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三姉妹の真ん中はモブで居たい  作者: 青黄赤
ss

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相容れぬもの_後編

 


「それですよ! 馬です!」


 聞いた途端に、興奮しながらそう言って、カップをそこそこの勢いで置いたため、視界の端でサフィ様の肩がちょっと跳ねた。


 驚かしたようで申し訳ない。


 ここは王宮の貴賓室。サフィ様とお茶をしている最中だ。


 猫と犬は相性が悪いと知ってから、事あるごとに自分が触れ合える動物はなんだろうと、ごくたまーに考えることもあったりなかったりした今日このごろ。


 今まで私は自分より小さな生物と邂逅してきた。その結果恐れられて威嚇されているのではないかと考察している。


 なんて、サフィ様と会話を楽しんでいたら馬はどうかと提案されたのだ。


 で冒頭に戻るが、馬なら大丈夫かもしれない。


 馬、私より大きいし。乗馬用の子は大体おとなしいらしいし。


「触ってみたいです馬!」


「じゃあ善は急げだね。連絡してきてくれる?」


 私が首をブンブンと縦にふるとサフィ様が侍従さんに指示を出していた。


「ミティ、馬に接するときの注意事項を確認しておこうか――」


 それからサフィ様に、馬へ触れる時の注意点をレクチャーしてもらい、ちょうどいいタイミングで侍従さんが帰ってきた。


 連れ立って厩へと向かう道中に、サフィ様がそうそう、と話を切り出した。


「馬が耳を後ろに倒してる時は注意してね」


「耳が倒れていると何かあるんですか」


「彼らが不機嫌な証拠だから、それ以上近づかない方がいいサインなんだよ。下手をすれば蹴られるから気をつけてね」


「は、ハイ!」


 そんな事前情報を頭に詰めていざご対面した馬。


 曰くサフィ様の愛馬だそうだ。


 明るい茶色の毛色、鼻筋に白い模様があって、たてがみが金に近い薄い色をもつ美しい馬だ。


 ……多分。馬の違いは色くらいしか私にはわからないが、多分この子は綺麗な馬だと思われる。


「サフィ様、この子は耳がない子なんですか?」


 真正面から見た馬は耳が見えなかった。


「いや、ものすごく耳を倒しているだけだね」


 なるほど、ん?


「耳が後ろに倒れているのは不機嫌なサインでしたっけ」


「うん、今は近づかないほうがいいね。少し離れよう」


 私の腰にいつの間にか回されていた、サフィ様の手にぐっと力が入った。


 そんなに抑えなくても、機嫌の悪いと知っている相手に突撃するほど馬鹿じゃない。


「……なぜ近寄っただけで不機嫌になられるのでしょうか?」


「うーん、普段おとなしいんだけどね」


 そう言うとサフィ様は厩番さんに今日馬の状態を聞いている。


「あのぉ、ご機嫌だったんですがね……」


 厩番さんの言葉に、デ ジャ ブ! という言葉が浮かぶ。


「私のせいでしょうか……?」


「うーん。知らない人が来たから警戒している可能性もあるかな」


「あの子は滅多に……あっ」


 言ってしまったと口を手でふさいだ厩番さん。貴方のこぼした言葉で察しました。


「普段おとなしくて人懐っこい子だったりします……?」


「……まあ、ね?」


 肯定しながら気まずそうに視線をそらしたサフィ様の態度がさらに拍車をかける。


「私、馬もダメなんですか……」


「うーん。諦めなくても餌を手ずからあげたりすれば、仲良くなれるかもしれないし」


「!ご用意いたしますね!!」


 サフィ様の言葉で察した厩番さんが餌を取りに駆けて行った。命でもかかわっているのかと疑うくらいの速さである。


「サフィ様も厩番さんも、なんか協力的ですね」


 私一人なら、馬が不機嫌なだけで諦めていたかもしれない。何かと策を考えてくれるのはなんでだろう。


「僕はミティと遠乗りしたいと思っていたから、馬と仲良くなってくれれば丁度いいかなって」


 サフィ様が協力的なのは、自分の欲望に忠実なだけだった。


 ちょっと私の、ため……? みたいな思考になった私が愚かでした。


「あ、遠乗りはデートのお誘いね」


「改めて言い直さなくっていいですってば!!」


 タイミングよく厩番さんが餌を持ってきたので、今度はサフィ様が馬のご機嫌をとっているうちに私が餌を持って近づく作戦となった。


「あの、あの子が懐かなかったら処分してしまうのでしょうか?」


 サフィ様が先に馬のご機嫌を取りに行った後、厩番さんにそう話しかけられた。


 今日は私についている、王妃様の侍女さんが厩番さんをジロリと目を光らせる。


 きっと意見をするな! というけん制だろう。


 この方マナーに厳しくてこわーいんだよね。厩番さんも睨まれてタジタジになっている。


 物申したそうな侍女さんを視線で制して厩番さんと話をする。


 しかし、なんで懐く懐かないが処分とかの話になるのだろう?


「いきなり物騒なお話で驚いているのですが、なぜ処分、と?」


「お嬢様は王太子殿下のご婚約者でございます。ですので……何かあったら、あの、こういった話も失礼かと思うのですが……あの、処分なら私に」


 モゴモゴと言いづらそうにそう話された。なるほど、何となくだが言いたいことは伝わった。


 つまりは私の機嫌または対応次第で、あの()は処分されるかもしれない。


 なんて思われているらしい。


 なるほど、仲良し作戦に協力的だったのはこのためか。


 それもこれも私が高い地位を与えられてしまったばかりに、こんな風に顔色をうかがわれているのだろう。


 いや、私は馬のご機嫌をうかがっているんですがね?


 馬が懐いてくれればそれでOK、ムリなら無理で諦める。それはこちら側の問題であって、馬の命には関係のない物だと思うのだが。


 第一サフィ様の愛馬にあーだこーだー言う資格私にはない気がするが。


「仲良くなれたらいいなと思っているだけで、なれなくても、殺してしまえなんて言ってしまうほど、狭量ではないつもりですよ」


 その言葉を聞いていてホッとしたのか厩番さんは、せきを切ったように馬への愛を語り始めた。


「は、はぁ。とても可愛がられている馬なんですね」


 聞いていられなくてニンジンが入った桶を抱えてサフィ様と馬のいる厩へ向かう事にした。


 遠目で見た限りは耳がダランとしていてとてもリラックスしているような表情に見える。


 が、しかし。


「なんで近距離に行ったわけでもないのに耳が見えなくなるんですかね」


 私が近づくにつれて耳がペタンと折れる馬。


「馬は耳がいいと聞きますから、ミスティーナ様が近づかれたのを感じたのでしょう」


 侍女さんが私の問いに的確な答えをくれる。


「ほら、ミティがニンジンを持ってきてくれたよ」


 側へ行くとサフィ様に顔を近付け、こちらをジッと見ている馬。


 変わらず耳はぺったんこである。どころか鼻にシワを寄せて歯をカチカチと鳴らし始めた。


「サフィ様、これは威嚇でしようか?」


「うん、威嚇だね。コラっ止めなさい」


 申し訳なさそうに肯定してから馬を嗜めるように言うサフィ様。いやなんであなたが馬の代わりに、申し訳なさそうなんですか!?


 そして馬! サフィ様に頭を擦り付けながらコチラを見る目が、なんだか勝ち誇っているように見えるのも気のせいではないだろう。


「ほーう、そうですかぁ」


 馬と目が合って、バチバチと火花を散らす。


 なるほど、この馬が私を嫌いな理由がわかった。


 こいつサフィ様と私の仲を嫉妬したらしい。


 馬はある程度知性があると聞く。多少知性があるから嫉妬して、こんなマウント行為のようなことをしてくるのだろう。


 そうかそうか。知性があるのなら脅しても通じますよねぇ。


「お馬さぁん、あんまり私をいじめるなら、サフィ様と他の馬に乗っちゃいますよぉー?」


 言いながら、馬を撫でていたサフィ様の腕に絡まるように抱きつき下ろさせて、挑戦的に馬を見上げる。


 言い方は元妹が人を煽る時のまねをした。仕草ももちろん元妹の真似である。


 フンと鼻で笑うと、馬は何かを察したらしく、耳を立ててコチラを見ている。


 ふむ、話している内容は理解できないかもしれないが、何らかの不利益を被ることは理解していそうだ。


 賢い子である。だがその賢さが仇となるぞ!!


「私とサフィ様は、遠乗りデートに行く予定を立てているんですぅー。だから私を乗せられないならほかの子に乗せてもらうしかないですねぇ」


 馬が不安げにサフィ様と私を交互に見る。サフィ様は何やら思案顔だが、私を止めはしないので突き進む。


「まあ私も悪魔ではないので、あなたがいずれ私を乗せて走ってくれるのなら、今後サフィ様があなたに乗るのを許してあげますよ」


 うふっと笑うと馬は助けを求めるようにサフィ様を見たが、サフィ様は何のアクションも起こさない。


 馬はしょぼっとした顔をした後に、くるりと背を向けてしょげた。


「ふっ。勝った」


 こうして私はサフィ様を巡る戦いに勝利したのだ! 相手馬だけど。


「まあ上下関係を植え付けたのはいいとして、ミティは動物と仲良くなりたいんじゃなかったの?」


「あっ」


 当初の目的を思い出して馬を見るが、馬はいじけて背を向けたまま寝藁を掘っている。


 こっから関係回復させろと……?


 うん。ムリ! とりあえず仲良し作戦は諦めて、馬は攻撃さえしてこなければよしとしよう。


 こうして動物を撫でるのは夢のまた夢と消えたのだった。


「僕、馬と人間に取り合いされたの人生で初めてだよ」


 厩からの帰路、サフィ様にそう呟かれた。


「人生でそんな経験、そうそうあってたまるかってんですよ」


 人間同士の取り合いに巻き込まれるならわかるが、馬VS人なんて聞いたことがない。


「そうだね。でも」


 言いながら足を止めたサフィ様に、何事かとこちらも足を止めて見上げる。


「たとえ争う相手が馬でも、ミティが嫉妬してくれて嬉しい」


 へにゃっと笑うサフィ様にキュンとする。


 くそぅ、相変わらず顔がいい。


 しかし冷静に考えれば、馬相手に何をしているんだ私は。いや、相手が人じゃなくてよかったのか? いやでも馬って。


「……お願いします忘れてください」


 戦モードだった熱が、急に冷えて途端に恥ずかしくなってきた。


「やだ。せっかくミティが僕のために嫉妬してくれたのに」


 熱っぽくそう言われても、である。


「……相手が馬っていうのが格好つかないので嫌です」


 恋愛って恥も外聞も投げ捨てられるとは聞いていたけど、これは後から恥ずかし悶えるので、今後はもう少しスマートに恋敵をあしらえるようになる、と密かに目標を立てたのだった。


ここ数日、久々の更新にもかかわらず見に来て下さった皆様!ありがとうございました!

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