弱点その2
こちらは本編開始前のストーリーとなっております
「え、嫌です」
本日の私はモブ令嬢ではなく冒険者のシルビアである。であるのだが、ギルドからオススメされた依頼を即お断りした所だ。
「なんで? 実入りのいい依頼だと思うけど?」
馴染みの受付おねーさんにそう言われるが、こちらには実入りと比べても割り切れない事情がある。
「王都郊外の幽霊屋敷の調査なんて騎士団にやらせとけばいいじゃないですか」
郊外といえど王都なら騎士団が調査権を持つのだ。
そんなのは管轄内で給料をもらっている人達が頑張ればいい。わざわざ不定給で日々の糧を稼いでいる私が、頑張らねばならない案件ではない。
と心の中では早口に言い訳を展開している。
が、しかし。
「もしかして、幽霊怖かったりする?」
「いや~怖いですよ〜お会いしたらもっと怖いと思うかもですねぇ〜」
「お会いって、アンタねぇ」
おどけた風に怖がるフリをすると、ため息交じりに呆れた顔を返されたが、言っていることは事実だ。
ええ、嘘は言ってないとも。
実は私、幽霊は怖いしホラーも苦手だ。
だからほんの少し本音で勘違いしてもらうのだ。他人を騙すにはほんの少しの真実を混ぜるといいって、昔の偉い人が言っていたらしいし。
こんな弱点なんて、知られたくはないから隠してはいるけれど、克服出来たらなんと良いことか……
しかし苦手になったきっかけは思い出せないので、今のところ克服するのは無理難題。なれればいい? いや無理。
頭では理解している。会ったことが無いのだから、存在するかも分からないモノに過剰に怖がる必要は無い、しかし気持ちが追いつかない。
結論、怖いもんは怖い。だって幽霊、物理で殴れないし!
なので私がとれる対策は対症療法しかない。
つまり幽霊ホラーには関わらない。誰かに話題を振られたら相手が都合よく勘違いするように仕向ける。
幽霊うんぬんの話が出たらおどけて真実を言う事にしている。だって大体がこの人ネタでこう言っているんだなと察してくれるので。
怖がらないし、反応が面白くない相手には、怖い話をあまりしないものだ。
「まったく可愛げが無いったらありゃしないんだから」
やれやれと言われながら、その日は別の依頼を受けてその場を後にした。
◆◇◆◇◆
「……画廊の幽霊、ですか」
王妃さまにお茶会(と言っても参加者は王妃さまと私の2人だ)に呼び出され、なにを言い出すかと思えばそんな話題だった。
なんなんだ、最近私の身の回りの幽霊ブームは。はた迷惑なんですが。
「そうなのよ。しかも歴代王族の肖像画が飾ってある所に『出る』らしいのよ」
「なんとも……不敬な幽霊ですね?」
当たり障りなくそう言ってお茶を飲んで余裕の笑みを浮かべる。
ただ笑っているのは顔だけではない、膝もだ。
「なによー 反応薄いわね!」
唇を尖らせて不貞腐れている王妃さまが可愛い。なんて思考をホラーと別のところに置き換える。
若く見えるし、子持ちそれも私とそう年の変わらないあの2人あの二人の母と言われても……うん美人。
なんとか否定しようと思ったがしかし、この母にしてあの子達あり。
顔は似ている。あの2人は美形だし、目の前のこの人は美魔女だし。
「幽霊と言われましても、お会いしたこと無いですし」
「じやあ、会ってきたらいいじゃない。いるかどうか分からないけど。画廊に出るらしいわ」
「ご遠慮します。幽霊よりも知り合いと鉢合わせしたら嫌なので」
幽霊よりも生きている人間に出会う確率のほうが大きいだろう。
だって幽霊まだ見たことないし。いや、見たくもないけれど!
姉妹どちらかや、殿下どちらかにばったり遭遇するのもご遠慮被る。確率的には幽霊よりも人間のほうが会いやすい……はずだから言い訳として成立する、はず!
「もぅ! いいわ、それなら」
王妃さまはスッと窓を指差し、侍女さんにカーテンを閉めるように指示を出した。
「怪談と洒落込みましょうか」
王妃様の応接室であるこの部屋は、カーテンを閉めただけで真っ昼間にもかかわらず薄暗くなってしまった。
かなり分厚いカーテンを使っているらしい。
普段は見ないので最初からこの話をするために仕込んでいたに違いない。と、冷静な判断を下す脳とは裏腹に、二の腕にはサブイボという名の鳥肌が立つ。
「……いや、あの?」
なんでそうなる。こちらは快諾していないのだが。
こちらの反応を無視して、王妃様はテーブルの上に用意されたキャンドルに火をつけた。
それにより王妃様の顔が下から照らされる。
いや、怖っ。
でも?なんか既視感がある。この下明かり王妃さま。
「……それは最近王宮を賑わす、回廊の話でございます」
「……王妃さま、昔もこんなふうに怪談したことあります?」
話し始めた王妃様を無視して、話の腰を折る。
いやホントムリ、怪談なんて聞いた日には向こう何年かは回廊になんて行けないから聞きたくない。
今ならまだ1年くらいで済みそうなので、なんとしても阻止せねば。
「……そうねぇあったかしら? だとしても貴方! 雰囲気ってものがあるでしょ?」
「気になった時に聞いておきたいな、と思いまして」
決してホラーが苦手だから続きを聞きたくなくて腰を折っただけではない、と心の中で明言しておく。
違うから。幽霊が怖いルーツにたどり着けたら、弱点克服に繋がるかしれないと思っただけだし。と誰にいうわけでもない釘をどこかに刺した。
だって暗い部屋でキャンドルに照らされた王妃さまに怪談を聞くなんて、ホラー苦手な私からするとあまりないシュチュエーションだ。なさすぎて聞いていたら逆に鮮明に覚えてそうな気がするのだが。
「そうねぇたしか、怪談なんて貴方にしたのは、こんな小さい時だったかしら?」
「なるほど! 私の記憶に無いサイズです。だからお話も覚えてないんですね」
生まれてこの方少なくとも記憶にある限り、親指と人差し指で作れるおよそアオムシサイズになった記憶は無い。
「やぁね、冗談よ」
「知っています」
「乗ってくれたっていいじゃない」
「乗りましたよ」
そんなこんなで言い合っていたら、いつ怪談を聞いたのか結局聞けずじまいだった。
まあいいか。今更気がついたけど、再演とかされたら困るのはこっちだし。
◆◇◆◇◆
「過去に怪談を聞いたこと、ね」
ミスティーナが帰った後、私はカーテンを開けて明るくなった室内で、一息ついた。
確かに私は過去ミスティーナに対して怪談をしたことがある。
「思いっきり怖がらせちゃったのよねぇ」
古株の侍女にそう話題を振ると彼女は微笑んで肯定していた。
彼女もミスティーナの事を大切に思っている一人だ。私と同じく娘のように見守っていると話していた、つまり同士、ミスティーナの母親になり隊である。
「はい。お世話させていただいたことは忘れられません」
「ふふ、そうだったわね」
幼い頃のミスティーナが、母の幽霊と話してみたいと言い出した時に、死への抵抗のなさや危うさを感じて、幽霊は怖いものだと脅かした。
だってあの子ったら。
「わたしがしんだらおかあさまにあえますか?」
なんて言うのよ、(自称)まともな大人なら引き止めるに決まっているわ!
それもこれも幽霊へ怖い印象があれば、死への恐怖感が芽生えてくれるかな? と期待を込めての一心で、だ。他意はない、無いはずだった、のに……
その日も今日と同じように部屋を暗くし、キャンドルで照らしながら、大人でもでも怖がる怪談集という本を朗読した。
そりゃもう、怖がってもらうために、いろんな演出をしましたとも。
「どう?幽霊は怖いでしょ?」
「き、きしさまなら、つよいのでおいはらってくれます」
「いいこと? ミスティーナ。幽霊には物理攻撃が効かなくってよ。つまり騎士にだってどうにもできない存在なの!」
「!?!?」
はじめは真っ当だった脅かす理由だが、ミスティーナの反応が可愛かったせいで、つい熱が入った。
だってうちの子達、当時から反応薄いんだもの。ミスティーナの息を呑んだり驚いたりする反応か新鮮だったから。
気が付いたらミスティーナは意識を飛ばしていた。
幼い子供らしい反応に気を良くして、やりすぎたと思ったが後の祭り。ミスティーナに幽霊、ホラーへの強烈な恐怖心を植え付けてしまった。
この出来事がよっぽどミスティーナのトラウマだったようで、以降そっち系の話は避けるようになったみたいだ。
今日だってまるで気にしていないかのように話をそらしたので、未だに怖いのだろう。記憶は曖昧みたいだったが。
流石に今は記憶を無くすほど怖い思いをさせたのは、やりすぎたと思っている。
……まぁミスティーナが今を生きているのなら、結果オーライかしら?
つまり当初の目的は達成できたようだ。次の目標は我が義娘になってくれることだが。
こればっかりは本人達に任せなきゃねぇと、ため息をついた。
私が直々に手を回すのはナンセンスだ。ミスティーナには望んで義娘になって欲しいので、無理強いすることはしたくない。
陰ながら色々と手助けはしてきたが、私が出来るのはそこまで。王侯貴族といえども結婚に関することなので、当人たち、つまり息子に頑張ってもらうしか他はないが。
まぁ息子は無理強いするかもだが、そのパターンでも私は嫌われないからよし。そもそもミスティーナだって自覚が無いだけで、好きではありそうだし、全く脈無しとも言えないだろう。
うーん、でも。あの子適応能力がものすごく高い、いつでもどこでも生きていけるタイプなのよね。
頭の回転が速く要領を掴むのが上手だ。私が教えた貴族的な生きていく術もしっかりと身に付いている。
幼少期はいつ継母に手を下されるかとヒヤヒヤしながら護衛でもある影の報告を聞いていたのだが、私が与えた書物やら、自力でたどり着いた冒険者ギルドで着実に生き抜く術を身につけてきた。
だから何をして、何になって、どこに行ったって生きていける。そんな自信がミスティーナにはあるのだ。そんな彼女が息子を頼るだろうか?
……結論、頑張れ息子よ。私のミスティーナは手強いぞ。
「さてと私に出来る事をしますかね。明日のお茶会への参加者名簿を持ってきてくれる?」
今の私に出来ることは限られている。証拠集めをしている公爵が余計な手出しをするなと釘を刺してくるためだ。
だからせめてもの出来ることをするつもり。いずれ表舞台へ出てくる未来の娘がすんなりと受け入れられるように、私は社交界の華で居続ける。
近い将来ミスティーナと対立しそうな勢力を勢い付けないように、潰しておくためだ。
次代の社華と持て囃される、母の実家から支援を受けるお嬢ちゃんや、公爵家の後妻に収まった女のお子ちゃまなんかにこの座は譲らない。
そのために明日のお茶会にお呼びする方々は重要な意味を持つ。
この名簿に書かれてある方々は、王太子に選ばれなかった息子へ、つまり将来の王弟へ婚約者をあてがおうとするリストだ。
茶会に呼ぶとはとはいえ、この方々推薦のお嬢さん達から婚約者を選ばせようとは思っていない。せめて本人の意思が決まるまではこちらが勝手に決めることはしたくないからだ。
息子の片方は自由恋愛みたいなものだから、もう片方も好きにさせてやりたいなんて親心でもある。甘い考えなのは重々承知だけれど。
しかし餌として使うには、次期王弟の婚約者の席はちょうどいい。
うまいこと刺激し続ければ、勝手にカトレッド公爵家の長女、三女それぞれの勢力と対立してくれるからだ。
せいぜい互いに権勢しあっていただいて、美味しいところをミスティーナに食わせる作戦である。
「しかしまあ、こないだまで自分の婚約だの結婚だので悩んでたはずなのに、もう子どもたちの婚約だの結婚だの悩むなんて、時の流れは恐ろしいわね」
まったく、あの頃はまだ誰も可愛いらしかったのに。今では三者三様にすっかりお口が上手くなってしまった。
そう侍女に愚痴をこぼすと
「ご成長が喜ばしいですね」
と返された。
大人の返答をされて、全くもってその通りだと苦笑する。
この侍女に比べれば私はまだ中身が幼いのだなと痛感したのだった。
本日(2026.2.26)『三姉妹の真ん中はモブでいたい』電子版発売日
明日(2026.2.27)が書籍版の発売日となります!
本として世に出していただけるのも、皆様がこの物語を読んでくださったおかげです。
目にとめていただきありがとうございました!




