Phase.542 『緑色の小鬼』
ギギギ……
何か異様なものの鳴き声。草が不気味に踊り、木が圧迫感を与えてくる。
「波多野――――!!!!」
赤井、籾井、荻野。三人が彼の名を大声で叫ぶ。波多野は何者かに胸を矢で射抜かれ、今もその矢は深々と突き刺さっていた。
「ひ、ひいいいい!!」
「おい、辺染!! ゴッスン!! 逃げ出すなよ!! お前らだけで逃げたら、確実に狙われれ殺されるからな!!」
恐怖で今にもここから逃げ去ろりそうな2人を、熊切が睨みつけて怒鳴った。それでなんとか2人は、俺達から離れずにいる。赤井達は波多野をゆっくりと寝かせると、赤井と籾井は直ぐに武器を手に辺りを警戒し、その間に素早く荻野は自分のザックからレジャーシートのようなものを出した。それに波多野を寝かせると、これからどうするつもりなのか、この俺にも予想できた。
「おい、辺染、ゴッスン!! 手を貸してくれ!!」
「え? え?」
「早くしろよ!! 死にたいのか!!」
やっと理解する2人。レジャーシートは、担架の代わりだった。赤井達が波多野を運ぼうとしたので、俺達が代わると申し出ると早速交代する。強気なイメージの強い赤井が、動揺した様子で言った。
「いいのかよ」
「ああ、任せてくれ。それに戦闘は、あんた達の方が得意だろ。波多野は俺達で運ぶから、あんた達は俺達を守ってくれ。役割分担だ。とりあえず、ここから逃げる……で、いいんだよな」
「その通りだ!! でも気をつけろ。奴ら、草陰やら岩陰やらからこっちの様子を伺っているぞ。矢も飛んでくると思って、身はできるだけ低くしろ!!」
「担架を持ちながら、身を低くしろって言ったって……まあ、やるしかないか。そうだろ、熊切?」
「ああ、そうだ。やるしかない」
赤井に言われた事をやり遂げなければ、助かる道はない。共感してもらおうと、熊切りに言った。すると熊切もやるしかないと言ってくれた。まったくその通りだ。今どうするか、それを考える事よりもやるべき事を優先し素早く手際よくやる。それこそがサバイバーの鉄則なんじゃないだろうか。そう自分に言い聞かせた。
「よし!! 辺染は、前に来て、俺と一緒に担架を持て!! 熊切とゴッスンは後ろ!! 貝谷さんは、真ん中で波多野さんが転がって落ちないように手伝ってくれ」
『解った』
全員頷くと、波多野を持ち上げる。レジャーシートみたいなのを担架にって……これは緊急時にはとても便利だ。勉強になる。しかしそんな事を思っている暇などはなく、急いでこの場から逃げなければならない。
ヒュン!!
「うわっ!!」
また何処からか、矢が飛んできた。波多野の時のように、飛んできた矢は1本だけだが、それは確実に俺の身体を掠めた。こんな所で矢に貫かれて死ぬなんて……冗談じゃないぞ。
「赤井!! ヤバい!! 矢を射ってきているぞ!! 直ぐここから逃げないと、俺達はいい的だ」
「言われなくとも解っている!! よし、籾井と荻野は長瀬達を守ってやれ。先頭は、俺が務める!! 全員ついてこい!!」
ついにこの場から動いた。辺りには、沢山の草木が生えていて、移動するだけでも草がすり合う音が激しくした。それだけで、俺達の命を狙っている何かに対し、俺達の居場所をわざわざ教えている気がしてならなかった。
でも仕方がない事だ。他に方法はないし、今一番正しい事はきっと手際よくこの場から遠ざかる事。安全だと思える場所へ移動して、そこで波多野の手当てをしたりこれからどうするか考えればいい。
ギギ……
また何か声のようなものが聞こえた。人間ではない何かの声……そう言えば、そもそも俺達って明日から、この異世界へ残る為にレベル上げをしなくてはならないという目的があったはず。
それでなぜ波多野達に従ってこの辺りにいるかというと、レベル上げをするなら魔物を退治する事が一番近道だと言っていたからだった。ターゲットの魔物は、集団で行動する事が多く、見つければ何匹もいたりするからそれを全て倒せばレベルを5まで上げる事もできると――
そうだ。その魔物って確か……
ギャギャーーーー!!!!
いきなり目の前に、緑色の小さな何かが飛び出してきた。人間の子供位の背丈だが、恐ろしい鬼のような顔に牙と爪。これは、ゴブリンだった。
「うわああああ!!!!」
驚きはしたものの、担架から手を離さなかった。それができたのも、ゴブリンが襲って来た瞬間に傍にいた籾井が直ぐに手に持っていた盾で庇ってくれたからだった。赤井が、襲って来たゴブリンに蹴飛ばして倒すと、そのまま馬乗りになって持っていたナイフでそのゴブリンの喉を容赦なく引き裂いた。
ギャアアアアア!!!!
「うるせーー、さっさと死ねよ!!!!!」
赤井はゴブリンを仕留めると、顔にかかった返り血を拭いながらも直ぐまた先頭に立った。籾井も自分の配置に戻る。
「気をつけろ。ゴブリンはだいたい複数で行動する事が多い。それに今倒した奴は弓矢を持っていなかった。そいつは今も俺達をどこからか狙ってやがるぞ!!」
「解った、それじゃ急ごう!!」
これには、辺染とゴッスンも同意するしかなかった。俺達は可能な限りの急ぎ足で、ゴブリン共を振り切ろうと森の中を駆けた。




