Phase.590 『アストリアとの戦い』
最初は、一人だった。そして未玖と知り合って、長野さんとも知り合った。それから翔太、鈴森、北上さんに大井さん。気が付けば、俺達はクランを結成していてこれだけの人数になって広大な拠点を所有していた。
これなら、この異世界で何が起こったって絶対に乗り切れると思った。
草原エリア。遠くの方から誰かが手を振ってこちらに歩いてくるのが見える。俺はそれが誰なのか、目を凝らしてみた。
あれ? 大勢だな。しかも真ん中にいるのは、鈴森とねねさん? 更に後ろにいる5人に目が釘付けになる。
「椎名、ちょっといいか」
「鈴森。この人達は……」
5人に目を向ける。確か、左から永谷さん、ミラさん、宇方さん、ミドリさん……鈴森と長野さんが、ナナキさんに会いに行ってくると言って出て行って、戻って来た時に一緒だった人達だった。
彼らは、魔物に襲われて相当な怖い目にあいショックを受けていた。もうこの『異世界』には、二度と戻ってこないと思っていた。少なくとも、この転移サービス休止期間中はもとの世界で待機をしている……そう思っていた。
だけどもう後1時間もなく、この世界ともとの世界の移動が完全に断たれるというのに、彼等はなぜかここにいる。表情からは、何かを決断した雰囲気がにじみ出ている。まさか……
「ここまで連れてきてやった。後は自分らで言えよ」
「ああ、解っている」
そう言ったのは永谷さんだった。前に出て、俺を見つめる。
「椎名さん、覚えているかな。永谷だ。ここにいる鈴森君やねねさん、そして長野さんやナナキさんに助けてもらってここへ連れてきてもらった者だ」
「ああ、他の皆も覚えている」
「あれから俺達は、もとの世界に戻った。知っていると思うが、あれだけ怖い思いをした挙句、大切な仲間も失ってしまった。正直、ふさぎ込んでしまった。そしてもうこの世界に来るのはやめようと思った」
「でもここにいるって事は、やっぱりこの異世界が忘れられなかったという訳か」
「そうだ。あれだけ怖い思いにあって、もう二度とこの世界に足を踏み入れまいと思った。でも同時に、夢にまで見た異世界に二度と触れる事がなくなると思うとな……考えに考えて、ようやく結論が出たんだ。命を賭ける事になろうと、やっぱりこの異世界に来て冒険をしたいと。俺を含めたここにいる5人が、同じ気持ちだ」
「もうもとの世界に戻る事ができなくなるまで、1時間もない。引き返すなら、今しかないが……本当にいいのか?」
「逆に聞くけど、椎名さんは本当にいいと思っているのか? 死ぬかもしれない。戻りたいと思っても、戻れない」
「かまわないし、既に心は決まっている。ここにいる俺の仲間全員が、覚悟を決めている。気持ちも変らない」
「それなら、どうか俺達を椎名さんのクランに入れて欲しい。俺達もこの世界に椎名さんと一緒に残りたい」
5人の顔を見れば解る。並々ならぬ決意を感じる。俺達がそうだからこそ、それが解る。伝わってくる。
「解った。それじゃ一応言っておくけど、俺達のクランに入るなら、争いを起こすなとか……困っていたら互いに協力しましょうとか最低限のルールはあるけど、それを守ってくれ」
「ありがとう、椎名さん!!」
危険な事に身を置くというのに、喜んでいる5人。でもまあ、俺だってそうだし人の事はとやかく言えないか。ミラさんが言った。
「じゃあ、これから仲間になったという事で、早速質問したい事があるんだけど」
「ああ、なんでもどうぞ」
「私達、何処に住めばいいかな?」
鈴森を見る。
「俺は知らん」
「おいおい、もとはと言えばお前と長野さんが連れてきたんだろ」
「ねねとナナキもだ」
今度はねねさんを見る。するとにっこりと笑っている。ふむ。
「バリケードや有刺鉄線なんかで囲まれている内側が、俺達の拠点だ。その中なら、何処でも住んでいい。小屋を建ててもいいし、可能ならプレハブとかでもいい」
「プ、プレハブ!?」
宇方さんが驚いた声でそう言うと、ルークさんが向こうを指さして、宇方さんにプレハブがあると知らせた。そう、この草原エリアにも既に、成田さん達が設置したプレハブがあるのだ。
「もちろん、テントもいいけど焚火をする際は、くれぐれも火の始末をしっかりすること。ゴミの処分もだけど、そういうのができるなら、何処でもいいよ」
言っていて、自分がキャンプ場の管理人にでもなってしまったかのように思えた。可笑しな話だな。
「まあ、後の事は鈴森に聞いてくれればいい。彼は、一応うちのクランの古株になるから」
「おい、俺はそんな面倒はごめんだ!」
「いや、やってくれよ、それ位。俺は他にもやる事があるし、永谷さん達を連れてきたのは鈴森だろ? ちゃんと教えてやってくれ」
「それなら、じーさんも一緒だ。あと、ねね! お前も手伝え」
「え? うち!? うちも手伝わなあかんのん?」
「当たり前だ。お前もこのクランに身を置くなら、ちゃんと貢献しねーとな」
「ええーー、でもそれやったら孫一もちゃんとやらなあかんねんで」
「下の名前で呼ぶな!」
鈴森以外は、大笑い。
ここに来て、更に頼りになる仲間が増えた。
こっちの準備は、オーケーだ。これからいよいよ『異世界』と俺達との戦いが始まる。




