■第10話『終わらせるための存在』
——世界が、戻る。
音が、戻る。
銃声。
足音。
風。
すべてが、一斉に流れ込んでくる。
「……っ!」
息を吐く。
さっきまで見えていた“別の結果”が、薄れていく。
だが——
消えない。
あの光景。
彼女を失った後の、自分。
あれは、ただの幻じゃない。
「……なあ」
彼女を見る。
「これ、何なんだ」
彼女は、すぐには答えなかった。
ただ、静かに周囲を見ている。
兵士。
進化体。
そして——俺。
「……たぶん」
ようやく口を開く。
「終わってるのに、終わってない」
「……は?」
「この世界、一度ちゃんと“終わってる”の」
背筋が冷える。
「でも、そのあと……やり直されてる」
「誰が」
即座に返す。
彼女は、首を横に振る。
「分からない。でも——」
一歩、前に出る。
進化体を見つめる。
「“あれ”は、知ってる」
その瞬間。
進化体が、ゆっくりとこちらを見る。
そして——
「……理解……近イ」
はっきりとした言葉。
空気が張り詰める。
「……お前ら、何なんだよ」
思わず口にする。
すると——
「……観測者」
その一言で、全てが歪む。
「……は?」
「世界……壊レタ」
ゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「次……選ブ……必要アル」
その意味。
直感で分かる。
「……選別、か」
進化体が、わずかに頷く。
「強イ……適合……残ス」
「弱イ……消ス」
兵士の一人が、焦った声を上げる。
「ふざけるな!そんなもの——」
その瞬間。
進化体が動いた。
一瞬で距離を詰める。
そして——
兵士の言葉は、途中で途切れた。
「……静カニ」
低く、呟く。
完全に、“上位存在”。
それを見て、理解する。
人間側も、ただの生き残りじゃない。
だが——
届いていない。
「……じゃあ、俺たちは何だ」
視線を向ける。
「選ばれる側か?」
進化体は、少しだけ考えるように動きを止め——
「……違ウ」
そして、言った。
「お前ハ——“終ワラセル側”」
「……は?」
意味が分からない。
「ループ……原因……異常……」
ゆっくりと、言葉を重ねる。
「排除……出来ナイ……存在」
心臓が、強く打つ。
「……俺が?」
「ソウダ」
進化体の目が、真っ直ぐこちらを射抜く。
「お前……毎回……残ル」
「世界……終ワラナイ」
その言葉の意味。
ゆっくりと、染み込んでくる。
——俺がいるから、終われない。
不死。
再生。
それは“生き残る力”じゃない。
“終われない原因”。
「……ふざけんなよ」
笑いが漏れる。
「じゃあ何だ」
「俺が全部の元凶か?」
進化体は、否定しない。
それが答えだった。
そのとき。
「……違う」
彼女の声。
振り向く。
彼女は、強く首を振っていた。
「違うよ」
「あなたがいるから、終われないんじゃない」
一歩、近づく。
「あなたがいるから——変えられる」
「……っ」
その言葉が、刺さる。
今まで見てきた“結果”。
全部、同じだった。
全部、壊れて終わった。
でも。
「……今回は違う」
彼女が、はっきりと言う。
「ここで止めた」
「あなたは、私を壊さなかった」
その事実。
それが、初めての“分岐”。
「……だから」
彼女は、俺の手を取る。
「終わらせるんじゃなくて——」
「終わり方を、変える」
その言葉で。
何かが、繋がる。
終わらない世界。
繰り返される結末。
そして——
“例外”の二人。
「……なるほどな」
小さく息を吐く。
「だったらやることは一つだ」
視線を上げる。
進化体。
兵士。
この世界全部。
「ぶっ壊すんじゃなくて——」
一歩、前へ。
「選び直す」
その瞬間。
進化体が、わずかに笑った。
「……可能性……確認」
世界はまだ、終わっていない。
だが。
初めて——
“変わる可能性”が生まれた。
——それが、どんな結末になるのか。
まだ、誰も知らない。




