お嬢様、籠絡される
あれから私はずっと、スマホの電源を切り学校にも行かず、ひたすら自室にこもりました。
常に明るく快活だった私の変貌ぶりに、両親は驚き戦き、「何かに取り憑かれたに違いない!」とよくわからない霊媒師を呼ばれては、そのたびに全力で追い返していました。
失恋とは、これ程までに苦痛なものなのですね。
少女漫画やラノベで学んでいたつもりですが、想像以上でございます。
ご飯が喉を通らず、ベッドに横たわっても眠れず、何もする気が起こりません。
こうしている間にも、山田と悠莉はイチャイチャ愛を育んでいるのかと思うと、胸が張り裂けそうです。
『何や、最近美麗休んでばっかやな……心配や……』
『悠莉は優しいね。あんな高飛車なお嬢様相手に』
『美麗のこと悪く言わんとって!ええ子なんやで?』
『そう言う悠莉の方がいい子だよ。さすが俺の彼女だ♡』
『んもう♡あ、二人でお見舞いいこか!?』
『いいね、そうしよう!きっと喜ぶよ!』
てやんでいこんちくしょうめーーー!!!
どこのどいつが元想い人とそのライバルのイチャイチャを見たいってんだい!!!
……ふぅ。
勝手に妄想して、勝手に江戸っ子になってしまいましたわ……。
しかし超能力を失ったのは、幸いかもしれません。
あの時ー山田が悠莉の告白を受け入れた時、もし心の声が聞こえていたら。
口に出した言葉以上の想いを、知ってしまっていたら。
更に落胆し、絶望していたことでしょう。
とは言え、ずっとこのまま引きこもっている訳にはいきませんし、けれど山田と悠莉の愛し合っている姿は見たくないですし……どうすれば良いものか。
布団の中で延々とネット漫画を読み、現実逃避をし続けていられるのも、時間の問題です。
因みによく宣伝で現れる、悪役令嬢が転生するやつを嗜んでおります。
嗚呼、私も転生したい……悪役令嬢が幸せになる世界に行きたい……え、私ってやっぱり悪役令嬢でしたの……?まぁいいですわ……。
にしてもこの美しさでヒッキーになるなんて、とんでもない重罪ですわね。
世が世なら、磔の刑に処されるところです。
いっそのこと、誰か。
誰か私をここから連れ出してー。
「やあ、マドモアゼル。学校をずっと休んでるんだって?大丈夫かい?」
ってそうですよねーやっぱりここは、流星が登場ですわよねーーー!!!
どうやら両親から連絡が行き、訪ねて来たようです。
私はでも、流星のヘラヘラした顔を見て、心の何処かで安堵してしまいました。
良くも悪くも前向きで、熱心に求めてきてくれる彼は、今の私には精神安定剤となったのです。
「……大丈夫ですわ、ちょっと……体調が悪いだけです」
「本当に、体だけかな?もしかして、心も辛いんじゃ?」
相変わらず妙に察しのいい男でございます。
もしかしたら次回作は『人の心が読めるキングオブ女たらしが目をつけたのは、宇宙一の美貌を誇る超絶美少女でした』になるかもしれません。勿論なりません。
流星はこちらに優しい眼差しを注ぎ、微笑みました。
「山田 健太郎に振られたんでしょう。……可哀想に」
本当に、こやつは。
絶妙なタイミングで、核心を突いてきます。
そんな柔和な声色で言われたら、私は。
私はー。
「うっ、ううう~……うええぇ……」
グスングスン、メソメソと愛らしく泣きたかったのですが、現実は厳しく、獣の雄叫びのような声が出ました。
失恋してから数週間を経て、ようやく堰を切ったかの如く、涙が溢れてきたのです。
悲しい、寂しい、辛い。
認めたくなかった感情達に、容赦なく責めたてられて。
咽び泣く私を、流星はそっと抱き寄せました。
甘ったるい香水の香りが、鼻をくすぐります。
「僕のものになりなよ。僕は、君を泣かせたりしない」
「……賭けに、負けましたものね……」
「ふふ。あんな賭け、どうでもいいさ。愛する人が悲しんでいるのを、黙って見ていられない。ね?」
今の私は、流星の本音を読み取ることが出来ません。
この言葉が真実なのかどうか、分かりません。
それでも縋りたい、身を委ねたいと思ってしまいました。
彼はここぞとばかりに、追い討ちをかけてきます。
「一緒にフランスに行こう。向こうは自由でお洒落で、君もきっと気に入るよ」
「……流星、さん……」
「君も山田と瀬戸さんの側にいるのは辛いだろ?誰も知らない土地で、傷を癒せばいい。それから僕を好きになればいいさ。ね?」
私のことを誰も知らない、無論山田も悠莉もいない土地で、一からやり直す。
それはかなり魅力的な案に思え、流星が救いの天使に見えました。
悪役令嬢は生まれ変わるのです。
爽やかで嫉妬心など微塵も抱かない、清らかな乙女へと……。
……これまでもそのつもりでしたけれど……。
暫し間を置いてから小さく頷くと、彼はそっと優しく微笑みました。
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いよいよストーリーは大詰めです。
よろしくお願い致します。




