Phase.40 『食後の一服』
小屋から酒を出してきた。缶ビールとウイスキー。するともはや宴になった。まだ時間は15時前。だけど、もう今日はこのままゆっくりとしようと思った。飯も、こんな時間になってしまうと昼夜兼用になる。
長野さんは、近くで見つけた広く平らな石をまな板に使用し、鹿肉を食べやすいようにカットする。それでも豪快だ。そして俺が用意した網の上に乗せて直火で焼く。
辺りにとんでもない美味しそうな肉の焼ける匂いが漂う。俺も未玖もその匂いで猛烈な食欲に襲われた。しかし同時に、こんな美味しそうな肉の焼ける匂いを辺りに充満させてしまうと、狼の群れやゴブリンがここへやってくるのではないだろうかと少し不安になった。
「長野さん?」
「大丈夫じゃよ。この椎名君が作った拠点なら大丈夫じゃ。柵も上手に配置して囲んでいるし、万が一があったとしても、丸太小屋に避難すれば大丈夫。これだけしっかりとしていれば、狼やゴブリン程度じゃ破壊はできんじゃろ。それに今ここへ襲撃しにきても、これがあるからの。儂が追い払ってやるわい」
長野さんはそう言って、銃を手に取って笑った。もう酒に酔い始めてきているのかと思った。だけど俺が一生懸命に作った柵を褒めてくれたのは素直に嬉しい。
未玖が魚を指さした。
「そろそろ食べれそうです」
「ほんとだ。じゃあ、未玖。食べてみて」
「わ、わたしが?」
「そう、未玖が獲ったんだからまずは未玖から食べてみるといいよ」
そう言うと未玖は、ごくりと唾を呑み込んだ。そして、もう十分に焼けて美味そうな塩焼きになっている魚に手を伸ばした。丁度魚の真ん中部分、背の部分に噛みつく。
ガブリッ! ……モッチャモッチャモッチャ……
次の瞬間、未玖の目がキラキラと輝いた。そしてそのままがっつくように魚を貪る。どうやら、相当美味しいようだ。
「長野さんも焼き魚、どうぞ。良かったら二本食べてくださってもいいですよ」
「本当か? それじゃ頂こう。君達も肉をどうぞ。そろそろいい感じに焼けるぞ。焦げないうちにとって食べたほうがいい。今朝獲れた新鮮な肉じゃしな」
「確かにもういい感じに焼けて来てますね。それじゃ頂きます」
皿に焼き肉のタレを入れた。もちろん3人分。そして、網の上でジュジューーっと音を立てる肉を一つとってタレにつけて口へ放りこんだ。
うおおお!! これは美味い!! 牛や豚みたいに脂身はぜんぜん無いけど。めちゃくちゃ美味しい!! 俺は、未玖にも勧めた。
「にく……」
「え?」
「いや……未玖、鹿の焼肉めっちゃ美味しいぞ。食べたてみて」
「今、ゆきひろさん……私の事をにくって……」
長野さんが大笑いする。
「違うよ!! 口にまだ肉が入っている状態で興奮して言ったからそういう風になっただけだ! それに未玖はどちらかというと、痩せてるだろ? もっと肉とか米とか食べて身体を作らないと――これからなんだから」
「は、はい……」
ふう……しかし、肉と未玖ってなんか言葉が似てるな。考えると結構面白くなってきた。
最初、この異世界へ来た時は二つある月に驚き、狼やスライムに襲われて散々だった。右足首を負傷もしたし……あれからまだ何日かしか経っていないけれど、あれから未玖に出会って長野さんに出会って、こんなにも世界が広がるとは思わなかった。もとの世界にいた時よりも充実していて楽しい。生きているって感じがする。
長野さんも肉を食べると、美味いと舌鼓を打った。いつもは塩胡椒や醤油を持ち歩いているようで、今度は焼き肉のタレも持ち歩くと言った。
それから俺と未玖、長野さんの三人で焚火を囲んで食事と酒を楽しんだ。
未玖には酒を飲ませられないので、紅茶を入れてあげようとしたが、自分で入れるといって飲んでいた。満腹になり、ようやく落ち着いてくると長野さんが胸ポケットからライターと煙草を取り出した。
「吸ってもいいかな?」
「どうぞ」
すると長野さんは立ち上がって柵の方へ歩いて行くと、その前で煙草をふかし始めた。きっと未玖がいるので煙草の煙に気を遣ってくれたのだろう。
俺は長野さんの後を追いかけて柵の近くまで行くと、彼に聞こうと思っていた事を聞いてみた。
「椎名君も煙草吸うかい?」
「いえ、俺は吸わないです。それはそうと、長野さんはこれからどうされるんですか?」
「儂? 儂か……儂は、今日はここで泊めてくれるっていう話だしの、その言葉に甘えさせてもらおうと思っておるが……聞きたいのは明日からの予定じゃな」
「はい。良かったら、長野さんもここで俺達と一緒に住みませんか? って言っても俺はもとの世界で会社員してますし平日の日中は、もとの世界へ戻らなくてはいけませんが」
「椎名君は、会社勤めか。それじゃ、未玖ちゃんは?」
「未玖は……」
未玖の事を長野さんに話した。直ぐ近くに未玖もいるし、もしかしたら話の内容を聞かれているかもしれないけど、逆にコソコソとせずに未玖の話を長野さんにできたので、それはそれで良かったと思った。
「なるほど。本人はもとの世界へは帰りたくない。それにもとの世界へ戻るための肝心のスマホは、何処かに落として行方不明なのか。それじゃいくらもとの世界で未玖ちゃんの家族や知人が心配していても、戻れはしないという事か」
「ええ。それでなんですが、長野さんがここで俺達と一緒にいてくれたら、俺がいない間とか未玖が一人にならなくてすむし安全だなって思って」
「銃も持っとるし、この異世界の知識も椎名君たちよりは知って、勝手が解っているからの」
長野さんに「うん、いいだろう」と返事をもらいたかった。長野さんは煙草を吸いながら暫く考える素振りを見せると、俺に言った。




