Phase.39 『レベル』
「ほ、本物の銃って……それ何処で手に入れたんですか?」
にやりと笑う長野さん。
「で、でもそれが本物って言うのなら、所持していたらまずいんじゃないですか?」
「まずい? どうして?」
「だって、銃刀法違反……」
言って気づいた。ここは、そもそも日本じゃない。アメリカじゃ銃の所持が合法的だったりする。俺が今考えている銃の所持はいけないんじゃっていうのは、それが日本国内での話だった。
ここは日本じゃないからそれは、適用されないし考えてみれば日本でだって、免許と許可を取れば猟銃の所持は許可されている。まあ、明らかに狩猟用でない拳銃なんかは駄目だけど。
でもそうだと思った。俺だって最初にこの異世界へ持ち込んだ木刀。あれだって銃刀法違反になるのではないか。
「ここは日本じゃないからのう。それに儂のような年寄りなんかじゃ、銃でもないとこの異世界のあんな恐ろしい魔物共にとても抗えんわい」
確かにその通りだ。あの森にいたサーベルタイガーだって散弾銃があれば、勝てる!
「そ、その銃て何処で手に入れたんですか?」
「ふむ。知りたいか?」
「そりゃそうです。銃があれば魔物と出くわしてももっと安全に対処できる」
「しかしのう、椎名君。君はまだレベルが足りておらんだろう?」
「レベル? レベルってなんですか? 経験値とか稼いで上がるあれですか?」
長野さんのような年配の人から、RPGゲームとかでは鉄板で登場する表示、自分のレベル。それを耳にするとは思わなかった。
「スマホを見てごらん。『アストリア』のアプリを起動して、ここをタッチしてみて」
長野さんに言われたようにやってみる。アプリを起動すると、『アストリア』というタイトルロゴの下の方に、ステータスという項目があった。こんなの最初には、無かったはず。とりあえず、押してみる。
するとレベルという項目があり、その横には並んで0の数値。
「はっはっは。やっぱり君はレベル0だね」
「ええーー」
「それじゃ今は銃の事を知っても意味がない。とりあえず、レベル5まで目指してみればどうかね。そうすればおのずと、銃の事やら解るようになる」
「ど、どうすればこのレベルってあがるんですか?」
「見た所、このレベルの文字のすぐ横にあるグリーンのこのマーク。君はお試し期間中か。それなら、それも椎名君がこれからもっと多くを望んでいけば解るじゃろう。今、色々と説明しても何にもならんしの」
そう言えば、秋葉原で入ったあのメイドさんのお店。あそこで『アストリア』のアプリをインストールしてもらう時のやり取り――それを思い出した。確かに俺は、お試し期間だったな。
ぐーーーーっ
腹が鳴る。そう言えば、朝から未玖のいたという洞窟に行って帰って来てから昼食を食べていない。時間ももう昼をすっかり過ぎていた。
「長野さんはこれからどうするんですか?」
「儂は旅を続ける。それが今の儂の楽しみでな。しかしこの辺りは、緑も豊富で動植物も多い。暫くこの辺りを彷徨ってみるのも悪くないと考えておる」
「それなら今日はもうここで泊まっていってください。この辺は草木も多く昼間は穏やかに見えますが、ゴブリンや狼なんかも生息していますよ」
「いいのか?」
「ええ。遠慮しないでください」
そう言うと長野さんはぐるっと丸太小屋の周辺を眺めると、自分の荷物から大きな何かを取り出して小屋から少し離れた所にそれを広げて設営した。――テント。
「ならばお言葉に甘えさせてもらおう。ここは柵に囲まれておるし、気が落ち着くしええわい」
未玖もそろそろお腹が減ったのか小屋の裏手から戻ってきたので、長野さんがこの場所にテントを張り今夜は泊まって行く事を伝えた。そして昼食の準備をした。
今日の昼食は、森にある渓流で未玖が獲った魚。計4匹。通販サイトで購入していたバーベキュー用のステンレス製の串、それに魚を豪快に刺して焚火で炙る事にした。
味付けは塩のみ。焚火の前に4匹の魚を炙っているとやがて魚の表面から脂が滴り落ちると共に、食欲を誘う匂いが漂い始める。長野さんが目を細めて言った。
「これは何とも美味そうな匂いじゃな」
「俺は駄目でしたけど、この4匹の魚は全部未玖が獲ったんですよ」
「ふあ! あの川でか?」
驚いて見せる長野さんに、もじもじしながらも頷く未玖。
「それは凄いな! 未玖ちゃんは魚獲りの才能があるんじゃな。儂にも良かったら次回にでもいいから、魚を獲ってきてくれんかの?」
「……それならわたしの分、1匹どうぞ」
未玖はそう言って、4匹あるうちの1匹を指さした。長野さんはもう、泣き叫ぶようにありがとうと言って未玖にお礼を言った。銃を見せられた時にはドキっとしたけどこの人はいい人だ。
俺だって、何本もサバイバルナイフと鉈に剣まで腰に吊り下げていて、柵を越える時はその手に物騒な槍を持っている。それとなんら変わらないじゃないかと思った。
「おお、そう言えばいいものがあるぞ! 儂からも魚と今夜一泊させてもらうお礼の品として献上させてもらおうかの」
長野さんはそう言って、楽しそうに自分の荷物から何やら袋を取り出した。袋を開けて中身を取り出してみると、物凄く美味そうな肉が登場した。それには俺も未玖も驚いた。
「うおおっ! これは凄いですね! 何の肉ですか?」
「はっはっは。鹿肉だよ。っと言ってもこの異世界に生息している鹿の肉だけどな。そのまま焼いても美味いし、鍋にしても最高だぞ」
「うわあ! それはいいですね。それならいい物がありますよ」
そう言って俺は、こっちの世界でやりたいと思って準備していたバーベキュー用の網と焼き肉用のタレ、そして皿を準備して戻ってきた。




