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その日の裏側2

 

 考えこんだサフィ様を部屋に入れるか悩む。長丁場になりそうだからなぁ、しかしである。


 ……これ見ようによっては夜這いだ。見つかるとヤバいだ。


 悩んでいるとコンコンとノックの音が背後から聞こえた。


「カトレッド様、よろしいでしょうか?」


 ヤバい寮監……


「はい、何かご用でしょうか?」


 とりあえず返事をしながら入り口へと向かう、サフィ様?  とっくに逃げましたよ。


「夜分に申し訳ありません、男性の声が聞こえると言われたもので……」

「まあ、侵入者でしょうか? 怖いですわ。ご確認お願いいたします」


 やだぁミスティーナこわいのぉー


 と、再びお花畑を召還した。


 もちろんそんな感じの演技だ、頑張れ私の表情筋、君は出来る、やれば出来る。顔面の筋肉総出でお花畑を作り出せ。


 たとえ相手が一個上の先輩で、先月芋づるで両親が捕まったお家の娘で、婚約破棄された挙げ句ここで働かざるを得ないことになった人であっても。


 ものすごく恨まれている気配はひしひしと感じていますけど! 


 私はお花畑、なにも知らないお花畑だ!!


「では、失礼いたします」


 クローゼットやベットの下、お風呂場なんかを目を皿にして調べ、開いてる窓に注目していた。


「なぜ窓が開いてるのですか?」

「夜風に当たろうとして開けたところで声をかけられたものですから」

「そうですか、しかし開けっぱなしは無用心ですのでお気をつけくださいませ」


 そんな答えで寮監は納得したらしい、そのまま帰りそうだったので待ったをかけた。


「お待ちください! 男性の声が聞こえたのなら、徹底的に安全が確認されるまで寮に居るわけにはいきません。この身を守るためにも王宮に避難したいのですが」


 すらすらと建前が出てくる。本日は灰色の脳みそフル活用だ。


「いえ、その必要は……」

「私はサフィア王太子殿下に顔向け出来ないような事態は避けたいのです。どんな些細な異変からでも身を守るべきだと思っておりますので」


 連絡してくださいと、とびっきりの笑顔で言っておいた。


「……かしこまりました」


 寮監は苦虫を噛み潰したような顔でそう言って出ていく。下手すれば自分の管理が疑われるのでそりゃあまあ、王宮に連絡だなんて嫌だよねー。


 それに寮監の家は確か元妹派だったはずだ。今回は内心ルンルンで訪ねてきたんだろう。粗探しのために隣の部屋に自身の妹を配置するくらいだし。


 よし、今度隣が誰かを連れ込んだら仕返しで大騒ぎしてやる。


 そんな事を考えながら再び窓を開けた。


「と、言うわけで偶然を装って早めに迎えをお願い出来ますでしょうか?」

「了解」


 とだけ言い残してサフィ様は屋根から夜空を駆けていった。多分そんなにかからずに正式な迎えが来るだろう。


 ここから王宮は近い。普通の道を全力で走れば十分位で移動は出来る。


 ……逆に言えば隣に有るのに十分もかかるのだが。


 とりあえず出掛ける格好に着替え、再びリボン魔力を通し、向こうの様子を探る。


『……分かった、ここで、戦う』


 一番先に飛び込んできた言葉は、なにかを決意した瞬間の声だった。それを皮切りに次々と向こうの言葉になる感情が流れてくる。


 ……あー、なんか聞いちゃいけない気分になるな、これ。


 多少の罪悪感を感じつつ再び向こうの様子を探る。どうやら魔物の大群に襲われているらしい、そしてルビス殿下は近くに居ないようだ。


 ――状況が読めない。


 ルビス殿下が戦っていると仮定して、あの人がそこらの魔物に苦戦するだろうか? 多分サフィ様と同じくらい強いはずだが。


 思案していると再びノックされ、王宮からの迎えが来たことを告げられる。


 流石サフィ様仕事が早い……早すぎない? 首を捻りつつも迎えの馬車に乗り込んだ。中にはサフィ様が座っている。


「流石に早すぎませんかね?」

「もともと正式な迎えを呼んでいた、って言ったら怒る?」


 と言うことは私へ会いに来る時点で迎えも寄越していたわけだ。


「怒りませんけど、どうしてですか?」

「いや、なんか言葉には出しにくいんだけど、こう虫の報せ……みたいな。あいつがどうにかなるとは思ってはないけど」


 つまり片割れのピンチを察したと言うことか。


「つまり双子不思議パワー!」

「無いよそんなもの」


 苦笑しながらもバッサリである。双子に夢見たっていいじゃないか、私現在一人っ子だもの。


「向こうの状況を教えてくれる?」

「魔物の大群に襲われて一帯の住民と一ヶ所(いっかしょ)籠城(ろうじょう)している子がリボンを持っています、ルビス殿下の安否は今のところわかりません」

「ありがとう。それで、こちらから打てる策はある?」

「今、会話するためにリボンを通して魔力を少しずつ送っています、どうも向こうの子の魔力が回復が遅いんですよね」

「……え、魔力も送れるの?」

「今まで強制で魔力を奪うのは有りましたよね、アレの逆ですから簡単ですよ、相手の抵抗がなければある程度操作も可能です」


 アレは主に犯罪者の枷に刻まれる呪文だ。決して婚約者への贈り物に刻む物ではないと言っておく。


「……後で何を仕込んだか詳細を教えてほしい」

「言ってなかったでしょうか?」

「聞いた記憶はないかな」


 ……そういえば言った記憶もナイヨ。


「よくもそんな怪しいヤツ使ってましたね、命に関わるような仕込みがしてあったらどうするんですか?」


 自分で作っておいて言うのもなんだが警戒心低すぎないか?


「ミティからの贈り物だし、それにミティはそんな回りくどいことしないで直接刺しに来るでしょ?」

「おっしゃる通りです」


 性格を正確に見抜かれている!!なんか気まずいのでリボンのほうに集中した。


「……ん、雲行きが怪しくなって来ました。怪我人が大量に出たみたいです」


  チョロチョロ流していた魔力を少し多くする。向こうの子がどれだけ魔力を受け入れられるのか分からないから、今は一度に沢山渡せないのがもどかしい。


 しかもどうやら魔法に不馴れらしい。怪我の回復に魔法を使わない。いや、使えないが正解か。選択肢にすらなさそうだし。


「……少し手を貸してもいいでしょうか?こちらのことを信用してもらって様子を探ります」


 向こうはなんとなく普通のお嬢さん風だが、それだけで信用するには足りない。


「うん、ミティの野生のカンは信用してるから」


 は、ってなんだ、は、って。つまりほかのカンはあてにならないと? ……うん、ならないかも、女のカンとか。


 王宮に着くや否やでサフィ様の執務室へと急ぐ。……もちろん二人っきりにはならないが、時間帯が時間帯なので仕事部屋の方が色々と怪しまれずに済む。


 サフィ様に紙とペンを用意してもらい、わかっている限り向こうの事を書き出す。サフィ様はルビス殿下の居場所を特定し、その土地の情報を集めている。


 そろそろ会話できる位には魔力が貯まるはず……


 痛いと言葉が聞こえ、続けて威勢のいい声が聞こえた。


『うるさい! 人を叩く元気があるなら手伝え!!』

 向こうの子は叩いた相手に啖呵を切ったようだ。

『助けたいのなら動いて! あなたの父親だ!!』

『紐か何か探して来る、そのまま押さえていて!』

「おぉー、かぁっくいい」

『間の抜けた声……? こんな時に! 誰そんな暇な人は!』


(おお、通じた!? おーい聞こえますか?)


 これが私たちの記念すべき初会話。


 そして手助けしようと決めた瞬間でもある。


 こうして私とサフィ様は隣国のさらに向こうにある草原での出来事に首を突っ込んだ。


 結果は、首を突っ込んで正解だった、とだけ言っておこう。


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