お嬢様、掴み取る!
有栖川さんの初対面の印象は、『鼻毛』だった。
こんなお嬢様でも、鼻毛あるんだな~なんて、呑気に考えていた頃が懐かしい。
でも仕方あるまい。
当時、俺にとって彼女は別世界の人。
恋愛対象どころか、クラスメイトとしても認識してなかった(酷いですわ……by美麗)。
何処か架空の人物かのように思っていた。
初めて意識したのは、体育祭の時(遅すぎますby美麗)。
誰よりも早く悠莉の異変に気付き、躊躇なく助けようとする姿を見て、イメージを覆された。
こんな勇敢な一面もあるのか、と。
案外いい人なのかもしれない。
ただこの時は、そう思っただけだった。
思い返せば、臨海学校で少し変化が起こり始めていたんだ。
またしても悠莉を救う様に驚き、何故か……流星くんとの仲睦まじい光景に、モヤッとしてしまった(え、え、そうですの!?そうだったんですのー!?by美麗)。
けれどまだ、この想いの正体は分からない(いや分かれやby美麗)。
ようやく自覚し出したのは、体調を崩して有栖川さんと悠莉がお見舞いに来てくれた時。
鈴香と真剣に張り合っているのがやけに可笑しくて。
本当に何にでも一生懸命なんだな、と思い出し笑いしていたら、鈴香に指摘された。
『お兄ちゃんさ、あの有栖川さんって人、好きだよね』
……は?と思った(思わないで下さいby美麗)。
何せ向こうは、少しずつ親近感を覚えるようになったとは言え、別世界に住むお嬢様。
恋愛感情を抱くなんて、まずないと思っていた。
なのに。
不思議なもので、何の先入観も持たない子供の一言は、やけに心に残る。
俺はこの想いの正体を知りたくて、意を決して有栖川さんに声を掛けたものの、避けられてしまった。
それからもすれ違いが続き、思うように会話が出来ない。
どうしすべきか逡巡している内に、悠莉から告白された。
正直心底驚いた(鈍感過ぎますわ……人のこと言えませんけれど……by美麗)。
彼女は大切な存在ではあるけれど、妹のように接してきたから。
と同時に、はっきりと自覚出来た。
悠莉に対する想いと、有栖川さんに対するものは全く違う。
俺はー……有栖川さんが好きなんだ……(キャアアアby美麗)。
なので申し訳ないが、
『俺も、悠莉のこと好きだよ。……でも、ごめん。それは……幼馴染みとして、なんだ。俺……他に好きな人がいる……みたい』
そう返すと、悠莉はまるで分かっていたかのように、失笑した。
『何やねん、「みたい」って』
『あー……いやぁ……』
『好きな人って美麗やろ』
『!!??は!!??』
『ハァ……やっぱ気付いてなかったか。バレバレやで。ま、頑張れや。うちはもーっといい男捕まえるから!』
そう言う悠莉の瞳は潤んでいて、俺は胸が締め付けられた(悠莉……やはり良い子ですわね……by美麗)。
そしてようやく気合いが入った。
俺と有栖川さんとでは、全く釣り合いがとれない。
アピールしたところで、惨めに玉砕するかもしれない。
けれどせっかく芽生えたこの想いを、直接伝えなくてはー。
と意気込んだ矢先に、有栖川さんは学校に来なくなった。
不思議に思っていると、流星くんがフラリと現れて、
『やあ。実は今度、フランスに行くことになったんだ。美麗も一緒にね♪』
『……え……!!??』
『○月○日、○時に空港に向かうから、良ければ見送りに来てよ。待ってるから☆』
恐らく、いや完全に流星くんの策略だったのだろう(流星……いい奴……by美麗)。
俺はまんまと引っ掛かり、焦りに焦った。
このまま離れたら、絶対に後悔する。
こっぴどく振られてもいい。
嘲笑されても構わない。
思いの丈をぶつけようー……!!!
……ってキャアアアーーー!!!
こ、これは本当に現実ですの……??
月9か火10に流すラブコメじゃなくて……!!??
いつの間に山田は脚本家になったのかしらん。
私は熱を帯びる頬を両手で押さえます。
山田をそれを見て目を細め、
(大丈夫かな?ちょっと熱っぽい?)
oh……。
うら若き乙女が頬を赤らめるのを見て、体調不良しか思い付かないなんて、嘆かわしい。
鈍感なのは相変わらずのようです。
まぁ恋が成就したからと言って、急に人格が変わる訳はございませんし。
そこが山田の長所でもありますからね♡
すっかり余裕を持った私は、満面に笑みを浮かべ、
「ふふっ。山田くんも頑張って下さっていたのね」
「気付くのが遅すぎたけど。本当、悠莉と流星くんには感謝してる」
「……ええ、私も」
何処までも続く晴天の下、豪勢なお弁当をつまみながら(私が作りましたのよ、オホホ。……3分の2はシェフですけども)、私達は思い出話に花を咲かせておりました。
ーあれからしばらく悠莉は空元気でしたが、近頃は本来の姿を取り戻し、勉強に部活に邁進しております。
口癖は「絶対健太郎よりもええ男と付き合うからな!」。
彼女ほどの人ならば、容易に叶えられるでしょう。
流星はと言うと、フランスで美女に囲まれているようです。
SNSに若干きわどい写真を載せてはプチ炎上するも、本人は何処吹く風。
鋼のメンタルは今も健在らしいです。
彼もまた、華麗に人生を歩んでいくに違いありません。
そしてー。
「そういえば有栖川さん、話があるって何?」
「ふぇっ!!??あ、え、えーっと」
交際を始めて、早数ヶ月。
私達は小学生も真っ青の、汚れなきお付き合いをしております。
この間やっと手を繋ぎましたの。
恋人繋ぎという、より親密な絡め方ですのよ!
記念に写真を撮ってしまいましたわ!
……って高校生にもなって、果たしてこれで良いのかしら……!?
『人の心が読めるツンデレ美少女お嬢様が(ry』がR18になるのは、いつになることやら分かりません。
心の準備はとっくに出来ていますのに……キャッ!私ったら破廉恥なっ♡♡♡
いえ今はそれよりも、大事なことがあります。
山田に伝えておかなければならないこと。
それは。
「あ、あの、あの、実は、わわわ、私っ私っ……、……人の心が読めるんですっ……!!!」
そうなのです。
今後お付き合いを続けるに当たって、この告白は決して逃れられぬ試練。
隠し通すことも出来なくはないですが、それでは騙しているようで、到底心が安らぎません。
……そもそもこんなファンタジーな設定、信じてもらえるのかしらん……。
頭がおかしいと思われるのが常ではないかしら……。
私は不安に陥り、チラリと上目遣いで山田を見やりました。
すると彼は平然と、
「あ、そうなんだ。すごー」
(そういやちょこちょこ不思議な発言あったもんなー本当にあるんだ、超能力って)
……はい???
ちょ、待てよっ(またしても某イケメンの言い方でお読み下さいまし)!!!
貴方の感性はどうなっているのですか?
やはり何処かに大切な何かを落としてきたのではないですか?
こんなあっさり受け入れるなんて……逆に恐怖で震えが止まりません。
西野○なさんの気持ちが分かった気がします。申し訳ありません、嘘です。
私は自然と眉間に皺を寄せ、
「あ、あの……そんな、簡単に受け入れて……下さるの?驚きませんの?」
「え?うーん……まぁ前々から有栖川さん、不思議なとこあったし。俺口下手だから、読み取ってくれた方が楽でいいかな」
(好きだー!とか、なかなかしょっちゅう言えないもんな。ってこれも聞かれてるのか。ま、いいや。本当のことだし)
チュドーーーン!!!
ほ、本当に……この山田 健太郎という男は……!
油断していたら、とんでもない爆弾を落としてきますわ……少しでも気を抜いたら、萌え過ぎて呼吸困難を起こしてしまいます……くわばらくわばら……。
飄々(ひょうひょう)としていて、心が読めても掴み所がなくて、そこはかとなく魅力的な男。
でも振り回されてばかりでは、有栖川 美麗の名が泣きます。
私は拗ねたふりをして口を尖らせーチュッと。
山田の横顔にキスを致しました。
「!!!ふぁ!!??」
(や、や、柔らかっ!!??な、何何、キ、キスされた!!??)
ふふっ♡
やーっとびっくりする顔を見られましたわ♡
ネットで調べたところ、かかあ天下の方が家庭は円満にいくらしいのです。
今から調教、いえ、関係を築いていかねばなりません。
何せ彼は、私の未来の旦那様なのですから。
「これからもずーっと、側に居て下さいね。……健太郎」
出来るだけさりげなく、緊張を隠してそう呼ぶと。
山田……じゃない、健太郎は、一瞬目を見開いた後、とびきり優しい笑みを浮かべ、
「勿論。ずっとずっと、大好きだよ、美麗」
嗚呼、嘘つき。
ちゃんと口に出しても言えるじゃないですの。
全く、罪な男です。
でもそんな彼が、たまらなく好きなのです。
私はその逞しい肩に体を委ね、「私も、大好きですわ」と呟いて、静かに瞼を閉じました。
遠くから小鳥の可憐な鳴き声が聞こえてきて
、まるで祝福してくれてるかのようでした。
FIN
今まで応援ありがとうございました!
これにて完結です。




