まだまだつづくよー
「君たちにとっては、この年がとても大切な一年になる。それは君たちの将来に関わることだから一層、気を引き締めるように。」
なぜだか、3ヶ月くらい前に聞いた覚えのあるフレーズが俺の耳に入ってきた。
「おい大木、お前なに寝てるんだ。新学期、ましてや学年があがった早々に寝てるとはいい根性しているな。」
俺は知らずの間に寝ていたのか、机にかぶさる様に体を委ねていたようで、担任の笹隠の一喝で朦朧としていた意識が平常運転に戻った。
「あ、すみません。」
焦りながらも、謝罪の一言。周りの生徒からの視線が心にぐさっと刺さる。
「さっきも言ったが、今年はお前らにとって大事な年になるのだから気を引き締めるように。」
なぜだか理解できないが、怒られ見せしめにされる俺。
納得がいかない、納得がいかないのだ。冷静に考えると、つい30分前まで、終業式をやっていた俺が何故、今高校2年生の始まりをもう一度経験しなければならないのか。
答えを探し出そうとする俺を待たず、笹隠の話は進んでいく。
「あとだ、君たちの中には既に知っている者も居るとは思うが、今日君たちに仲間が一人増える。」
いやいやおかしいだろう。100歩譲ってだ、今高校2年生の始まりをもう一度経験
したということは、一度受け止めよう。
しかしだ、3ヶ月前の始業式に転校生が来た覚えも無く、仲間が増えたという事実も無い。
またもや答えを探し出そうとする俺を待たず、ざわつく教室。男子生徒の期待と希望、女子生徒の期待と希望それぞれが相反している。
「転校生を呼ぶから、少し静かにしろ。廊下で待たしているから。」
笹隠の注意により、教室が静かになる。どきどきの瞬間だ。
「では、相沢くん教室に入ってきなさい」
笹隠の言葉に落胆する男子、喚起する女子。とりあえずは転校生は男子かなと検討をつける俺。
しかし、教室に入ってきた転校生の姿は男子生徒を歓喜の嵐に、女子を落胆の嵐に、そして俺を恐怖の淵に追いやった。
「えっとだ、これから君たちの仲間になる、相沢 アリス君だ。皆これから助け合い仲良くするように。」
笹隠は、「さん」とは呼ばず「君」と呼んでいるが、生徒の前に立っている相沢さんは女子生徒の制服を身にまとった、3分くらい前に見たであろう、赤い液体が付着したナイフを、片手に持ったワンピースの少女の姿そのものであった。
そこでやっと、俺の置かれていた状況を思い出すこととなった。
「皆さん、始めまして相沢 アリスです。今回、親の仕事でこちらの学校に転校することになりました。これから、解らないことがたくさんあると思うので、皆さん協力お願いします。」
淡々と自己紹介をすませる相沢さん。スマートすぎる、そして怖い。
男子の輝きの目が眩しい、恐怖を感じている俺でも、相沢さんはかわいい。黒く長い髪に、小さい顔、大きくクリッとした目がキュートだ。これには女子生徒たちも唸ってしまう。
「ということで、皆も助けてあげる様に。相沢君の席は、右後ろにいる大木君の横に空いている机があるので、そこが君の席だ。」
いやいや、笹隠よ、それは予定調和すぎるだろう。何故俺の横なんだよ。30分前まではこの席は存在しなかったはず。そんな俺の焦りを無視して近づく相沢さん。
「最下層の人、これからよろしくね。」
相沢さんは、俺を横切る瞬間に一言そういい、自分の席に座った。