1 プロローグ
好きなものを気ままに書く
自分は何て浅はかで馬鹿なのだろう。人間として当たり前にある日常を見失うなんて愚の骨頂だ。
それが自分に当てはまろうとしているのだからなおさら私は馬鹿だ。
「ガァぁぁぁぁぁぁ‼︎」
暗い路地裏、まるで現代の人間の文明の光を全て飲み込んだような漆黒の闇のうな路地裏に私はいた。頭上からは微かな月光が差し込み。路地の陰影を残酷なまでに鮮明に浮かび上がらせている。
逃げ出そうとガクガク震える足。必死に脳から「動け」と信号を送るが、目の前の異形の存在が放つ叫びに圧せられ、体が金縛りにあったかのように動かない。
ああ、本当に終わった。何でこんな場所に来たんだろう。今まで通りに中学校が無事終わった後帰りにゲーセン行って普通に帰る。そんなことを当たり前に繰り返していたのに、美味しい匂いにつられてここに来たら目の前に化け物がいる。うん、本当に終わった。
母さん父さん私ここで死んでしまうかもしれません。
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異形の存在の言葉を端的に言葉で表すなら「化け物」だ。大柄の欧米人の身長をはるかに超える巨躾。爛れてた顔面、焦点が合っていない不気味な瞳。全身が赤黒く腫れ上がり、体からは意思を持つかのように触手が渦巻いておる。
「う、おえ、、、、っ」
佐野黄泉は、あまりの気持ち悪さに路地裏にあった怪しいお店の看板裏でで吐きかけてしまう。
意思を持った触手がウニョウニョと渦巻いているなら誰だって吐きかけるだろう。
だが、それが命取りだった。もう少し周りの物に注意を持てばこんなことにはならなかっただろう。
ーーカンっ。
静寂のなか、小さな金属音が響く。
佐野黄泉は恐る恐るその音の発生源に振り返る。
それは自分のすぐ真横、コーヒーの缶を偶然蹴ってしまった音だった。
「っ、、、逃げないと‼︎」
その瞬間、佐野黄泉は一瞬で恐怖の金縛りを吹き飛ばし、持てる限りの力で地を蹴った。
足はガクガクと震え、恐怖で心臓が破裂しそうなほど打ち鳴らされている。だが、彼女の直感が叫んでいる。ここで立ち止まれば「死」しかないと。
息を切らしながら後ろを振り返る。
化け物はそれまでしゃぶっていた「何か」を投げ捨て、血に濡れた歯を剥き出しにしながら、追ってくる。
「ヒィッ、やばいやばい‼︎逃げないと」
持つれる足を息で叩き起こしさらにスピードを上げる。だがそれが不味かった本来ならば裏口から出るところは完全に閉まっていた。鍵を探せば開けられるかもしれないが、この一秒一秒の時間が命の重さに比例している状況ならその可能性は無に等しい。
「、、、そんな、ならいちかばちか‼︎」
佐野黄泉は、その場で思考を切り替える。裏口が駄目ならば表側の入り口しか脱出する場所はない。そして幸運なことに異形の存在はこちらにまで向かってくるまで距離がある。
「行くしかない‼︎もし失敗しても私の運の良さなら何とかなる、、、、たぶん‼︎」
根拠のない自信で自分を奮い立たせ、全力で地を蹴り上げた。
「はぁぁぁっ‼︎」
およそ人間の限界を超えた跳躍、奇跡的に佐野黄泉の手は2階の鉄製手すりをがっしりと捉えた。しかしそれでも登れなかったのか腕の力だけで強引に引き上がる。
「よし、掴めた‼︎」
安堵しながらも下を見下ろすと、化け物は獰猛にこちら見て笑、うねる触手を壁に這わせ始めていた。
「ヒェ、相変わらず気持ち悪い…」
もう、ここまでやってこないだろうという安心感とやり遂げた達成感により先の恐れとは違い、少しばかり柔らかいものとなっていた。
だが、その判断がだめだった。
物事にはいつだって想定外の事が付きまとう。それは今佐野黄泉が襲われている状況でさえ当てはまることだった。
「ガァァッァ」
「えっ‼︎?」
佐野黄泉は自分の目を疑ってしまった。なぜなら化け物は何と自分の触手を廃墟のビルに絡み付き蜘蛛のような速度でビルを駆け上ってきたのだ。
「ウソでしょ‼︎何で自分の体重を触手で支えられることができるのさ意味がわからないよ!!」
常識外の光景に思わず叫び声を上げる。
黄泉は考えるビルの中に逃げ込んでも、あのスピードにはすぐ追いつかれる、かといって戦った場合勝率は無に等しい。すぐ近くにある鉄パイプ一本で敵う相手ではない
「はい詰んだ‼︎私の人生お疲れ様‼︎……….いや、まだだ‼︎」
思わず命に対する冒涜的な言葉を滑ってしまったが、気を取り直す。目に入ったのは向かいの建物の屋上。距離にして数メートル。
一歩間違えたら骨折の可能性があるが、命の瀬戸際において彼女の残された選択肢はそれしかなかった。
「行くしかない‼︎」
手すりりに掴まっていた片手を離し、足に思い切り溜めを作る。次の瞬間、跳躍しようとした彼女の耳にーー
ぐしゃり。
鈍く、思い断末魔のような音が響いた。
「え……?」
助走をつけて飛ぼうとした足を不安定ながら押さえ下を見下ろした黄泉は、言葉を失う。
化け物の頭部から胸元にかけて、巨大な『光の矢』のようなものが突き刺さっていた。
生々しい肉の潰れる音と共に異形の存在は急速に粒子状へと分解され、まるで灰のように夜の風に散っていく。
「一体、、、何が?矢、、、?どこから。。。。。」
佐野黄泉は、混乱に頭が追いつかなかった。だが、いつまでも手すりに掴まるわけにはいけない。
「、、、、一旦、飛び降りますか」
目視で地上から12mの距離、人間なら耐えられるか耐えられないかの距離ただ彼女に取っては当たり前の落下距離だった。
「よっと」
佐野黄泉は手すりから手を離し、地面に両手をついて着地する。さっきまで化け物が蠢いていた痕跡は、きれいに消え去っていた。
「、、、、、でも、一体誰が」
そんな彼女の呟きだけが、静まり返った黒い路地裏に虚しく響いていた。
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