10:もう一度と希う
ここで力尽きました
申し訳ございません
「初めまして。ラピスと申します」
まず覚えたのは違和感。
初めて会うというのに、初めてではない感覚。
何より、もっと“違う”と思ったのは。
(これは、作り笑いだ)
子どもにしてはやけに上手な作り笑いだった。
大人顔負けの本心を覆い隠す立派な仮面を付けて、婚約者となった少女は僕に挨拶をする。
(不気味だな)
率直な感想が思い浮かんで、どうしてか心臓が竦む。
悲しい、と思ってしまう。
どうして初対面の相手に、そんなことを思うのか。
その後、貴族間における付き合いでの成り行きで、彼女との婚約が決まる。
不可解な違和感を抱えながらも、彼女に会いに行くのは面倒に思わなかった。
会う度に顔をじっと見る。作られた笑みの向こう側を見ようと躍起になった。
不思議なことに、どういったものを好むのか何となく分かった。
作り笑いの仮面から覗く小さな機微。それはとても希少で────僕にとって、かけがえのないものになる。
なんでも与えたくなった。ラピスが望むなら、どんなことでもできそうだと思えた。
しかし、当の彼女は何も望んでいないようだった。欲しいものはないかと尋ねても、無いと言われてしまう。
好きそうなものは分かるのに、贈っても喜ばない。喜ぶ振りばかりして、決して仮面を外したりはしなかった。
(どうして)
違和感は降り積もり、溜まり込んで。自分の中では既に山と化している。
そうなると、意味の分からない焦燥も表れてくる。
(このままではいけない)
どうにかして彼女を喜ばせないと。
作り物ではない、本物の笑顔を見ないと。
そう思ってしまう自分に、何故と問う。
(たかが政略結婚)
(本人の意思など関係なく成立している間柄以上に、何を求めるというのか)
ある日、彼女の友人が治めているという領地へ赴いた。
王都から離れた地でありながら、長閑で治安の良い場所だった。
ラピスは楽しそうだった。笑顔は見られずとも、今までで一番気を許しているようだった。
────僕の存在を、忘れたように。
また、心臓が竦む。
泣きたくなった。彼女は何も悪くないのに、「僕を忘れるな」と恫喝したくなった。
それから、ありもしない情景が脳裏に浮かぶ。
彼女は無邪気に笑う。
ちゃんと僕の目を見て笑う。
僕の隣で楽しそうに、嬉しそうに。幸せそうに笑う。
────最期、全ての色をなくして、僕のもとを去る。
違和感の正体に、ようやく気が付いた。
“これ”は何度目なのだろう。
僕は今までどれほど、彼女を傷付けたのだろう。
ただ間違いないのは────ずっと欲しかったものは、僕自身が無惨にも踏み躙って、棄ててしまったものだということ。
自分の中のひどく醜い感情に気が付いてしまい、本当に吐きそうになる。
彼女のことが好きで、好きで堪らなかった。ずっと自分のものにしておきたくて、見当違いなことをして。裏切り、騙し、利用して、殺した。
彼女を自分に縛り付けるためだけに。自分への彼女の愛を確固たるものにするために。
自ら彼女を、地獄へと叩き落としたのだ。
後悔と自責がとめどなく溢れて、最後にぽつんと取り残されたのは。
「離れたくない」
失われた、手放してしまった幸せを渇望する。
「僕の隣で、笑ってほしい」
それだけでいい。君が、傍に居てくれるのなら。
それ以外は何も望まないから。
「もう、僕から……逃げないでほしい」
書けているのはここまでです
お付き合いいただきありがとうございました




