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血塗れのアリス  作者: 武田コウ
4/8

マッドティーパーティー


 クルクルクル 世界が回る

狂クル狂う 狂ってる


私は帽子屋 孤独な男


 今日も仕事 明日も仕事

   まじめな私は帽子をつくる


銀の水が私を犯す

 私の脳みそ鉄の色


クルクルクル 奴がクル

    ―――今日も世界は死ぬだろう





 ワンダーランドに時間という概念は存在しない。故に


 彼らは自分がいつから何の目的でここ居るのかも知らない。もう何度目になるかわからない紅茶のおかわりを注ぎ、帽子屋は深くため息をついた。


「いい加減会話のネタもつきてきたな」


 帽子屋はそう呟くと、彼のトレードマークでもある漆黒のシルクハットを無意識に触る。


「でも紅茶はうまいよ、いつもながら」


 いかれたヤマネが紅茶の満たされたティーカップをぴちゃぴちゃとなめる。真っ赤な舌がチロチロと見え隠れしていた。


「ヤマネさん、マカロンはいかが?」


 耳障りな甲高い声で茶菓子を勧めるのは三月兎。


 三月兎の差し出したマカロンを、ヤマネはさも嬉しそうに受け取るとそれを紅茶に浸す。


「やっぱり紅茶にはマカロンだようん」


 マカロン入りの紅茶をおいしそうに啜るヤマネ。そんな二人を、帽子屋はため息交じりに見回した。


「どうにも狂っているね、いつもどおり」

 

 ぽつり呟いた帽子屋の言葉に対して、三月兎はケタケタと笑い声をあげる。


「そうだね、狂ってる。つまりは正常さ」


 ワンダーランドは全てが狂ってる。この世界では狂っていないやつが異常なのだ。


 帽子屋は紅茶を啜り……ギョッとしたような表情を浮かべて突然立ち上がった。


「これは……驚いた。こんな汚いところへ何か御用ですか? ハートの女王様」


 帽子屋の視線の先には大量のトランプ兵隊。その中心には真っ赤なドレスに身を包んだ美しい女がいた。


 彼女の名はクイーンオブハート。広大なワンダーランドを支配する女王だ。


「くだらない事を聞かないでマッドハッター。あなたもわかっている筈よ」


 女王の言葉に帽子屋は不思議そうに首をかしげる。


「いや、本当になんのことやら……」


 帽子屋の言葉を遮るように女王はパチンと指を鳴らす。瞬間、景色がドロドロに溶ける。今まで帽子屋の隣にいた三月兎やヤマネも共に消えてゆく……。


「……なるほど。ごっこ遊びはここまでということかね女王?」


 何もかも溶けてしまった真っ白な空間で帽子屋はシニカルに笑う。


「ええ、遊びは終わり。アリスがやってくるわ」

「なるほど、それは残念なことだ」

「時が進みだすわよ」

「ああ、時は再び刻まれるだろうな」


 帽子屋が腕をサッと一振りすると何もなかった空間に簡素なテーブルと二組の椅子が現れた。


「とりあえず座りたまえ女王。紅茶でも飲みながら話をしよう」


 どこからか漂う濃いダージリンの香り。気が付くと帽子屋の手にはなみなみとダージリンティーの注がれたカップが握られていた。


「ふん」


 女王は不機嫌そうに鼻を鳴らすと椅子に腰を掛ける。


「あのまま何もわからずに狂っていられたらどれだけ楽だったことか」


 帽子屋のぼやきに女王は反論する。


「それはありえないわ。ここがワンダーランドである以上、必ずアリスはやってくる」

「アリスが来るということは、もう奴は目覚めたのかい?」

「いいえ、まだジャバウォックは眠ってる」


 ジャバウォック。それは世界の終焉が具現化した幻想のドラゴン。アリス(始まりの少女)が停滞したワンダーランドを再び動かす時、ジャバウォック(終焉の竜)は目を覚ますという。


「アリスが来るなら我々は見定めなてはならない」

「ええ、それが私たちの仕事」

「アリスかジャバウォックか」

「世界が何度巡っても私たちは見定め続けるの」


 帽子屋は残りの紅茶をぐいっと飲み干して立ち上がった。


「さて、我々は所詮幻想の産物だ。ならば恐れる必要はない。最初から我々など存在しないのだから」


 帽子屋の言葉に女王は静かにうなずく。


「さて、物語を見定めようか」

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