0:何度目かのお別れ
愛するゆえにお互い狂った男女のお話。
薄暗い地下牢にひとりの女が繋がれている。
明日には断頭台の露となる命であるはずなのに、恐怖に震えることなく、平然と静かに過ごしていた。
「ねぇ、分かってるの?」
男の声が冷たい石室に響く。口調はどこか幼く、焦ったそうだった。
「君、明日には死んじゃうんだよ?」
せせら笑っているように見えて、実のところ困惑さを滲ませた顔で、男は女を見る。
「……」
対して、女は無言で男を見つめ返した。
その表情もまた無そのものであった。
「まさかとは思うけど……知っていたの? 僕が君を騙してたこと」
「……」
「答えてくれたら、気が変わって処刑を取り消してあげられるかもしれないよ」
「……」
男が何を言っても、女は“無”しか返さなかった。
元より色々と欠けている人間だと思っていた。それでも、ここへ閉じ込める前は多少なりとも受け答えをしてくれていたというのに。
今は何ひとつ、ひと欠片すらも返してくれない。
「────本当に、死んじゃっていいの?」
どの口が言うんだと自嘲する。
この女を破滅させようと画策したのは、他でもない自分なのに。
何故、こんなにも縋りたくなるのだ。
翌朝。
女は断頭台へと登り、首を切り落とされた。
とても、とても呆気の無い最期だった。
転がり落ちた首が拾い上げられ、晒すための台に乗せられる。
死んだ女の顔は、穏やかに微笑んでいた。
男が女と出会ってから、やっと見ることのできた表情だった。
まともに愛せなかった奴が好きな子を散々傷付けて散々後悔した後に奮闘するけど全然信用されなくて最終的にみっともなく泣き縋り付いて許してもらうそんな恋愛が見たいんすよ




