⑬
読んでいただいてありがとうございます。
フェリシティは、一度目をつぶると深呼吸をした。
「大丈夫。まだ、何も起こっていないから……」
けれど、このままでは本当にローガンの巻き添えをくってしまうかもしれない。
とはいえ、今のところ何の証拠もないただのフェリシティの嫌な予感というだけのものだ。
父に言ったところで、まともに取り合ってくれるとは思えない。
「どうしよう……」
一番いいのは、ローガンが本当は何をしているのか探ることだ。
けれど、そんなことをしたことがないフェリシティが下手に動けば、誰かを巻き添えにしたり、ただ捕まって終わりということもあり得る。
けれど、少なくとも父を動かす材料は必要だ。
「そうだわ」
友人の一人が商売に明るい伯爵家に嫁いでいる。
ローガンが懇意にしているブリジットのサンザス男爵家も最近羽振りが良いと聞いている。
まずは、彼女に相談しよう。
フェリシティはそう決意を固めた。
◇
翌日、フェリシティは友人のいる伯爵家に来ていた。
ナタリーは学生時代からの友人の一人だった。
「久しぶり、フェリ。元気そうで何よりだわ」
「ナタリーもね。結婚生活はどう?」
「順調よ。ジェームス様との仲もね」
ナタリーは、広大な領地を持つ伯爵家に嫁いだ友人だ。
夫で次期伯爵のジェームスは、領地と王都を行き来しながら仕事をしている。
ナタリーは、基本的に王都に滞在している。
もちろん王都にいる貴族たちとの交流を図るということもあるが、王都での情報収集も彼女の仕事だ。
商人としての顔を持つ伯爵家に必要なのは、常に最前線の情報だ。
学生時代から情報通だった彼女は、そこも含めて伯爵家に望まれた。
「ねぇ、ナタリー、少し教えてほしいことがあるのだけど」
「聞きたいこと次第ね」
「ふふ、そうね、ローガン様のことなの」
「あなたの婚約者の?それは、フェリの方が詳しいのではなくて?」
「そうならよかったんだけどね」
「違うの?」
「ブリジット・サンザス嬢」
「……あら、そう。距離を保てなかったのね」
「そうみたい」
その言葉だけで、ナタリーは察した。
フェリシティの婚約者がブリジット・サンザスの取り巻きになったというのは知っていた。
ブリジットの取り巻きには二種類いる。
ただ彼女の周りを華やかにするためだけの人間と、彼女の内側に入っている人間。
ローガンが距離を保てなかったというのなら、彼は彼女の内側に入ってしまったのだ。
「正直に言うと、彼女が何をしているのかは分からないわ。彼女はどちらかと言うと、裏の世界に近いようだから……」
「やっぱりそうなのね」
「えぇ。彼女と彼女の家が絡む商売は、ちょっと微妙なのよね」
サンザス男爵家も商売をしているのだが、裏で何かしているのではないか、とずっと囁かれていた。
ブリジットは、その見目の良さを利用して色々な客や協力者を集めている。
「うちも商売をしているでしょう?だから、サンザス家のことも耳に入ってくるんだけど、最近、お隣さんと仲が良いみたいなのよね」
「隣国と?」
「そうよ。うちも取引きしているし、国同士の仲も悪くないから別に普通と言えば普通なんだけど、どうもねぇ、こそこそしているのよ」
「違法なことでもしているのかしら?」
「していても驚かないわ。でも、ローガン様が彼女に関わっているのなら、フェリも巻き込まれるかもしれないわよ」
「私もそれを危惧しているのだけれど、お父様に言おうにも、私の勘や印象だけではちょっと弱くて」
「そうね。そこにうちの情報を入れたって少し弱いわね」
「えぇ……ナタリー、私、婚約破棄をしようと思ってるの」
「本気?」
「……本気よ」
今の状況では、証拠はほとんどない。もしフェリシティが父に訴えたとしても、ローガンをブリジット嬢に奪われたための嫉妬だと思われるだけだ。
嫉妬も悲しみもないと言えば嘘になる。
今までローガンと積み重ねてきた絆は、いつの間にか消えてしまった。
「ナタリー、私、自分で思っていたよりも心が狭かったみたい。ブリジット嬢の隣にいるローガン様は嫌いよ」
そして、もしもう一度やり直したいと言われても、フェリシティはローガンとやり直すつもりはなかった。
「……そう、分かったわ」
ナタリーはフェリシティの真剣な目を見て本気だと悟り、小さなため息を吐いたのだった。




