、ただ一人の伴侶として迎えられる日が来るとは、街を出た当初、想像もしていなかった。


正式な婚姻の儀は、国中の祝福を受けながら執り行われた。祭壇の前に立ち、陛下と向き合った瞬間、俺の脳裏には、これまでの日々が次々と蘇った。


夜会で「随分夢見がちだな」と笑われた、あの夜。手の甲に紋様が浮かび上がった、驚きの瞬間。側妃という現実に打ちのめされた、初めての夜。本能と愛の違いに気づかされた、あの一言。そして、自分の意志で選び取った、別離と再会。


「誓いの言葉を」


神官の声に、陛下は俺の目をまっすぐに見つめた。


「私、リーンハルトは、カインを、運命としてではなく、自らの意志で選んだ、生涯ただ一人の伴侶とすることを誓う」


その名を、俺は初めて知った。ずっと「陛下」としか呼んでこなかった人の、本当の名前。その名を胸に刻みながら、俺も誓いの言葉を紡いだ。


「俺、カインも、リーンハルト様を、生涯ただ一人の伴侶として、誇りを持って隣に立つことを誓います」


割れんばかりの祝福の声が、広間に響き渡った。


儀式の後、しばらくして、リディアから一通の手紙が届いた。大使として奔走する日々の様子が、生き生きとした筆致で綴られていた。文末には「あなたのおかげで、自分の道を見つけられました」という一文が添えられていた。


エルヴィラからも、便りが届いた。幼馴染との再会は、決して簡単なものではなかったらしい。それでも、時間をかけて少しずつ、かつての想いを確かめ合っているという。「焦らず、二人のペースで歩んでいくつもりです」という言葉に、俺は静かに安堵した。


セシリアからは、まだ手紙は届いていない。それでも、いつか、彼女が見つけた景色の話を聞かせてくれる日が来ると、俺は信じていた。


夜、寝室の窓辺で、リーンハルトと二人、星空を見上げていた。


「今日は、疲れただろう」


「はい。でも、良い疲れです」


「これからは、こういう日々が、当たり前になる」


リーンハルトが、そっと俺の手を取った。手の甲の紋様に、彼の指が優しく触れる。


「この紋様が、運命の証だと知らされた夜のことを、覚えているか」


「もちろんです」


「あの時は、これが何を意味するのか、私自身、深くは考えていなかった。ただ、当然のように与えられたものとして、受け入れていた」


「今は、違うんですか」


「ああ。今は、これがあってもなくても、私はお前を選んだと、そう言い切れる」


その言葉に、俺は静かに微笑んだ。運命という言葉の呪縛から、二人とも、ようやく解き放たれたのだと感じた。


前世で言えなかった「一人だけを好きになりたい」という願い。今世で「贅沢な願いだ」と言われた望み。そのどちらも、もう恥じる必要はなかった。


隣にいるこの人を、誰に憚ることもなく、胸を張って愛せる。それだけで、俺の人生は、これ以上ないほど満たされていた。


窓の外、満天の星が、二人を静かに見守っていた。運命でも、義務でもなく、互いの意志で選び取った未来が、これから先も、穏やかに続いていく。


俺は、そう確信しながら、隣にいる人の手を、そっと握り返した。


――了――

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